第167話 恭順と災害決戦
2/30の更新です。
活動報告でネタバレすると言いつつ、結局しなかった異能の効果が明らかに。
書こうと思っていたんですけど、『そんな事に時間を使うなら本編進めろ』と内なるコーダが言ったので、書きませんでした。楽しみにしていた人、もし居たらごめんなさい。
「1つお聞きしたいんですけど、『姫巫女』を辞めたいですか?それとも続けたいですか?」
「何を言っているんだい?まさか、ユリアをアタイの次代の『姫巫女』にするって話かい?」
クロードの問いにユリスズは怪訝そうな顔をする。
「違います。災竜を倒せるなら、倒しても良いか?と言う話です」
「はぁ?ますます何を言っているのか分からないよ?災竜を倒す?無理だよ。アレはそもそも倒せるような存在じゃないんだ」
ユリスズの怪訝な顔がより一層深くなる。
「アタイも大昔に何とか出来ないかと思って冒険者ギルドを創った。当時のSランク相当を100人集めて挑んだけど、結果は全滅だったよ」
あ、冒険者ギルド自体を作ったのがユリスズだったんだね。
目的は災竜の討伐か……。まあ、無理だろうな。
「僕の、僕達の師匠は、既に一体の災竜を討伐しています」
「冗談もいい加減にしな!いや、冗談にしてもタチが悪すぎるよ!」
ユリスズが激高するが、クロードは冷静なままだ。
「冗談ではありません。僕達が災竜について詳しいのは、災竜を倒した師匠が『姫巫女』に事情を聞いたからです。聞いた相手は、レガリア獣人国に封印された『地災竜・アースクエイク』の『姫巫女』ユリシーズさんです」
「場所も合っているし、災竜の名も『姫巫女』の名も正しい。……いや、だからと言って、災竜を倒した、なんて信じられないよ」
天空城には地の一族も居るし、話を聞いていても不思議ではないな。
「別に信じなくても構いません。貴女は僕達の師匠を、災竜のいる空間に送ってくれるだけでいいんです」
「普通に考えりゃ、死にに行くようなものだよ。本気なのかい……?」
「ええ、本気です」
クロード達の真剣な表情を見て、ユリスズが深く考える。
「分かった。アンタ達の決定に従うと言ったのはアタイだ。アンタ達が望むなら、それを叶えよう。それで、その師匠はどこに居るんだい?この街に来ているのかい?」
「はい……と言うか、執務室の扉の向こうに居ます」
「い、いつの間に……!?」
「師匠、どうぞ」
扉の近くに居たノットが執務室の扉を開く。
「おっす。クロード達の師匠、ジンだ。よろしくな」
初対面なので、出来るだけフレンドリーに挨拶をした。
しかし、ユリスズは執務室の豪華な椅子に座ったまま無反応だ。
-ピチャン、ピチャン-
どこからか、水滴が滴り落ちる様な音が聞こえた。
何の音だ?
A:ユリスズが失神し、失禁し、床を濡らした音です。
「ちょいと失敬」
俺はユリスズに近づく。
ユリスズは椅子に座ったまま意識を飛ばし、白目をむいて泡を吹いていた。
股間はぐっしょり濡れており、溢れ出た液体が椅子を伝い、床に滴り落ちていた。
「うわぁ……」
一体、何でこんなことになっているんだ?
A:<霊格視>でマスターを直視し、その衝撃にユリスズが耐えられませんでした。
あ、俺って<霊格視>で見るとそんなにヤバいんだ。
ユリスズが気絶してから30分が経過した。
「はっ!?」
椅子に座ったまま気絶していたユリスズが目を覚ました。
「アタイは一体……。そうだ、ユリア達の師匠を見て、衝撃でうっ……!」
思い出そうとしたら頭痛がしたようで、辛そうに頭を押さえるユリスズ。
「大丈夫ですか?30分程気絶していましたけど」
「あ、ああ、大丈夫だよ。……服は大丈夫じゃなさそうだけどね」
態々『清浄』をかけたりしていないので、ユリスズの股間は濡れたままだ。
「それより、あのお方はどこに居られるんだい?」
「あのお方……ですか?師匠の事でしたら、少し席を外すそうです」
「そうかい。それは良かったよ。何度もあのお方に無礼をする訳には行かないからね」
なんか、ユリスズの反応が変わっていないか?
