第69話 事後処理と汚染
感想欄で時々「更新はよ」と言う文言を見かけます。
楽しんでいただけるのはありがたいですが、現在の週1ペースが自身の限界値です。
(言えない……。更新頻度を落とそうと考えているなんて言えない……)
>生殺与奪がLV7になりました。
>新たな能力が解放されました。
<生殺与奪LV7>
対象のスキル・祝福・呪印を無効化することが出来る。
効果範囲は通常のスキル移動と同様。
何故か俺の異能のレベルが上がっていた。ちなみに俺はギガント・マンイーター戦ではアドバイス1回しかしていない。……何で上がったん?
これ、どう考えても七つの大罪の呪印対策だよな。
呪印の中にはテイムできなくするものがあるから、それを一時的に封印して、強引にテイムできるようにするってことだろう。
でもさ……。
今回の場合、ギガント・マンイーターは最初からテイムするつもりのない相手だったぞ?
珍しいよな。俺の異能が、必要なタイミングを微妙に間違えるのは……。
とりあえず、ギガント・マンイーターの死体は、<無限収納>に入れておいた。
最終的にはタモさんに食わせる予定だが、まずは討伐の証拠として領主に見せる必要があるから、持ち帰らなければならない。
領主との契約により、ギガント・マンイーターの死体の所有権は俺たちにある。
領主もギガント・マンイーターの死体を欲しがったのだが、「別料金だぞ」と言ったら簡単に諦めた。
色々と貴重な素材になるだろうから、欲しい気持ちはわかるが、タモさんが優先だから仕方がない。
行きと同じように、近くまで『ポータル』で転移して、そこから歩いてノルクトの街まで戻る。
その隙に異能のレベルが上がったことを皆に伝えた。
「おお!戻ってきたか!その様子を見る限り、無事に討伐できたみたいだな!」
門ではハゲ門番が俺たちを出迎えてくれた。
ハゲのおっさんに出迎えられても、何も嬉しくはない。
「ギガント・マンイーターの死体は領主の屋敷で見せればいいか?」
「おう、依頼主は領主様だからな。それがいいだろう」
そのままハゲ門番とともに領主の屋敷へ向かう。
街の中は相変わらず荒れているが、ハゲ門番が通ったのを見て、声をかけるものがチラホラ現れた。
「ヨシュアさん!魔物はどうなったんですか!?」
「こいつらが倒したから、もう安心だぞ!しばらくしたら、領主様から発表があると思うから、それまで馬鹿な真似はしないでくれ!」
ハゲ門番も質問に答えるので、徐々に騒動も沈静化を見せ始めた。
もしかして、ハゲ門番って顔が広い?ちなみに髪のない頭部面積は広い。
ハゲ門番がいちいち質問に答えるので、若干進みが遅いものの、先程と同じように領主の屋敷に到着した。
そこからの流れも大体同じで、領主の部屋に入る。
「おかえり……、早かったね……。その様子を見るに、無事討伐成功したみたいだね……」
「ああ、ギガント・マンイーターは問題なく討伐した」
「ギガント・マンイーターの死体を見せてくれるかい……?出来れば屋敷の庭で……」
「もちろん構わない」
領主、ハゲ門番と共に屋敷の庭まで移動する。
それなりの広さがある庭なので、ギガント・マンイーターを出しても大丈夫だろう。
「『格納』」
そう言って<無限収納>から、ギガント・マンイーターの死体を取り出した。
余談だが、実際には<無限収納>から取り出しているのだが、誤魔化すために『格納』を宣言している。
「すげえな。疑っていたつもりはないが、直に見るとやっぱり驚くな……」
横たわる巨大な死体を見てハゲ門番が呟く。
「そうだね……。こんな魔物が街に来ていたらと思うと、ゾッとするね……」
死体からでもその脅威は伝わるのだろう。領主が元々青い顔をさらに青くする。
正直、倒れそうで心配だ。
「うん……、間違いなく依頼達成だね……。報酬を支払おう……と言いたいんだけど、申し訳ないけど最初の申し出を受け入れてもいいかな……?」
「ああ、構わないぞ」
「じゃあ、5千万ゴールドと……、土地の権利書と店舗の営業許可証を用意するよ……」
「頼む」
傭兵契約の際に俺が領主にした提案とは、『依頼料を半分にする代わりに、アドバンス商会の店舗をノルクトの街に出店する許可を与える』というモノだ。
