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第165話 温泉とSランク狩り

この作品の最大の欠点の1つは、主人公が強すぎて、それ以外のキャラの強さ関係が分からない事だと思っています。例えるなら、一億から見れば、1も100も誤差みたいなもの、ということです。

使い捨てキャラでも、世間一般から見たら圧倒的強者だったりします。

 『冒険者記念館』を後にした俺達は、ギルド連合地区観光の目玉、温泉に向かう事にした。


 向かうのは宿泊する宿の温泉ではなく、宿無しで温泉だけの露天風呂だ。

 当然、混浴ではないので、男湯に入るのは俺1人となった。

 透明化してマリアが護衛に付こうとしたが拒否した。

 マリアが縋り付いて頼み込んできたため、最終的にタモさんを護衛に付けるのと、もう1つの条件を呑むことになった。

 なお、タモさんはお湯に潜んでいる。


 邪道かもしれないが、『清浄クリーン』を使用してからお湯に浸かる。


「ふいー……」


 全身が温まる気持ちよさに思わず声が出る。

 流石に本場の温泉は一味違う。つい、『火災竜・ボルケーノ』に感謝したくなるな。


 温泉地だし、今日中に3回は風呂に入りたい。

 クロード達は今日中に首都に来るらしいが、ギルドに顔を出すのは明日にするそうだ。

 つまり、今日1日は大きな出来事は無いはずだ。


《仁様、お変わりありませんか?》

《ああ、問題ないよ》


 これがもう1つの条件、マリアからの定期念話である。


 マリアの精神安定の為、5分に1回は念話が来ることになっている。マリアの将来が心配になる心配性具合である。

 後、全く落ち着けない。


-ガラガラ ピシャン-


 おっと、他の客が入って来たみたいだ。

 今までは運良く貸し切り状態だったのだが……。


 殊更興味がある訳ではないが、ついつい入ってきた者を見てしまう。


 物凄い強面、迫力のハゲマッチョだ。……あ、Sランク冒険者だった。

 それも、数少ないギルド総長の依頼を拒否したSランク冒険者のジョージさんだ。


 ギルド総長の依頼を了承した者に興味はないが、拒否した者には多少の興味がある。

 真っ当な冒険者候補と言う事で、アルタに情報を教えてもらっていたのだ。


 ジョージさんは御年38歳、そろそろ体力が厳しくなってくるお年頃だが、鍛え抜かれた筋肉は健在だ。風呂場なので、良く分かる。

 ギルド連合地区の隣国で活動中のため、俺の関係者とは縁がなかった。

 Sランクになった際の偉業は、素手でオーガ(上位種)の魔物の暴走スタンピードを殲滅したと言うモノだ。流石マッチョ。


 何故ここまで詳しく知っているかと言うと、ここには冒険者ギルドの本部があるので、Sランク冒険者の情報は一通り揃っているのだ。

 それをアルタがマップの詳細表示で盗み見たと言う訳である。


 他にも、ジョージさんは慈善事業家であり、孤児院に寄付などをしているそうだ。

 ただ、ジョージさんが子供に近づくと、その迫力に子供が泣き出してしまうため、孤児院に入ったことはないらしい。悲しいマッチョだ。

 そもそも、何でギルドがそんな情報を持っているのかね?


A:インタビュー入りの記事が雑誌に掲載されていました。


 Sランク冒険者って人気職業なんだね。


 ……と言うか、何で俺は風呂場で偶然居合わせたマッチョなおっさんについて、ここまで詳細に語っているのだろうか?

 多分、視界の端に居るだけで存在感が凄いから、意識が行ってしまうのが原因だろう。


 俺は努めてジョージから意識を外し、少し距離を取ってから引き続き風呂を堪能することにした。

 そして、俺は無我の境地に至り、温泉と一体になった。


-ガラガラ ピシャン-


 直後、3人目の客が入って来た。


 ……また、Sランク冒険者だ。

 今度は、ギルド総長の依頼を受けたSランクだな。

 名前は興味がないので知らない。見た目は銀髪の細マッチョだ。


 細マッチョは『清浄クリーン』を使った後、湯船に浸かった。


「ジョージ、何故ギルド総長の依頼を断った?」

「『銀閃のラインハルト』か。ふん、ワシは子供に手は出さんと決めておる」


 あ、なんか話し始めちゃった。

 その話、俺がいる状況で話しても良い事なの?