一応、補足しておくと、席は外したけどまだ見ているよ。
「何故、師匠に対してそこまで遜っているんですか?」
「流石のアタイも、あそこまで次元の違う相手には遜るしかないさ」
クロードの質問に、達観した表情で答える。
「昔、災竜を視た時、あまりの存在の強大さに意識を失いかけた事がある。逆に言えば、心を強く持てば、災竜相手でも意識を失わないんだよ。でも、あのお方は違った。視た瞬間、全ての抵抗を無視してアタイは力の奔流に飲み込まれた。意識を失うまでの一瞬で魂に刻み込まれたよ。このお方には絶対に逆らうな、ってね。ああ、思い出すだけで身体が震えるよ……」
本当にユリスズは震えている。
「さっき、アンタ達の決定に従うと言ったが、アレは修正させてもらう。アタイはアンタ達の師匠の要求は何でも、全て呑ませてもらうよ。全面降伏だ」
姿を現しただけで、世界中に影響力を持つ冒険者ギルドのトップを屈服させ、全面降伏させる男、進堂仁です。よろしく。
自分でも何言っているのか良く分からんな。
「では、先程お願いしたように、師匠を災竜のいる亜空間に送ってください」
「ああ、もちろん了解だよ。……災竜を倒したって言うのも、本当っぽいねぇ」
小さく呟き、ユリスズは外出の準備を始めた。
まずは濡れた服を替えるようで、クロード達は一旦外に出た。
執務室周辺はユリスズが事前に人払いをしていた為、そこそこ色々あったが、人が近づいてくることは無かった。
ユリスズが予定の終了を宣言するまで、人払いの効果は続くらしい。
「ちょっと火山まで行ってくるよ」
流石に外出するのに報告なしと言う訳にもいかないので、準備を終えたユリスズが受付で外出を伝える。
「あれ?今月はつい先日火山に行ったばかりですよね?」
「予定が変わってね。まあ、Sランク冒険者と一緒だし、護衛は要らないよ」
『火災竜・ボルケーノ』の封印の維持の為、ユリスズは月一回火山を訪れていたらしい。
災竜の封印を維持するためには、『姫巫女』が定期的に災竜の肉体に近づく必要がある。
定期的に近づくだけでも、精神的な負担は大きく、いずれは次代の『姫巫女』を望むようになる。ずっとその負荷を受け続けていたユリシーズの苦労が偲ばれる。
「承知いたしました。お気を付けて、行ってらっしゃませ」
職員たちに見送られ、クロード達とユリスズはボルカン火山へと向かった。
「これが劣風竜かい。良い眺めだねぇ」
クロードの劣風竜に同乗しているユリスズが呟く。
「それで、あのお方は付いて来ないのかい?」
「師匠は到着してからお呼びすれば問題ありませんよ」
「……何と言うか、アタイも長く生きているけど、世の中にはまだアタイの知らない事が山ほどあるんだね。ホント、驚きだよ」
呆れているのか感心しているのか分からない声音で言う。
それから少し飛行を続け、クロード達はボルカン火山に到着した。
「待っていたのです!」
「お待ちしておりました!」
「メイド?何でこんな所に?」
劣風竜を降りたクロード達を待っていたのは、2人の少女だった。
ご存知、俺の配下の勇者、エステア迷宮組の人間勇者、メイドの小人勇者である。2人ともデフォルトの服装はメイド服である。
素性を知らないユリスズが疑問に思うのも無理はない。
「彼女達も師匠と一緒に亜空間に送って欲しいんです」
「はぁ?あのお方は分かるけど、この2人はそこまでオーラが強くないし、大丈夫なのかい?いや、やれと言われれば否は無いけどね?」
「ええ、大丈夫です。コレも師匠の指示ですから」
訝しむユリスズにクロードが説明をする。
今回、2人を連れて行くのは、以前『地災竜・アースクエイク』を倒した時、亜空間に居たマリアの<勇者>スキルがレベルアップしたので、他の勇者でも同じことが出来ると思ったのが理由だ。
