第117話 傲慢と強欲
リアルが忙しくて執筆が滞り気味です。
その内、10日更新になるかも?
のんびりすると決めた半月だが、やると決めたことはいくつかある。
先日行った、『冒険者資格の凍結解除』や『ミラと成瀬母娘を人間に戻す』などがそれに含まれる。『Sランク冒険者との模擬戦』はそれに含まれない。
その中で、本日の予定としているモノが、『七つの大罪討伐』である。
『七つの大罪討伐』とは、メープル、ショコラ、ティラミスの魔物娘3人組が、アト諸国連合内にいる『七つの大罪』を司る呪印持った魔物を討伐する所を見学するというものである。
既に<暴食>、<色欲>、<嫉妬>、<怠惰>、<憤怒>は討伐しているから、残すところは<傲慢>と<強欲>の2つだけだ。
『七つの大罪』を司る呪印を持った魔物を倒すと、別の魔物に次の呪印が発現する。
しかし、何処に現れるか、いつ現れるかは不明・不定なようで、<憤怒>が討伐されてから次なる<傲慢>を発見するまでには相当の時間を要することになった。
『七つの大罪』の呪印が周囲に与える影響は大きく、それに伴って生じる事件の規模も大きくなりやすい。
事件の規模が大きくなれば、必然的に俺達の耳に入る確率も高くなる。
しかし、<傲慢>の効果は影響力は大きくても、それ単体では事件が広まらないタイプの効果だったため、俺達の耳に入ることはなかった。
では、どうやって<傲慢>の魔物を見つけたのか?勿体ぶるまでもなく異能の力である。
今まで<千里眼>のマップは、該当エリアと隣接エリアの2エリア分しか表示されなかったのだが、<拡大解釈>によって強化されたことで、4エリア分まで表示されるようになった。
これにより、今まで以上の効率で探索が進み、ついに先日<傲慢>を持つ魔物を発見するに至ったのだ。
七つの大罪リレーが上手く行けば、本日中にラストの<強欲>討伐まで行けるかもしれない。強化されたマップもあるし、<傲慢>を探すよりは手間はかからないだろう。
異能、マジ便利。
「アレが<傲慢>の呪印を持つ魔物か。厄介と言えば厄介な能力ではあるな」
「アレですら『厄介』で済むのが、主人の恐ろしい所っすよね……」
「そうだな。本当に妾達とは次元が違う」
「メーちゃん、ショコちゃん。ハニーに関して言えば、そんなの今更だと思うな♪」
敵のステータスを見ながらの呟きに対し、魔物娘3人組(メープル、ショコラ、ティラミス)が苦笑をしながらコメントをする。
現在、メインパーティ+魔物娘3人はアト諸国連合最北端のとある国に来ている。
アト諸国連合の中で、エステアに隣接する南側の国にはいくつか立ち寄ったが、北側の国には立ち寄っていない。
必然、派遣されるメイドの数も少なくなってしまう。そして、それが<傲慢>の発見が遅れた理由の1つかもしれない。今更言っても詮無い事だが……。
多少時間はかかったが、見つけた以上は討伐をしなければならない。
性根が真っ当な魔物ならば、呪印を外して調教なり解放なりするのだが、どう見ても真っ当な奴には見えなかった。
そのステータスがコチラである。
名前:ダグラス(狂化・傲慢)
LV110
性別:男
年齢:711
種族:暗黒将軍
スキル:<身体強化LV10><剣術LV10><闇魔法LV10>
呪印:<傲慢LV->
「呪剣」
「呪盾」
備考:元々は人間だったが、数多の罪を犯し、数多の禁忌を宿し、魔物と化した存在。
<傲慢>
テイミングが不可能になる。逃走が困難になる。精神力の低い者を意のままに操れる。
呪剣
分類:片手剣、呪い
レア度:秘宝級
備考:呪われている。精神を侵食する。
呪盾
分類:盾、呪い
レア度:秘宝級
備考:呪われている。精神を侵食する。
何と言うか、滅茶苦茶ボスっぽい魔物である。
元々人間だったらしいが、色々あって魔物になったようだ(雑なまとめ)。
呪印の発現と武器が呪われることには何の因果も無いので、呪い装備達も元々持っていたものと言う事になる。
これだけで真っ当な魔物と言うのは無理があるレベルである。討伐確定。
スキル数こそ少ないものの、全てのスキルをカンストさせている強者だ。
武器防具も同様で、呪われた装備にしては珍しく、特殊な効果を持たず、単純に性能が高いようだ(ただし精神は蝕まれる)。
極めつけの呪印はまさかの洗脳系である。
<傲慢>を満たすためには唯々諾々と従う存在が必要だからだろうか?
