第17話 馬車購入とけじめ
感想欄で更新に間がいているとのご指摘あありますが、一応週1更新となっています。毎週日曜0時に更新予定です。余力があれば短編を週の間で出します。明日か明後日に短編が入ります。
1章の締めです。後、主人公が変な方向ではっちゃけ、軽く外道が入ります。賛否はあると思います。
主人公のスタンスは『やられたら等倍返し』です。やりすぎはよくありません。でも、妥協はしません。
>生殺与奪がLV4になりました。
>新たな能力が解放されました。
<生殺与奪LV4>
能力の射程距離が常時10mになる。1日1度だけ、効果を拡張して、射程30m、奪う速さを10倍に出来る。
また<生殺与奪>のレベルが上がった。
今度は単純な強化だ。10mの射程は2mに比べれば圧倒的に使いやすいし、1日1度の強化も悪くはない。いざと言う時には重宝するだろう。
新しいスキルについて考えていると、さくらたちが戻ってきた。とりあえず、セルディクの遺体を<無限収納>に入れておく。もしかしたら何かに使えるかもしれないからな。ほら、<死霊術>とか。
「お疲れ様です。怪我とかありませんか?」
さくらが心配そうに聞いてくる。怪我はあったのだが、<HP自動回復>で補える程度のかすり傷しかないから問題はない。よっぽど自信があったのか、毒とか使ってこなかったしな。
「大丈夫だ。すでに回復している」
俺の返事に安心したような顔を浮かべる。
「にしてもご主人様凄かったねー、まさかSランク冒険者相手に圧勝とは思わなかったわー」
「さすが仁様です。素晴らしい戦いでした。戦いの最中の凛々しいお姿を見ていたら、私…、私…」
ミオとマリアがキラキラした目で近づいてくる。しかしマリアはどこへ向かっているのだろうか…。
皆に能力を返しつつ話を始める。
「とりあえず、セルディクの遺体は<無限収納>に入れておいた。元とは言えSランク冒険者の死体なんで、そこらに放っておけるものでもないしな」
焼いてから埋めるなどと言った処置をすれば別だが、暗殺者相手にそこまでしてやるつもりもない。さっき言ったように何かに使えるかもしれないから、<無限収納>の肥やしにしておこう。
「あの街でこの執事がどんな扱いなのか知らないけど、Sランク冒険者が行方不明になるなんて、普通は大事だろうしな」
「そうね。罪にはならないと思うけど、面倒くさいことになるのは間違いないでしょうね」
ミオは罪にはならないと言ったが、俺は罪になると思っている。と言うよりは罪にされると言った方が正しいだろうか。
俺がセバスチャンを殺したと知ったら、あの縦ロールが何をするかわからない。最低でも権力を使って有罪判決とかくらいは普通にしそうだ。ここは知らぬ存ぜぬを徹底しようと思う。
「面倒なのは嫌だから、ここでセバスチャンを殺したことは、最低でもこの国を出るまでは秘密にしよう」
「そうですね。それに、これ以上この国にいるのは嫌です。さっさと出ていきたいです」
さくらが真顔で言う。俺もこの国が嫌いだが、さくらは輪をかけてこの国を嫌悪しているようだ。
それも当然だ。俺は異能を知っていたから余裕があったが、さくらには何もなく本当に死ぬしかないと思っていたのだから。
「ああ、それには賛成なんだが、いくつかやらなきゃいけないことがあるからな。1度街に戻ろう」
「街でやることですか?トラブルの種は避けるべきでは?」
マリアも心配そうな顔をする。縦ロールがいる街に戻るのは、トラブルに近づくことと同じ意味だ。
「それは理解している。だけどここまでされたんだ。けじめは必要だろ?」
俺がそこまで言うと、皆も理解したようだ。ミオが少し前に出てきて申し訳なさそうに言う。
「ご、ご主人様ー…。けじめはいいんですけど、お尋ね者になるのはちょっと…」
ミオが少し勘違いしているようだ。あの街を滅茶苦茶にしてやろうとかは思っていないぞ、少ししか…。
