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第75話 殲滅と竜の門

投稿間隔が延びた代わりに、1話あたりの文字数が増えました。……投稿間隔を延ばした意味なくね?

 佐野達は落馬の現場で、負傷者の手当てを始めた。

 <回復魔法>の使い手はいないようで、馬車に積んであったポーションを使用している。


 その間も俺達は歩き続け、ついに盗賊団との距離が20m程度になる。

 盗賊達も俺達のことは気付いているが、それどころではないらしく、慌ただしく動き回っている。


「貴方達が近くの村を襲った盗賊ですわね!大人しく捕縛されるか、ここで皆殺しになるか、好きな方を選びなさい!」


 セラがよく通る声で宣言する。

 今まではチラチラ見てくるぐらいだったが、さすがに今のセリフは無視できないらしく、盗賊団全員がこちらを注目している。


「クソッ、次から次へと面倒事が!おいお前ら、そこのうるさい奴らを殺せ!」


 セラの宣言を聞いた佐野が、苛立ちながらも部下に指示を出す。

 佐野の部下は指示に従い、武器を抜いてセラとマリアに切りかかっていく。


「うおおおおお!」

「くらええええ!」


 佐野の性格を知っている部下達は、『女だから捕らえよう』などとは考えずにすぐさま殺しに来ている。凄く必死の形相ですね。

 まあ、佐野の命令を無視したら、恐らくソイツが殺されるんだろうな。

 そう言えば、昨日の『ッス』が語尾の奴はいないみたいだな。もしかして、佐野に殺されたとか?


A:はい。あの後、失言により佐野に殺されました。


 あらら……。

 戦う前から勝手に敵が減っていくのはどうなんだろうね?