そして、暗黒将軍の周囲には、<傲慢>により支配下に置かれた『人』や『魔物』達が集結しているのだ。
そもそも、暗黒将軍が今、何処で何をしているかと言うと……。
「滅ボス……。アンデル王国……、滅ボス……」
そう呟きながらアト諸国連合最北端のアルカント公国の首都に向けて、1000を超える<傲慢>に支配された人と魔物の混成軍と共に行軍中なのである。
さて、色々と突っ込みたい事が多いが、1つずつ処理していこう。
まず、暗黒将軍の呟くアンデル王国は500年以上前に滅んでいる。アト諸国連合は群雄割拠の時代が長く、滅んだ国は数知れない。アンデル王国も戦いの中で滅び、その跡地に現在のアルカント公国がある。つまり、人違いならぬ国違いである。
そもそも、この暗黒将軍は大昔に封印された魔物なのである。
かつて、アンデル王国に滅ぼされた国があった。そして、運悪く、もしくは運よく生き残ってしまった将軍がいた。彼は復讐を誓い、あらゆる禁忌に身を染め魔物となった。
魔物と化した暗黒将軍はアンデル王国の民を大量に虐殺し、最後はとある遺跡に封印されたのだが、実はこの封印、動けなくなるわけではなく、遺跡から出られなくなるだけ、と言う欠陥品だったのだ。
そのため、遺跡に沸く魔物の討伐や自己鍛錬によって、レベルやスキルレベルがとんでもないことになった。封印が解けた後のことも考えて封印をしろと言いたい。
今回、『狂化』することによって封印の制約から外れ、地上へと復帰することになった。
そして、遺跡周辺の魔物や近くに居合わせた冒険者を<傲慢>で支配下に置き、十分な戦力が整った時点で憎きアンデル王国へと歩を進めたのである。
もちろん、国を間違った状態で、である。
余談だが、暗黒将軍がアンデル王国の優秀な戦士を殺し回ったせいで戦争に負け、滅んだという経緯があるので、彼の復讐は完遂されていたりする。
復讐を否定する気は無いが、勘違いで迷惑を振りまく存在は害悪だ。
これ以上、余計な事をして泥を塗る前に引導を渡してやろう。
「お前達なら暗黒将軍にも勝てるはずだ。頑張れよ」
「任せるっす!」
「ああ、妾達の戦い、しっかりと見ていてくれ」
「頑張るぞー♪」
これだけ長々と暗黒将軍について語ったものの、今回暗黒将軍と戦うのは俺じゃないんだよね。
どうしても戦いたい相手とか言うのならともかく、基本的に『七つの大罪』を司る呪印の相手は魔物娘達の仕事だから……。
それに、暗黒将軍とその軍勢の存在は、既にアルカント公国に知られている。偶然発見した冒険者が大急ぎで報告に走ったからな。
文献を漁り、暗黒将軍の存在を知ったアルカント公国は絶望した。アルカント公国は小国だ。国内最高の冒険者でもBランクと言うくらいには小国だ。
現在の基準でSランク冒険者相当の相手を殺し回っていた暗黒将軍、及び1000を超える軍勢を止められる訳が無い。
更に絶望的な事に、魔物達の進軍速度は速く、首都の住民が逃げるにしても時間稼ぎが必要だと考えられた。
そこで、我らがアドバンス商会はアルカント公国に取引を持ち掛けた。『魔物の軍勢の討伐、もしくは時間稼ぎ』と言う極上の餌をぶら下げて……。
結果、アルカント公国はアドバンス商会の要求を全面的に飲むことになり、その対応が『アドバンス商会所属の傭兵』と言う事になっている魔物娘3人組の仕事なのだ。
