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第166話 ギルド総長と天空の姫巫女

ちょっと次章の進捗芳しくないです。最悪、少し間が空くかもしれません……。

真紅帝国編です。本当です。信じてください。

 クロード達は朝早くからギルド本部に出向いて行った。

 俺達は宿で待機中だ。完全武装で何があっても対応できる準備をしている。


 本日、人間の勇者シンシアと小人ホビットの勇者リコには、仕事のお休みを取ってもらっている。

 万が一、災竜が復活した場合、勇者をパーティに入れておけば、<勇者>スキルにポイントが加算されるからだ。貴重なスキル経験値、逃す手はない。


 ギルド本部に到着したクロード達が受付で依頼票を見せる。

 今回のギルド連合地区訪問は、ギルド総長からの指名依頼だったからだ。


「お話は伺っております。ギルド総長が部屋でお待ちですので、ご案内いたします」


 受付嬢の案内により、クロード達は建物の3階、ギルド総長の執務室へと向かった。


 現在、ギルド総長の執務室には、ギルド総長であるユリスズの他にもう1人居る。

 そう、もう1人の『姫巫女』である。


名前:ユリエラ

性別:女

年齢:7569

種族:ハイエルフ

称号:エルフの姫巫女、エルフ王族、人柱

スキル:

魔法系

<精霊術LV10><精霊魔法LV10><封印術LV->

技能系

<魔道具作成LV10><森の英知LV->

その他

<不老LV-><巫女の継承LV-><疾風の精神LV->


 これが3人目の『姫巫女』、ユリエラさんのステータスです。


 驚くべきことに、ユリエラはスキルを省略する必要が無かった。

 ユリスズは省略せざるを得ないくらい様々なスキルを持っていたが、ユリエラは見せたもので全てだ。

 ユリエラの方が倍近く長く生きているのに、6千年封印されていたユリシーズと大差ないスキルしか覚えていない。


 ユリスズは今朝、長距離通信用の魔法の道具マジックアイテムを使用した。

 その相手であるユリエラは連絡を受け、長距離転移用スキルである<疾風の精神>を使用して、ギルド総長の執務室へと転移してきた。


 <疾風の精神>はこの世界に来て、初めて出会った汎用転移方法である。

 汎用でなければ、迷宮の転移石や迷宮支配者ダンジョンマスターの転移機能がある。


 予想通り、『姫巫女』には属性固有のユニークスキルがあるようだ。

 ユリシーズの<大地の記憶>は生産系スキルのバフ、ユリスズの<業火の意思>は……驚くべきことに戦闘系のスキルである。それも肉弾戦用……ハイエルフとは一体……。


「ギルド総長、クロード様をお連れしました」

「入れ」


 受付嬢が執務室をノックして声をかけると、中から女性の声が聞こえてきた。


「失礼します」


 クロード達が中に入ると、そこには2人の銀髪ハイエルフが居た。

 どうやら、ハイエルフ……『姫巫女』は銀髪固定みたいだな。『姫巫女』と言い直したのは、エルガント神国のリンフォースは銀髪ではなかったためである。何色だったかは忘れた。


「よく来たね。アタイがこのギルド本部のトップ、ギルド総長のユリスズだよ。尤も、ギルド総長って言うのは、正式な役職名じゃないんだけど、皆そっちでしか呼ばないから仕方ないね」


