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第86話 始祖神竜と超越者

5章の修正は後回しになりました。

今、本編の執筆めっちゃ進んでるねん。書けるときに書き進めるんが一番やねん。

 ブルーに乗ったまま始祖神竜の元まで飛んでいく。

 ちなみに他のメンバー達は、ある程度の距離を保った状態でついて来ている。

 マリアが俺から目を離すわけがないだろ?と言うのが理由の1つで、もう1つの理由は万が一始祖神竜が俺を避けて秘境に向かった時に止める係である。


「ほう、ここまで来るとはな。汝が妾の軍勢を滅した張本人と言うことで良いのか?」


 しばらく飛び、ある程度近づいたところで始祖神竜がそんなことを聞いてきた。

 このドラゴン、喋るぞ……!しかもよく通る美声だ……!

 あ、喋る魔物は意外といるね。竜人種ドラゴニュートとか、吸血鬼とか、<変化へんげ>した魔物とか。


 一人称が『妾』っていうと、ハーピィのショコラを思い出すな。

 『妾』は王族キャラの1人称。お約束ね。ここ、テストに出ますん。


「ああ、そうだ。もっとも、1人で全て倒したわけじゃないけどな」


 むしろ最初しか出番がありませんでした。とは言えない。


 ちなみにラスボスに関しては問答無用で倒したりはしません。

 折角ラスボスが話をしようとしてくれているのだから、スタートボタンでスキップと言うのも勿体ない。佐野?あれはスキップしていいんだよ。


「そうか、やはり結界が開いたのは罠だったと言う訳じゃな」


 いきなり訳の分からないことを言い始め……、ああ、なるほどな。

 長い間、開かれることのなかった結界が急に開いたんだ。自分たちで結界を壊したのならともかく、勝手に開いたのを見て罠かもしれないと思ったわけだ。

 実際、中に入ったドラゴン達は全滅しているわけだし、罠だと確信しても不思議ではないだろう。真実は『蛆虫野郎アカツキがやらかした』なんだけどな。


「ところで、汝は人間のようだが、何故あの半端者達の味方をするのじゃ?竜の軍勢を相手にするのは、汝にとっても楽なことではあるまい?」


 半端者と言うのは竜人種ドラゴニュートのことだろうな。

 まあ、<変化へんげ>もないのに竜形態になったり、人間形態になったりできるしな。

 俺(とアルタ)の知る限りそんな魔物は竜人種ドラゴニュートだけだ。


「俺は竜人種ドラゴニュートを従えているからな。配下の故郷を守ってやるのは、主人である俺の仕事だろ?」

「ご主人様……」


 ブルーが感極まってブルっと震えた。


「とは言え、ドラゴンを倒すのはそれほど大変なことでもなかったからな。それより、ドラゴンの方こそ、どうして竜人種ドラゴニュートを狙うんだ?」

「わからぬ。ただ、妾の中にある何かが、竜人種ドラゴニュートに対して凄まじい程の嫌悪感を生み出しておる様じゃ。そして、同じく何かが『竜人種ドラゴニュートを滅ぼせ』と常に囁き続けて来るのじゃ。その2つに抗うのは酷く疲れるのでのう。きっと、竜人種ドラゴニュートを滅ぼしたら消えてくれると思い、ここに陣取っていると言う訳じゃ」