10分後、暗黒将軍の軍勢は俺達が待ち構える草原に到達した。
「行くよー♪」
「うむ!」
「はいっす!」
暗黒将軍の軍勢が目視できる範囲まで近づくと、魔物3人娘は真っ直ぐに暗黒将軍へと突進していった。
1番槍は恐竜娘である。見た目はフリルの魔法少(幼?)女で、中身はインファイターである。むしろ魔法は使えない。
「アンデル王国ノ……兵……。殺ス……」
3人娘を迎え撃たんとするは漆黒の鎧に身を固め、呪われし武器を構える暗黒将軍。ボスオーラがパない。
あんな小娘3人が王国の兵士に見えているようだ。アレは、もう後戻りできないな。
「じゃあ、俺達も始めるか」
《おー!》
「はい。お任せ下さい」
俺の言葉にメインパーティの面々が頷く。
俺達の仕事は暗黒将軍以外の軍勢の殲滅である。平たく言えば露払いである。
いつもは皆に露払いを任せて、俺がボスと戦うことが多いので、偶にはこういうのもいいだろう。
……と思っていたのだが、前言を撤回したい。
どうやら、<傲慢>によって操られた存在には、自我と言うものがほとんどないようだ。そのせいで、魔物達の攻撃には殺意が感じられず、ただただ軽かった。
これは、戦いではなくただの作業である。そして、作業によって得られるものに大した価値はない。
なお、支配されている冒険者に関しては気絶させて隔離するだけに留めている。多分、『狂化』するだろうから、奴隷にして解除してやろう。
魔物の軍勢を順調に殲滅していき、大分数が少なくなってきたので、ティラミス達の様子を確認するとしようか。
「喰らえー♪」
「グウッ……オノレ……!アンデル王国メ……!」
ティラミスの斬撃を盾で受け止めようとして、勢いを殺しきれずに吹っ飛んだ暗黒将軍が呻く。
ティラミスに向けて歩みを進めようとする暗黒将軍の肩にショコラの矢が刺さり、メープルの打撃が鎧を打つ。
「グウ……グオオオ……!」
「妾達から意識を外すとは良い度胸だな」
「こっちは3人1組っすよ!」
最近、ウチの魔物娘3人組が武器を扱い始めたんですよ。
恐竜娘は大斧。鳥娘は弓。大海蛇はモーニングスターである。メープルのチョイスが理解できない。
何でも、魔法と肉弾戦でゴリ押すのに限界を感じたとか何とか……。さもありなん。
とは言え、ティラミス以外は魔物生が長く、いきなり武器と言われても上手く扱えないのも当然だ。もちろん、<斧術>、<弓術>、<槌術>スキルの出番である。
……モーニングスターが<槌術>なのは腑に落ちない。
元々、ティラミスが前衛、メープルとショコラが後衛となる連携をしていた。
しかし、武器を使うようになったことで、ティラミスが前衛なのはそのままに、メープルが中衛、ショコラは完全な後衛として連携を組み直したそうだ。
これが思いのほか上手く回り、かなりの戦力になると判断した3人は、武器による戦闘を主体として、補助として魔法を使う戦術を訓練中なのである。
訓練中の戦術で倒される暗黒将軍が憐れである。
最終的には武器と魔法を上手く切り替え、臨機応変に戦えるようになるのが目標だそうだ。
「てやー♪」
可愛らしい掛け声とは裏腹に、ティラミスの1撃は全てが必殺級である。
今までは殴る蹴るしかしていなかったが、その怪力で大斧を自由自在に振り回し、リーチが広がったことで相当な戦力アップとなった。
と言うか、幼女の手足でリーチとか、元々絶望的じゃね?