 そうこうしている内に、盗賊の1人がマリア達に接近した。


「問答も無しですの?まあ、手っ取り早いから構わないんですけど……。はあ!!!」


 そう言ってセラが振るった大剣は、1番近くにいた盗賊だけでなく、その後ろとさらにその後ろにいた、計3人の命を奪い去った。


「な、なんだと!」

「お頭、祝福ギフト祝福ギフトは使ってるんですか!?」

「使ってるよ!それに祝福ギフトは自動で有効になるんだ!相手が敵なら勝手に弱くなるはずなんだよ!」


 仲間があっさりと殺され、襲い掛かろうとしていた盗賊達の足が止まる。

 狼狽した盗賊達は佐野の祝福ギフトを疑ったようだが、佐野はそれを否定した。


「確かに体がほんの少し動かしにくいですわね。まあ、身体が動かないのには慣れていますので、大したことはありませんわね」

「どうやら、能力の低下は割合ではなく固定値のようですね。格下相手には有効でしょうけど、格上に対する切り札にはなりませんね」


 マリアの言う通り、この祝福ギフトは弱い者いじめ向けのスキルと言うことだ。

 日下部の時も思ったんだが、女神から与えられる祝福ギフトは、その所有者の性格や得手不得手を考慮して選ばれているようだ。

 味方以外を疎外して阻害する空間を作り出す<疎外領域クローズドサークル>は、まさしく佐野のためにあるような、陰気でいやらしい祝福ギフトだからな。


「な、何でだ!何で僕の<疎外領域クローズドサークル>が効かない!」

「阻害能力ですわよね。効いていますわよ。ほとんど影響がないだけで……」

「ええ、この程度なら気にするまでもありません」

「そ、そんな馬鹿な!?勇者ですら弱体化させた僕の祝福ギフトを、ただの冒険者が防げるわけがないだろ!」


 佐野は完全に混乱しているようで、部下に指示もせずに喚き散らしている。

 『勇者ですら』と言っているけど、お前の目の前にいる内の1人も(獣人の)勇者だからな。


「だから、別に防いでいませんわ。大した効果がない、と言っているだけですわ」

「た、大した事がない、だって……。ふざけるなよ!僕の祝福ギフトを……、僕を馬鹿にしやがって!僕は他人から見下されるのが大っ嫌いなんだよ!ぶっ殺してやる」


 顔を真っ赤にしてブチ切れた佐野が、腰に下げていた剣を抜き放って駆けだした。

 狙いはどう見てもセラのようだ。

 と言うか、馬鹿にされてから(セラとしては事実を言っただけだが)キレるまでがとても短い。これがキレやすい若者と言う奴か……。


 佐野は勇者を殺したことによってステータスが上がっているので、先ほどの盗賊達よりは動きが速い。しかし……。


「死ねええええ!」

「えい!ですわ」


-ドゴン!-


 佐野が剣を振り上げたところで、それよりも速く動いたセラの回し蹴りが腹に決まり、佐野は思い切り吹っ飛ぶ。

 下っ端隊は呆然としており、誰も動けないでいる。


「ぐえええええええ!!!!!!」


 叫びながら地面を数回バウンドしていく佐野。

 佐野には聞くことがあると言っておいたので、しっかりと<手加減>をしてくれたみたいだ。

 その証拠に、佐野のHPはまだ10%は残っている。……瀕死である。


「げぼっ!げほっ!ぐげえええええ……」

「お、お頭!?」

「大丈夫ですか!?今、ポーションを……」


 佐野は蹲った状態で咳き込み、そのまま嘔吐をする。

 ようやく事態を飲み込んだ下っ端達が佐野に駆け寄ってきた。


「はあっ、はあっ……。ぐうっ!」


 荒い息を付きながら立ち上がろうとするが、膝が震えていて立ち上がる前に崩れ落ちる。


「ぐう……、ち、ちくしょう……。何で僕がこんな目に……。お、お前達、わかってるのか……?僕は勇者だぞ。ほら、これがエルディア王国から渡された勇者の証明書だ!」


 そう言って、佐野は懐からヒモのついた勲章のようなものを取り出す。

 ああ、勇者であることを証明するために、エルディア王国が証を発行しているのか。

 エステアで倒した日下部も持っていたのかな?


A:持っていました。


「勇者である僕に手を出したら、エルディア王国や勇者支援国が黙っちゃいないぞ!魔王と戦う勇者と敵対するってことは、この世界と敵対するのと同じなんだからな!」

「そんな勇者が盗賊をやっているなんて、世も末ですわ」

「煩い!勇者なんだからそれに見合った良い目を見たっていいはずだ!」

「それで村を襲っていたら、魔王のことを何も言えないと思うのですが?」

「煩い!僕は人が死ぬ様を見るのが好きなんだ!勇者である僕が望んでいるんだから、いくらでも替えの利く村人なんか死んで当然だ!」

「「はあ……」」


 セラとマリアが呆れ顔をしてため息をつく。

 基本的に佐野と話すのって時間の無駄だから、さっさと聞くことを聞いて終わらせよう。


「お前に勇者を殺すほど強くなれると言ったのは誰だ?」


 俺が気になっていたのは、佐野に祝福の残骸ガベージについて説明した存在だ。

 佐野は勇者を殺したという話をしたとき、『最初聞いたときは耳を疑ったけど』と言った。

 つまり、『勇者を殺し、祝福の残骸ガベージを吸収すると強くなれる』という情報は、何者かによって佐野に与えられたということに他ならない。


「はあ?お前誰だよ?ローブ被っているし、魔法使いか何かか?ん、どこかで聞いたような声の気も……?」

「答えろ。勇者を殺すようにお前を唆したのは誰だ?」

「何で僕がそんなこと答えなくちゃいけないんだよ……。そもそも、何でお前そのことを知ってるんだ?だってあれは僕が……、え?誰だ?誰から聞いた!?何で、何で、思い出せないんだ!?聞いた記憶はあるのに、誰から聞いたのか思い出せない!?何なんだこれ!?」