 ドラゴンにも理由がわからないということか。

 と言うか、似たような話に心当たりがあるんですけど……。理由の分からない衝動で他者を排斥する辺りとか特に……。


「その2つが消えたら、竜人種ドラゴニュートを襲うのを止めるのか?」


 戦うつもりでここに来たが、ドラゴンが竜人種ドラゴニュートを狙う理由を解決できるのならその方が良いだろう。

 幸い、この始祖神竜は話が通じるみたいだしな。


「無理じゃろうな。かつては衝動じゃったが、今ではもう本心との区別がつかん。あまりにも長い間影響され続けたせいじゃろうな」


 俺の問いに静かに首を横に振る始祖神竜。

 駄目か……。


「それに妾1人が戦うのを止めたところで、他の竜には何の関係もないじゃろう。この衝動は全ての竜が持っておるようじゃからな」

「そうか、それは残念だな。……そうなると戦うしかないのだろうな」


 心の底から竜人種ドラゴニュートが憎いのでは、テイムすることすらできない。


「そうじゃな。言っておくが、妾を外見で判断するでないぞ。妾はここにいたどの竜よりも強いのじゃからな」

「知っている」

「そうか、ならば良い。行くぞ!GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!」


 そう言うと始祖神竜は翼を大きく羽ばたかせ、今までとは比べ物にならない、凄まじい威圧感を伴った咆哮を発した。

 咆哮と共に周囲には強風が吹き荒れ、『竜の森』の木々が横倒しになっていく。

 レベル300ともなると、咆哮だけでダメージを伴った攻撃になるようだ。もちろん、俺にダメージがあるとは言っていない。


「ほう、力を解放した妾を前にして、一切動じぬというのか。面白い。せいぜい妾を楽しませてから逝くがよい!」


 始祖神竜はそう言うと息を吸い込み、<竜術>によるブレスを放ってきた。

 そのブレスたるや、今まで出会ってきたどのドラゴンのモノよりも凄まじい熱量と攻撃範囲を誇っていた。

 しかし、ブルーはそれを急上昇して回避した。いくら威力が高くて広範囲に効果を及ぼすブレスとは言え、今の俺達に避けられない程ではない。ブレスの速度自体は他のドラゴンと大して変わらないからな。


 俺達が避けた後、『竜の森』まで到達した炎は一瞬で森の一部を焼失させた。『燃える』と言う過程をほとんど通さずに『焼失』まで行くのだ。

 恐らく、ドーラの<竜魔法ブレス>と同等程度の威力はあるのではないだろうか?