「グウッ!」
「今度はこっちっす!」
ティラミスの斬撃を盾で受け、吹き飛ばなかったが体勢を崩した暗黒将軍を背後からメープルのモーニングスターが襲う。
大海蛇であるメープルは、武器を使うと決まった時、最初は鞭を使おうとしていた。しかし、鞭には決定力が無く、サブウエポン向きと判断し、メインウエポンになるモーニングスターを選んだ。そんなにニョロニョロした武器が好きか……。
「まだ終わりではないぞ」
そう言って暗黒将軍の鎧の隙間に矢を打ち込むショコラ。
ティラミスが前衛、メープルが中衛を選んだのだから、自分は後衛を選ぶべきだと判断したようだ。……元々魔法が使えるから、遠距離攻撃には事欠かないはずなのだけど……。
まあ、魔法が効きにくい敵もいるし、武器を使えるようになることにデメリットはないからな。
そして、ハーピィ・クイーンと言う種族柄か、風を読む能力に長けていたショコラは、驚くほどの弓への適性を見せてくれた。それこそ、鎧の隙間をピンポイントで狙えるほどに。
攻撃の射程が目まぐるしく変わり、暗黒将軍の反撃を許さない。時々、支配下の魔物がティラミス達に攻撃を加えようとして瞬殺されている。
暗黒将軍とて、弱いわけではないのだろう。戦闘能力は単体で見ればメープル達とそれほど変わらないはずだ。しかし、同格の者達を相手に3対1で戦うのは無理がある。数は力だ。
暗黒将軍の支配下にある魔物自体は多いのだが、所詮は洗脳して操っているだけの魔物。単純な命令しか出来ないし、連携なんてとてもではないが無理だ。
形勢は常にティラミス達に有利に進み、ついには……。
「これでお終いだよ♪」
「これでも喰らうっす!」
「止めだ!」
「オノレ!許サンゾ、アンデル王国!絶対ニ滅ボシテヤル!グハッ……」
3人の必殺の連携攻撃が決まり、最後まで怨嗟の声を上げ続けた暗黒将軍のHPが0になった。
暗黒将軍の身体は死ぬのと同時に泥のようになりボロボロと崩れて行った。その身に着けていた漆黒の鎧や、手に持った武器と一緒に……。
ティラミス達3人が、崩れた暗黒将軍を見下ろして呟く。
「武器が消えたっす。結構高値で売れそうだったのに勿体ないっすね」
「呪われた武器だから、表の市場には流せないと思うけどね☆」
「裏の市場か。アドバンス商会経由なら売れただろうな。確かに勿体ない」
呪われた復讐者を倒した後の話題が、持っていた武器を売る件と言うのはどうかと思う。
3人も魔物だから、魔物を倒した後に感傷に浸るようなことが無いのも理解は出来るんだけどね。でも何と言うか、暗黒将軍が憐れだ。
俺が言うな?はっはっは。
それにしても、3人とも随分と人間の流儀に慣れてきたよな。
だって、魔物娘が普通に武器の売り買いの流れを熟知しているのだから……。
雑談を終えた魔物娘3人が、俺達の元へと向かってきた。
暗黒将軍が討伐される前に、既に支配下の魔物達は全滅させている。集団戦闘になると、さくらとミオの遠距離攻撃組が活躍するね。
「主人、これで私達の傭兵としての任務は終了だ。アルカント公国の首都に戻って報告をしようと思う。主人たちはどうする?」
今後の行動について、ショコラが尋ねてくる。
魔物娘3人組にはこれからアルカント公国への報告と言う仕事が残っている。
アルカント公国の首都では住民達の避難等も進んでいるので、『七つの大罪』がすぐにバトンタッチしたからと言って、報告を後回しにして倒しに行くと言うのも不義理だ。
アリバイ的な意味もあるので、バトンタッチが早い場合は3人娘には任せられない。
『七つの大罪』を見つけておきながら、被害が大きくなるまで倒さないと言うのも気分が悪いので、バトンタッチが早い場合は俺達が倒しに行こうと思う。
と言う訳でアルタ、『七つの大罪』の呪印を持った魔物は現れたか?
A:はい。ここから南東にある国に<強欲>を持った魔物が現れました。
ふむ、どうやら早速バトンタッチが行われたみたいだな。
それで、どんな魔物なんだ?