平たく言えば営業活動である。領主に頼むのだから確実である。
マリアとルセア曰く、『仁(主)様はそんな細かいことを考えなくても大丈夫です。好きな時に好きなように配下を使うだけで問題ありません』だそうだ。
ただ、ルセアに聞いたアドバンス商会の店舗分布で、この辺りが空白地帯だったから提案してみたのだ。結果、領主はその申し出を受け入れ、この街に新しい拠点が立ち並ぶことになりそうである。
A:(むしろ、マスターに気を使わせてしまったと、ルセアが落ち込んでいるんですけど)。
さておき、少々冒険者ギルドが情けなく、住民の意識もあまり高くはない街ではあるが、商会を運営するには十分な規模の街だろう。
商会の連中には、『不愉快な目に遭った場合、あまり我慢しなくてもいい』と伝えてあるので、いざというときの引き際は間違えないでくれるだろう。
「その前に市民に魔物の脅威が去ったことを伝えたいんだけど構わないかい……?」
「ああ」
俺が許可をすると、領主は部下に市民へ魔物が討伐された旨を伝えるように指示した。
どうでもいいが、ハゲ門番も説明のために出て行った。やっぱり顔が広いみたいだ。
「はい……、これが依頼料の5千万ゴールドと、こっちが店舗関係の書類一式だね……。土地に関しては地図も付けてあるから……」
「わかった。これで依頼に関しては終了だな」
領主の部屋に戻り、約束通りに報酬一式を受け取る。
地図を見ると、商業区にそれなりのサイズの土地が用意されていた。
「ああ……、それで、今からアドバンス商会の人を呼ぶんだよね……?建設業者への仲介はいるかい……?そっちまで援助は出来ないけど、僕の口利きなら多少は安くなるかもしれないよ……?」
「いや、その必要はない。それほど時間はかからないしな」
「そうかい……?」
ルセアに聞いた話だと、メイド部隊には優秀な建築家が揃っているらしい。彼女たちにかかれば、店舗の設立程度は半日あればどうにでもなるらしい。もう、何でもありだな、メイド部隊……。
とにかく、支店店舗に関してはメイド部隊がどうにでもできるので、領主に何かしてもらう必要はない。
これで、必要なことはすべて終了したな。
領主が市民に対して説明するとき、「メープルたちアドバンス商会の傭兵が魔物を倒した」って説明してもらえるようにしたから、『謎の傭兵大作戦!!!』も一応の成功と言えるだろう。
まあ、冒険者ギルドで広めるという方は完全に失敗したが……。っとそうだ。
「ところで、冒険者ギルドのギルド長はどうなるんだ?」
「もしかして……、ギルド長が逃げた件のことかい……?」
「そうだ」
冒険者ギルドのギルド長は、『他の街に救援を呼びに行く』という言い訳を残して、他の街へと我先に逃げていた。
俺たちに関わる話ではないが、少し気になったので聞いておく。
「僕もヨシュアから聞いただけなんだけどね……。もう少し町が落ち着いたら……、その件も併せて公表するつもりだよ……。後の判断は……、市民が決めることだね……。十中八九辞めることになると思うけど……。さすがに市民も許さないだろうからね……」
「今の時点で説明しない理由はなんだ?」
「どう考えても……、余計な混乱を招くだけだろう……?」
「それもそうだな」
まだギガント・イーター接近の混乱が収まっていない内から、さらなる混乱の種をばらまく必要もないだろう。
ある程度の結果は見えているとはいえ、後で市民の判断に任せるというのは、正しい処置と言えるかもしれないな。
後にこの街担当になった商会員に聞いたのだが、この街のギルド長はギガント・マンイーター討伐の報を聞いてから帰ってきたらしい。
帰ってきたギルド長は、市民たちの反発を買い、袋叩きにされて街を追い出されたという話だ。まあ、予想出来る範囲内だな。
ちなみに、冒険者ギルドが信頼を失ってボロボロになっていたところに、アドバンス商会が代わりとなるような事業(ほぼ傭兵業)を始めたことで、冒険者ギルドは事実上の閉鎖状態となってしまった。