 それにしても、ブルーは俺が口に出さなくても思った方向に、思った速度で移動してくれるのでとても楽だな。

 『騎獣としては最高』と言うのは伊達ではないということか。


「ふむ、これを避けるか。ならば次はこれでどうじゃ?」


 同じくブレスを放ってきたが、今度のブレスは放射状に広がらない、直径10m以上の巨大な火の玉だった。

 今度は回避するのが楽かと思いきや、当たり前のように方向転換をしてこちらを追って来るブレス。

 恐らく、<始祖竜術>で特性を変えて、追尾機能か操作機能を与えたのだろう。

 まるで『ライトボール』みたいだ。レベル1<光魔法>の『ライトボール』には発動後に移動方向を操作できるからな。尤も、サイズはケタ違いのようだが……。


「『ファイアボール』!」


 鬱陶しいから、魔法をぶつけて相殺しよう。


―ドオオオン!!!―


 けたたましい爆発音が聞こえてくるが、無事に相殺できたようだ。


「ば、馬鹿な!?妾のブレスを下級魔法で相殺したじゃと!?」


 テンプレ、テンプレ。


「お返しだ」


 今度は始祖神竜に向けて『ファイアボール』を放つ。

 避けようとする始祖神竜だが、ブレス相殺の件で動揺していたのか、一瞬反応が遅れる。

 避けきれずに足に『ファイアボール』が当たる。


「ぐう!?何と言う威力じゃ!妾にダメージを与えるなど、ここ数千年はなかったぞ!やはり汝は面白い!」

「そうか。ならもっと楽しんでくれ」


 俺は『ファイアボール』を数発連射する。


「ふん!心構えをしていればその程度当たりはせぬよ!」


 始祖神竜は俺の放つ『ファイアボール』を全て避けている。

 しかし、彼女は気付いているのだろうか。レベル300であり、全てのドラゴンの頂点に立つ自分が、人間の『ファイアボール』を避けている・・・・・と言う現実に……。


 始祖神竜もブレスを放ってくるし、ちょくちょく特性を変えてきているのだが、避けるか『ファイアボール』で対処可能だ。

 追尾性能を与えると、威力が落ちるみたいだしな。


「このままではらちが明かん。あまり気は進まんが、戦い方を変えさせてもらうのじゃ」


 そう言うと、始祖神竜は俺から距離を取ろうとする。

 追いかけようと思ったら、始祖神竜が腕を振るう。すると始祖神竜の横に黒い渦が現れ、そこからレベル50の火竜が飛び出してきた。

 なるほど、これが<始祖竜術>によるドラゴン生成か。

 まさか時間稼ぎのために使うとはな。


 火竜を一刀の元に切り捨てるが、その間に十分な距離を取った始祖神竜が輝き始めた。

 見慣れた光だ。これは<変化へんげ>を使っているんだな。

 頑張って『ファイアボール』をぶつけてもいいのだが、変身中は攻撃しないのがお約束だ。

 今更どの口が言うのだろうか。


「待たせたのじゃ。この姿ならば『ファイアボール』など当たりはせぬぞ」


 そこに現れたのは、思っていた通りに人間形態となった始祖神竜だった。

 背は俺よりも少し低いくらいで、ストレートで艶のある黒髪をしている、気の強そうな美人だ。しっかりと胸もある。


 惜しむらくは全裸ではない事だろうか。胸と股間の周辺には黒い鱗のようなものが張り付いている。後は腕と脚にも鱗は付いているな。……どうでもいいか。

 逆に言えばそれ以外の部分は人間と同じような素肌で、黒いビキニの水着を着た女性に見える……かもしれない。

 背中には変身前と似たような黒い羽が生えているし、同じく黒い尾もあるので、俺の目には水着には見えないのだが……。


 変身中に攻撃をしなかったのは、断じて変身後の姿が気になったからではないことをここに宣言しておく。


「人の姿になるのは半端者と似てしまうので好かんのじゃが、あのままではいい的だからな。仕方あるまい」


 そうだね。大きいっていうのは体重差を活かせなければただ不利になるだけだからね。


「では、行くぞ!」


 始祖神竜はそう言って俺の方に突っ込んできた。

 む、今までよりも動きが速いな。少なくとも、日下部の《加速アクセラレーション》とは比較にならないレベルで速い。……比較対象を間違えたな。凄さが伝わらない。


 20m近く離れていたが、一瞬でその距離を詰めてきて、そのままの勢いで俺に蹴りを放つ。


-グオオオオオオン!!!-


 レベル300の蹴りはそれだけで周囲に風を巻き起こす。

 ブルーが俺の意思の通りに動いてそれを避けるが、空中で急に方向転換をして今度は尾が俺に襲い掛かってくる。再び暴風が巻き起こる。

 あまりの強風にブルーの体勢が少しだけ崩れた。

 なるほど、これがドラゴン専用の格闘スキル、<竜闘術>と言うことか。


「甘い!」


 ずっと出しっぱなしだった霊刀・未完によりその尾を受け止める。

 『ガキン』と硬質な者がぶつかる音がしたが、どちらも傷ついてはいないようだ。


「まだじゃ!」


 さらに方向転換をして今度はブレスを放ってきた。

 至近距離でのブレスは俺もドーラにやらせているから、しっかりと警戒済みだ。

 と言う訳で『ワープ』!


「消えた!?どこじゃ!?」


 目視できる範囲、始祖神竜の背後に『ワープ』で転移する。ずるい。


 まあ、別にさくらの創った魔法を戦闘中に使わないなんて制限はかけてないしな。

 ちなみに、ブルーも一緒に『ワープ』しているよ。消費MPは増えるけど、騎獣も一緒に転移できるようにさくらに調整してもらったから。


 そのまま無言で背後から切り掛かる。

 奇襲時に声を出すのは素人だって、死んだじっちゃんが言ってた。


「む、そこか!」


 振り返り、始祖神竜は鱗の付いた腕をクロスさせ、霊刀・未完れいとうミカンを受け止める。


 再びの硬質な音と共に、始祖神竜の鱗が少しだけ剥がれる。しかし、それと同時に霊刀・未完れいとうミカンも少し欠けてしまった。

 ヤバい。如何に伝説級レジェンダリーの装備と言えど、相手のレベルが300ともなると、その戦いの激しさに耐え切れないのかもしれない。


「ふははは!鱗1枚で武器を壊せれば安いものなのじゃ!武器さえなければ、人間など恐れるに足らぬのじゃ!」


 声高々に勝ち誇る始祖神竜。

 イラッとしたので、ブルーから飛び降り、剣を持っていない左腕で始祖神竜のガードの上から殴りつける。


「ぐわああああああなのじゃあああああ!!!」


―ドゴオオオオオン!!!―


 凄まじい勢いで、始祖神竜が『竜の森』に突き刺さる。

 ちょっと力を入れすぎただろうか?<手加減>をしているから、パンチだけで死ぬことはないと思うのだが……。

 ブルーに拾い上げられた後、俺達も始祖神竜を追いかけて地上付近まで下降する。


「ぐうううう……」


 始祖神竜が呻くが、その周囲は凹み、クレーターのようになっている。

 ふらつきながらも立ち上がるが、パンチの直撃した右腕はダランと力なく垂れさがっている。骨が折れたのかもしれないな。まあ、<HP自動回復>があるので、ある程度時間が経ったら回復してしまうのだろうが。


 と言うか、<完全耐性>は仕事をしないのか?