A:はい。以前イズモ和国でマリアと戦った吸血鬼のラティナです。
え?あの戦闘狂吸血鬼が狂化したのか?
A:はい。カスタールに向かう途中に立ち寄った国で、<強欲>の狂化が発症したようです。
…………運悪っ!?
そもそも、狂化や『七つの大罪』の呪印って、アト諸国連合と何の関係もない魔物でも発症するのかよ。節操がないなぁ……。
「アルタによると、既に次の『七つの大罪』が現れているそうだ。どうやら、俺達と縁のある魔物のようだし、討伐する訳にもいかないだろう。余計な被害を出されても面倒だから、俺達が対処に行こうと思う。……悪いな、最後の最後で美味しい所だけ持って行くような形になって」
理由があるとは言え、3人に任せていた仕事の大トリだけを持って行くような形になるのは心苦しくもある。
「ティラちゃん達は『七つの大罪』持ちを3匹倒したけれど、ハニーだって2匹倒しているんだから、美味しい所を持って行く権利くらいハニーにもあるよ♪」
俺が相手をしたのは<色欲>、<嫉妬>の2匹で、3人娘は<暴食>、<憤怒>、<傲慢>を倒した。なお、最後の<怠惰>は冒険者組のクロードが偶然遭遇して戦うことになった。
よく考えてみたら、俺も結構『七つの大罪』を倒しているんだよな。
「そうっす。元々主人の権利っす。自分達はあくまでも主人の代行っすからね」
「ああ、そうだ。ここは私達に任せて、主人は先に行ってくれ」
「わかった。そう言う事なら遠慮なく俺がやらせてもらうよ」
3人共、特に『七つの大罪』に対するこだわりが無いようなので、俺達が<強欲>を得たラティナの相手をすることに決まった。
どうでもいいけど、ショコラのセリフは死亡フラグ扱いになるのだろうか?
ティラミス達と別れた俺達は、早速ラティナがいる南東の国へと向かった。
もちろん、アドバンス商会店舗への『ポータル』による転移である。
その国の名前はアーガス公国と言い、アト諸国連合内では第2位の規模を誇る国家だ。
アーガスの魔物は他の国に比べて強く、比例して冒険者や騎士団も強い。もちろん、『アト諸国連合内では』と言う但し書きが付くのを忘れてはいけないが……。
平たく言えば、カスタール女王国やエステア王国に比べれば明らかに弱いと言う事だ。
現在、ラティナはとある森の中で魔物狩りに精を出しているようだ。マリアとの約束があるから、人間を相手にすることはなく、魔物狩りをしていたのだろう。
そのタイミングで<強欲>が発症したから、そのまま魔物と戦っているのだろうな。
<強欲>の呪印はスキル強奪能力だからな。
<強欲>
テイミングが不可能になる。逃走が困難になる。殺した相手のスキルを1ポイントずつ奪える。
言うまでもなく、<生殺与奪>の完全下位互換なんだけどね……。
敵を倒した時にしかスキル強奪は出来ないし、奪えるのもたった1ポイントずつだ。比べるのも悲しくなるぐらいに下位互換である。
しかし、比べなければそれなりに強力なスキルであることも事実だ。
例えば、同じ系統の敵が密集している森の中で魔物狩りを続けたりすれば、それなりのレベルのスキルを得ることが出来るはずだ。
もしかしたら本能的に自分が何をすれば強くなるか理解しているのかもしれない。それ故に同じ森の中で延々と魔物を狩っているんだろう。
ただ、1つ問題があるとすれば、この森に生息する魔物の分布だろう。
以前、カスタールで魔物の暴走が起きた時と同じく、オークやオーガ等の人型の魔物のみが大量に存在している森なのだ。
故にこうなった。
名前:ラティナ(狂化・強欲)
LV61
性別:女
年齢:17
種族:吸血鬼
スキル:
武術系
<格闘術LV4><棒術LV3>
身体系
<身体強化LV8><縮地法LV3><夜目LV2><飛行LV2><吸血LV5><繁殖LV3><強靭LV1><怪力LV2><闘気LV2><狂戦士化LV1>
技能系
<統率LV2><鼓舞LV2>
その他