<勇者>は嫌な予感がしたからスキルポイントを弄っていないので、貴重なレベルアップの機会は逃したくない。
「あのお方とこの2人の他に亜空間に送る者はいるのかい?」
「ええ、合計で10人程送って欲しいんですけど、大丈夫ですか?」
どうやら、亜空間に居ないとレベルが上がらないようなので、竜人種も連れて行く。<竜魔法>がレベルアップした実績があるから。
「それは問題ないけど、結構多いね。アンタ達も行くのかい?」
「いえ、僕達はお留守番です」
クロード達にレベルアップしそうなスキルはない。
後、やっぱり災竜の亜空間は危ないので、人数は最低限にしておく。
「また新顔が増えるんだね……。悪いけど、アタイは目隠しをして作業をさせてもらうよ。あのお方を見たら、また気絶するだろうからね」
「そうしてください。直視しなければ、大丈夫なんですよね?」
「ああ、多分、意識を保つくらいは出来ると思うよ……」
断言は出来ないらしい。
その後、ユリスズの案内でボルカン火山を進む。
ユリスズが向かう先には……隠し通路があり、その先に『火災竜・ボルケーノ』の肉体がある。
「ここだよ。ここをこうして……」
ユリスズが岩にしか見えない隠し通路を弄ると、ガコンと言う音とともに扉が開いた。
「一応、特別製の魔法の道具で隠しているんだけど、アンタ達全く驚いていないね」
マップの使用を許しているからね。みんな知っているよ。
「ある程度災竜に近づくと、普通は気分が悪くなるんだけど……」
そう言うユリスズは少し辛そうだ。
「問題ないのです」
「はい、リコ達の事は気にしないで下さい」
「これだよ……。もう、アタイの常識は壊れちまったみたいだね」
<多重存在>様々である。
更にしばらく歩き、開けた空間、隠し通路の行き止まりに出る。
壁の一部は赤く光っており、心臓の鼓動のように周期的に明るさが変わっている。
言わなくても分かるだろうが、アレが『火災竜・ボルケーノ』の一部だ。
「当たり前ですけど暑いですね」
「そりゃそうさ。火山の熱源本体だからね。ただ、ここが1番暑くないんだよ」
汗を拭っているクロードの呟きに答えるユリスズ。
全身を見ると、足のつま先だな。
「ここなら、『火災竜・ボルケーノ』の亜空間に送れるよ。あのお方をお呼びするのかい?」
「はい、そのつもりです」
「なら、少し待ってもらってもいいかい?時間は取らせないよ」
「それは構いませんが……」
「助かるよ」
そう言うと、ユリスズは目隠しを取り出し、自分の目を塞ぐ。
そして、その場に膝をつくと、そのまま土下座の体勢に移った。
「あ、あの、何をしているんですか……?」
「土下座で恭順の意思は示させてもらうよ。……抵抗の意思がない事を示すために、全裸にでもなった方が良いかもしれないね」
そう言うと、ユリスズは土下座の体勢のまま、持っていたアイテムボックスに自身の服と下着を格納した。……女性の全裸土下座を見るのは久しぶりだな。
「ちょ!?」
クロード、ノット、アデルの男子勢が顔を背ける。青少年には刺激が強すぎるようだ。
……クロードの視覚を借りていたので、ユリスズの全裸が見えなくなった。
俺は急ぎクロード達が用意した『ポータル』に転移する。
「お前の恭順の意思は受け取った」
「ひっ!?」
俺が声をかけると、ユリスズはビクンと震えた。
「あ、ああ……。直視しなくても……余波だけで……」
ガクガク震えるユリスズ。再び漏らしたようで、地面が濡れている。
全裸土下座失禁って、人としての尊厳、かなぐり捨てているよな。
俺は意識して気配を押さえる。
まだ駄目か……。もうちょい……。
あ、ユリスズの震えが少し治まった。これでどうだ!