A:耐性以上のダメージを与えています。


 仕事をしても役に立たないのでは仕方がないな。


「お、おのれ。まさか武器を使わぬ方が強いとは思わなかったのじゃ……」

「普段は武器を使った方が楽なんだけどな。お前みたいに無駄に硬い相手だったら、普通にぶん殴った方が力が乗るからな」


 リーチや武器の特殊能力もあるので、『武器無しの方が強い』と言うのは正しくない。

 ただ、思い切り殴るだけならば拳の方が攻撃力は高かったりする。正直な話、現状のステータスでは全力で武器を振るうと、武器の方が壊れてしまう可能性があるからだ。

 その点、俺の拳はステータスの影響下にあるので、俺が全力で殴ってもそう簡単に壊れることはないからな。


「面妖な術も使いよるし、厄介なことこの上ないのじゃ……」


 そう言うと、始祖神竜は再び浮き上がって俺と相対する。


「ここまでの傷を負ったのは生まれて始めてじゃ。しかし、この程度の傷ならばもう回復してしまうようじゃな。我ながら馬鹿げた回復速度じゃよ。妾を倒すにはまだまだ足らんようじゃな」


 徐に右腕を持ち上げて手を握ったり開いたりを繰り返す。

 どうやら、既に回復してしまったようだな。そのせいか、随分と表情にも余裕がある。


「じゃあ、次はもう少し力を入れてみようか」

「へ?」


 今の一撃は殺す気で放ったわけではなかった。

 しかし、始祖神竜はそれを俺の全力と勘違いしてしまったようだ。

 癪なのでもう1度高速で接近し、先ほどよりも強力な一撃(腹パン)をお見舞いする。


「ふん!」


 腹パン直撃。


「ぐぼおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」


 変な悲鳴?を上げながら始祖神竜が吹き飛ぶ。……む、まだ死んでないみたいだな。

 ……ああ、そうか。<竜体>のスキルがあるから、即死はしないのか。


 数多くの木々をなぎ倒しながら吹っ飛んでいく。

 それじゃあ、追撃をしてとどめを刺すとするか。……と思っていたら、膨大な魔力の放出を感知した。

 見れば、始祖神竜がいる辺りに巨大な炎の球が姿を現した。もしかして、始祖神竜のブレスか?

 パッと見た限りだが、直径が500m近くあるんじゃないか?

 しかもまだ徐々に大きくなっているようだ。


「でか……」


 ブルーは呟きつつも俺の意思に従って火の玉の方へと進む。

 ブルーの奴は相当にビビっているようだが、それでも俺の意思に従うようだ。


 始祖神竜が見える位置まで行くと、思った通りに始祖神竜のブレスだったようだ。

 ただし、ブレスと言いつつも火球は口から出たわけではない。

 始祖神竜は両手を上に掲げ、その上に巨大な火球が留まっているのだ。

 何と言うか、世界中から元気が集まっているような光景だ。


「認めるのじゃ。妾よりも汝の方が遥かに強い」


 俺のことを見つけた始祖神竜は語る。


 この間にも火球は徐々に大きくなっていく。


「このまま戦いが続けば、妾はなす術もなく殺されるじゃろう。じゃが、このまま終わるのは妾のプライドが許さん。せめて最後に全力を出させてもらうのじゃ。……少々卑怯じゃがな」


 始祖神竜が不穏な前置きをしてくる。


 この時点で火球は700mくらいのサイズになった。


「この火球は妾の最大級の攻撃じゃ。これを今から半端者共の集落へと投げさせてもらうのじゃ。汝が避ければ、この火球は半端者共の集落へと突き刺さるじゃろうな。そして、汝ならば、死力を尽くせば止めることが出来るかもしれん。さあ、好きな方を選ぶと良い。……ああ、放つ前に妾を殺した場合、この火球はその場で爆発するから、それを狙うというのもいいかもしれんな」