さらに、通常の商売も力を入れており、売り上げにおいても他の商店を大きく離すことになった。俺が話を聞いた時には、ノルクトの街においては領主よりも強い権力を持つことになっていた。
何でも、俺が直々に出店の許可を取り付けた店舗だから、信者たちが少々張り切りすぎてしまったらしい。やり過ぎだよ。
「他に聞きたいことはあるかい……?」
「いや、もうないな。あまり長居をしても悪いだろうから、そろそろ俺たちは失礼するよ」
「そうか……。わかった……、今回は助かったよ……」
「気にするな。貰うものは貰ったからな。それにそっちが大変なのはこれからだろ?」
「そうだね……。しなければいけないことはいくらでもあるから……」
ギルド長のことをさておいても、するべきことはいくらでもある。
本来ならば俺たちの相手をしている時間すら惜しいだろう。
メイド(年配)に見送られて領主の屋敷を後にした俺たちは、そのままノルクトの街を観光することに決めた。
折角、今まで来たことのない街に来たのに、観光もせずに帰るのは勿体ないからな。
幸いなのは、領主の宣言により街の混乱が大分落ち着きを見せ始めたことだろう。
さすがの俺も、大混乱の街中を観光と称してうろうろするほど、悪趣味ではないからな。どの口が言うか。
-ぐー-
さあこれから観光だ、というときに、どこからか可愛らしい腹の音が聞こえた。
《ドーラおなかがすいたよー……》
どうやら、ドーラの腹の虫が鳴いたらしい。
「ちょっと遅くなったけど、どこかで昼でも食べるか」
「そうですね……。お腹がすきました……」
《もーぺこぺこだよー》
ノルクトの町まで移動して、領主に話を付けて、ギガント・マンイーターを退治するという一連の流れは、実は半日程度の話なのだ。
その途中で昼を食べる時間もなかったので、さすがにそろそろ腹が減ってきたな。
「よし、そこらのお店で何か食おう」
《わーい!》
「と言っても、あまりお店が開いてないですけどね……」
「そうだな」
まあ、混乱が収まってきたとはいえ、平時と同じようにはいかないだろう。
それでも、少ないながらもいくつかの食事処は再開しているようだな。
アルタ、この街はどんな料理が有名だ?
A:はい。この街の名物料理は卵料理になります。
よりにもよって卵料理と来たものか。
つい最近、後ろにいるハーピィ娘のおかげで、卵に関しては舌が肥えてきてしまっていたんだよな。
もちろん、それはそれとして特産品を楽しもうという気持ちはあるから、ここで食べないという選択肢はないのだけど……。
A:おススメのお店をマップ表示いたします。
近場にもいくつかあるな。メニューの種類が多い、このお店にしよう。
「アルタと相談して、勝手にお店決めちゃったけど構わないか?」
「仁様に従います」
「2人が選んだのなら、間違いはないと思います……」
《おまかせするー!》
「っす」
「だな」
「だね♪」
他の皆にも聞いてみたところ、反対意見は出なかった。
もう少し、要望を出しても構わないのだよ?
折角なので、ミオとセラにも連絡を入れてみた。
「別の国で卵料理喰うんだけど2人も来る?」
「行くわ!」
「ですわ!」
ミオとセラも街の外の『ポータル』から大急ぎでやってきて、結構な大所帯になりつつも件の食堂へと向かう。
結構なバリエーションがあったので、ミオの料理研究のためにそれぞれバラバラなものを注文して食べる。俺の担当は、なんかよくわからんカニタマみたいな料理だった。
A:お望みでしたら材料表示、成分表示、アレルギー表示を実行します。
いや、最低限問題のあるものが入ってなければ、そこまでのことは要求しないって……。
料理は美味かったのだけど、今度ミオがハーピィの卵で同じものを作ってくれるって言っていたので、そっちの方が楽しみになってしまったのは仕方のない事だろう。
昼食を済ませた後は、ミオとセラも連れて街を散策する。
食事をとっている間に街はさらに落ち着きを取り戻したようで、騒動と言う騒動はほとんど残っていなかった。
A:マスター、街の北側で問題が発生しております。
……俺が「騒動がない」と言った途端にトラブル起こるの、止めてほしいんだけど。
で、どんなトラブルが起こったんだ?