 俺の質問を切っ掛けに、記憶をたどったのだろう。

 しかし、『誰から聞いたか』の情報が全く思い出せない様子で佐野は混乱している。


「やっぱり、そう簡単に尻尾を掴ませるようなことはしていないか……」


 やっぱり無駄足になったな。

 まあ、そこまで甘くはないよな。


「もう話を聞く必要はないな。盗賊団を全滅させるぞ」

「はい!」

「お任せですわ!」


 マリアとセラに向けて、盗賊団の討伐を宣言する。

 俺は霊刀・未完れいとうミカンを構える……のを止めて、『普通の鉄の剣』を装備する。

 佐野相手に伝説級レジェンダリーは勿体ないよね。


 マリアは長剣と短剣の二刀流、セラは大剣と大楯を装備する。

 俺が普通の武器を装備したのを見て、2人も伝説級レジェンダリーは使っていない。


「き、聞いてなかったのか!?エルディア王国を敵に回す気か!?い、今なら土下座だけで許してやるぞ!」


 俺達が武器を構えたのを見て、佐野が引きつった顔で言う。

 それでも上から目線なのはもはや笑うしかないが……。


「そんなことはどうでもいいな。エルディア王国が敵対するのなら潰せばいいだけだ」

「く、国を相手に何ができるって言うんだ!」


 俺が大嫌いなエルディア王国に手を出さないのは、エルディアが魔王を倒す勇者を擁する国だからだ。

 一応、勇者には魔王を倒すという役目があるようだし、エルディアに手を出すことによって魔王討伐が滞るのはあまり良くないと判断したからに他ならない。


 だからと言って、俺が我慢しなければいけない理由も当然ない。

 佐野のように魔王討伐のための準備すらせず、自己の欲求のために盗賊をやっている者を許す理由もない。

 もしそれでエルディア王国が敵に回るというのなら、今度こそ一切の躊躇もなく攻め滅ぼしてやる。


「もういいだろう?お前が勇者でも殺すって言っているんだ。武器を構える時間くらいはくれてやるから、さっさと覚悟を決めろ」


 俺は佐野の方に剣を向けて宣言した。


「ま、待て、待ってくれ!そうだ宝!今まで集めた宝はお前らにやる!僕以外の盗賊達も好きにしていい!だ、だから、僕の命だけは助けてくれ!」

「お頭!?俺達を裏切るんですか!?」

「全員でかかればこんな奴らに負けませんよ!戦いましょう!」


 佐野が命乞いにより、盗賊(下っ端)達の間に動揺が走る。

 まあ、自分達を見捨てる宣言を堂々とされれば当然である。


「う、煩い!<疎外領域クローズドサークル>が効かない相手に、僕達が勝てるわけないだろ!そ、そうだ。お、お前達、僕の仲間にならないか?ゆ、勇者とエルディア王国の後ろ盾で好き放題出来るぞ!」


 今度は俺達の勧誘をしてくるのか。節操がねえな。

 それにしても『勇者』と『エルディア王国』の後ろ盾か……。


 嫌いなもののダブルパンチじゃねえか!誰がそんな勧誘に乗るか!


「宝は当然貰う。お前達のアジトは、ここから南東に向かった森の中にある洞窟だよな。それはそれとして、お前の提案に乗るメリットはどこにもないから、お前達は殺す」

「な、何でアジトの場所が!?クソッ、宝を奪って殺すとか、まるで盗賊じゃないか!」

「お前が言うな!!!盗賊のお宝は倒した者に所有権が移るんだよ!」


 他の誰でもなく、盗賊である佐野に言われたくはない。

 ああ、しまった。自分で言ったじゃないか。佐野と話すのは時間の無駄だって……。


「もういい……。2人とも、討伐開始だ!」

「「はい!」」

「ま、待て……」

「問答無用!」


 それから1分ほどで盗賊団は全滅した。

 <疎外領域クローズドサークル>に頼り切った盗賊団との戦いに、特に話すべき内容なんてないからな。

 もちろん、佐野も上下に分断されて死んでいる。



 当然と言えば当然だが、佐野を殺した後に出てきた祝福の残骸ガベージは回収してある。


A:祝福の残骸ガベージを分解し、ユニークスキルを取得いたしました。


 お、今回は速いな。

 日下部の時は一週間以上かかっていたのに。


A:祝福ギフトの作りは完全に同一のため、1度解析すれば2度目以降は簡単に分解できます。


 なるほど……。


 分解されたユニークスキルを見てみる。

 <疎外領域クローズドサークルLV->、<真実の眼トゥルーアイズLV->、<茨の檻ローズガーデンLV->、<天駆スカイハイLV->、……って4つ!?あ、もしかして佐野に殺された3人の祝福ギフトか?