 始祖神竜は俺と割れた結界を結んだ延長線上にいる。

 このまま火球を投げつければ、俺か『竜人種ドラゴニュートの秘境』のどちらかに当たることになるだろう。


 もちろん、ブルーに乗った状態の俺は火球を避けることが出来る。しかし、俺が避ければ火球はそのまま『竜人種ドラゴニュートの秘境』を焼き尽くすはずだ。

 つまり、始祖神竜は俺に『自身の命』か『竜人種ドラゴニュートの秘境』、そのどちらか1つを選ばせるつもりなのだろう。


 火球は1kmを超すか越さないかと言うところまで大きくなった。


「お主が何を選択しても妾は死ぬのじゃろうな。それでも、意趣返しにはなるじゃろう?……火球も十分に大きくなったのう。では、好きな方を選ぶと良い!!!」


 そう言って始祖神竜は手を振り下ろし、巨大な火球を投げ放った。

 凄まじい勢いで飛んでくる火球を避け、そのまま始祖神竜に肉薄する。


「はあ!!!」

「ぐふうっ……!」


-ドス!!!-


 始祖神竜の腹に『霊刀・未完れいとうミカン』を突き刺す。

 抵抗らしい抵抗を見せずに攻撃を食らい、赤い血を流す始祖神竜。

 腹部の鱗のない部分はそれほど防御力が高くない様で、『霊刀・未完れいとうミカン』がその腹を貫通している。

 今度は『霊刀・未完れいとうミカン』も欠けたりはしていないようだな。どうやら、ひたすらに鱗が固いらしい。……全身を鱗で覆えよ。

 いや、鱗があったとしても、さっきの腹パンでズタボロになっていただろうが……。


「やはり……、半端者の集落を見捨てたか……。妾はここで死ぬが、最低限の目的は果たせた様じゃ……な!?」


 腹を刀で貫かれた状態で、『竜人種ドラゴニュートの秘境』の末路を見届けようとしていた始祖神竜の動きが止まる。

 最後の力を振り絞って放った<竜術>が、空中で何事もなかったかのように消え去れば、驚くのも当然と言えるだろう。

 ああ、説明するまでもないと思うが、<竜術>を消し去ったのはセラだ。<敵性魔法無効>のスキルは、始祖神竜の全力ブレスですら一瞬でかき消してしまうらしい。


 1対1ならば助勢は不要だが、相手が他の者を巻き込もうというのなら、そちらの処理くらいは任せてしまってもいいだろう。


「馬鹿な……。妾の最大の一撃……がはっ……!」


 そのまま、始祖神竜は事切れた。

 始祖神竜の死体は<無限収納インベントリ>に回収する。タモさん行きかな?


 これで、無事に『竜人種ドラゴニュートの秘境』の防衛は完了したと言えるだろう。



>生殺与奪がLV8になりました。

>新たな能力が解放されました。

生殺与奪ギブアンドテイクLV8>

死体と魂を吸収することで、種族限定スキルなどを使用するようになる。


>多重存在がLV4になりました。

>新たな能力が解放されました。

多重存在アバターLV4>

吸収した死体と魂を、新しい人格として再構築することが出来る。


>多重存在がLV5になりました。

>新たな能力が解放されました。

多重存在アバターLV5>

所有する人格に仮初めの肉体を与えて顕現することが出来る。


 異能のレベルが大幅に上昇したみたいだな。

 <多重存在アバター>なんて、異例の2段階レベルアップだ。

 さて、詳細を検証しようかな……。


 とか考えていたら、手に持っていた『霊刀・未完れいとうミカン』が光を発し始めた。

 しばらく輝き続け、光が収まった後、そこには刃が真っ黒に染まった刀の姿があった。細部の意匠も変わっており、今までとは比べ物にならないほどの存在感を放っている。

 ……一体何があったんだ?


A:始祖神竜を倒して最終試練を突破したため、試練の突破者1名、及び突破者の装備の存在位階が上昇しました。簡単に言えば、始祖神竜を倒した者と武器が強化されます。


 始祖神竜の備考欄にあった「最終試練」と言うのは、そんな意味があったのか。

 ん?突破者1名って俺のことだよな。


>「超越者」の称号を取得しました。

>スキル<超越LV10>を習得しました。


<超越>

取得経験値と習得スキルポイントが増加する。LV10到達で取得量は最大の2倍となる。


 あ、何か称号と称号スキル(称号を得た時に手に入るスキルの事を勝手に命名)が入って来た。これが始祖神竜の討伐報酬ってことだな。

 それと、「最終試練」とか「超越者」についての詳細な説明が欲しいです。


A:「超越者」とは、到達されることを想定しない領域に至った者に与えられる称号です。その確認のために存在するのが「最終試練」であり、おおよそ人類に勝てる相手ではない始祖神竜が試練として存在しています。他にも複数存在するようですが、詳細は不明です。


