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第90話 盗賊軍と勇者狩り

4/1も短編?を投稿します。

1日に3本更新します。今年は4/2になったら内容を書き換えるようなことはしないのでご安心ください。

 それから圧倒的な戦闘力による蹂躙が始まった。


「さあ、盗賊狩りの時間だ」


 巨大な<飛剣術>によって開いたエルディア軍部隊の風穴に、<縮地法>を使いつつ飛び込んだ俺が呟く。


 当然、エルディア軍のど真ん中に飛び込んだ俺を待っていたのは、熱烈な斬撃の嵐だった。

 前後左右から山のような冒険者達が切り掛かってくる。

 普通に考えれば後ろからの攻撃になんて対応できるわけがないのだが、そこはまあマップでどうにでもなる。マップは俯瞰視点だからな。


 斬撃の嵐を受け止めたり避けたりしながら、前後左右の冒険者たちを切り捨てて行く。

 乱戦になっているため、魔法が飛んでくる心配はない。まあ、魔法が飛んできた程度でどうにかなるほどヤワじゃないんだけどな。

 それにしても、進化した『英霊刀・未完』の威力は素晴らしいな。鎧を着て盾を構えた冒険者タンクを盾ごと、鎧ごと木綿豆腐のように切り裂ける。


「はあ!」


 俺はその場で横回転しながら『英霊刀・未完』を振るう。

 それだけで周囲にいた冒険者の一団は、全員がきれいに上下に分断されていた。

 その様子を見て、被害を受けなかった冒険者たちの足が止まる。


「どうした、盗賊ども?もうお終いか?」


 手招きをしながら周囲の冒険者達を挑発する。

 ちなみに俺の周囲には冒険者の死体はほとんど残っていない。

 頃合いを見計らって、定期的に<無限収納インベントリ>に回収しているのだ。足元が死体だらけでは戦うのに邪魔だからな。

 同じく定期的に『清浄クリーン』を使っているので、返り血まみれにもなっていない。


「だ、誰が盗賊だ!変な仮面着けやがって!」

「ぐっ……」


 盗賊の1人が離れた所から俺に向けて文句を言って来た。

 『変な仮面』呼ばわりで俺に初ダメージが通る。

 うるせえよ。別に着けたくて付けている訳じゃないんだよ。


「そうだ!俺達は勇者の邪魔をするこの国に天罰を与えに来ただけだ!」

「勇者が、俺達が正しくて、この国が間違っているんだよ!」

「盗賊なのはこの国の方だ!」

「だから俺達の邪魔をするな!大人しく殺されろ!」

「そうだそうだ!」

「お前たちが死ね!」

「変な仮面が死ね!」


 周囲の冒険者達が次々に身勝手なことを口走る。

 どいつもこいつも、勇者が正しいと言うことを疑いもしていない。自分達のしていることが正しいことだと疑いもしていない。

 勇者だって人間だぞ?それも、別の世界ではただの高校生達だ。どこに間違えない保証がある?

 もちろん、俺も間違える。だから、俺は自分が正しいなどとは欠片も思っていない。言ったことも無い。そして、例え間違っていても、自分の心のままに動くと決めているのだ。


「やっぱり、エルディアとは話すだけ無駄なんだな……。御託はもういい。さっさとかかって来いよ。三下ども」

「や、やれ!対応できないくらいの人数でやれば勝てるはずだ!こっちは勇者を含めて2万人もいるんだ!絶対に負けるわけがねえ!」

「お、おう!うおおおお!」


 少し偉そうな冒険者が俺の挑発に乗り、周囲の冒険者達に発破をかける。

 偉そうな冒険者の言う通り、先ほどまでよりも冒険者達の密度は濃くなっている。

 ……だからと言って何が変わるわけでもない。今までよりも時間単位に殺される冒険者の数が増えたくらいだろう。DPSが上がるよ。やったね!