A:はい。勇者が祝福の残骸ガベージを吸収した場合でも、ユニークスキル自体は消滅しない様です。ただし、そのユニークスキルを使用できるわけではなく、もともと持っていた祝福ギフトの強化に充てられます。


 変な仕様だな……。

 佐野の祝福ギフトは『+3』になったことで、効果範囲が3m上昇した。

 当然、そんな微小な効果上昇を引き継ぐよりは、ユニークスキルが増える方が嬉しい。


 では、取得したユニークスキルをもう少し詳しく見てみよう。


疎外領域クローズドサークルLV->

半径10m以内の空間にいる味方以外の能力を低下させる。


 これは佐野のスキルだな。

 趣味じゃないし、使う予定もないからパスだな。次!


真実の眼トゥルーアイズLV->

相手の発言が真実か嘘か判断できる。本人の認識に依存する。


 性格から考えると、風紀委員の田辺のスキルだろう。

 かなり有用なスキルではあるんだが、勇者に付ける祝福ギフトとして考えると微妙。

 基本的に対人向けの効果だろう。

 欠点は本人の思い込みによって、例え嘘でも真実として扱われてしまうことだな。


茨の檻ローズガーデンLV->

地面に薔薇を生やすことが出来る。薔薇を自由自在に操ることが出来る。


 うーん、恐らくクラス1の美少女(自称)、森本のスキルかな?

 薔薇限定ではあるけど、植物を操作するスキルのようだ。

 地面から生やすことも出来るようだから、弾切れすることなく使えるのだろう。

 水上、氷上など、薔薇の生えない場所では途端に無力になる使いどころの難しいスキルだな。


天駆スカイハイLV->、

空中に足場を作り、歩くことが出来る。この足場はスキル所持者にしか使用できない。


 び、微妙にしょぼいスキルだな……。

 消去法で教員、川崎のスキルと言うことになる。

 マリアが<結界術>で似たようなことが出来るし、俺も不死者の翼ノスフェラトゥで空を飛べるので、使い道があまりなくなってしまっている。

 もちろん、完全に役割が被っているわけではないので、あって困ることはないだろうが……。


 多くのユニークスキルを入手できて嬉しい反面、元々は勇者達の祝福ギフトだったと考えると、少々に複雑な心境である。

 日下部と佐野はともかく、殺された3人に思うところはなかった訳だし……。



 その後、マリア、セラと共に盗賊達の遺体を処分して村に戻った。


 無事に盗賊もいなくなったので、嫁とか妾とか小間使いとか奴隷って話もなくなっただろう。


「オラの子を妾にしてくんろ!」

「オラん子も頼むだ!」

「小間使いでいいだ!連れてってくんろ!」

「奴隷でいいだ!旅人さんと一緒に行かせてやってほしいだ!」


 盗賊を討伐した旨を伝えて少しした後、俺の周りは数多くの人でごった返していた。


「増えてるし……」


 そう、嫁だ妾だ小間使いだ奴隷だって話は、盗賊を討伐する前よりも増えていたのだ。


「そりゃそうでしょ。この村が食糧難なのは変わってないわけだし……」


 近くにいたミオが、俺の呟きを拾う。

 そう言えば、畑とかも荒らされているんだったな。


「この村の人から見たら、ご主人様は食料を配れるほどに余裕があって、盗賊を苦もなく倒すようなとんでもないお方よ。村の将来が暗い今、子供の嫁ぎ先、奉公先としては最高じゃない。多分、私達が奴隷だってことは気付かれているでしょうし、最悪奴隷だったとしても好待遇なのは目に見えているわけよ」

