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あるヒーローの苦悩  作者: いとみ
番外編・後日談
4/6

苦労性ヒーロー、兄もやっぱり苦労性

 セクハラまがいなことをした男に鉄槌を喰らわせ、紫は家に逃げ帰った。

 電気工事会社兼自宅は幸いにも休日で誰もおらず、紫はボロボロになった自分を誰にも見られずに済んだ。

 ビルの三階の居住部分に駆け込み、扉を閉めると同時にその場に崩れ落ちた。自分のテリトリーに帰ってきたことに、安堵で涙がボロボロと流れる。

 紫の精神は限界を超えていた。今日は色々と衝撃的なことがあり過ぎた。


 叔父と敵のトップである女との因縁。

 その諍いに巻き込まれてこれまで散々苦悩したのに、突然告げられたチーム解散。

 爆弾の解除による極度の緊張。

 姪の命より最愛の女を選んだ叔父の仕打ち。

 これまでの叔父作の物とは比べ物にならないほどの威力を持った爆発。

 自分を庇った男の傷だらけの姿。

 自分の目の前で人が死ぬかもしれない恐怖。

 そしてその男からされた数々のセクハラ。


 その全部が全部、原因だとは言わない。

 しかしこのときの紫には、半ば八つ当たりのように全てを叔父のせいにすることしかできなかった。


「絶対に許さない……」


 低い声で呟き、電話を手にした。



※※※



 朝、いつものように会社に入ると何やら騒がしい。


「おはよーっす。なんかあったんすか?」


 しきりに上階を気にする同僚達に声を掛ければ、戸惑った表情の後輩が答えた。


「あ、先輩。社長が上で騒いでて……」

「オッサンが?」


 「今度は一体何をしたんだよ、あのオヤジ……」と呆れていると、社内で一番のベテランが苦笑した。


「紫ちゃんが籠城しているんだと。何でもドアの鍵まで換えて」

「紫が?」


 口煩いが割と温厚な妹が籠城? ドアの鍵まで換えた?

 ただ事ではないと慌てて階段を駆け上がる。

 三階に着いたとき、叔父の大声とともにドアを乱暴に叩く音が耳に飛び込んできた。


「紫ィ! 開けろ! 鍵まで換えやがって、ふざけんな!」

「オッサン、朝からうるせーよ。下まで聞こえてるぞ」


 俺に気付いた叔父が鬼の形相でこちらを向いた。

 近寄ると似つかわしくない香りに思わず眉を顰める。


「うわっ、加齢臭まみれのオッサンからバラの匂いって……何の拷問? また朝帰りかよ。今度はどこの店の女だ」


 呆れていると、目の前の男は眉を下げて急にしおらしくなった。


「……ちげーよ。そんなんじゃねー」

「あ?」

「今度はマジなんだ」


 また始まったか……と大きくため息をつく。


「今度は何だ。親の借金? 店の開店資金? 弟の学費? ……もういい加減落ち着けよ。何度同じように騙されて、女から金巻き上げられてんだよ」


 このオッサンはよく女に騙されて金を巻き上げられる。

 まだ独身だった俺と紫が二人で住んでいた、父親名義のこのビルの居住部分に叔父が転がり込んできたのは、金を巻き上げられて住んでいたところを追い出されたことがきっかけだった。

 最近ではそれも少なくなり、アホみたいな発明に熱心だとばかり思っていた。


「今度はいくらだ」

「ちげーっつってんだろ!」

「じゃあ相手はどこの女だ。言ってみろよ」


 凄むとフイッと視線を逸らした叔父が、ボソッと呟く。


「……姫乃」 

「あぁ?」

「……だから、姫乃だって言ってんだろ。何度も言わせんな!」

「姫乃って……あの姫乃か?」


 姫乃と言われて頭に浮かぶ女は一人しかいない。自分の幼馴染で、この男の最愛の元カノだ。

 今度と言う今度は、この男のヘタレ具合に心底愛想が尽きた。


「二十年以上経ってやっと元鞘かよ。……ったく、こじれるだけこじれて、周囲を巻き込んで、あっさり纏まったわけだ。お前らガキか。今日日きょうび、中坊でももっと上手くやるわ」

「うっ……」


 一切反論できないのだろう。苦虫を噛み潰した顔で黙り込む。

 あたりめーだ。言い訳なんぞ聞いてやらねー。


「これ以上オッサンがギャーギャー喚いても、アイツは余計意固地になるだけだ。ここは俺に任せて、たまにはオッサンが外回りしてこいよ」

「俺が?」

「最近外回りしてっと『社長は元気か』って聞かれんだよ。いい機会だから顔見せてこいよ」

「でもよー」

「それにみんながオッサンに会いたがってんのは、十中八九オッサンの見合い話だろうよ。いい歳してフラフラしてんだからな。姫乃にマジなら、ちゃんと断ってこい。ケジメつけろよ」