A:冒険者1名が、呪印<暴食>に汚染されました。
はい?
『呪印の汚染』っていうのは何だ?
A:『狂化』した魔物は、七つの大罪の呪印を得ます。そして、その『狂化』と言うのは、他の生物を汚染し、いずれ発症します。実際に<暴食>の呪印を得るわけではありませんが、類似した暴走状態へと陥ります。
いまいちピンとこないな……。
A:実際に件の冒険者のステータスを表示します。
名前:アーシャ(狂化・暴食)
LV45
性別:女
年齢:18
種族:人間
スキル:<騎乗戦闘LV7><生活魔法LV2><魔物調教LV8><乗馬術LV7><獣調教LV7><身体強化LV4>
なるほど、『狂化・暴食』と言うのは、ギガント・マンイーターにも記述があったな。しかし、呪印の<暴食>自体は持っていないということか……。
ところで、この冒険者ってもしかして、ギガント・マンイーターと戦ったAランク冒険者?
A:はい。その時に『狂化・暴食』に汚染されたようです。必ず発症するわけでもないですし、対象の呪印が消滅した後に発症するのもレアケースのため、監視だけしていたのですが、不運にも発症してしまったようです。
つまり、相当なレアケースで発症してしまったわけだ。
ところで、俺たちもギガント・マンイーターと接触しているけど、大丈夫なのか?
A:はい。<多重存在>による精神の防衛は、<呪印>の汚染程度では全く影響を受けません。
<多重存在>がレベル2になった時に得た能力は、『精神・記憶の保全、保護』である。
この効果により、俺、及び俺の配下は呪印に汚染されることはない様だ。
ところで、この冒険者は今現在どうなっているんだ?
問題とは聞いたが、具体的な話は聞いていないと思う。
A:件の冒険者は、再開した食堂で食事をとっている時に、『狂化・暴食』が発症しました。そのせいで食欲が制御できず、常に物を食べ続けています。このままでは遠からず、食べ過ぎで死にます。
意外と危ないことになっていた。
助けてやる義理はないのだが、少し気になることがあるんだよな。
『狂化』の状態で俺の配下になったら、<多重存在>の効果で『狂化』は解除されるのか?
A:恐らく解除できます。
アルタもおそらく大丈夫と言っているし、とりあえず、1回試してみるか。
「と言う訳でちょっと街の北側に行って、『狂化』した冒険者を配下にしてくる」
「お供します」
アルタ経由で全員に説明をしてもらい、俺が街の北側に行くことを伝えると、いつものようにマリアが同行を希望した。
配下に加える可能性があるのに、大人数で行って無駄に目立つのもどうかと思うので、他のメンバーには街の散策を続けてもらう。
折角なので、色々と服を買うとミオが張り切っていた。魔物娘の服は少ないから、集中的に揃えるつもりらしい。
実際に街の北側に行ってみると、街の一角、オープンテラスの店舗に何人もの人が集まっているのがわかる。
「うぐうう、お代わり!」
「おい、もう止めろって、腹パンパンじゃねえか!」
「このままだと死ぬぞ!」
そこにいたのは、食べ過ぎで腹が異常に膨れた女冒険者と、それを止めようとする何人かの住民たちの姿だ。
女冒険者の名前は確かアーシャだったよな。ギガント・マンイーターと戦った時の怪我が残っているのか、身体中に包帯を巻いている。
アーシャのいるテーブルには空になった皿が大量に置かれている。パッと見た限りでも20皿以上はあるな。あれだけ食べれば、そりゃあ腹も膨れるだろう。……セラ以外。
「邪魔!!!」
「ぐぼうっ!!!」
そう言うとアーシャは腕をとって止めようとしていた男を殴りつけた。
さすがはAランク冒険者と言うべきか、腹がパンパンでも男一人気絶させるのは訳ない様だ。男はそのまま崩れ落ちて動かなくなる。
「おい!それはやりすぎだぞ!」