「はぁ、はぁ……。オーラが弱くなった……?」
「意図して抑えてみた」
「あ、ありがとうございます……」
既に疲労困憊のユリスズだが、これからまだ仕事があるんだよ?
俺に続き、メインパーティの5人が転移してきた。
更に『召喚』で竜人種のブルー、ミカヅキ、リーフを呼ぶ。
「ま、また強い光が……!?」
予想はしていたが、さくらが転移してきた時にもユリスズは震えて失禁した。
やはり、ユリスズの視るオーラの強さは、異能と無関係ではないようだ。
ただ、俺の時と違い、我慢できない程ではないようだ(ただし失禁はする)。
俺は皆に指示をして転移の準備を始め、準備が終わった所でユリスズに声をかける。
「ユリスズ、クロード達はお前から見て背後に立った。お前の前方10m内に居る9人を亜空間に転移させろ。災竜から距離は取れよ」
「は、はい!仰せのままに!」
そして、俺達は亜空間へと転移する。
「と言う訳で、やって来ました亜空間」
「そんな気楽に言える場所じゃないんだけどね」
俺が気楽に言うと、ミオが呆れたような反応をする。
「遠くの方で凄い音がしていますね……」
《うるさーい!》
さくらの言うように、遠くの方で凄まじい轟音が響いている。
多分、『火災竜・ボルケーノ』が噴火している音だろう。
マップで見たが、100km以上離れているのに影響があるのか。
一応補足すると、亜空間は広いけどマップ上ではエリア1つ分なので、全体が把握できます。
「それだけではなく、相当に熱いですわね」
「どうやら、『ボルケーノ』からは常に溶岩が流れているようです」
《あつーい!》
マップ(亜空間対応版)を確認したマリアが報告する。
「どうする?騎竜に乗って近づくの?ご主人様が望むなら頑張るわよ」
「わたし、熱いの苦手なんですよー……」
「私も得意ではありません。それに、人数的に私達1人につき2人は乗せる必要がありますね。素早く動けるでしょうか……?」
竜人種娘3人が各々発言するが、俺は首を横に振って否定する。
「いや、今回はレベルアップ目的で連れてきただけで、竜人種組も勇者組も何もしなくていいからな」
「折角の大物、戦ってみたかったけど残念なのです……」
猪突猛進系勇者、シンシアは災竜が相手でも怯まない。
「シンシアさん、アレに挑むつもりだったんですか?」
「なのです」
リコが驚愕しているが、シンシアは本気だ。
いや、流石にシンシアじゃあ災竜の相手は無理だからな。普通に死ぬ。
ストッパーのケイトを連れて来るべきだったか……。
「ご主人様、話を戻すと、どうやって災竜と戦うつもりなの?いつものようにぶん殴るの?」
ミオに『いつものように』と言われてしまった。
俺、そんなに殴っているっけ?……ああ、殴っているね。
「駄目ってことは無いけど、近づくと余計に暑そうだな。折角だし、アレを試してみるか」
「アレ?」
「ああ、俺の新スキル……じゃない、なんて言うか、新能力?」
「スキルじゃない能力?」
系統としては異能に分類されるのかな?