 多分、クロード達をどうにかすると言う話だよね?


「大恩あるギルド総長の頼みだ。それくらい曲げるべきだろう?」

「付き合いは長いし、義理はあるが、主義を曲げるほどの大恩はない」

「……分からない男だな。冒険者として、ギルドの意思には従うべきだと言っている」


 どうやら、ライン何某はジョージを説得したい模様。


「理由も話さず、Sランクになったばかりの若手を捕らえる?そんなモノがギルドの意思だと言うのなら、冒険者ギルドなんぞ辞めるのも吝かではないわ!大方、ギルド総長の独断だろう。あのギルド総長がギルドを私物化するとは、思いたくなかったがな……」

「ぐっ、それは……」


 この街での評判を聞く限り、ギルド総長って結構信頼されているよね。

 ジョージが残念そうに拒絶すると、ライン何某も呻く。心当たりはあるようだ。


「…………それでも、私はギルド総長に付く」

「勝手にしろ。ワシも他人の事までガタガタ言う気は無い」


 それきり2人とも黙り込んだ。

 風呂場に余計な話を持ち込まないで欲しいんだけど……。


 やっと静かになったと思ったら、今度は女湯の方が騒がしくなった。

 さくら達に何かあったのか?


A:いいえ。他の客、Sランク冒険者の女2人が口論しています。


 そっちもSランク冒険者!?

 この温泉、Sランク冒険者の溜まり場なのか?