わたくし達も、『ご主人様』呼びを隠していませんものね」

「そゆこと」


 ミオ、セラは俺のことを『ご主人様』と呼んでいる。

 この世界で『ご主人様』と呼ぶのは、その多くが奴隷だ。


「そう言う考え方は抜けていたな。そりゃあ、無理をしてでも連れて行かせたい訳だ……」

「もう、諦めて連れてっちゃえば?奴隷だけは受け付けるとか言えば、多少は減るだろうし」

「うーん……」


 親から子供を買う程落ちぶれてはいないが、本人が心から望んで奴隷になりたいというのならば話は別だ。

 普通に考えたら、望んで奴隷になろうなんて物好きは、いるわけないんだけどな。


「困りました。彼女達、本気で仁様に好意を寄せています……」


 マリアが困ったように呟く。

 大人と共に村娘達も集まっているのだが、その一部の子達が俺を見る目に、熱っぽさが含まれている。

 マリアとしては、害のない相手なので対応に悩んでいるらしい。


「これ……、奴隷だけを募集しても結構な人数が付いてくると思います……」

《またむれのなかまがふえるねー》


 さくらと手を繋いだドーラが笑顔で言う。

 ドーラ的には俺の配下が増えるのは、群れの仲間が増えるという扱いなのか……。


 その後、実際に奴隷だけを受け付ける旨を村人に伝えたところ、驚くべきことに6名の少女が奴隷になることを受け入れた。


 実際に旅に連れて行くわけではなく、所持している屋敷でメイドをしてもらうという説明をしたら、奴隷希望者が1人増えた。

 日持ちのする食糧を残し、<土魔法>+αで荒らされた畑を回復させたところ、奴隷希望者が2人増えた。

 奴隷になった娘の家に、見舞金と称して結構な額のお金を渡したところ(親から子を買った代金とは言いたくない)、奴隷希望者が1人増えた。

 何故、増えるのか……。


 実際に本人達を見たところ、親に言われて無理矢理……、と言った様子ではなかったのでとりあえず一安心だ。……一安心か?

 最終的に総勢10名の奴隷村娘を引き連れ、俺達はユニ村(正式名称無視)を後にするのだった。



 ユニ村で奴隷にした少女達を、いつものようにルセアに預けた後、今度は盗賊団のアジトへと向かった。戦利品の確認である。


 アジトの洞窟の中は多少入り組んでいるが、使用されているのはその中のほんの一部だけだった。

 本格的な拠点のつもりはなく、一時的に使っていただけだったのだろう。


「盗賊のアジトの割には、それほど臭くないわね」

「そうですわね。盗賊のアジトって大体いつも臭いですわよね」


 倉庫として使われている部屋に入ったところで、ミオとセラが呟いた。

 洞窟内には、盗賊のアジト特有の男臭さがなく、荷物も整理整頓されていた。


 ちなみに洞窟内は真っ暗だったので<光魔法>を明かりにしている。

 雰囲気に合わせるために松明を使っても良かったのだが、長居するわけでもないので手軽な方にしておいた。


「佐野の奴が臭いのを我慢できず、清潔にさせていたみたいだな」


 無駄に清潔な盗賊団のアジトとか初めてだよ……。

 佐野の奴、実家が裕福なせいか、汚かったり臭かったりする環境に耐性がないのだろう。

 そのくせグロ死体は平気とか、もう訳わからん。


「あー、盗賊の男臭さって、普通の日本人にはきついわよねー……」

「そうですね……。このくらいなら私でも平気です……」

《ここはくさくなーい》


 無駄に整頓された戦利品を<無限収納インベントリ>に放り込みながら話を続ける。


「問題がありましたら、私が<結界術>で臭いを防ぎますのでご安心ください」

「マリアちゃんが頼もしすぎます……」


 マリアの<結界術>が便利すぎる。


A:アジト内に悪臭を放つものは存在しないので、警戒は不要です。


 マリアが張り切っているところ申し訳ないが、アルタがこう言っているので、基本的に問題はないのだろう。


 その後、他の部屋も一通り回り、戦利品を全て回収し終わった。

 お金に困っているわけではないが、盗賊団のお宝とかを戦利品として回収するのは嫌いじゃない。これからもバンバン殺っていこう。

 で、これが今回の高額賞品だ。


・特になし


 ……特にありませんでした。

 いや、物自体は色々あったんだけど、琴線に触れたり、とにかく希少だったりするものはなかったんだよね。せいぜい現金くらい……。

 まあ、こんなこともあるさ……。


A:まだ確認されていない物がありますが、報告は必要でしょうか?


 若干テンションの下がった俺に対し、アルタからの補足が入る。


 俺は基本的に盗賊退治の時、盗賊の持っていたお宝を確認しない。

 危険物や盗賊以外の生き物がアジトにいないかどうかは検索するが、戦利品に関しては現物を自分で見たいと考えている。

 もちろん、俺に報告しないだけで、アルタは事前に確認している。


 簡単に言えば、今のアルタの発言は、俺がお宝を取り忘れたことを示唆しているのだ。


 何と言うことだ!この俺がお宝を見逃すなんて!