 そう言って笑ったのはユリスズだ。


 ユリスズはハイエルフの印象を真っ向から否定するような、筋肉質な女性だった。

 尖った耳、色白な肌と言う要素を持ちながら、ボディビルダーと見間違うような筋肉を持ち、身長も高かった。

 服装もハイエルフの印象である高貴さからは程遠い、まるで冒険者の様な格好だ。

 まあ、これに関しては荒事がある前提で、完全武装なだけかもしれないが……。


「お初にお目にかかります。僕は先日Sランク冒険者になったクロードと申します。後ろに居るのは僕のパーティメンバーで……」

「ココです」

「ロロです」

「アデルです……」

「ノットです」

「イリスです」

「ユリアです」

「シシリーです~」


 あ、2人ともユリアの自己紹介で耳が一瞬ピクっとなった。


「ああ、聞いているよ。悪いね、態々こんな遠くまで呼び出してしまって……」

「ユリスズ、話は不要でしょう。下等な生物の相手をするのは時間の無駄です」


 ユリスズの話に割り込んだのはユリエラだ。


 ユリスズと異なり、こちらはとても分かり易くハイエルフしている。

 線が細く、無表情で儚げな印象を持ち、着ているのはシルクの白い衣装だ。余計な飾りは付いておらず、神話に出て来るような羽衣の様な服だ。呼び方は知らない。


 ユリエラは冷たく突き放すような事を、自分より下位の存在を見る目で言う。


「ユリエラ、乱暴な言い方はよしな。彼らはアタイが招待した客人だ」

「ユリア、貴女は何をしているのです?何故、戻ってこないのです?」


 ユリスズが諫めようとするが、ユリエラは無視してユリアを問いただす。


「貴女は何を言っているのですか?」


 言われている事に身に覚えのないユリアが逆に問いかける。


「私を覚えていない?もしや、記憶喪失にでもなっているのですか?」

「お答えする必要を感じません。ギルド総長、私達に何の用があって呼びつけたのですか?珍しいSランク冒険者のパーティだから、興味を持って呼び出したのですよね?この状況は一体何なのですか?」


 ユリエラの質問に答えず、今度はユリスズに問いかける。


「私を無視すると言うのですか」


 ユリアに無視されたユリエラが、無表情のまま怒気を滲ませる。


「ユリエラ、落ち着きな。……あー、そうだね。依頼にはそんな事を書いたっけ。悪いね、本当に用があったのはユリア、アンタだけなんだよ。こっちはユリエラ、アタイの盟友で、この依頼の本当の依頼主さ」


 あっさりと依頼内容が正しくなかったと言う事を暴露するユリスズ。


「冒険者ギルドのトップが、依頼内容で嘘を付いたのですか?」


 クロードが失望したような目をしながら問う。

 ユリスズの行いは、冒険者ギルドと言う存在自体の価値を貶める行為だ。


「ああ、本当に悪いとは思っているんだよ。でもね、冒険者ギルドのトップとしての立場と、この世界の守護者としての立場なら、守護者の方が優先されちまうんだよ」


 沈痛な面持ちでユリスズが言う。


 この一言で理解できた。ユリスズは、冒険者ギルド総長である前に、『姫巫女』なのだ。

 災竜の封印を守るためにも、ハイエルフが行方不明と言う状況を看過できなかったのだ。

 クソくらえである。


「ユリスズ、話しすぎです。記憶が無くなっていたとしても、やることは変わりません」

「そうだね。まあ、視たところ・・・・・アタイ1人でもなんとかなりそうだよ。準備していた連中が根こそぎいなくなった時は、どうしたものかと思ったけどね」

「冒険者なんて所詮は下等生物。アテにならないのは最初から分かっていた事です」

「はぁ……。近年、Sランクの質が低下してるのは残念な事実だからねぇ……」


 ユリスズが『視た』と言うのは、スキル<霊格視オーラビジョン>によるものだ。

 簡単に言うと、相手の存在のレベルが分かると言うモノだ。厳密にレベルそのままではないのだが、普通の人間はほぼ一致する。


 例外の1つは<生殺与奪ギブアンドテイク>によるステータスの向上だ。これは、レベルを無視して能力を劇的に上げる。

 つまり、ユリスズは目先のレベルでクロード達を判定し、その実力ステータスを理解していないのだ。超、笑える。

 補足すると、<霊格視オーラビジョン>は<多重存在アバター>の精神防御で防げます。今回、態と見せてあげました。


「私を、どうするつもりなのですか?」

「無論、私の居城に連れて帰ります」


 ユリアの質問に即答するユリエラ。


「その後、しばらくは検査になりますね。地上で下等種族と接触し、『姫巫女』としての機能に悪影響が出ていないと良いのですが……。特に下等な、ハーフニンゲンと接触したのが恐ろしく不安です」


 ハーフニンゲン?