 それから5分もしない内に、俺の周囲にいた3000人くらいの冒険者達は、そのほとんどが物言わぬ骸となって<無限収納インベントリ>に格納されていた。



 前半分の冒険者達が壊滅したので、そろそろエルディア軍本隊が相手かと思っていたら、それに先駆けて一部の勇者達が近づいてきた。

 周囲にいた騎士や冒険者達は、その勇者に道を譲る。


「おいおい、たった4人相手に何やってンだよ。これだから冒険者って奴は使えねぇ」

「そうよね。態々私達が出てこなきゃいけないなんてねえ」

「そう言うな。冒険者達はあくまでも兵の数を水増しするためにいるんだからな。戦いで役に立つなんて考えては可哀想だ」


 そう言って俺の前に出てきたのは、男子2人、女子1人の3人組だった。

 最初に冒険者を小馬鹿にしたようなセリフを吐いたのは、懐かしの制服を着た男子生徒だ。とは言え、制服は大分着崩されており、随分と気障な印象を受ける。

 もう1人の男子生徒は身長が2mくらいでがっしりとした体格をしている。対して、顔の方は比較的温和そうに見える。

 最後に女子生徒は化粧やアクセサリーでゴテゴテに着飾っており、有体に言ってチャラい。見た感じ造形は悪くないのに勿体ないことだ。


「変な仮面着けて、よくわかんねえ奴だが、冒険者部隊とは言えエルディア軍に手ぇ出してただで済むたぁ思ってねえよな?」

「気を付けろよ、怜人。コイツだけで3000人は冒険者が殺されたんだ。勇者に匹敵するくらいの力があるかもしれない」

「ははっ!伊月は心配し過ぎなのよ!私達がこんな変な仮面の奴に負けるわけないじゃん!」

「美香の言う通りだ。さっさとこいつをぶっ殺して、ポーカーの続きでもしようぜ」


 清々しいくらいにフラグを立てまくっているな。

 どれどれ、こいつらの祝福ギフトはどんなものかな?あ、ステータスは別にいいや。


漆黒ノ剣ダークブリンガー

破壊不可能の闇の剣を生成できる。


縁の下の力持ちリフトアッパー

身体が頑丈になり筋力が大幅に強化される。


神聖光術ホーリーライト

MP消費無しで光属性の専用魔法を使用できる。


 んー……微妙。


「つー訳で、さっさと死ねや!」


 気障な男子生徒が手から黒い剣を生成し、そのままこちらに切りかかってくる。

 元々のステータスが高いのか、黒い剣の効果かは知らないが、今までの冒険者達よりも明らかに速い。

 俺は駆けてくる男子生徒に向けて『英霊刀・未完』を振るう。男子生徒はそれを黒い剣で受け止めようとする。


「無駄だ!この剣は絶対に壊れねぇ!この剣がある限り、俺まで攻撃は届かな」


-スパン-


 男子生徒は最後までセリフを続けることなく、上下に一刀両断されてしまう。

 そりゃそうだ。たとえ壊れなくても、腕力に圧倒的な差があるのだ。防ごうとした剣ごと押し込んでしまえば、そのまま相手を斬れるに決まっている。


「「怜人!?」」


 気障な男子生徒が殺されたことで、残る2人が驚愕の声を上げる。

 すかさず祝福の残骸ガベージごと男子生徒を<無限収納インベントリ>に押し込む。下手な奴に祝福の残骸ガベージを渡すのも面倒だからな。


「よくも!怜人を!」

「待て!美香、不用意に動くな!」


 止めるデカい男子生徒を無視した女子生徒が、祝福ギフトである<神聖光術ホーリーライト>による特殊な光魔法を放ってきた。

 それは極太の光線を放つ魔法だったようで、女子生徒の手から放たれた巨大な光の奔流が俺を飲み込まんとする。

 避ける?……いや、駄目だ。このまま避けたら、俺の後ろにいる冒険者達が被害を受ける。

 経験値やステータスが勿体ない!


「はっ!」


 『英霊刀・未完』で極太光線を切りつける。

 すると、光の奔流は全てその刀身に吸い込まれるようにして消えて行った。

 『英霊刀・未完』には「魔法吸収」効果がありますからね。当然ですね。


「「はあ!?」」


 強力そうな魔法がかき消されたのだから、驚くのも当然と言えば当然だけど、戦闘中にそこまで油断するのもどうかと思うよ?