 ……で、俺は何を取り忘れたの?


A:取り忘れたわけではなく、単純に気が付けなかっただけです。この洞窟の地下に遺跡があるのです。


 ……え?


 俺は慌ててマップを検索する。

 本当だ……。この洞窟の地下に遺跡がある。

 入り口は崩落していて普通に通ることは出来なそうだけど、確かにあった。

 あー、戦利品の確認のため、あまりマップを細かく見てなかったのが悪かったな。


 それで、この遺跡は何だ?

 絶対に行った方がいい遺跡か?


A:この遺跡は『竜の門』と呼ばれています。『竜人種ドラゴニュートの秘境』に繋がっています。ドーラの故郷です。行く、行かないはマスターのご判断にお任せします。


 『竜の門』?『竜人種ドラゴニュートの秘境』?

 結構気になるワードが出てきたな。もうちょっと詳しく頼む。


A:『竜の門』とは簡単に言えば転移装置です。『竜人種ドラゴニュートの秘境』は竜人種ドラゴニュートが隠れ住んでいる集落です。世界各地に点在する『竜の門』により『竜人種ドラゴニュートの秘境』へと転移することが出来ます。『竜人種ドラゴニュートの秘境』は結界により守られており、基本的に『竜の門』以外から入ることは出来ません。そして、『竜の門』を起動するには、竜人種ドラゴニュートの同行が不可欠です。


 考えてみれば、ドーラ以外の竜人種ドラゴニュートを1度も見かけていないな。

 そうか、秘境とやらに隠れ住んでいたからなのか。


 と言うことは、『竜の門』を通れば、ドーラの里帰りと言うことになるのか。


「ドーラに聞きたいんだが、ドーラは里帰りしたいか?」

《さとがえりってなにー?》

「ドーラが昔住んでいた場所に行ってみるかってことだよ」

《んー……。うーん……》


 ドーラは頭を左右に揺らしながら悩み、少し経ってから手をポンッと叩いて答えた。


《ドーラ、どっちでもいいー》

「いいのか?家族に会わなくても?」

《うん!ドーラの1ばんたいせつな人はごしゅじんさまで、ドーラのいるところはごしゅじんさまのひざの上だからー!》


 俺としては嬉しいセリフなんだが、若干ドーラの家族が不憫に思えるセリフだな。

 ドーラから家族の話はほとんど出てこないし(時々祖父が話に出てくるくらい)、あまり仲のいい家庭じゃなかったのかな?