 ……………………もしかして、ハーフエルフの事か?

 ユリエラの目線がハーフエルフであるイリスへと向かっていることから判断する。


 確かに、ハーフエルフと言う単語は、半分エルフ、つまり、人間から見た呼称だ。

 エルフから見たら、ハーフニンゲンって呼び方になるのか?

 ……いや、有り得ないだろう。


「……そう言う事だ。詳しい事は言えないけど、この世界の為にユリアを引き渡してもらう。拒否すると言うのなら、冒険者ギルドが……世界中が敵に回ると思いな」


 乗り気ではないが、世界の為を言い訳にクロード達を脅すユリスズ。

 はい、NGワード入りました。


「やはり、そう来ましたか……。申し訳ありませんが、お断りします」

「ユリアさんは俺達の仲間で家族だ。騙して呼び出して、脅して連れて行こうなんて連中に、引き渡すなんて有り得ねぇ!」


 クロードの拒絶をドワーフのノットが引き継ぎ、他のメンバーも強く頷いた。


「私が記憶を失う前、貴女達とどのような関係だったかは知りません。ですが、今の私から見ても、貴女達は信用に値しません。だから、私は貴女達の元に行くつもりはありません」

「……ここで諦めてくれれば、面倒な事をしないで済んだんだけどねぇ」


 ユリアの拒絶の言葉を聞き、ユリスズはため息をつきながら言う。


「これだから下等生物は……。仕方ありません、ユリスズ、後は任せますよ」

「仕方ないねぇ……。アンタらには恨みはないけど、アタイ達も譲る訳には行かないんだよ」

「転移!」


 ユリエラが叫ぶと、執務室全体が光に包まれた。



 どうやら、<疾風の精神>が発動したようだな。


 <疾風の精神>による転移はいくつかの種類があり、これはその内の1つ、範囲転移だ。

 予め設定していた領域の者を、別の領域に飛ばす効果がある。クロード達が執務室に来る前にユリエラがセットしていた。

 Sランク冒険者がいなくなり、普通の誘拐が出来なくなった為の次善策らしい。


 当然、クロード達にも教えてある。


 残念な事に、こちらからは転移先の情報が分からない。

 その気になれば回避できるが、転移先が気になるので、回避しないように頼んでおいた。


 クロード達が転移した先は……極限までシンプルに説明すると、ラピ○タだ。


「ここは……」

「私の居城です。ニンゲンや亜人、ハーフニンゲンを入れるのは嫌ですが、面倒を省く為ですから仕方ありません」


 広大な領土を持つ天空の大地。

 中心には巨大な城が建っており、木々が生い茂る森もある。

 まさにファンタジー!


 アルタ、この天空の城はどの辺にある?