他の男が見かねて止めようとする。
再び男がアーシャに殴られるのかと思ったのだが、少し様子が異なっていた。
アーシャは周囲の住民たちを見渡すと一言呟いた。
「料理なんて待たなくても、よく見れば周りに一杯肉が落ちているじゃないか」
「「「な!?」」」
周囲の人たちが驚愕を顕わにする。
アーシャが男たちを見る目は、完全に獣が獲物を見つめる目だった。
A:『狂化』が順調に進行しています。このままだと、食欲のみで行動する獣のようになります。ただし、基本的にはその前に腹が破れて死にます。
ふむ、暴走状態の獣っていうと、吸血鬼になったばかりのミラを思い出すな。
魔剣により自我が崩壊したミラがまるで獣のように行動していたからな。
A:近いですが、魔物になるわけではないので、テイムは出来ません。
いや、別にテイムしたいわけじゃないからね。
するとしても普通に奴隷だよ。
「に、逃げろ!こいつ、普通じゃねえ!」
「おう、こんな奴相手にしてらんねえ!」
そう言うと周囲の住民たちは全速力でその場を後にした。
さっきアーシャに殴られて気絶している男は放置である。やはり、この街の住人の『善意』は低めのようだ……。
あっという間にアーシャの周囲から人気がなくなる。
「ああ、肉が逃げていく……。残念だけど、この肉だけで我慢するしかないか」
アーシャは気絶している男を持ち上げ、その腕に噛みつこうとする。
「それじゃあ、いただき……」
「いや、さすがにそれは許容できねえよ?」
俺はアーシャに接近し、その手から男を引きはがす。
とある理由により、『人間を喰う』と言うのは、俺の中では許容できないNGアクションに設定されている。
魔物ですら人間を喰わせるというのは嫌なのに、人間が人間を喰うなんて言うのは最悪だ。俺の目の前でそんな真似をさせるつもりはない。
「僕の食事の邪魔をするの?それとも、君が先に食べられたいの?」
口調からそんな気はしていたが、コイツ、僕っ娘だ!
この瞬間、アーシャを配下に加えることが確定したのだった。
「……」
俺を害する宣言をしたので、マリアが静かに殺気を漲らせる。
ただし、俺が指示しない限り、いきなり切ってかかったりはしない。躾の結果である。
「まあ、待て。そんなに喰いたいのなら、これでも食ってろ!」
「むぐっ!」
そう言って俺は小さな丸薬を指で弾き、アーシャの口の中に入れる。
今放ったのは『エナジーボール』の魔法によって作り出したセラ用の兵糧玉だ。
さくらの創造した『エナジーボール』の魔法は、使用者のMPを栄養に変換して丸薬にする。
セラは食事を大量にとらなければいけないので、おおよそ20人前分の栄養を持った兵糧玉を毎食食べている。
「お腹が、膨れる!?」
当然、セラ用の兵糧玉を食ったら、普通の人間は腹が膨れすぎて耐えられないはずだ。
「ぐううううう!!!こんなにお腹が膨れたのに!また!お腹が空く!!!」
アーシャの場合、『狂化』の影響で腹が減っているので、いくら食べても満腹にはならない。
「うう、死ぬ。このままじゃ、死ぬ……」
色々と限界が近いのだろう。悲壮感漂う顔でその場に崩れ落ちる。
これは丁度いいな。
俺はそんなアーシャに近づいて呟く。
「俺の奴隷になるのなら、その苦しみから解放してやるぞ」
正直言って、悪魔のささやき以外の何物でもない。
「なる!なるから、助けて!」
一切の躊躇なく言うアーシャ。余程厳しいのだろう。
すぐにアーシャは着ていた服をめくり、背中を露わにする。
いつものように血を1滴たらし、<奴隷術>を発動させる。マリアはこっそり移動して、周囲から<奴隷術>の発動が見えないようにしている。
本人が望んでいる以上、何の抵抗もなく<奴隷術>は成功する。
じゃあ、アルタ、頼む。
A:了解しました。治りました。
早!?