ミオとしては犯罪にトラウマがあるからな。堂々と暴れてお尋ね者になるというのはハードルが高いだろう。
「安心しろ、犯罪行為をするつもりはない」
「…よかった」
ミオが安心したように息をつく。なので、ここから上げて落とす。
「…ミオ、知っているか?犯罪っていうのはバレた時に犯罪になるんだよ。そして、異能って言うのはこの世界のルールでは何をしてもバレないんだよ?」
ミオの顔が青ざめる。しっかり落とせたようだ。
「それって、バレない手段で犯罪をするという…」
「何のことかわからないな」
とりあえずすっとぼけてみる。
一応俺の目標は縦ロールと門番の2人だけだ。余計な手出しをするつもりはない。
「後は街で馬車を買っていこうかと思ってな」
「馬車ですか。いいですね。ステータスは頂きましたけど、歩いて長距離の移動はあまり自信がなかったのでありがたいです」
おや、さくらさん。そういうことは早めに言いましょうよ。そしたら、今回の出発でも馬車スタートだったのに。
「でしたら御者は私にお任せください。私がご主人様の足となります」
正確には馬が足代わりだろう。マリアにおぶさって足代わりにしなければ、俺の足は名乗れないと思う。12歳の少女に乗る17歳。鬼畜だ。
「わかった。任せたぞ、マリア」
「はい!」
今後の方針も決まったところで、この場を引き上げることにした。セバスチャンが使っていた暗器や投擲武器は一通り回収しておいた。
<空間魔法>の『格納』は使い手が死んだ場合、アイテムボックスは一定以上の破損があった場合、中に入れていたものが周囲にばらまかれるので、セバスチャンが死亡した個所には他にも色々なものが落ちていたから、それも合わせて回収しておいた。
Sランク冒険者だけあって、どれもそこそこ高品質なモノばかりだった。
どうでもいい話だが、<無限収納>の場合は、死んだときの扱いを任意に設定できる。簡単に死ぬつもりはないが、もしもの時のために死んだ後にばらまくものと、時空の彼方に消えてもらうものは分けている。セバスチャンの死体は俺が死んだときには消えてもらう予定だ。そういえば、向うの世界のHDDどうなったんだろう…。
行きと同じく30分ほどかけて街に戻る。門番は行きと同じ人だった。戻ってきた俺たちを見て理由を聞いてきたので、「ちょっと忘れ物」と答えておいた。
例の門番も仕事に戻っているようだった。こちらに気付くと、仕事中にもかかわらず青い顔をしてこちらから逃げ出した。
気の小さい奴が、欲をかくと碌な目に遭わないぞ。
「またアイツが走ってどっか行ったぞ…。もうアイツはクビだな」
俺の対応をしていた門番が呆れたように言う。そりゃそうだよな。この短時間で2回もサボったら普通の職業はクビだよな。でもその心配はいらないと思うよ。
「あ、アイツ転びやがった。馬鹿だなー。何慌ててるんだか」
それは仕方ないと思うよ。急に身体の動きが鈍くなったんだから、バランスが崩れて転ぶのも当然だよな。
「あれ、アイツ起き上がらないぞ…」
喧騒が大きくなる。いつまでも立ち上がらない門番を見て近づいた青年が呟く。
「こ、この人…。死んでる」
まず1人。
詳しい話をしておこうか。LV4になった<生殺与奪>で、門番が逃げている最中にすべての能力を奪う。そのせいでバランスが崩れ、転んだ門番のHPは1だ。転んだことによるダメージが入るとどうなる?見ての通りだ。
騒ぎが大きくなるころには俺たちはその場を離れていた。
宿に行き、1泊と明日朝までの食事を頼む。いきなり帰ってきた俺たちを見ても何も言わず、同じ部屋を用意してくれた。
「で?今から買いに行くの?私も実は馬車の旅って憧れていたんだー。ホントはこの街を出る前に馬車の購入をお願いしたかったけど、さすがに奴隷の身分でご主人様に、安くもない買い物させるわけにもいかないからねー」
ミオが目を輝かせて言う。とりあえず言うだけなら言ってくれても良かったんだけどね。一応気になっていることを確認する。
Q:馬車で旅をするのって普通?