-ドゴッ!-


 今度は何かを殴るような音が女湯から響いてきた。


-バキッ!-


「よくもやってくれたわね!」


 そして、男湯と女湯を分ける木製の柵を壊し、全裸の女が飛んできた。

 空中で体勢を整えて着地したのは、20代くらい赤毛の女だった。


「うるさい!今までの恨み、ここで晴らしてやる!」


 対するはこれまた銀髪で10代後半の女だ。


「はん!ひよっこが武器も持たずに私相手に戦える訳ないじゃない!」

「言ったな!なら、そのひよっこの力見せてやる!」


 2人が全裸で言い合いをする中、さくら達はコソコソとバスタオルを巻いていた。

 男湯と女湯を分ける柵、壊れているからね……。


 そして始まる女達の戦い(全裸)。

 Sランク冒険者だけあり、見ごたえはある。全裸なので、別の意味でも見ごたえはある。


 赤毛の女は元々肉弾戦が主体のようで、動きに迷いがない。

 対する銀髪の女は剣士だな。動きに剣士独特の癖がある。全く戦えない訳ではなさそうだが、生粋の格闘家相手には分が悪いだろう。


 露天風呂が広いとはいえ、Sランク冒険者2人が戦うには狭い。

 下手に動くと巻き込まれそうなので、大人しくしている俺。


 2人を止められそうなSランク冒険者の男2人は、何かを諦めるような顔をしている。

 ライン何某が小さく、「ああ、出会ってしまったか……」と呟いていた。

 どうやら、因縁の相手が風呂場で出会ったため、そのまま戦闘にもつれ込んだらしい。銭湯だけに……(温泉と銭湯は別物です)。


 後、銀髪の女はライン何某の妹さんのようです。


「仁様、如何なさいますか?」


 当然のように俺の側まで移動していたマリアが聞いてくる。

 実は柵が壊れた時点で、マリアは動いていた。


 2人の戦いは激しく、周囲の物が壊れ始めている。

 折角の温泉、たかがSランクの戦いで台無しにするのは惜しい。


「俺が止める」

「足元が滑り易いので、お気を付け下さい」


 Sランクを相手にすることは問題にしていないらしい。


 俺は腰にタオルを巻き、歩いて2人の戦闘区域に近づく。


「おい、危ないぞ!」

「裸をもっと近くで見たくなったのか!?馬鹿が!」


 ジョージが止め、ライン何某が有らぬ冤罪を擦り付けてくる。

 違う、そうじゃない。


 俺は小走りで2人がぶつかる中心に割り込む。


「邪魔よ!」

「退けぇ!」


 俺に構わず攻撃を仕掛けてくる2人。


「風呂場で暴れてんじゃねぇ!」


-ゴチン!-


「ぐっ!」

「がふっ!」


 2人の後頭部を一発ずつ殴り、綺麗に意識を刈り取る。

 <手加減>はしたが、折角の観光を台無しにされた腹いせに、少々阻害デバフをかけておくことにした。

 少なくとも、クロード、ユリア関係のゴタゴタが終わるまでは、まともに戦うことは出来ないだろう。


「馬鹿な。2人はSランク冒険者だぞ……?」

「知らない顔だな。少なくとも、この辺りの上級冒険者じゃなさそうだ」


 ライン何某は驚愕し、ジョージは値踏みするようにこちらを見る。


「例えSランクだったとしても、Sランク冒険者2人を子供でも相手にするかのように倒すとは……。信じられない……」

「ラインハルト、お前、大事な事を忘れているぞ。Sランク、なんてモノは強さの目安にしかならん。冒険者以外にも強い奴はいるし、同じSランク冒険者でも強さはピンキリだ」