 まあ、普通の人間に始祖神竜が倒せるとは思えないわな。

 あれを倒せるのなら「超越者」と呼ばれるのも当然である。


 <超越>のスキルに関しては笑うしかない。

 取得経験値はいい。経験値取得によるレベルアップよりも、敵からステータスを奪った方が成長の効率が良いとは言え、レベルの上昇自体は無駄ではないからな。

 しかし、スキルポイントは別だ。俺の異能のデメリットとして「スキルポイント習得不可」がある。……俺はいくら頑張っても、この世界でスキルポイントを自力習得できないのだ。そう、0は何を掛けても0なのである。


 ここに来てまさかの死にスキルとは誰が思っただろうか?

 いや、理屈はわかる。始祖神竜を倒せるほどの存在が、自力で経験値を上げようとしたり、スキルを習得するのがどれほど大変か……。この<超越>スキルは人類の限界を超えた者を、さらなる高みへと導くスキルなのだろう。

 しかもこのスキル、称号の「超越者」とセットでなければ効果を発揮しない。

 <超越>スキルをマリアに与え、スキルポイント超ブーストとかは出来ないのである。

 ちなみにこの称号と称号スキルの関係は比較的多いらしい。称号「ダンジョンマスター」と<迷宮支配>もセットじゃないと効果を発揮しないしな。


 次に最終試練があった場合、突破させるのはマリアにしよう。

 折角のスキルが勿体なさすぎる……。



 さて、称号と称号スキルはもう確認したから、次は強化された武器について確認だ。

 ちょいとステータスチェックをしてみましょう。


英霊刀・未完

分類:刀

レア度:神話級ゴッズ

備考:不壊、覇気、霊体・竜種・獣・鳥・虫・水棲・鉱物・天魔特効、全ステータス大幅向上、魔法吸収、所有者固定


 まずは名前が変わっている。しかし、変わったのは頭の部分だけで、「未完」なのは変わらないんだな。

 レア度は伝説級レジェンダリーから、幻想級ファンタズマをすっ飛ばして神話級ゴッズになっている。二階級特進だ。

 そして、特殊能力が尋常じゃなく強力になっているな。神話級ゴッズと呼ぶに相応しいモノばかりである。


 「不壊」はそのまま壊れなくなるということだ。今回の戦いでは、相手が固すぎて武器が欠けるということがあったので丁度良い。

 「覇気」は武器自体の持つ威圧感だ。そこにあるだけで凄まじい気配を持っている。

 「魔法吸収」によって魔法を吸収できるようになった。今までは「魔法切断」だったが、「魔法吸収」になったことにより、より対魔法戦闘が楽になったと言えるだろう。もしかしたら、始祖神竜最後のブレスに対処できるようになったのかもしれない。

 最後に「所有者固定」だ。これにより、この刀は俺以外には使えなくなった。振るくらいなら出来るが、「不壊」以外の特殊能力は使用できなくなる。切れ味も滅茶苦茶悪くなるみたいだしな。


 一通り新しい武器である『英霊刀・未完』について確認してみたが、相当に強力になっていると言えるだろう。

 元々強力な伝説級レジェンダリー装備だったのに、より細かいところまで手が届くようになった感じだ。正直な話、始祖神竜戦前にこの性能だったら、もっと活躍できたと思う。



 さて、それではいよいよお待ちかね、異能についての詳細確認を始めよう。


生殺与奪ギブアンドテイクLV8>

死体と魂を吸収することで、種族限定スキルなどを使用できるようになる。


多重存在アバターLV4>

吸収した死体と魂を、新しい疑似人格として再構築することが出来る。


多重存在アバターLV5>

所有する人格に仮初めの肉体を与えて顕現することが出来る。


 文面から読み取ってみると、<生殺与奪ギブアンドテイクLV8>はスキルやステータスの強奪ではなくて、死体と魂(基本的には死体と同一)の吸収が必要になる。そして、吸収した相手の専用スキルを使えるようになるようだ。

 例えば、始祖神竜の死体(+魂)を吸収すれば、<竜闘術>や<完全耐性>等の始祖神竜専用スキルが使えるようになるということだ。

 簡単に言えば、俺がタモさんになる異能と言うことである。……言い過ぎた。

 とにかく、今後は敵を倒した場合、俺が吸収するか、タモさんが吸収するかを考えて選ばなければならなくなった。


 <多重存在アバター>のLV4とLV5は類似しているので、まとめて話してしまおう。

 これは<生殺与奪ギブアンドテイクLV8>とかなり密接な能力なのだろう。

 LV4では<生殺与奪ギブアンドテイクLV8>で吸収した対象を疑似人格、つまりアルタと同じような存在に再構築する。

 そして、LV5ではその疑似人格に、仮初めの肉体を与えることが出来るというのだ。


 ……うん、いまいち具体的なイメージが浮かばないな。


A:詳細な説明が必要でしょうか?