A:ギルド連合地区から東に進んだ先、海の上です。


 それじゃあ、俺が見つけられた可能性は0だな。

 完全に行動範囲外だった。


「ここは雲の上、慣れていないとまともに戦うことも出来ない領域だ。加えて、この辺は封印が近い、立っているのも辛いんじゃ無いかい?」


 ユリスズが勝利を確信した表情で言う。

 確かに、ユリエラの転移した先はユリスズ、ユリエラにとって必勝とも言える地だ。


 単純に高高度で身体機能がまともに発揮できない事と、『風災竜・テンペスト』の瘴気により、ハイエルフ以外は確実に行動不能になるダブルパンチである。


 実はこの天空の城、『風災竜・テンペスト』の真上にあるのだ。そもそも、大地が浮いているのも、『風災竜・テンペスト』の肉体が勝手に浮くのが原因である。

 『風災竜・テンペスト』の魂は亜空間にあるが、肉体はこの世界にある。そして、その肉体は瘴気のような物を放ち、一部の者以外は精神が汚染される。


「いえ、そんなことはありませんよ」

「「はい?」」


 しかし、クロードは平然と言い返す。

 高度の問題は<環境適応>1つで事足りるし、災竜の瘴気は<多重存在アバター>の精神防御で防げるので、クロード達には何の問題も無い。

 クロード達は劣風竜ワイバーンに乗るから、<環境適応>を取得しているんだよね。


「な、何で普通に立っていられるんだい?エルフだって苦しそうにするのに……」

「あ、有り得ません……」


 どれどれ。

 ここはユリエラの居城と言うだけあって、数多くのエルフが住んでいるみたいだな。

 その中にハイエルフもハーフエルフも存在しない。

 そして、ただのエルフでは、災竜の瘴気は防げない。……ハイエルフも、完全に防げる訳じゃないんだよね。だから、ユリスズ、ユリエラも若干苦しそうにしている。


「本当に残念です。嘘の依頼で呼び出して、Sランク冒険者に誘拐を依頼して、ギルドの名を利用して脅しをかけて、自分達に有利な場所で一方的な戦いを仕掛ける。こんな人が冒険者ギルドのトップに居るなんて、世も末ですね」

「並べるとホント酷いわね」

「ロロも呆れてものが言えません」


 クロードがユリスズの行いを列挙し、ココとロロを筆頭に全員が呆れている。

 言われてみると、本当に酷いな。


「ま、待ちな!何でアンタ達がSランク冒険者の事を知っているんだい!?」


 Sランク冒険者の件は、本来クロード達が知るはずのない情報だ。


「お答えする義務はありません。ただ1つ言えるのは、貴女達の企みは筒抜けだったと言う事です」


 思惑は言う程筒抜けではないけど、行動自体は筒抜けでしたね。


「そろそろ問答は終わりにしましょう。ここまで明確に敵対されてしまった以上、僕達も自衛の為に戦うしかありませんから」


 そう言って、クロード達は武器を抜く。

 今までは『いつでも武器を抜ける』だったが、『武器を抜いた』に変わった。


「……予想が崩れちまったね。視ただけじゃ分からない何かがあるのかね。ユリエラ、アンタも戦いな。ちょっとアタイ1人じゃ厳しいかもしれない」

「お断りします。そのような野蛮な事は私の仕事ではありません」


 共闘の提案をバッサリと切り捨てるユリエラ。

 仲が良いと言う訳ではないのか?


