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ざわり。吹くはずのないわずかな風を感じた。
視界の端にキラリと光る何かが映る。途端、スーノの背中がぞくりと粟立った。
ーー森には魔物がいてね……。
心踊らせた、おとぎ話。だが、今のスーノは別の意味で心臓が踊っていた。だらだらと冷や汗も出ている。
「そんな、はず、ない」
落ち着け。気のせいに決まっている。
またキラリと森の向こうで光った。
気のせいじゃ、ない。
確信したスーノは息を潜めた。宝石でできた木の幹に身を隠す。これがどこまで通用するのか分からないけれど。
ドクドクと脈打つ心音がうるさい。向こうにまで聞こえているんじゃないか。そう思った彼は何度も小さく深呼吸を繰り返した。
光は近づいているようで、遠ざかっているようにも見える。
――早くいなくなれ。
何度も何度も、願った。
何時間も経ったかのように思えた頃、すうっと光の点は森の奥へと消えた。
「……はっ、へへ……」
ズルズルと地面にへたりこむ。詰めていた息を吐きながら、スーノは安堵の笑みをもらした。