 ほら、その隙に剣が届くところまで近づけちゃった。

 そして女子生徒めがけて無慈悲に刀を振りかぶる。


「ひっ!?」

「危ない!美香!」


 しかし、それを庇って男子生徒の方が俺の斬撃を受けた。


「があっ!?」

「ぐふっ!?」


 ……のだが、斬撃の威力があり過ぎて貫通した刀が女子生徒にまで届いてしまった。

 長身の男子生徒……全く見せ場がなかったな。

 ……よし、2人の死体も<無限収納インベントリ>に入れよう。



 よくわからない3人組を倒した後も激しい戦いは続いた。


「HAHAHA!俺は無敵の英雄ヒーローさ!あらゆる攻撃は俺に通じないZE!勇者を殺した悪人め、この俺の正義の拳が火を噴くZE!」


 アゴが割れており、深い彫りの顔をしたムキムキの男子生徒(日本人)が<無敵超人インビンシブル・ヒーロー>を所持していた。

 なるほど、それで青い全身タイツを着こんでいたのか。


「HAHA……、3分経った……。攻撃効かない……。オウマイガー!」


 <強靭無敵インビンシブル・ヒーロー>を発動してから3分間、1度も攻撃を当てられなかったヒーローを斬殺。



「直接的な恨みはないでござるが、風魔一族の末裔として、敵対する者に容赦は出来ぬのでござる。御免!」


 <残影分身ドッペルシャドー>の祝福ギフトを所持していた忍者は、驚くべきことに忍者装束を着た女子生徒だった。くノ一って奴だ。

 風魔一族と言うのもあながち出鱈目ではない様で、しっかりと<忍術>スキルを所持していた。まあ、コスプレとなりきりごっこ好きの女子高生の可能性も0ではないが……。

 ちなみに本名は風間かざま)しのぶさん(15)。


「何故……、拙者の居場所がわかるので……ござる……?」


 もちろん、分身しようが、ドロンと消えて背後から攻撃しようが、マップがあれば全て把握できるわけで、祝福ギフトも<忍術>も完全に無力化されました。

 唯一、俺を倒す可能性があったのは、こっそりとスキル欄に輝く<房中術>くらいのものだろう。うん、くノ一だもんね。



「このボクの王者たる力に跪くがいいさ。これが戦術、これが力と言うモノだよ、君ぃ」


 眼鏡をかけたインテリっぽい男子生徒が<指揮高揚タクティクスフォース>を使用して騎士達をけしかけてくる。眼鏡を『クイッ』ってやっている。うぜえ。

 戦術って……、支援バフ掛けた手駒に突撃命令出しただけじゃないか……。


「僕の騎士団が全滅めつめつ……」


 今更、バフの1つや2つでひっくり返る戦況ではありません。

 つーか、そもそもその騎士団、お前のじゃないし。

 折角なので一手間かけて、周囲の騎士団を全滅させて心を折ってから止めを刺してあげました。普通は指揮官を狙うのがセオリーなのに、あえて逆を行ってみる。



「ああ!愛しい仮面の君よ!せめて私自らの手でその命を終わらせてあげましょう!そして、来世こそ貴方と結ばれることを祈りましょう!」


 <覆面舞踏会フルフェイスカレード>を所有していたのは3年C組、演劇部部長の山田良子さん(19)。

 なんか、俺達が仮面をつけていることに触発されちゃったみたいで、やたらと劇っぽい言い回しを使って来た。

 彼女の設定では俺と彼女は前世からの因縁のある存在で、前世では恋人、今世では敵同士になっているらしい。


「ああ、私の命もここまでなのね。貴方だけでも生きて頂戴、また来世でお会いしま……」


 彼女が着ていたのは過去の大魔法使いの服だった。ので、とりあえず剥いてみた。無力化できた。胸は意外とデカかった。

 それとごめんね?<無限収納インベントリ>に入れるから、来世にはしばらく行けないんだ。



「ふふっ。この僕を相手にして、生きて帰れるなんて思ってないよね?」


 <魔導図書館ライブラリアウト>による魔法の連射をしてきたのは、女子学生服を着た身長150cmくらいの姫神歩ひめがみ あゆむ(♂)だ。

 僕っ娘かと思ったら、男の娘だったでござる。

 姿を見て女だと思い、セリフを聞いて僕っ娘だと知り、名前を見て納得して、性別を見てびっくりである。


「生まれ変わったら……女の子になり……たい……」


 言うまでもなく、レベル3程度の魔法でどうにかなるわけがありませんね。

 死ぬ間際の一言がそれでいいのかと問いたい。いや、本人にとっては切実な問題なのか?