「あ、アンタねぇ……。せめて、精霊だけでも出してくんないかい?」

「それくらいでしたら構いませんよ。現れなさい。イルミネア!」


 <精霊術>によって契約精霊を呼び出したようだ。

 呼び出されたのは光の大精霊で、象牙色アイボリーの女神像のような姿をしている。

 人の顔を模しているが、目や口などは造詣のみで、その機能はなさそうだ。


「じゃあ、悪い子を少し躾けるとするかね」


 ユリスズは伝説級レジェンダリーの大剣を構え、臨戦態勢に入る。

 今更、伝説級レジェンダリー装備では驚けない。


「行くよ!」

「来ます!」


 ユリスズが駆け出し、ユリアの掛け声とともに、クロード達も陣形を整える。

 いつものようにクロードが前に出て、ユリアが後ろに下がって指揮を執る陣形だ。

 なお、ユリエラは短距離転移で安全圏まで距離を取っている。


「食らいな!」

「通しません!」


 ユリスズの薙ぎ払いをクロードが盾で受け止める。

 大きな金属音が響くも、クロードはその場で足を止め、完全に斬撃を防いだ。

 クロードの脚が地面に少しめり込んでいることからもそのパワーが窺える。


「何!?」

「はあっ!!!」


 ユリスズが驚き、次の行動に移るのが一瞬遅れた隙に、クロードは盾を押し込み、ユリスズの体勢を崩そうとする。


「舐めんじゃないよ!」


 しかし、ユリスズも歴戦の戦士らしく、簡単には体勢を崩さない。

 バックステップで距離を……。


「グフッ!?」


 取ることを許されず、背後に居たココに足払いをされ、背中から倒れ込む。

 ココは続けざまにユリスズの腕を蹴飛ばし、大剣を放させる。更に、持っていた二本の短剣をユリスズの首元、地面に交差させるように突き刺した。

 ユリスズが不用意に動けば、その瞬間に首が落ちる程度には鋭い刃だ。


「こ、こんな馬鹿な事が……。アタイが、<業火の意思>を使う間もなく負けるなんて……」


 ユリスズが呆然とした表情で呟く。


 いや、クロード達は俺の配下の中でも古参の一組だぞ。

 ステータスを制限せずに戦わせたら、相手になる訳がないだろう。


「GYAAAAAAA!?」


 金属音のような甲高い声が響く。叫んだのは光の大精霊イルミネアだ。

 その攻撃はロロに防がれ、イリスが<闇魔法>で反撃したら、避けきれずイルミネアは穴だらけになった。ノットのハンマーが止めとなって消滅した。

 ちなみに、叫んだのは穴だらけになったタイミングだ。


「ユリスズだけでなく、イルミネアまで負けるとは驚きです」


 自身の契約精霊が殺されたと言うのに、ユリエラは表情1つ変えない。


「ユリスズ、貴女がそこまで使えないとは思いませんでした。これで、ユリアの確保は困難になり、私は再びハイエルフが産まれるのを待たなければならなくなりました」


 予想はしていたけど、ユリエラの目的は『姫巫女』の引継ぎだったようだ。


「酔狂にも下等生物を率いていた貴女は、見ていて面白かったので残念です。殺されるなら地上で殺されてください。私は世界が滅ぶ様をここから見届けさせてもらいます」

「ユリエラ、何を言っているんだい……?」

「さようなら」


 ユリエラはそう言うと、再び<疾風の精神>を発動した。


 周囲が光に包まれると、ギルド総長の執務室へと戻されていた。

 ユリエラはおらず、ユリスズは倒れたままだ。

 首の横に刺さっていた短剣は転移の直前にココが回収している。


「送り返されたようですね」

「何て言うか、話の通じない人だったわね」


 ココの言う通り、ユリエラには話が通じているようには見えなかったよな。


「あそこまで、簡単に見捨てるとは思わなかったよ……。友人だと思っていたのは、こちらだけだったみたいだねぇ……」


 未だに倒れたまま、ユリスズが呟いた。


「それで、戦いは僕達の勝ちですし、このまま殺しても構いませんか?」


 クロードが無表情で剣を構え、ユリスズに接近する。

 もちろん、本当に殺すつもりはない。ユリスズの反応を見る為の演技だ。


「止めときな。アタイを殺せば、この世界は滅ぶよ」


 ユリエラの裏切りがショックだったのか、ユリスズが力なく言う。


「でも、このままだと世界が僕達の敵に回るんですよね?」

「……いや、もうアタイにそんな事をする気は無い。ユリエラの言い方だと、もう地上に関わる気は無いみたいだからね。アタイも来るかも分からない相手の為に自分より強い者を敵に回すなんて御免だよ」


 これでクロード達の懸賞首化は回避できたかな?


「それなら、まずは事情の説明をお願いしても良いですか?勝手に話を進められて、意味の分からないまま終わるのは嫌です」

「ああ、分かったよ。……立ってもいいかい?」

「次に攻撃の意思を見せたら、今度は確実に殺します」

「分かっているよ」


 警戒するクロード達の前でユリスズは立ち上がり、執務机の椅子に座る。


「さて、どこから話したものかね……。まずは、『災竜』について説明するのが良いか」


 回想シーンに入りそうな様子でユリスズが話始めようとする。


「『災竜』と言うと、亜空間に封じられた巨大なドラゴンで、存在するだけで周囲に災害を与えるんですよね。ハイエルフの『姫巫女』が生きている限り、亜空間に封じられたままだけど、封印する者は瘴気の影響を受ける為、次代の『姫巫女』が産まれたら役割を継承すると言う、あの『災竜』の事で良いんですよね?」