<散歩日和LV5><竜血覚醒LV-><勇敢なる挑戦者LV->
呪印:<強欲LV->
スキルは増えているんだけど、オークやオーガのスキルだから、基本的に脳筋スタイルなんだよね。
以前見た時から増えているのは<棒術><繁殖><強靭><怪力><狂戦士化><統率><鼓舞>の7つである。
……何より、1番気になるのは光り輝く<繁殖>スキルだけどな。オークのスキルである。
<繁殖>
異性であれば、あらゆる人型の種族との間に子をなすことが出来る。子供の種族は、性別の一致する方の親と同じ種族になる。子供の生まれやすさはスキルレベルに依存する。
この吸血鬼はどこに向かいたいのだろうか……。
それはさておき、単独だから<統率>、<鼓舞>は死にスキルになるけど、<強靭><怪力><狂戦士化>は単純に強力だな。
戦闘能力だけで考えても、以前のラティナと同じと考えるわけには行かないはずだ。
今戦えば、マリアとも良い戦いが出来るのでは……ないな。うん、ないない。
後、<縮地法>と<闘気>と<狂戦士化>の組み合わせを見ると、大分前に倒した執事を思い出すな。レベル的にはラティナよりもセルディクの方が上だったよな。
そう考えると、彼はこの世界におけるトップクラスの実力者だったのではなかろうか?
はい、俺が殺しましたけど。
アドバンス商会の店舗で準備を終えた俺達は、馬車によってラティナのいる森へと向かうことにした。飛んで行くのは自重した。
今回は冒険者としての活動ではないので、アーシャに御者を任せている。
「まあ、良いんだけどね?今、丁度依頼を受けていなかったし……」
急に呼ばれて御者をすることになったアーシャが、若干恨みがましい目で見てくる。
「イヤなら断ってくれてもいいんだぞ。」
「断るつもりはないけど、今回の相手、僕が酷い目にあわされた呪印の関係者なんでしょ?うぅ、嫌な思い出が……」
アーシャは<暴食>の呪印を持ったギガント・マンイーターに敗れ、従魔達を失い、自身も狂化させられると言う甚大な被害をこうむった。
『七つの大罪』呪印に苦手意識を持つのも無理はないだろう。
「別にアーシャに戦えなんて言うつもりはないぞ。戦力外だし……。大人しく離れた所で待機していろ」
「うん……。素直にそうさせてもらうよ」
本気で嫌そうにしている者まで、戦いに巻き込むつもりはない。
ふと思いついたことをアルタに尋ねてみる。
気になったんだけど、ラティナの奴は意識があるのか?
金狐である月夜は、狂化して苦しみながらも意識ははっきりしていたから、ある程度以上の精神力があれば耐えられないことも無いのだろう。
修行をしているラティナもそれなりに精神力が高そうだ。もしかしたら、狂化を使いこなしているのかもしれない。アーシャは完全に飲まれていたが……。
A:意識はありますが、狂化の影響で言動が怪しくなっています。魔物と戦いながら、『私が最強だ』『この世界は全て私の物だ』などと言っています。
<強欲>らしく、そしてラティナらしくない言動だな。
意識はあるけど、正気ではないと言ったところか。月夜はかなり長時間正気を保っていたから、ラティナの精神力は月夜以下と言う事になるな。
いくら狂化の影響により正気じゃないとはいえ、『最強』とか『私の物』なんてセリフを吐かれたら、無視する訳にもいかなくなるんだよなー。
折角だから、俺が格の違い(異能VSスキル的な意味で)を見せてやりたくなる。
「と言う訳で、ラティナの相手は俺がすることにします」
「相変わらずご主人様は唐突ね……。でも、確か呪印を無効化するだけで終わらせるんじゃなかったの?」
ジャンケンにより、俺の隣の席を勝ち取ったミオが質問してくる。
俺の異能を使えば、呪印を無効化して狂化を解除することも出来る。実際、先程まではラティナとは戦わず、呪印の解除だけで済ませようとしていたのだ。