 その後も、勇者達との戦いは熾烈を極めた。


 具体的に言うと、勇者達のキャラが濃すぎて、精神的に滅茶苦茶疲れた。

 一応、最後の手向けとして、勇者達の口上とかを一通り聞くことにしたのだが、正直言って失敗だったかもしれない。

 ここまで濃いメンツの相手をするというのは、それだけで十分に疲労になるということが初めて実感できた。


 何が厄介かと言うと、最初の3人組以外、ほとんどの勇者達は俺に対して単独で戦いを挑んでくるのだ。

 そのため、口上も1人ずつ聞く羽目になってしまった。いっそ、皆まとめてかかって来てくれれば楽だったのにな。


 基本的に、戦いにおいて戦力の逐次投入と言うのは悪手だ。

 折角強力な戦力である勇者が大量にいるのだから、少しでも相手の戦力に不安を覚えたら、ある程度の人数がまとめて迎え撃つべきだったのだ。

 勇者数人が相手だったら、もしかしたら、運がよかったら、奇跡が味方したら、俺にカスダメくらいは与えられたかもしれなかったというのに……。


 さて、そんなことを考えている内に、最後の勇者に止めを刺し終わったぞ。

 最後の勇者が持っていた祝福ギフトは、周囲の味方が死ぬほどに強くなる<受け継がれし魂ソウルネクサス>と言うモノだった。

 祝福の残骸ガベージとは無関係に味方の死亡を要求するかなりエグい祝福ギフトである。超、悪趣味。

 能力強化のために勇者が全滅するまで出てこなかったんだってさ。

 戦闘前後で能力値が3倍くらいになっていたけど、まあ誤差みたいなものだし、普通に殺したよ。


 最後の勇者がやられると、流石の騎士団、冒険者達も恐慌状態に陥り、隊列、戦線は完全に崩れた。エルディア軍はもう1000人も残っていないだろう。

 勝敗は完全に決したので、ここからは追撃戦の時間だ。


《ミオ、やれ》

《らじゃ!》


 俺の一言と共に後方からおびただしい数の矢が飛んできた。

 それらは全て1つも狙いを外さずにエルディア軍残党の命を刈り取っていく。

 よく人の事を化け物みたいに言うけど、ミオも十分に常識のラインを踏み越えているんだからな?


 こうして、戦闘開始から約1時間後、勇者を含む2万のエルディア軍はその戦場から1人残らず姿を消すことになった。

 もちろん、全員仲良く<無限収納インベントリ>の中だ。……何かに使えるかもしれないからね。ふっふっふ。



 勇者やエルディア軍との戦いにより(血で)汚れてしまった街道を<水魔法>で綺麗にしたり、エルディア軍の物資等を回収し終わった俺達は、1度サクヤの元に戻ることにした。


「ただいまー」

《まー》

「あ、お兄ちゃん、皆、お帰りなさい。ちょっと……、5分くらい待っててくれるかな?」


 執務室に転移した俺達を出迎えたのは、書類の山に埋もれそうなサクヤだった。

 サクヤは凄まじいスピードで書類の山を捌いている。


「あ、ああ……」


 それからピッタリ5分後、随分とすっきりした執務室のソファに座る。

 ちなみに大量の書類は前にも見た大臣っぽいおっさんがどこかに持って行った。


「サクヤちゃん、さっきの書類の山は何ですか……?凄い量がありましたけど……」


 皆の疑問を代表してさくらが聞いてくれた。

 ちらっと見た限りだが、仰々しいハンコで印を押していたから、それなりに重要な書類だったと思われる。マル秘とか書かれていたのもあったし……。


「そりゃ、戦争に関する書類に決まっているじゃない。これからエルディア王国に攻め込むつもりだし、書かなきゃいけない書類なんて山のようにあるわよ。当然、アルタに手伝ってもらわなきゃ終わる訳が無い量なんだけどね……」