 俺は倒れている2人を無視して、湯船へと戻る。

 もう少し、ゆっくり浸かりたいのだ。



 結局、騒ぎを聞き駆け付けた従業員によって、本日の温泉の営業は中止されてしまった。

 もっとゆっくり浸かりたかったのに……。


 闘っていたSランクの女冒険者2人はまだ目を覚まさないので、近くの病院に運ばれることになった。

 目撃者と証言もあり、俺が罰せられるようなことはなかった。

 壊れた温泉の修理代は2人に請求されることになる。銀髪の女の分はライン何某が立て替えるそうだ。


「坊主、お主は冒険者か?」


 温泉を出て女性陣の着替えを待っている俺にジョージが尋ねてきた。

 ライン何某は銀髪娘に付き添って病院に行くそうだ。


「一応、冒険者だ」


 ジョージは嫌な相手ではないので、答えても良いと判断。


「一応?どういうことだ?」

「ここには観光に来ているから、ギルドカードの登録をしていない。それなら、冒険者として扱われないだろ?」

「なるほど。ランクは……いや、予想が付くな。Cランクだろう。答えなくても良い」


 察しの良いおっさんは嫌いじゃないぜ。


「悪かったな。折角観光に来たのに、馬鹿2人が台無しにしちまって」

「おっさんが悪かった訳じゃないから、謝る必要はないさ。それに、俺はまだ温泉を諦めてはいない」

「そうか。なら、詫び代わりにお勧めの温泉を教えてやるよ」


 それは普通に嬉しい。


 ジョージと別れ、女性陣が着替えを終えて出てきたので、再び街をぶらつくことにした。

 ジョージお勧め温泉へ向かうのは、その後にする。


「ちょっと悪巧みを思いついたんだ」

「ご主人様の悪巧みって、普通に怖いワードね」


 ミオが顔を強張らせて言う。


「いや、現在進行形でギルド総長が悪巧みしてるだろ?折角だから、悪巧みには悪巧みで返してやろうと思ったんだよ」


 やられたらやり返す。可能な限り同じ系統の方法で。


「と言う訳で、まず、配下のメイド達を呼びます。それから……」


 俺は悪巧みの内容と手順を皆に説明した。


 その後、俺達は街を見て歩き、面白そうな店に入ったり、露店を見たり、セラが買い食いをしたりする。

 宿に戻る前にジョージお勧めの温泉に向かい、今度こそ満足するまで堪能する。


A:マスター、メイド達による作戦が完了いたしました。


 温泉と一体化していると、アルタから報告があった。

 思ったよりも早かったな。あれから2時間くらいしか経っていないぞ。


A:メイド達が頑張りました。


 あー、後で直接労わないとな。


 俺はマップを開き、悪巧みの成果を確認する。

 予定通り、今、この街には、ギルド総長の依頼を受けたSランク冒険者で、依頼を遂行できる者は誰1人存在しない。


 簡単に何をしたのか説明すると、Sランク冒険者を街から追い出したのだ。


 と言っても、乱暴な手段をとった訳ではない。

 この街にある、Sランク冒険者の情報を使っただけだ。


 Sランク冒険者とは言え人間だ(人類種と言う意味、全員が種族:人間ではない)。

 当然、ギルド総長の依頼以上に大切な事はある。そこを突いた。


 例えば、あるSランク冒険者は、家族が事故により身体を欠損し、それを治す薬や魔法を血眼になって探していた。

 今回、ギルド総長の依頼を受けたのも、その情報を優先的に流してもらえると言う契約があったからだ。

 じゃあ、その欠損を治す薬が片道数日以上かかる街にあると知ったら?

 ギルド総長の依頼どころの話じゃなくなるだろ?