もちろん、これは真っ当な魔物だけに対する処置であり、例えば暗黒将軍のように、狂化なしでも討伐することが確定している魔物に関しては呪印の解除などせずに討伐することにしている。
「いや、アルタによるとラティナが<強欲>の影響でちょっと調子に乗った発言しているみたいだからさ、軽く凹ませてやりたくなったんだ」
「ご主人様の『軽く』が一般的な『軽く』じゃない件について」
「命まではとらないみたいですし、ご主人様からしたら『軽く』なのではありません?」
「あー、なるほど……」
ミオとセラが失礼なことを言う。
まあ、セラの基準で概ね間違っていないのだけど……。
「それで、ご主人様が戦うのは確定なの?別にミオちゃんが戦いたい訳じゃないけど……」
「ああ、俺が戦うのは確定だな」
再びのミオの質問に回答する。
俺が戦わなければ、強奪系異能VS強奪系スキルの戦いにならないからな。
「それは残念ですわ。私もそろそろ、大物の相手がしたいのですけど……」
俺の回答を聞いて、セラが残念そうに言う。
個別行動している時はともかく、俺が一緒の時はパーティ戦か俺の単独戦闘になることが多く、セラ個人が活躍する機会は意外と少ない。戦闘要員なのに単独活躍できない『英雄』である。
配下の噂によると、俺が灰色の世界に行っていた時は結構活躍していたらしいんだけどね……。タイミング的に俺がセラの活躍を見る機会は少なそうだ。
「安心しろ。多分もうじきセラの出番もあるから」
「何故、そのような事がわかるんですの?」
一応、話には出ていたはずだが、忘れてしまっているのだろうか?
「次はセラが『最終試練』の魔物を討伐して、<超越者>のスキルを入手する番だからだよ。相手によってはセラ単独討伐をしてもいいぞ。そうすれば、セラ単独の活躍の場になるだろ」
「そうでしたわ!次は私の番でしたわ!是非、単独討伐させていただきたいですわ!」
「その次はミオちゃんね。ミオちゃんは単独じゃなくていいから」
ちゃっかりミオが自己アピールをしている。
大丈夫、忘れていないから。
それから1時間も経たずにラティナのいる森へと到着した。
アーシャには馬車の番として、かなり離れた場所で待機してもらっている。
馬車を止めてから森まで、10分は歩いただろう。
この森はアーガス公国の田舎の方にあり、人の手が入っておらず、それなりの数の魔物が存在した。……そう、過去形なのである。
森の中の魔物は今や見る影もなく、そのほぼ全てがラティナによって討伐されたのだった。
その結果がコチラである。
名前:ラティナ(狂化・強欲)
LV63
スキル:
武術系
<格闘術LV4><棒術LV6 up>
身体系
<身体強化LV8 up><縮地法LV3><夜目LV2><飛行LV2><吸血LV5><繁殖LV6 up><強靭LV2 up><怪力LV4 up><闘気LV2><狂戦士化LV2 up>
技能系
<統率LV3 up><鼓舞LV3 up>
その他
<散歩日和LV5><竜血覚醒LV-><勇敢なる挑戦者LV->
呪印:<強欲LV->
しばらく見ない間に、スキルのレベルがかなり上昇しているな。
1匹当たり1ポイントずつしか奪えないと言う事を考えれば、かなりのハイペースと言えるだろう。
1つ残念だと思うのは、元々持っていたスキルのレベルより、奪ったスキルのレベルの方が高くなったことである。
例えば、ラティナのスキルをレベルの高い物から順に見て行こう。そうすると、<身体強化LV8><棒術LV6><繁殖LV6><吸血LV5>……お分かりいただけただろうか?
吸血鬼らしさがほとんど残っていないのである。これはもはやオークである。吸血鬼っぽいスキルを持ったオーク、……つまり吸血豚なのである。
後、ラティナはそんなに<繁殖>スキルを上げてナニがしたいのだろう?
もう少し、相手を選んでスキルを奪うべきじゃないかな?
ダグラス「闇魔法使う暇がねぇ!」
→<無詠唱>覚えてどうぞ
ラティナ「瞬・殺・確・定!」
→はい