「ご主人様、何か見つけたんですの?」

「ああ、この洞窟の下にドーラの故郷に行くための設備があるらしい」

「へー、何々、『竜の門』?おー、らしいわね!」


 セラの質問に対する回答を受け、マップを見たミオが興奮した様子で言う。


「それで、ドーラが望むなら里帰りをさせてやろうと思ったんだが……」

「ドーラさんが里帰りしなくていいと言ったんですわね……」

「そう言うことだ」


 とは言え、絶対に行きたくない、と言う程でもない様だ。

 まあ、俺に任せるってことは、俺が行きたいと言えば行くってことなんだけどな。

 俺自身、結構興味あるし……。


「でも、ご主人様。ドーラちゃん自身はともかく、一応今の保護者として挨拶くらいはした方がいいんじゃない?」

「そうですね……。家族も心配しているかもしれないですからね……」


 ミオとさくらが真っ当なことを言った。

 今現在、俺がドーラの保護者兼飼い主だ(完全なペット扱い)。

 それを譲る気は無いが、家族に安否の一報くらいは入れておいた方がいいだろう。


「それもそうだな。じゃあ、とりあえず『竜の門』を使って、『竜人種ドラゴニュートの秘境』に行ってみるか。ドーラもそれで構わないか?」

《うん!ごしゅじんさまが行くのなら、ドーラももちろん行くー!》


 こうして、真紅帝国に行くという目的は繰り下げられ、次の目的地は『竜人種ドラゴニュートの秘境』と言うことになったのでした。

 まあ、真紅帝国に行くのに急ぐ理由もないし、ちょっと寄り道をさせてもらおう。



《…………と、言う訳だ》

《むう、と言うことは案内と言うのも保留か?》


 真紅帝国の案内を頼んでいたルージュに、予定が伸びることになったと伝えた。


《そうだな。まだしばらくは探索者業をやってもらう》

《わかった。そうは言っても、私の方は32層で足踏みの状態なんだがな。何だ、ここの魔物の数は……。責任者出て来い!》

《まあ、それは俺なんだが……》


 2代目ダンジョンマスター、進堂仁です。よろしく。


《しまった!あ、ああ、アルタ様、ご、ご容赦を……》


 事実上、俺への暴言を吐いたことにより、アルタによる折檻の対象になったらしく、そこで念話が途切れる。


《ミネルバ、ルージュの様子はどうなっている?》

《じ、仁様ですか!?い、今、ルージュ様は泡を吹いて失禁して崩れ落ちました!?い、一体何が!?》


 ルージュパーティの常識人、巨乳ミネルバに念話を送り、ルージュの現在の様子を尋ねると、慌てた様子で説明してくれた。


《ああ、知らず知らずの内に俺に暴言を吐いたんだ。その結果だ》

《ルージュ様、だからあれほど発言には気を付けるよう言いましたのに……》

《ま、ルージュはそういうキャラだから仕方ないよな》

《仁様の予定では、ルージュ様に一国を任せる可能性があるのですよね……?》


 真紅帝国皇帝が、説得に応じないようならば、皇帝はルージュに変わることになるだろう。

 ……うん、思った以上に不安だ。


《ま、まあ、そこはアルタの手腕に期待だな》


A:厳しいです。


 まさかのアルタの弱音!