 いや、どうせなら1度試してみようと思う。

 例に挙げている通り、始祖神竜を吸収すればいいかな?


A:問題ありません。吸収後、イメージするだけで、自動で疑似人格が再構築されます。


 じゃあ、早速始祖神竜の死体を<無限収納インベントリ>から取り出して……。


「ご主人様、そんな物を取り出してどうするつもり?皆のところに戻らなくていいの?」

「ああ、もうしばらく待ってくれ。ちょっと試したいことがあるんだ」

「わかったわ。戻るときには教えて頂戴ね」

「ああ」


 <多重存在アバター>の効果で思考加速をしているから、実際にはほとんど時間が経っていないが、俺が始祖神竜を取り出したことを不審に思ったブルーが聞いてきた。

 とりあえず、そのまま始祖神竜の死体を吸収してみる。

 ……なんかスルッと吸収されていったな。うどんのようだ。


 試しに<完全耐性LV->を付けてみる。

 おお、始祖神竜ではない俺でもスキルを有効化することが出来るようになったぞ。

 本当に種族特性を無視できるようになったんだな。

 これで、スライムを吸収すれば念願の<吸収>と<分裂>のスキルコンボが……。


A:<分裂>は使えません。種族特性と言うだけではなく、体内に魔石が必要になるからです。


 …………無念。


 さて、気を取り直して<多重存在アバターLV4>の確認だ。

 始祖神竜の人格を再構築していくイメージをする。


>「始祖神竜」の疑似人格を再構築しました。


始祖神竜:ん?何じゃここは?身体が動かん?いや、……ない?どうなっておる!?

A:基礎情報を強制インストールいたします。

始祖神竜:あがががががががが…………。なるほど。状況は理解したのじゃ。


 何か、あっという間に理解したみたいだな。強制インストール、恐るべし。いや、恐ろしいのはアルタか……。

 ついでに、疑似人格の格付けがアルタ>始祖神竜であることも明らかになった。


始祖神竜:しかし、良いのか?妾は竜人種ドラゴニュートの敵じゃぞ。不思議なことに、竜人種ドラゴニュートに対する敵対心は消えてなくなっておるが、元々敵だったことに変わりはあるまい?それに、お主とも敵対をした訳じゃし……。


 やはり、竜人種ドラゴニュートの件では、精神的な操作を受けていたんだろうな。疑似人格になったことで、その影響から抜け出したと言う訳だ。


A:不要ならば人格を消去すればよいだけです。

始祖神竜:な!?そ、そんなことも出来るのか!?や、止めて欲しいのじゃ!2度も3度も死にとうない!


 必死に懇願する始祖神竜。アルタさんマジ容赦ない。

 始祖神竜の場合、自分の意思ではないし、実害も出ていないし、今は配下扱いなので、敵対者を許す条件は揃っている。折角なので、このまま疑似人格として生きて貰おう。


 次は<多重存在アバターLV5>を試してみよう。

 仮初めの肉体と言っているが、その設定はどうすればいいのだろう。


A:元の肉体になるようにイメージしてください。死体を吸収しているので、それだけで元の肉体と同じように構築されます。


 アルタに言われた通り、始祖神竜の姿をイメージする。ドラゴン形態?いいえ、美少女形態です。

 俺の身体から何かが抜けるような感覚と共に、スルッと始祖神竜(美少女バージョン)が出てくる。やっぱりうどんのようだ。

 MPは減っているから、MP消費で出すみたいだな。


「おお、まさしく妾の身体なのじゃ!」

「な、何か出た!?」


 宙に浮きながら自分の身体を見渡して、嬉しそうに声に出す始祖神竜と、それを見てびっくりしているブルーである。


「俺の能力で、下僕として復活させたんだ。もう敵じゃないから安心しろ」

「……ご主人様、何でもあり過ぎない?」

「よく言われる」


 ちなみに、この疑似的な肉体にはいくつもの特徴と制約が存在するみたいだ。

 まず、この肉体にはステータスが存在しない。俺の最大ステータスの半分を基準に、任意のステータス(仮)を俺が設定できる。

 だが、このステータス(仮)は俺から離れれば離れるほどに低下していく。

 そして、スキルに関してはこの限りではない。俺の持つ任意のスキルを俺と共有・・・・する。つまり、俺が<完全耐性LV->を持っていれば、始祖神竜も<完全耐性LV->を使えるのだ(俺の許可があれば)。