「あ、そう言えばサクヤちゃんってこの国の最高権力者だったっけ。そうだそうだ」


 サクヤの肩書を思い出したミオがポンッと手を叩いた。


「ミオちゃんは、私を一体何だと思っていたのかな?」

「え?ご主人様の屋敷に食事をしにくる食いしん坊その1。その2はカトレアちゃんね」

「否定……出来ない……」


 ミオの容赦のない切り返しにがっくりと項垂れる大国の女王サクヤ

 まあ、ほぼ毎日メシを食いに来ているからね。女王としての姿より、口いっぱいにご飯を頬張る姿の方が見慣れているから……。


「ま、まあ、それはともかく、お兄ちゃん、リラルカの街解放とエルディア軍の殲滅をしてくれてありがと。おかげで随分と被害を減らすことが出来たわ」


 食いしん坊サクヤが盛大に話を逸らした。

 ま、逸らされてやるかな。


「減らした、とは言ってもリラルカの方には少なからず被害が出ちまったけどな」

「そりゃ、行く前に出た被害はどうしようもないわよ。それよりも、良かったの?リラルカの被害者に対して、欠損回復をさせたってアルタに聞いたんだけど……」


 リラルカの街でエルディア軍の被害を受けた者の中には、肉体的な欠損を受けた者も少なからず存在した。

 俺はメイド達に指示をして、肉体の欠損をした住民に『神薬 ソーマ』の使用を許可した。ちなみに、ドリアードのミドリ製『神薬 ソーマ』である。

 迷宮産ではないが、対外的には迷宮産と言うことにしている。


「別に構わないぞ。『リバイブ』を使った訳じゃないからな。『神薬 ソーマ』くらいなら今更秘密にする意味も薄いから、最悪バレても何とかなるし……」

「いや、ご主人様、そんな訳ないからね。普通に大事よ?」

「そうですわ。ご主人様は知らないかもしれないですが、『神薬 ソーマ』の発表後、エステア国内は大騒ぎになったんですわよ」


 ミオとセラにバッサリと切って捨てられてしまった。

 『神薬 ソーマ』の件ってそんなに大事になっていたんだ。初耳。

 興味のない事には徹底的に無関心だからな、俺……。


A:今まで、20層台の火山エリアで活動していた探索者の半数以上が、エルダートレント討伐に方針転換をしました。結果、1週間程前にマスター以外で初めて『神薬 ソーマ』がドロップいたしました。