A:精神が壊れているわけではありませんので、<多重存在>を適用するだけでした。
ああ、そうか。別に細かい作業をしたわけじゃないのか。
「くぅ……」
アーシャは『狂化』から解放され、満腹が限界を超えていたせいで気絶してしまった。
当然と言えば当然なのだが、アーシャのいる場所には人気がなくなったが、少し離れた場所からこちらを覗いている人間は大勢いる。
奴隷化自体は隠して行ったから、周囲の人間にはバレていないと思うが、それでも騒動の中心に俺たちが関わったのは誰が見ても明らかだ。
基本的に無関係な人間に対する説明は好きじゃない。
説明できないことが多すぎて、言い訳を考えるのが面倒だからな。
と言う訳でここは……。
「すいませーん。会計お願いしまーす」
説明とか全部無視して、普通に去ることに決めました。
《マリア、このままこの場を離れるぞ》
《はい。この女性は私が担いでいきます》
《いや、ただでさえ気絶した女性を抱えていたら目立つのに、それを小さい女の子がやったら余計に目立つだろ?》
《無念です。私がもう少し大きければ……》
マリアに抱えさせたら余計に目立つので却下する。
そして、アーシャの食った分を俺が立て替え、倒れている男に念のため『ヒール』をかけ、アーシャを担いでその場を離れる。
みんなの元に戻るのもいいが、アーシャを抱えたままと言う訳にもいかないので、1度『ポータル』で屋敷まで戻った方がいいかな。
A:それでしたら、アドバンス商会の支店建設予定地に向かってください。
何で?
A:行けばわかります。
そう言われたら行くしかないな。
基本的にアルタが俺に言わないのって、些事(世間的には大事のこともある)か俺を驚かせようとしている時のどちらかだからな。
そのままアルタの言う通りにアドバンス商会の店舗を建設中の区画に向かう。
「なるほど、これは驚きだ……」
そこにあったのは、8割がた完成した立派な店舗だった。
店舗自体は2階建てで、一部は従業員用の宿泊設備になっている。
まだ、土地の権利を手に入れてから3時間くらいしかたっていないんだけどね……。
A:<無限収納>による資材運搬の効率化。<契約の絆>による指揮系統の確立。<生殺与奪>による身体能力の向上。建設業務に必要な能力は十分揃っています。
言われてみればそうだな。
普通に考えて、元の世界以上の建設能力があると言っても過言ではないだろう。
「仁様、ようこそいらっしゃいました」×20人以上。
「……おう、お疲れさま」
俺が建物に近づくと、メイドたちが一列になってお辞儀をした。
アルタから連絡を受け、作業の手を止めて俺を迎える準備をしていたらしい。
ちなみに全員メイド服である。曰く、『作業着ですから』だそうだ。……メイド服は確かに作業着だが、土建の作業着ではないんだけどな。
メイドたちに案内され、建物の中で一番上等そうな部屋に入る。
さくらたちも観光や買い物が終わったら、この店舗に向かってくるようだ。
今から町の外に出るのも不自然だし、今日はここで一泊するつもりだ。もしくはここから『ポータル』で帰る。
遠くまで観光に来ても、いつでも家に戻れるというのは素晴らしいね。
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裏伝
*本編の裏話、こぼれ話。
・アドバンス商会
ルセアが立ち上げ、仁の配下であるメイドたちが運営している商会。
名目上の責任者はルセア(ルセアは表向き仁の奴隷と言うことにはなっていない)だが、仁が望めはその瞬間全て仁の物となる。
本店はカスタール女王国の王都にあり、エステア王国、アト諸国連合に多くの支店を構えている。
仁の影響を多く受けているため(ほぼ100%)、貴族関係のトラブルには非常にシビアな対応をとる。
アト諸国連合にある国の1つで、国の重鎮がアドバンス商会に対して不利益にしかならない様な取引を強制しようとした際、国の方に文句を言ったが取り合ってもらえなかった。次の日、その国にあった店舗は全て撤去され、以後、その国に関する相手との取引は0になった。仁がその国に行きたいといった場合、やんわりと止める予定である(やんわり以上は止めない。後は頑張る)。
次回、狐編開始(狐はまだ未登場)。
アーシャは後で少し絡みがあります。酷い話です。多分、自分史上最大級に酷い話です。