A:普通です。移動手段の主流は次のようになっています。旅人→馬車も徒歩もある。商人→確実に馬車。冒険者→徒歩が多い。
問題なさそうだな。うっかり非常識とか、できれば勘弁だからな。
「ああ、今から買いに行こう。俺には馬車の良し悪しなんてわかんないからな。皆で決めてくれていいぞ」
宿の人に馬車を売っているところがないか聞いたら、街外れの牧場で馬車もセットで売っているそうなので向かう。
牧場はそれなりに大きく、馬も50頭くらいいるようだった。馬車は出来合いのものとオーダーメイドのものがあるが、今回は時間もないので出来合い一択となる。
牧場主に趣旨を伝え、馬を紹介してもらう。牧場主としてはどの馬も自信を持って売ることが出来ると豪語していた。ミオとドーラには馬を、さくらとマリアには馬車を見てもらっている。俺はまず馬の方に向かった。
しかし、馬を買うにあたって1つ誤算があった。ほとんどの馬がドーラを恐れるのだ。
「すいません。こいつらいつもは大人しいのに、今日に限って何かにおびえているみたいで…」
牧場主さんが謝ってくる。いえ、ごめんなさい。それ、うちの子のせいです。
人の姿をしているとはいえ、ドーラはドラゴンだ。食物連鎖のほとんど頂点である存在が、自分の近くに来たら、草食獣としては震えてションベンちびるしかないだろう。
ミオたちには念話で「馬はドーラを恐れない神経の太いやつ」と条件を付けて選ばせた。そんな馬は全体の1割もいなかった。しばらくするとミオたちはその中から2頭選んだようだ。
「この子たちね。こっちの子はドーラが全然平気。鋼の神経ね。こっちの子は何とか我慢ができる感じ。勇気のある子ね」
ミオが紹介する。ドーラが近づいても過剰には恐れていない。これなら大丈夫そうだ。ほぼ同じ時間で馬車の方も選び終わったようだ。可もなく、不可もない馬車だ。いや、良し悪しわかんないし。
とりあえず全員が乗ってもだいぶ余裕がある。馬のエサも含めて購入し、100万ゴールドくらいになった。日本円で考えると安い気もするけど、物価が完全一致しているわけじゃないのは知っているから気にすることもないだろう。
宿に持っていくわけにもいかないので、明日の朝取りに来ることを告げ、宿に戻った。
「そうだ。少し忘れ物をしたんで取りに行ってくる」
夕食を食べ終わり、これから風呂に入ろうというところでみんなに伝える。
「何をお忘れでしょうか。言ってくだされば私が取って来ますけど…」
「いや、俺にしか取りに行けないものだから」
そう言うとミオがビクッと震えた。
「まさか、ご主人様…」
「どうしたんだミオ?変な顔をして?」
「な、何でもないです…」
変なミオだな。まあ、ミオが変なのは割といつものことか。
「じゃあ、行ってくる。それほど遅くならない予定だから、先に風呂に入っていてくれ」
「わかりました。暗いですから気を付けてくださいね」
「ご用があれば気にせずお呼びください」
《いってらっしゃーい》
こうして俺は宿を出て、忘れ者をトリに行くことにした。
2人。
翌朝、宿の1階で朝食をとっていると、俺たちに来客があった。ギルド受付嬢のアンナさんだ。
「皆様、おはようございます。朝から訪ねてきて申し訳ありません」
「いえ、それは構いませんが…。それより何故ここにいるとわかったんですか?」
つけられたりしていたのだろうか?少し警戒する必要があるかもしれないな。
「はい。宿に入るところを偶然目撃したのです」
偶然と言っているが、それが本当かはわからない。<千里眼>では本当のことっぽいが、言い回しが曖昧すぎて、こちらの望む回答かわからないのだ。
そこでアンナさんは主目的を切り出してきた。
「それで、お願いがあるのですが…」
「何でしょう」
「はい。ギルドの方に顔を出していただけないでしょうか。買戻し希望の方が1名いらっしゃるのと、ギルド長がどうしても話をしたいとおっしゃるので…」
「…詳しく聞いてもよろしいですか?」
2つの要件とも面倒な話であることは間違いなさそうだ。
「まず買戻し希望の方ですが、…貴族です。買戻しは終了したといっても、なんとかしろの1点張りでして…。皆さま方がちょうど戻っていることをギルドの方で把握している以上、断ることもできなかったのです」
ギルドも大変だな。貴族の相手(特にこの国の)なんて碌なものでもないだろうに。それに今回、初めて先に貴族であると明言したな。今まではギリギリまでそのことを伝えなかったくせに…。
「それとギルド長ですが、それとは別件で皆様にお話を聞きたいことがあるとのことでして…。詳しい話を聞こうとしても教えてくれませんでした。確か昨日の夕方、最初の買戻しの方がギルド長と話をした後のようでしたけど…」
縦ロールが来ていたとなると、セルディクの事だろうな。弟子って言っていたし、縦ロールとギルド長に面識があってもおかしくはない。