 おお!俺たち以外にも『神薬 ソーマ』をドロップした奴がいるのか!それは『神薬 ソーマ』がエルダートレントからドロップすることの証明になったと言えるだろうな。

 今まではドロップしたのが俺達だけだから、いまいち信憑性に欠けていたんだよな。


A:はい。ですが、『神薬 ソーマ』をドロップしたのは、探索者をやらせている奴隷メイドのパーティです。平たく言えば、身内です。


 ええー……。俺の関係者なのかよ……。

 確かに2例目にはなったけど、俺がダンジョンマスターになった件も合わせて考えると、何となく八百長みたいに見えるんですけど……。

 迷宮攻略に関しては、配下であろうと優遇措置の1つも取っていないのに(火竜狩りは除く。アイツは力試しに丁度いいから)、なんか釈然としないな……。


A:売ってほしいと言う者が山のように現れ、大規模な競売が予定されております。現在、最低落札価格の時点で5000万ゴールドになっています。


 ああ、なるほど。それは確かにミオの言う通りに大事だ。


「カスタールの方にも噂話は届いているわよ。『伝説のアイテム発見!』ってね。それを、言い方は悪いけど田舎の市民に使うとか、普通の人からしたら信じられないわよね」

「もちろん、タダじゃないぞ。『神薬 ソーマ』を使ったのは、俺の奴隷になることを選んだ奴だけだからな」


A:正確には現金で5000万ゴールドを払うか、奴隷になるか、欠損回復を諦めるかの3択を迫りました。


 あら、『神薬 ソーマ』の価格、地味に適正価格だったのね。

 ちなみに、肉体が欠損していた市民達は全員が奴隷になることを受け入れました。


「お金云々じゃなくて、アドバンス商会が『神薬 ソーマ』を持っていると知られる事の方が問題だと思うのよね。その辺、大丈夫なの?」

「一応、大丈夫だと思う。あの時はかなり混沌としていたから、他人の様子をそこまでしっかり見ていた者はいないはずだ。『神薬 ソーマ』を使うときは物陰に隠れていたし……。ついでに言えば被害者には口止めしているし、加害者はもれなく死んでいるからな」


 バレてもいいとは言ったけど、何の対策もしていないわけではない。

 <奴隷術>も奴隷紋が隠れるタイプのものを使用したし、パッと見ただけでは欠損していたことも、奴隷になったこともわからない。

 極端な話、もし誰かに見られていても、見間違いだと言い張れる状況なのだ。……多分。


「なら、いいんだけど……。と言うかお兄ちゃん、明らかに私のお願い以上のことをやっているよね?アルタ曰く、今もすごい勢いで復興が進んでいるらしいし……。ありがたいと言えばありがたいんだけど、多分やり過ぎよね?」

「いいじゃないか。復興が速くて損するのはエルディア軍くらいだろ?」

「それはそうなんだけど、なんかお兄ちゃんへの借りがどんどん大きくなっている気がして、申し訳ないというか何というか……」


 うーん、と唸りながらサクヤが頭を抱える。


「あ、そうだ!報酬!お兄ちゃんに渡す報酬をまだ決めてなかったわね。お兄ちゃん、何が欲しい?何でも言っちゃっていいからね。私、超頑張るから!」


 そう言えば、まだ報酬の話はしていなかったな。

 うーん、欲しいものか、何があるだろうか……。あ、そうだ。サクヤにしか用意できないものが1つあったわ。


「1つ欲しいものが見つかった。それも、サクヤにしか用意できない代物だ」

「何々?何でも言ってね!」

「じゃあ、遠慮なく言うぞ。俺が欲しいのはエルディア王国だ」

「はい?」


 俺の言ったことの意味が分からなかったのだろう。サクヤが、ついでに周囲の皆も首を傾げる。


「サクヤはさっき、エルディアに攻め込むっていう話をしていたよな?」

「うん。今回の件はどう考えてもやり過ぎだから、お咎めなしと言う訳にはいかないでしょうね。だから、やり返すのは必須。ただ、滅ぼすレベルまでやるのはちょっと……」


 サクヤが困ったように言うが、エルディアを滅ぼすのは確定事項なので、絆されてあげることは出来ない。


「俺の要求は2つ。エルディアに攻め込む件に関するモノだ。まず1つ目はエルディアとの戦争に俺も参加できるようにサクヤから依頼・・・・・・・をしてほしい。2つ目は、エルディアが滅んだ後、エルディア王国の処理に噛ませてほしいと言うモノだ」