異能を通して取得した能力、性質だからね。
「見せた方が早いか」
俺はそう言うと、『ボルケーノ』がいる方向に一歩足を踏み出す。
次の瞬間、踏みだした足の先にある地面が割れた。
噴火の轟音に負けない音を響かせ、地割れが広がっていく。
その地割れは延々と広がり続け、ついには『火災竜・ボルケーノ』にまで届き、その態勢を大きく崩した。再び轟音が響く。
「え?何今の?」
かろうじてミオがそれだけ言い、他のメンバーは呆然としている。
「見ての通り、『地災竜・アースクエイク』の能力だ」
「……『アースクエイク』からはスキルが得られなかったって言っていたわよね?」
「ああ、これはスキルじゃなく、『アースクエイク』独自の性質だ。『アースクエイク』を倒した時、魂を<生殺与奪LV9>と<多重存在LV7>のコンボで直接吸収したんだよ」
「ああ、例のヤバい奴……」
<生殺与奪LV9>の効果は『魂への接触』である。
俺は他者の身体に触るのと同じくらいの感覚で魂に触れることが出来るようになった。
そして、<多重存在LV7>の効果は『魂の操作』である。
<生殺与奪>は触れるだけ、<多重存在>では操作だけ、2つが合わさることで『魂の接触、操作』が可能となった。
これにより、フェザードラゴンから竜人種への敵意を消したり、魂から直接情報を得たり出来るようになった。
いや、神の所業すぎてヤバいとしか言えなかったよ。
これらの異能は『アースクエイク』を倒した時に得た異能だ。
俺は<生殺与奪LV8>により、倒した相手の死体と魂を吸収することで、対象のスキルを使用することが出来るようになる。
しかし、『アースクエイク』は亜空間では魂だけの存在であり、そのままでは吸収できなかった。しても意味がないと言った方が正しいか。
そこで、俺は<生殺与奪LV9>と<多重存在LV7>を使用し、吸収しやすい状態に変質させた。
その結果、『アースクエイク』の能力、性質をほぼそのまま使えるようになったのだ。
一応言っておくと、普段は間違って使わないように封印している。
「逆に、こんなことも出来る」
俺はそう言ってもう一歩踏み出す。
何も起こらない。
「何も起こりませんね……」
《おわりー?》
「いや、まだだ。衝撃が来ると思うから、舌をかまないようにしておくように」
《はーい》
しばらくすると、凄まじい衝撃が地面を襲った。
「きゃ!地震!?」
「な、何ですの!?」
「『ボルケーノ』を岩柱が突き上げて、浮かして、落ちた時の衝撃だと思う」
俺は軽く一歩踏み出す。
ボコッと地面が盛り上がり、高さ2m、直径1m程の岩の柱が突き立つ。
「これの巨大な奴を『ボルケーノ』の下から出したんだよ。それで、浮いたんだ」
『ボルケーノ』も多分、初めて宙に浮いただろうな。
良い経験だね。……この後殺すけど。
「これも『アースクエイク』の能力ね。私も見ていたわ」
『アースクエイク』戦に同行していたブルーが言う。
「ご主人様、これ、もしかして場所の指定自由?」
「ああ、少なくとも、マップで確認できる範囲ならどこでも出せるな。魔法ではなく性質だから、MP消費は当然0だ」
ミオの問いに答える。
「MP消費0で、あの山のような化け物を浮かせられるの?ヤバくない?」
「ああ、ヤバいぞ。ちなみに、一歩踏み出すアクションは必須じゃない。発動をイメージしやすいからやっているだけだ」
『アースクエイク』は能力をOFFに出来なかったらしく、常時岩を生やしていたが、俺は能力のOFF/ONが出来る。
使用する時は能力を有効にして、強く効果をイメージする必要がある。暴発防止である。
「俺1人ならガチバトルをしても良いんだけど、今回は人数も多いし、安全重視で遠距離からハメ殺すことにしよう。今の岩の柱……岩の槍を連射だな」
「エグい。惨い」
「仁様が安全な方法を選んでくれて嬉しいです」
ミオは見えない『ボルケーノ』に同情的な視線を向け、マリアは俺の選択を喜んでいる。
「と言う訳で、死ね!」
俺はその場で全力足踏みをした。
-ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ-