うん、決めた。
「話は分かりました」
「では早速…」
「ギルドに行くのはお断りします」
「…え?」
固まるアンナさん。
「正直、厄介事の匂いしかしないんですよ。俺たち、午前中には街を出るつもりなんですから、時間を無駄にしたくはないんです」
バッサリと切って捨てる。買戻し?善意を裏切り続けた奴らに手を差し伸べる必要などない。ギルド長?嫌いではないが、面倒事と引き換えにするほどの恩はない。アンナさんもなかなか強かな性格しているし、これ以上関わり合いにはなるつもりはない。
「で、ですが…」
「お帰りください。俺たちはもう出発いたします」
食い下がるアンナさんを拒絶するような態度をとる。困ったアンナさんは助けを求めるように俺の仲間を見つめる。やっぱり、強かだね。でもね、すでに念話で連絡済なんだよ。『この話は絶対に断わる』って。
パーティリーダーの俺がここまで強く言っているのに、反対したり説得したりするような子はパーティにはいない。そんな独裁的な状況が健全かは置いておくが、この状況で、ほとんど無関係の受付嬢さんのために俺に物申すことはないだろう。
「…わかりました。失礼します」
諦めたアンナさんはそれだけ言うと宿から出ていった。
こうしてアンナさんと言う面倒の種を追い出した俺たちは、馬車を引き取ってこの街から出ることにした。
出来上がった馬車は結構立派だった。馬には馬車をひくための道具が取り付けられており、馬車の方もこの2頭に合わせて微調整されているようだった。早速乗り込むと、中は思っていたよりも広く、俺たち全員が座っても余裕があるようだ。
牧場主への挨拶もそこそこに、馬車に乗り街の外を目指す。御者のマリアにはセバスチャンから奪った<乗馬術>を与えている。
マップを見ると、ある意味予想通りの状態となっていた。俺たちが出ようとしている門の近くに、ジョセフという名前があるのだ。ご存じ、ギルド長である。
「マリア、このままいくと門の近くにギルド長がいる。俺が相手をするから、御者の席に俺も入れてくれるか?」
「はい。構いませんが、厄介事になるのでは?」
「トラブルはできるだけ避けるべきだが、ここで迂回とかすると逃げたみたいで気に食わない。避けるのも追い出すのもいいけど、逃げるのは嫌だ。それに迂回するよりはギルド長の相手をする方が早く進めそうだからな。最悪敵対した所で、それほど怖くもないし」
「そういうことですか。わかりました」
そういうとマリアは御者の席を少し横にずれ、俺が座るスペースを開けてくれる。そこに座ると思ったより近くにマリアがいる。
門まではもう少し時間があるな。
「マリア、耳を撫でてもいいか?」
思い切って聞いてみる。マリアの耳を撫でたことがあるが、中々に気持ち良かったので機会があったらまた撫でたいと思っていたところだ。
マリアは顔を真っ赤にして小声で答える。
「…仁様が望むのでしたら…」
「じゃあ撫でる」
そういうと俺は早速マリアの耳を撫で、揉み、いじくり倒した。…どうでもいいことだが、マリアは撫でられている間はずっと不思議な動きを繰り返しており、何度か馬車が蛇行してしまった。ナンデダロウネ。
門の近くまで行くと、張り込んでいたギルド長が馬車の前に出てきた。マリアもわかっていたのだろう。すぐに馬を止める。
ギルド長が俺たちに向かって話しかけて来る。
「君たち、ちょっと馬車から降りて私の話を聞いてもらえないだろうか?」
「なんですか。俺たちは先を急いでいるんですよ。ギルド長との話はアンナさん相手に断わったじゃないですか」
「わかっている。だから私自らが話しに来たのだ。君が断ったのは『ギルドに行く』ことだからな」
屁理屈をこねてきたな。確かにアンナさんの依頼は『ギルドに来てくれ』だった。それを断るということは『ギルドに行かない』と言う宣言にはなるが、『ギルド長と話をする』ことを断ったわけではないというつもりだろう。
冷静に考えれば、アンナさんとの会話からそれも拒否しているのは明確だが、自分に都合のいい言い回しをしているのだろう。
「じゃあ改めて言いますけど、馬車から降りるのも、ギルド長と話をするのも拒否させていただきます」
「むう、つい先日までは友好的な態度だったのに、いきなりそんなつれないことを言わんでもいいじゃないか」
あの時は『善意』が残っていただけの話だ。
「もうこの街に用はないんです。厄介ごとが多かった場所の長に構う必要なんてとくにありません」
「そう言わんでくれ。最初の買戻しに来ていたお嬢さんから、君たちのせいでセル…セバスチャンがいなくなったという話を聞いてね。君たちに話を聞く必要があるんだよ。彼には世話になったからな…」
「誰ですか、セバスチャンって?」