「うん?それでお兄ちゃんはどんな得をするの?」


 サクヤが不思議そうに聞いてくる。


「1つ目の要求では、俺がエルディア王国に攻め入る大義名分が手に入る。2つ目の要求ではエルディアにある物が得られるな」


 今現在、エルディア王国に攻め入る、争う正当な権利のある国は、カスタール女王国を置いて他にないだろう。

 何と言っても、エルディア王国から宣戦布告されているんだからな。

 そして、リラルカの解放とエルディア軍討伐はサクヤからの依頼により為したことだ。

 つまり、社会的にも正当性のある行いと言うことになる。


 もし仮に俺がこのままエルディア王国に向かい、王都の1つでも壊滅させたらどうなるのだろうか?きっと普通にテロリスト扱いである。

 もちろん、俺とさくらが受けた仕打ち(死ぬ可能性が高い王都追放)を考えれば、やり返すのにも正当な理由が無い訳ではない。

 しかし、それは公的に正当な権利とは言い難い。


 どうせだったら、諸手を挙げてエルディアに攻め入りたい。

 よって、『サクヤからの依頼』と言う大義名分は必要になるのだ。どうせ、エルディア側も無いも同然の大義名分を抱えてくるのだから、お互い様だろう。


 と言うような事を皆に説明してみた。


「なるほど、確かにそれは私にしか用意できないモノね」

「悪い言い方をすれば、俺の行動の責任をサクヤに取らせるってことでもあるんだよな。だからこそ、報酬として意味があるんだが……」


 依頼があったということになると、俺の行動の責任はサクヤにも及ぶようになる。

 言い換えれば、責任を取ってもらうことを報酬にしたいということだ。もちろん、サクヤに害が及ぶような事はしないつもりだが……エルディアを滅ぼすこと以外は。


「そっか、サクヤちゃんの依頼ってことにすると、その責任もサクヤちゃんが持たなければいけないってことよね……。で、サクヤちゃん的にはこの報酬は有り?無し?」

「当然、有りね。ハッキリ言って今更の話もいいところだわ。そもそも、リラルカ解放の時点で私の依頼でお兄ちゃんに勇者を殺させているんだからね。今更、お兄ちゃんの行動に対して無視を決め込むことなんてできる訳ないのよ」


 言われてみれば本当に今更だよな。

 俺を関わらせた時点で、エルディア相手への容赦が期待出来ないと言うことは少し考えればわかるだろう。サクヤが本当に気付かなかったとも思えない。


「それに正直な話、お兄ちゃんがエルディアとの戦争に参加してくれないと、勇者相手に戦争を起こすなんて無茶出来る訳ないわ。逆に言えば、お兄ちゃんが手伝ってくれるなら、勝ちは決まったも同然よね。だから、是非お願いしたいわ。出来れば、滅ぼすのだけは勘弁してほしいけど……」


 サクヤはミオの質問に対して、ほとんど考えずに即答した。

 これで、本格的にエルディアを滅ぼす大義名分を獲得できたことなる。

 そして、最後にボソッと言われても、滅ぼすのは確定なので譲歩できない。


「それで、2つ目の要求は何の意味があるんですの?」


 セラに先を促される。


「ああ、エルディアを滅ぼした後、その処理にはカスタールがするんだろ?その時、俺が自由に振る舞う権利が欲しいってことだよ」


 簡単に言えば、エルディア王国の生殺与奪権が欲しいということだ。

 復讐したい程に恨みがある訳ではないが、その行いを許せる程に友好的でもない。

 エルディア王国での良い思い出など、ドーラ、マリア、ミオに出会えたことくらいしかない。それだって、『エルディアのおかげ』ではないので、恩がある訳でもない。


「うわぁ……。お兄ちゃん、悪い顔をしてる……」

「ご主人様の悪だくみは洒落になりませんわ」

「うん、時々私でもドン引きなことするからね。ご主人様……」

《zzz……》


 サクヤ、セラ、ミオが俺の顔を見て引いている。……失礼な。

 ちなみにドーラは俺のひざの上で寝ている。報酬の話あたりが限界だったようだ。


 今までの経緯から考えても、エルディア王国に攻め込むことに対する罪悪感など欠片も存在しないし、敗戦国となった後のエルディアを気遣うつもりもない。

 もちろん、無関係な者に何か悪さをするつもりはないが、関係者に何もしないつもりもない。やられた分はやり返さないといけないからな。


「でも、まあ、それくらいなら何とかなると思うわ。戦争だから全てが思い通りになる訳じゃないと思うけど、戦後の処理に絡ませるくらいなら訳ないわよ」

「じゃあ、頼んでもいいか?」

「うん!任せて頂戴!」


 よし、これで無事に『エルディアに攻め込む権利』を入手することが出来た。

 また、謎の女王騎士ジーンを活躍させるべきかな?