足踏みに連動して、遠くの方から轟音が響く。
-ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ-
先程は岩の柱、浮かせるのが目的だったが、今度は岩の槍、先端が尖っており、ダメージは明らかに大きくなっている、はずだ。
-ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ-
「何か、シュールですわね」
「ここだけ見ると、仁君が足踏みしているだけですからね……」
《ごしゅじんさまがんばれー!》
ドーラの応援により、少しスピードアップ。
-ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ-
「『ボルケーノ』の体積が減っています!凄い勢いです!」
「旦那様と一緒に居ると、相手の強さが伝わりにくいのです。困るのです」
リコの報告を聞き、シンシアが難しい顔をしている。
-ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ-
「本当に私達は付いてきただけですね」
「楽なお仕事ですねー」
「出来れば、私は騎竜として働きたいんだけどね」
ブルーは働き者だなぁ。
-ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ-
「はい終了」
俺は足踏みを止める。
マップを確認すると、遠くの方で『火災竜・ボルケーノ』が力を失い、粒子となって消滅している。
「吸・収!」
その粒子はドパーっと俺の方に流れてきて、俺の身体に吸収された。
『地災竜・アースクエイク』と同じ流れで、『火災竜・ボルケーノ』の能力も使えるようになった。
そして、スキルの大規模レベルアップ。
勇者組はそれぞれ1レベルずつアップして、マリアは<勇者LV8>、シンシアは<勇者LV6>、リコは<勇者LV4>になった。
竜人種組はドーラが<竜魔法LV9>で1レベルアップ。他の3人は2レベルアップしてブルーは<竜魔法LV6>、リーフは<竜魔法LV3>、ミカヅキは<竜魔法LV5>となった。
ついでにセラも<英雄の証LV8>とレベルアップしていた。
そう言えば、<英雄の証>ってレベル有りスキルだったけど、レベルの上昇によって何が変わるんだ?
A:肉体強化の倍率が変わります。
地味。
いや、強いし、有効なんだけど、地味。
>多重存在がLV8になりました。
>新たな能力が解放されました。
<多重存在LV8>
亜空間の管理機能を追加します。所有亜空間を<多重存在>直下に再配置します。
そして、お待ちかね異能のレベルアップだ。
……………………………………………………。
<生殺与奪>、レベルアップしないのか……。
ま、まあ、<多重存在>がレベルアップし多だけで十分だよな。
それで、新しい<多重存在>はどんな効果かな?
A:災竜を討伐した亜空間を管理出来るようになりました。現在、『地災竜・アースクエイク』、及び『火災竜・ボルケーノ』の亜空間を所有しています。
ふむ、それで、具体的に何が出来るんだ?
A:亜空間に対する管理者権限を得ました。ある意味、迷宮支配者に近いです。管理する亜空間では、双方向の転移、気温や室温等の環境情報の設定など、ほぼ全ての機能を利用できます。
簡単に言えば、あの亜空間を私物化するための効果だな。
今のところ、俺が自由に使える広い土地は、迷宮の50層台とブラウン・ウォール王国の中心にある緑地の2つだけ。
ここに、新しく『亜空間』が加わると言う事だ。
他の2つでは出来ない事、例えば、新技の練習等、周囲に被害を与えかねない作業に向いているかもしれない。災竜から吸収した能力の練習、とかね。
ついに、ボスクラスの敵が画面外で死ぬようになりました。
その間、主人公は足踏みをしているだけ。凄い絵面ですね。
ちなみに、『ボルケーノ』はゴ○ラとか、グラ○ドンをイメージしてください。その背中が火山になっています。描写が無いので念のため。
次回、「ギルドの掌握と天空城崩壊」。お楽しみに。