「何でそんなに詳しいんだい!?」


 クロードの説明を聞き、ユリスズが驚きの声を上げる。


「……いや、ユリアから聞いたのかい?それじゃあ、記憶喪失と言うのは嘘?」


 記憶を失う前のユリアなら、確かに知っている可能性はあった。


「いえ、私は本当に記憶喪失ですよ。他の方から聞いたのです」

「他の……ハイエルフ……『姫巫女』かい?水の……それとも地……?どっちも無理だと思うんだけどねぇ……」


 あ、地味に水の災竜がいる事が確定した。


「いえ、人間です」

「意味が分からないよ!?」


 ユリアの一言に、ユリスズが驚きの声を上げる(2回目)。

 この間、教えてあげました。


「災竜に関しては、僕達の師匠から教わりました。貴女がSランク冒険者を集めて、僕達を捕らえようとしていると教えてくれたのも師匠です」

「とんでもない人間がいたもんだね。話を戻そうか。……災竜の話を知っているとなると、何を聞きたいのか、そっちを聞いた方が早そうだね」


 多分、何の下地も無い状態で話をしようとしたら、相当に時間がかかると思います。


「そうですね。一応、僕達も大まかに予想はしているので、まずはその予想が正しいのか、答え合わせをしていただければと思います」

「それも、師匠が教えてくれたのかい?」

「ええ、ほとんどがそうです」


 一応、教えたのは事実だけで、推論はクロード達独自のモノだ。

 まあ、大よそ俺の考えと同じなんだけど……。


「まず、貴女達がユリアさんを狙ったのは、ユリアさんが先程のハイエルフ、ユリエラの次代の『姫巫女』だったからです。しかし、ユリアさんはユリエラの前から姿を消した」

「ああ、その通りだよ。1年程前、ユリエラが突然現れて、ユリアの行方不明を伝えてきた。アタイもユリアの事は知っていたから、冒険者ギルドを通じて、捜査網を張っていたんだ」

「その結果、Sランク冒険者となったユリアさんを見つけられたんですよね。……これは予想できなかったんですけど、ユリアさんが行方不明になった経緯を知っていますか?」


 クロードの問いにユリスズは首を横に振った。


「いや、それはアタイも知らない。ユリエラもその点については全く説明してくれなかったからね。……今思えば、細かい事を説明せず、良いように利用されていたのかもしれないね」


 さっきのユリエラのセリフを聞いても、対等な友人としては扱っていなかったよな。


「それはユリエラに聞かないと分からないみたいですね。……予想の続きですが、ユリアさんを見つけた貴女達は、僕達のパーティをこの国に招待し、ユリアさんの確保を狙った」

「ああ、ユリエラとは通信用の魔法の道具マジックアイテムで連絡を取り合えるんだ。今も使えるかは不明だけどね……」


A:回線を切られており、使用できません。


 あらら、完全に切り捨てられてら。


「詳しい事は聞いていないけど、『姫巫女』の候補がいなくなるのは一大事だからね。冒険者ギルド総長としての立場を悪用するのは心苦しいけど、世界の危機を無視するよりはマシだと思って、アンタ達を捕らえることにしたんだ」

「詳しい話も聞かず、短絡的すぎませんか?一応言っておきますけど、僕達はまだその件に関しては許していませんから」

「ぐっ……、分かっているよ、アタイがやらかしたんだ。アタイが責任をとるのは当然の事だよ。今なら、短絡的だったって自覚もあるしね……」


 ガックリと肩を落とすユリスズ。

 ユリスズと友好的に話しているように見えるが、クロード達は警戒を解いていないし、許している訳でもないだろう。


「Sランク冒険者を集めて脅そうと思っていたけど、いつの間にかSランク冒険者がいなくなって頓挫。あれ、一体どうやったんだい?」

「貴女の質問にお答えするつもりはありません。今は僕達が質問しているのです」

「そうだったね……。悪かったよ」


 どう考えても、言えないタイプの話だよな。


「仕方ないから、アタイとユリエラだけでユリアを捕らえることになった。アタイは他人の強さをオーラで判断できるからね。アンタ達を見て、アタイ1人でも平気と思ったんだけどねぇ……。ホント、何から何まで予想外だよ」