「ふと思ったんだが、カスタールがエルディアに攻め入るっていう話自体はこれで2回目何だよな。魔族ロマリエに乗っ取られていたとはいえ、公的にはサクヤが言ったようなものだったからな」

「う……、嫌なこと思い出させないでよ……」


 サクヤがビクッと震えながら言う。どうやらトラウマになっているようだ。

 呪印カースによりサクヤの姿を奪ったロマリエが、高位の冒険者を集めてエルディア王国に攻め入ろうとしていた事は記憶に新しい。いや、そんなに新しくもない。


「あの時は高レベル冒険者を集めて、勇者を避けて戦争を吹っかけるつもりだったけど、今回はどうするつもりなんだ?勇者を潰すのは確定として、冒険者を集めるのか?」

「いいえ、今回は冒険者を集めるつもりはないわよ。そもそも、勇者が相手になる可能性が高い状況で、態々カスタール側で戦争に参加しようなんて物好きはほとんどいないと思うから。下手なことをすると土壇場で裏切って勇者側に付く、とかされかねないし……」


 正直、全く理解が出来ないのだが、何故かこの世界では勇者と言うのがやたらと優遇されている。特に一般市民には凄まじい人気を誇っているようだ。

 魔王を倒させるために異世界から呼んだのだから、ある程度の優遇は当然なのだが、勇者がそれに見合うだけの働きをしているかと言われると、否としか言えないだろう。

 まあ、俺の出会った勇者達が酷すぎるだけと言う可能性も否定できないのが悲しい所なのだが……。


A:エルディア王国から各地に派遣されている勇者は、その方向によって評価が大きく変わっています。東側のカスタール、エステアは王家が勇者に否定的な意見を出していますが、民衆レベルでは十分な支持を受けています。サノキア王国等の北側では王家、民衆共に絶大な支持を受けております。南側は可もなく不可もなくと言ったところでしょうか。


 なるほど、北側と南側はマシだったんだな。運が悪い……訳ないか、むしろ潰すのに躊躇しない勇者で良かったんじゃないかな。

 なお、話に出ていないエルディア王国の西側には国はない。魔族の領域なので当然である。


「じゃあ、カスタールの騎士団だけで戦うことになるのか。……本当に下手をしたら滅んでいたところだったんだな」

「そうなのよ。本当にお兄ちゃん様々だよね。」

「略してお兄様って言ってみ」

「え、お兄……様?」


 うむ。これはこれで有りだな。


「うう、なんかムズムズする!やっぱり『お兄ちゃん』がいい!」

「ふむ、残念だ」


 俺としてはウェルカムなのだが、残念ながらサクヤの方がギブアップしてしまった。

 パッと見は『お兄様』呼びでも不自然ではない清楚系美少女なのだが……。


「あ、じゃあ私が」

「却下だ。ミオは色々と複雑だからな。享年を合わせると俺より年上だし」

「止めてー、享年合わせないでー……。て言うか、いつもはお子様扱いなのに、こういうときだけ年上扱いしないでー……」


 ここぞとばかりにミオが妹枠に割り込もうとするが、容赦なく切り捨てる。

 24歳女性には年齢を考えてもらいたいものだ。


 ミオが崩れ落ちてオチが付いたところで、サクヤとの話はお開きと言うことになった。

 サクヤはこの後、正式に戦争を開始するために騎士団を集めたり、関係各所とすり合わせを行ったりするのだが、俺はそこら辺の話は完全にノータッチなので、サクヤにお任せすることになる。アルタ、色々と手伝ってやってくれ。


A:了解いたしました。


この主人公、元とは言え同じ学校の生徒を躊躇なく殺すなんてヤバいな(今更)。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
[一言] 屑の不快な言葉は描写するのに、屑が絶望したり苦しむ様は描写されずにあっさり殺すからすっきりしないなぁ
[良い点] 面白いです。 [気になる点] 初撃で一瞬のうちに1000人以上と指揮官が倒れたら、残された奴等は前が見えなかったこともあって何が起きたか分からず、呆然とするかすぐに逃げると思います。 迷い…
[良い点] 作者さんが「この主人公、元とは言え同じ学校の生徒を躊躇なく殺すなんてヤバいな(今更)。」なんて後書きで言ってるけどワイは主人公のそういうところがむしろ好き 誰に対しても優しくて「殺すとか無…
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