 加えて言うなら、この仮初めの肉体が死んでも疑似人格は失われない。

 本体はあくまでも俺の中にあり、無線で動くラジコンのようなものだ。代わりに、その能力に応じて再度顕現するまでのクールタイムが必要になるけど……。


 全体的なイメージとしては、魔法使いの「使い魔」が近いだろう。

 殺した相手を使い魔として使役する。かなりあくどい能力な気もするが、ぶっちゃけ今更である。元々似たようなことは出来たし……。


「ふむ、元々の妾の肉体とほとんど変わらぬな。……む、ドラゴンの姿にはなれぬようじゃが?」


 自身の身体について色々と確認していた始祖神竜が呟く。


「そこは俺の趣味だな。ドラゴンペット枠とドラゴン騎獣枠はドーラとブルーで埋まっているけど、使い魔系人外全裸美少女枠はまだ空きがあるから……」

「何じゃそのけったいな枠は……」


 始祖神竜の局部は鱗で覆われているが、鱗も本人の身体の一部に違いはない訳で、「全裸」であることは疑いようのない事実なのである。

 しかし、それでも局部は見えないので、ある意味では「合法全裸」と言う奴だ。


「まあ良いのじゃ。どんな枠であれ、再び生きられるというのならば是非も無し。……そうじゃな、使い魔と言うのならば妾にも名前を付けてくれぬか?」

「今までに付いていた名前とかないのか?」


 始祖神竜が命名を要求してきたので聞き返す。

 今回のはテイムではないし、出来ればありものを使いたいのだが……。


「ないのじゃ。そもそも、ドラゴンにそんな文化がないからのう。テイムされていた者は別じゃが、そんな者ほとんどおらんのじゃ」

「そうか……。じゃあ、お前の名前はエルにしよう。始祖エルダーから取らせて貰った」


 はい、適当です。


「良かろう。妾の名前はエル、じゃな。ついでに聞いておきたいんじゃが、お主のことは何と呼べばいいのかのう?いつまでも「お主」と呼ぶわけにもいかんじゃろう?」

「そうだな。そこはアルタに合わせる+使い魔らしく、マスターと呼んでくれ」

「わかったのじゃ。これからよろしく頼むぞ、ますたー」


 あ、平仮名っぽい。



*************************************************************


ステータス


進堂仁

LV159

スキル:

武術系

<竜闘術LV10 new>

魔法系

<無属性魔法LV10 up><並行詠唱LV10 new><竜術LV10 new><始祖竜術LV10 new>

身体系

<縮地法LV10 up><竜体LV10 new><完全耐性LV- new>

その他

<超越LV10 new>

異能:

生殺与奪ギブアンドテイクLV8 up><多重存在アバターLV5 up>

称号:超越者 new

装備:英霊刀・未完、不死者の翼ノスフェラトゥ


木ノ下さくら

LV143

スキル:

<火魔法LV10 up><水魔法LV10 up><風魔法LV10 up><土魔法LV10 up><雷魔法LV10 up><氷魔法LV10 up><闇魔法LV10 up><回復魔法LV10 up><無詠唱LV10 up><並行詠唱LV10 new>


ドーラ

LV144

スキル:

<竜魔法LV7 up><竜撃LV10 up><竜滅LV10 up><竜鱗LV10 up>


ミオ

LV142

スキル:

<投擲術LV10 up>


マリア

LV155

スキル:

<飛剣術LV10 new><縮地法LV10 up><HP自動回復LV10 up>


セラ

LV141

スキル:

<槍術LV10 up><飛剣術LV10 new><HP自動回復LV10 up>


次で5章は終わりです。来週の日曜です。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
仁君レベル半分以下でLv.300の始祖神竜倒していたのね(;^ω^)
賢者枠被ってんだよなぁ
[気になる点] 人間は変化スキル使える? 数千年前に始祖神竜にダメージを与えた存在について
2020/08/21 14:13 退会済み
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