 例えば、あるSランク冒険者は、故郷の村を滅ぼした魔物をずっと追っていた。

 その過程でSランクにまで上り詰めたが、本人は価値を感じておらず、あくまでも目的のための手段でしかないと公言していた。

 今回、ギルド総長が調査をすると言う確約があって、依頼を受ける事にしたようだ。

 はい、情報を与えました。ちょっと、遠くに居たみたいだけどね。

 依頼?そんなの破棄して、さっさと向かって行ったよ。


 目的がある者には、それを叶えさせることで、ギルド総長の依頼どころではなくした。


 ただ、全員を同じ方法で街から離すことは出来なかった。

 残る数名は仕方ないので口に下剤を放り込んでおいた。

 調剤メイド特製のヤバい奴だ。今日明日は戦闘なんて不可能になる。


 面と向かって敵対する前に潰すのだから、殺すのはやり過ぎかもしれない。

 しかし、誘拐依頼を許容した時点で、無罪とも言わせない。

 トイレで呻るくらい、自業自得だろう。

 なお、男女平等である。


 ライン何某だけは目的があるようだが、あえて闇討ちした。

 有らぬ冤罪を仕掛けた仕返しだ。アレは許さない。

 トイレ送りである。


 そんなこんなで、この街に居た19名のSランク冒険者は全員何処かに行ったか、病院で寝込んでいるか、トイレに籠っているかのどれかとなった。


 Sランク冒険者を集めてクロード達を捕らえようとしているギルド総長に対し、俺は依頼を受けたSランク冒険者を全て無力化する事で対応する。

 しかも、配下メイド達に任せて……。うん、悪くないね。


A:メイド達は仕事が終わったので、この街の特産品を買い集めたり、奴隷商で有望な奴隷を買い集めたりしています。


 あ、奴隷商に行くと言うのもアリだったな。

 ……有望なのはいるけど、俺が行きたくなる程面白い奴隷はいないなぁ。


 風呂をじっくりと堪能した後、風呂から出て女性陣と合流した。


「今度こそ全力で堪能出来た。……マリア、定期連絡、もう少し頻度落とせないか?」


 唯一の不満は、マリアとの5分に1回の定期連絡である。


「申し訳、ございません」


 その場で土下座するマリア。

 全力で謝るが、変更は出来ないという意思表示でもある。


「ご主人様、まだ宿の混浴温泉があるからね。そこなら、最初からマリアちゃんも横に居るし、ご主人様の邪魔にはならないでしょ?」

「一番ゆっくりできるのが混浴温泉って言うのも、意味わからない部分があるよな」


 マリアが配下になってから、純粋な意味で1人きりの時間ってほとんどない。

 偶には、1人で何処かブラブラしたいな。


「おっ、クロード達もようやく到着したみたいだな」


 日も落ちかけてきたので、宿に戻るために乗合馬車を待っていると、クロード達が街に到着していた。

 思っていた以上に時間がかかったな。


A:別件でまた時間を使いました。


 またか……。本当にクロード達は忙しいな。

 クロード達はギルド側の用意した宿に泊まり、明日の午前中にギルド本部に顔を出す予定のようだ。


「別の宿だし、態々合流する必要もないよな」

「ココちゃんとロロちゃんは悲しみそうだけどね」


 ミオが少し気の毒そうに言う。

 ココとロロの2人はクロードのパーティの中で、特に俺に懐いている2人だ。


「と言っても、今回、俺達は完全に外野だからな。関わる理由が無い」

「普通の外野はSランク冒険者を排除しないと思いますわ」

「それは置いておこう」

「置いておけるんですか……?」


 セラの言う通り、既にやらかした後ではあるが、話の本筋に関わる予定は今のところない。


《ばしゃがきたよー!》

「みたいだな。話はまた後にしよう」


 人のいる場所で話すような事でもないので話を中断し、乗合馬車で宿に戻った。

 なお、停留所には俺達しかいなかったし、乗合馬車の中には1人しか客はいなかった。



 温泉地の宿、と言えば当然旅館をイメージすると思う。

 しかし、ここボルケンの街は違う。

 ……普通に洋風建築で、料理も和食ではなかった。勇者!もっと頑張れよ!


「美味しいけど、温泉旅館で食べる物じゃないわね」


 これは、モグモグとピザを食べているミオの談。

 またしても『焼き』の料理である。


 俺も良く知らないのだが、ミオのレパートリーにないタイプのピザだったので、結果オーライと言っていた。ピザってそんな種類あるの?