決めていた通り白を切る。ところで今、セルディクって言いかけていませんでしたか?ギルド長。
「最初の買戻しに来ていたお嬢さんの執事だよ。買戻しにもついて来ていたらしいが?」
「ああ、そんな人もいましたね。ですけど俺たちのせいでいなくなったって言うのは意味が分かりませんね。俺たちがセバスチャンさんに会う理由なんてないじゃないですか」
セバスチャンにさんを付けるのって面倒だよね。
「詳しい話を聞こうにも、そのお嬢さんも昨日の夜から行方不明でね。とりあえず君たちに話を聞こうと思ったんだ」
「冗談はやめてくださいよ。その状況なら、まず詳しい話を聞いてから俺たちのところに来るべきでしょう。順番が逆ですよ」
全く、縦ロールも余計なことをしてくれる。中途半端にギルド長を巻き込むから余計な手間がかかるじゃないか。
「だが、君たちはこの街を出ていくのだろう?ここで留めておかないと、後で話をすることもできないじゃないか」
「知りませんよ、そんなこと」
「むう…」
唸るギルド長。それに縦ロールはいくら探したところで出てくるわけないって。今はセバスチャンと仲良く同じ場所にいるからね。
「何の確証もなしに、冒険者でもない俺たちをこの場で引き止める権限が貴方にはあるんですか?」
「…いや、ない」
それは当然だ。冒険者相手なら多少は影響力もあるだろうけど、俺たちは冒険者ではないからな。別にこうなることを見込んでいたわけではないが、結果としてその判断は正解だったわけだ。良かった、50万と引き換えに登録なんてしないで。
「そうそう、1つお聞きしたいことがあるんですけど、いいですか?」
「…何かな」
「街の外で武器を持ち、こちらが悪いのでもないのに『死ね』と言いながら襲い掛かってくる人間を、野盗とか暗殺者と呼んで切って捨てることに問題ってあります?」
「いや、そんなことを言って襲い掛かってきたのなら、それは野盗か暗殺者だな。切り捨てたところで法的にも問題とはならないな。それがどうかしたか?」
セバスチャンは別に暗殺者と名乗ったわけでもないから、野盗だよな。いや、どっちでもいいか。
「それが例え刀という珍しい武器を持っていてもですよね?」
「!?ああ…間違いない」
顔色が変わったよ。不思議だね。
「それが例え自称元Sランク冒険者でもですよね?」
「…ああ」
観念したかのような顔をしている。不思議だね。
「ご回答ありがとうございます。それではもう行きますので…」
無言で渋い顔をするギルド長。
マリアの方を見ると、頷いて馬車を出す。前にいるギルド長を避けて門へと向かう。
門の周りでこんな騒ぎを起こせば人が集まるのは当然だ。野次馬にどいてもらいながら門に着き、手続きを済ませる。門を出る時に後ろから声が聞こえる。
「ご主人様…。良かったんですか?あそこまで言っちゃって…」
ミオの疑問ももっともだ。少々調子に乗りすぎた感はある。だけど大分すっきりした。
「あー、皆もゴメンな。後半の野盗の下りは不要だったな。でも、結構すっきりしたんだ。意外とストレス溜まっていたみたいで、いい機会だから鬱憤を晴らしたかったんだ」
この国ではこの街が最後だから、少しぶちまけたくなってしまったようだ。まあ、セルディクより弱いギルド長が追手を放つくらいなら、どうにでもなるし…。
「仁様がなさることに文句はありません。邪魔をするものがいるなら、私が切って捨てます」
《ドーラもがんばるから、ごしゅじんさまはすきにいきてだいじょぶだよー》
2人がフォローしてくれる。うん、いい子たちだ。この子たちは大切にしないとな。この子たちと触れ合っているときが1番ストレス解消されるからな。うん?ドーラとマリアをもっとモフモフしていれば、あそこでストレスが暴発することもなかったんじゃないかな?これは今度いろいろ試してみないといけないな。
あ、それとギルド長からスキルを奪いましたよ。俺の貴重な時間を奪ったんだから、迷惑料として<闘気LV4>を奪ったよ。セルディク関連で迷惑をしたんだから、セルディクから教わったという<闘気>を奪うのは帳尻が合っているよね。
ジョセフ
LV45
…<闘気LV4>
ついでに縦ロールはレアスキルの宝庫だったよ。
エリザベート
…<精霊魔法LV1><精霊術LV1>
ポイントを見る限り、後ろ2つは1度も使ったことがなさそうだったから、生まれつき持っていたけど本人は知らなかったんじゃないかな。
敵対した相手がレアスキルを持っていると、嬉しくなっちゃうね。奪っても罪悪感がわかないから。この国は嫌なことも多かったけど、奪うのに躊躇しなくていいという意味では悪いことばかりでもなかったかな。
うん。次の国からは自重しよう。
これで1章が終了になります。
数回本編はお休みして、番外編?のようなものを出します。
20150912改稿:
修正(6)の内容を反映。