「次の質問です。さっきの場所は何ですか?」

「空に浮かぶ大地かい?アレは『天空城』って呼ばれている場所で、まあ、災竜の抜け殻の上に出来た街だよ。あそこには、火、風、地の災竜を封印しているエルフの一族がいる。アタイも、天空城の出身だよ」


 ユリスズ曰く、災竜の封印はそれぞれ別の一族が行っているそうだ。

 目的は血を確実に残す事。災竜を永遠に封印し続けるための戦略だ。

 そして現在、天空城には水以外の3つの一族が集結している。


「悪いけど、『姫巫女』の起源ルーツについてはアタイも、多分ユリエラも知らないよ。恐らく、意図的に情報が残らないようにされてるね。余計な事は考えるなって事だろうよ」

「誰が……」

「さあ?アタイ達のご先祖様か……女神様って所だろうよ」


 また、このパターンか……。


「災竜の瘴気はアタイ達も完全には防げないからね。アタイもいずれは耐えきれず、次代の『姫巫女』を望むようになるんだろうね。ユリエラはもう既に次代の『姫巫女』と交代したいと言っているんだよ。だからこそ、心に余裕がないんだろうね」


 尤も、とユリスズが続ける。


「その瘴気を利用して、転移させた敵を無力化しようと利用している段階で、偉そうなことは言えないんだけどねぇ……。一応、必殺の策だったんだけど、まさか効かないとは思わなかったよ」


 先にも述べたが、災竜の瘴気と高度変化で普通の者は行動不能になる。

 俺の異能によって守られたクロード達だからこそ平気だったのだ。


「その理由を言うつもりもありませんよ」

「分かっているよ」


 ユリスズも分かってきたようだ。


「後、もう1つ質問ですが、ユリエラは何故貴女をあそこまで簡単に見捨てられたんですか?何か、心当たりはありますか?」

「残念ながらあるねぇ。ユリエラは『風災竜・テンペスト』、天空城に封印された災竜の存在を一番危険視している。何故なら、他の災竜は復活しても、上空の天空城に影響を与えられないからね、『風災竜・テンペスト』さえ封じられていれば、ユリエラは安全なんだよ」


 言われてみれば、『地災竜・アースクエイク』の地割れ攻撃は天空城まで届かないだろうし、『火災竜・ボルケーノ』が名前の通り噴火を示すとしても、流石に天空城まで噴火の影響が出ることは無いだろう(火山灰とか、余波は有りそうだが)。

 つまり、災竜の元にいながら、他の災竜の被害を受けない安全圏でもあると言う事だ。


「『風災竜・テンペスト』が復活し、天空城が滅びれば、下手をすれば他の『姫巫女』も死に、世界は終わりを迎えるだろう。それを考えれば、天空城で戦い危険を犯すより、天空城から追い出した方が早く、確実だと判断したのだろうね。最悪、アタイが死んで、地上が死の大地になっても構わないとすら思っていたみたいだねぇ」


 ユリエラ、最後に色々とぶっちゃけたからね。


「他に聞きたいことはあるかい?」

「僕の聞きたい事はもうありません。皆は何かあるかな?」


 クロードが他のメンバーに尋ねるが全員首を横に振った。


「無いようです」

「そうかい。……それで、アタイの事をどうする?アタイは冒険者ギルド総長の立場を悪用してアンタ達を嵌めた。失敗したけど、それは変わることのない事実だ。やった事の責任は取る。アンタ達の決定に従うよ。流石に、死んで償うことは出来ないけどね」


 意外と潔く、ユリスズはクロード達の決定に従うそうです。


《クロード、ちょっといいか?》

ファンタジーを書いたら、絶対に出そうと考えていた物ベスト3

1位:世界樹

2位:天空の城 →済

3位:迷宮   →済


ハーフニンゲンは昔、友人(人間)が使っていた単語です。いずれ、使う機会があると思っていました。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
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[感想] 「冒険者ギルドのトップとしての立場と、この世界の守護者としての立場なら、守護者の方が優先されちまうんだよ」 →これはド正論だと思いました。世界が滅びれば魔王も勇者も村人も国もギルドも何もかも…
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