「ご主人様の元の世界の感覚が分からないので、何が問題かも分かりませんわね」

「仁様の事をご理解出来ないのが悔しいです」

《でも、おいしーよ?》


 違和感を覚えているのは、俺、さくら、ミオの転移・転生組だけだ。

 ドーラ?食べ物が美味しければ、シチュエーションは気にしないってさ。


 十分に食休みを取り、本日最後の温泉に入ることにした。

 当然、混浴だ。


「は、恥ずかしいから、水着で失礼します……」

「まあ、元日本人として、一応ね」

わたくし、ご主人様が相手なら別に見られても構いませんわよ?」

「セラちゃんのスタイルで全裸は流石に駄目です……」

「仁様に隠すような物は有りません」

《わーい、またおふろだー!こんどはごしゅじんさまもいっしょー!》


 水着の着用は自由と言ったら、さくら、ミオ、セラは水着だったが、マリアとドーラは全裸だった。

 セラも全裸OKだったみたいだが、さくらのストップがかかったようだ。

 流石の俺も、セラが全裸だったら、多少は目が向いてしまうだろう。

 マリアとドーラの全裸は特に問題ない。割と見慣れてるし……。


「個室に付いている温泉の割には広いな」


 一部屋毎に露天風呂が付いており、6人が入っても十分に余裕がある程度には広い。

 当然ながら宿泊料金はガッツリ高いが、気にする程のことは無い。


「これで落ち着いてお風呂に入れるわね。女湯ではマリアちゃんが挙動不審だったから、あんまり落ち着かなかったのよね」

「ご迷惑をお掛けしました。……タモさんがいますから、大事には至らないと頭では分かっているのですが、どうしても落ち着きません」


 マリアがミオ達に謝る。

 どうやら、温泉で落ち着かなかったのは、定期連絡を受けていた俺だけではないようだ。


「最悪の場合、温泉に入れるのは今日が最後になるし、最後だけでもゆっくり入りたいな」

「最後?何のことですの?」

「災竜の事だよ」

「納得しましたわ……」


 セラも一言で理解してくれた。


 明日はクロード達がギルド総長に接触する。

 最悪の場合、『火災竜・ボルケーノ』が復活してこの街、国が滅びる。

 流石の俺も災竜が復活した地の無事を確保するのは難しい。


「そう言えば、馬車に乗る前の話の続きだけど、結局、この後ご主人様は何をするの?クロード達に合流しないって言っていたわよね?」


 ミオに言われるまで忘れていたが、後にしようと言って今まで話をしていなかったな。


「ああ、合流はしない。とりあえず、<契約の絆エンゲージリンク>でクロード達の視覚聴覚を拝借して、ギルド総長の話を聞こう。その後の事はその時に考える」


 態々ギルド総長の前に出向くつもりはない。

 クロード達を経由して情報を得て、その後の事はその時に考える。クロード達だけで対応できなければフォローする、と言ったところか。


「Sランク冒険者は排除したから、後の懸念はもう1人の『姫巫女』だ。『風災竜・テンペスト』を封じているらしいな」

「今まで、この街には来ていないんですよね……?」

「アルタ曰く、ユリスズの話にしか出ていないようだな。何でも、随分な人間嫌いらしい」


 アルタが姫巫女ユリスズの独り言を拾って知った情報である。


「うへぇ、人間嫌いのハイエルフとか、話が拗れるのが確定しているキャラクターじゃない」


 ミオが嫌そうに呟く。俺も同感である。


「まあ、既に話が拗れるのは確定しているから、今更気にするほどでもないんじゃないか?」


 クロード達には申し訳ないが、何事も無く話がまとまる気がしない。

 と言うか、まとまる訳が無い。


「それで納得するのもどうかと思うけど、納得できちゃうのよね」

「むしろ、キャラクターが掴みやすくて楽とすら言える。ギルド総長の方は、この街で聞いた限り真っ当な奴みたいだから、むしろ困惑しているくらいだ」

「悪い噂は聞きませんし、誘拐を指示するような方でもなさそうですわ」

「むしろ、良い話しか聞きません……。誘拐の話がなければ、仁君の好きな、『真っ当な人』に含まれると思います……」


 セラとさくらが街中でのギルド長について論じる。

 実は、流石のアルタでもギルド長の真意までは掴み切れていない。


 街の人の話を聞く限り、ギルド総長は真っ当な人物だ。

 しかし、Sランク冒険者を使って、ユリアを拉致しようとしているのも事実だ。

 その本心は、話し合いで話題に上ることも、独り言で呟かれるような事もなかったそうだ。


 本心の分からないギルド総長と人間嫌い、2人の『姫巫女ハイエルフ』の目的が何か?

 全ては明日、クロード達との面会で明らかになるだろう。こうご期待。


「……最悪は潰すことになるかもしれないな」

「災竜の件を抜きにしても、一国のトップを潰すのは不味いんじゃない?」


 ミオが酷く一般的な事を言うので、少し反論?しよう。


「異世界人を拉致して、最悪の状況まで堕ちたエルディアと言う国はどうなった?」

「ああ、ご主人様にとって、今更そんなのは関係なかったわね」


 簡単に国を潰すつもりもないが、本当に許容できなければ、躊躇なく滅ぼします。

 今回、国全体が敵と言う意識はないので、あくまでもユリスズ単体への対応となるだろうが、少なくとも一度は大国ごとトップを潰した実績があるからね。


「もちろん、ユリスズを殺す気はないぞ。災竜の封印もあるし、冒険者ギルドが機能不全に陥る可能性もあるからな。ただ、『潰す』って言うのは、殺すこととイコールじゃないから」

「ホント、怖いこと言うわね……」


 ユリスズを生かしたまま再起不能にする方法など、両手で足りない程にある。

 趣味じゃない方法ばかりだが、趣味じゃないと言うのは、選ばないと言う事とは違う。


「最初に言った通り、後で考えるしかない事だ。そんな事より、今は温泉を楽しもう」

「今考えても仕方ないのね。りょーかい、ご主人様の言う通り、温泉を堪能するわ」


 話すべき事は全て話したので、後は全力で温泉を楽しんだ。


sランク冒険者の皆さんは使い捨てですので、覚えておく必要はありません。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
自分の心の安寧のために主人に不自由 強いる奴隷
男女平等って事は男女ともに下剤を飲ませたって意味ですか?
[一言] ■邪道かもしれないが、『清浄クリーン』を使用してからお湯に浸かる。   ●これは邪道ではなく、ある波動レベル以上の者にとっては、必要なことですね。   「ジン」さんの生命エネルギーの波動次元…
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