 え、そんなに駄目なのか?ルージュの奴。


A:未だに敬語が出来ません。発言が不用意です。高慢さが抜けません。


 ……最悪、真紅帝国の皇帝は傀儡にするしかなくなるな。



 『竜人種ドラゴニュートの秘境』に行くことを決めたので、『竜の門』を使用するために洞窟の地下にある遺跡へと向かう。


 アーシャは馬車と共に帰ってもらうことにした。

 本人は竜人種ドラゴニュートに興味を持っていたが、足手まといであると自覚しているらしく、まずは個人の戦力回復に努めるとの話だ。

 いずれは竜人種ドラゴニュートをテイムしたいと思っているようだが……。


 遺跡までの通路は洞窟が崩落した影響か、完全に塞がれて見えないようになっていた。


「この先に地下遺跡への入り口があるのですわね」

「見事に埋まっていますね。マップなしじゃ気付けないと思います」


 セラとマリアが壁を軽く叩く。

 パッと見、普通の土の壁にしか見えないからな。

 音の反響具合が違ったりするのかね?……もちろん俺にはわからないが。


「それほど壁は厚くないし、1発殴れば貫通するかな?」

「止めて!?ご主人様が殴ったら洞窟が崩落するから!」


 ミオが必死の形相で俺に抱き着いて止めてくる。


「冗談だよ。さすがにそんなことはしないさ」

「仁君ならやりかねないと思えるところが怖いです……」

「うん、ご主人様だし……」

「日頃の行いを改めるべきだろうか……」


 皆からの評価が『何をしでかすかわからない奴』になっている気がします。

 ……悲しいのは、全く否定できないところなんだよな。


「<土魔法>なら何とかできるでしょうか……?私がやってみますね……」

「ああ、さくら、任せた」


 さくらの<土魔法>により、いとも簡単に土は取り除かれた。

 とは言え、通路のすぐ先に遺跡があるわけではなく、しばらくは下り坂を降りていく必要がある。


 特に魔物が出てくるわけでもないので、遺跡まではあっさりと進めた。

 基本的に洞窟内は魔力の密度が薄く、魔物の自然発生が起きないからな。

 まあ、大量の魔力に溢れた洞窟の場合はその限りではないが……。



 遺跡とは言っても、複雑な造りになっているわけではなく、石造りの神殿のようなものだった。

 長年放置されていたのだろう。所々劣化しており、崩れている部分もあるものの、十分に形の分かる状態で保持されていた。

 そして、その中心部に金属製の巨大な扉があった。この周囲だけはほとんど劣化しておらす、最も状態が良かった。


 わかりやすさ重視なのだろうか?エステアの迷宮と同じように、門にはドラゴンのレリーフが刻んである。

 暗い中、<光魔法>による光源で見ているため、やけに迫力があるな。

 これが何かと聞かれたら、10人中8人は『竜の門』と答えるだろう。残り2人はひねくれ者だ。


「これが『竜の門』か……。詐欺だな……」


 そう言って俺は金属製の門の前にある広場、その床に描かれた竜の紋章を見る。


「まさか、あれだけこれ見よがしな門がフェイクとは思わないわよね……」

「本当に詐欺ですわね」

「何か、仁君と趣味が合いそうです……」


 そう、目の前にある巨大な門、これには何の意味もなかったのだ。

 肝心なのはその手前、床に描かれた竜の紋章の方である。


 『竜の門』と言いつつ、『門』ではなく『紋章』に意味がある辺り、いいセンスをした詐欺だと思う。

 あれだけ巨大で精巧なレリーフが描かれた門を、惜しむことなくフェイクとして使うあたりが特に高評価である。

 さくらの言う通り、作製者とは趣味が合いそうな気がする。


「ですが、転移をする際は扉よりも設置型の方が向いていると思います」

「ああ、扉で転移をしようとすると、扉を開いている間ずっと空間を接続していないといけないからな」


 要するに、『物質の転送』なのか『空間の接続』なのかと言う話だ。

 恐らく、『空間の接続』の方が相当に困難だと思われる。

 ……最近、<空間操作>なるスキルを持った幼女とこよをペットに加えた気がするが。


「どこでもド……」

「シャラップ!」


 ミオが余計なことを言いかけたので止める。


「で、どうすればここから『竜人種ドラゴニュートの秘境』に行けるんだ?」


A:竜人種ドラゴニュートが紋章の中心に触れた瞬間に、紋章の上に乗っていた者が転移いたします。


 紋章は直径10m程度あり、俺達全員が上に乗ってもまだまだ広さには余裕がある。

 アルタの説明は全員に届いていたのだろう。いつの間にか全員紋章の上に乗っていた。


「全員乗ったな。じゃあドーラ、頼む」

《はーい》


 そう言って床にある紋章に手を触れるドーラ。

 その瞬間、ある意味慣れた『ポータル』に近い感覚を味わう。



*************************************************************


ステータス



進堂仁

LV82

スキル:

武術系

<武術LV5><剣術LV10><格闘術LV10><飛剣術LV10>

魔法系

<魔法LV5><呪術LV4><憑依術LV4><奴隷術LV7><無属性魔法LV1><固有魔法オリジナルスペル

技能系

<技能LV3><魔物調教LV10><獣調教LV5><鍵開けLV3><泥棒LV5><恐喝LV4><統率LV10><鼓舞LV10><拷問LV3>

身体系

<身体LV5><身体強化LV10><縮地法LV5><気配察知LV6><索敵LV6><飛行LV10>

その他

<幸運LV1><迷宮支配LV10><加速アクセラレーションLV-><真実の眼トゥルーアイズLV- new><天駆スカイハイLV- new>

異能:<生殺与奪ギブアンドテイクLV7><千里眼システムウィンドウLV-><無限収納インベントリLV-><契約の絆エンゲージリンクLV-><多重存在アバターLV3><???><???>

装備:霊刀・未完、不死者の翼ノスフェラトゥ


*<疎外領域クローズドサークルLV->と<茨の檻ローズガーデンLV->は使用するつもりがないので放置(適当な配下に与えるかも)。


と言う訳で、次回より第5章『竜の秘境編』が本格的に始まります。

真紅帝国?言ったじゃないですか、真紅帝国は今までにない話になるって。つまり、行くと言っておきながら中々行かないんです。

ちなみに『帝国編』とは断言していましたけど、『真紅帝国に行く』とは断言していなかったはずです。

忘れているかもしれませんが、ドーラは『皇女』です。つまり、『帝国』なのです。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
あとがきが不快。 ブクマ削除して離脱します。
[一言] 殺すまでが長すぎ
[良い点] 本文の下の追記(あとがき、かな?)が気に入りました! ひねくれてて、面白いですねー。 しかも同じ帝国でも、ドーラの故郷の方が面白そう!という、サプライズですもんね。
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