 俺の言葉に思うところがあったのだろう。素直に下に降りて行った。

 叔父の気配が消え、俺はドアに声を掛けた。


「紫、俺だ。もうオッサンはいねーから、ここ開けろ」

「……お兄ちゃん?」


 か細い声がして、かちゃっと鍵が開く音がした。

 ゆっくりとドアが開くと、泣いたと丸わかりの真っ赤な目をして、目元を腫らした妹が出てきた。


「おま……そのひでー顔どうした」

「っ……お兄ちゃん!」


 ものすごい勢いで胸に飛び込んできた紫を抱き留める。

 ガシッと俺の作業服を掴んで「ふぇええ」とガキみたいに泣き出した。

 若干動揺しながら背中を軽く叩いてあやし、部屋の中に入った。

 入ってすぐの居間のソファーに座らせ、まだぐずる妹に声を掛ける。


「言えよ。どうした。あのオッサンがまたなんかしたのか?」


 鼻をすすりながらぽつぽつと告げられるチーム解散話を聞き、呆れ半分、怒り半分な気持ちになる。


「なるほどなー。知らん間にそんなことになってたとはなー」


 紫はまだ小さかったから、叔父と姫乃の因縁を知らないのも無理はない。

 二人のせいで戦闘の内情も大きく変わってしまったため、お互いの解散も仕方がないことかもしれない。


「でも、あれだけ悩んでいたのに、辞めたかったのに……いざそうなってみると、もう何が何だかわからなくて……」


 混乱しているのが見て取れる。

 仕方ねーか。家業という鎖で雁字搦めにされていたのに、実は家業ですらなかったのだ。

 あのオッサン、わざとコイツを辞めさせなかったな……。


「でも、それだけじゃねーんだろ?」


 促すと、その後の爆弾作動と叔父の仕打ちを聞かされてカチンときた。


「あんのクソオヤジ……。姪の命より快楽優先しやがったか!」

「一応ね、教えてくれたんだよ。でも姫乃さんに何かされていたようで、途中で電話が切れちゃって……」

「あのアマ……」


 魔性のような女の顔を思い浮かべ、チッと舌打ちをする。

 それを見て俺と姫乃が知り合いだと思ったのか、おずおずと訊いてきた。


「ねぇ。お兄ちゃんは、叔父さんと姫乃さんの関係を知っていたの?」

「ああ。姫乃は俺の幼馴染だ。とはいっても歳は結構離れてんだけどな」

「結婚を反対されたって……」

「あたりめーだろ。あの二人が結婚云々って言いだしたのは、姫乃が十六になってすぐのことだ。普通の親なら、せめて高校卒業まで待てって言うのは当然だろ」

「十六で結婚……」

「双方の親も別に交際自体は反対なんてしてねーし、姫乃が卒業してから一緒になればよかったんだ。それを『今すぐ結婚したい』だの『認めてくれないなら心中、駆け落ち』って……考えがアホ過ぎだろ。で、何がどうなったのか、互いにいがみ合って今に至るってわけ。傍迷惑な野郎どもだ」


 喧嘩するなら二人でやれっつーの。


「もういい。あいつらのことは後で俺がお灸据えてやる」

「うん……。叔父さんも何色かをはっきり言ってくれればよかったのに。私の好きな色って言われても別にないし……」

「お前は何色切ったんだ?」

「紫」

「そりゃ爆発するわ」


 即答した俺に、紫は不思議そうな顔をする。


「どうして?」

「だってあのオッサン、お前の好きな色は赤だと思ってるから」


 あれはそう、俺がレッドだった頃。

 戦闘をこっそり見ていた幼い紫が、家に帰ってから興奮したように言ったのだ。


『お兄ちゃん、かっこいい! 紫、大きくなったらレッドになりたい! 赤色が一番好き!』


 オッサン、多分あの言葉を聞いてずーっと信じてたんだろうな。

 ほんと、単純。あれは俺がレッドだったから好きだと言っただけで、ただの赤が好きなわけじゃねーっつーの。


「しかし爆発した割には無傷だな。逃げられたのか?」


 その指摘にビクッと身体を震わせ、顔を真っ赤にしたと思ったらまた急に涙ぐみ始めた。


「おい、どうした……」

「う、うわぁああっ!」


 今度は声を上げて顔を両手で覆い、ブンブン頭を振り始めた。

 おい、本気で大丈夫か? 病院に連れて行った方がいいか?


「悶えてないで話せ!」

「も、悶えてなんかないわよ!!」


 怒り出した紫を何とか宥め、ようやく話を進めることができた。悪の秘密結社幹部No.2との出来事だ。

 話を最後まで聞き終え、言いようのない疲労感が襲ってきた。


「……あの野郎」

「お兄ちゃんはNo.2を知っていたっけ?」

「ああ……ちょっとな」

「あの男のセクハラに屈してしまった自分が情けない……」

「しょーがねーよ。お前男に免疫ねーんだから。不可抗力だから落ち込むな」

「バ〇サン焚いたら撃退できるかな?」

「ゴキより生命力強そうだな。なんならゴキブリホ〇ホ〇で捕まえて、ゆっくりじっくり息絶えるのを待つっつーのもいいな」

「お兄ちゃん……ちょっと怖いよ」


 いや、マジだけど? かなりムカついている。

 しかし、その怒りをひとまず抑える。


「で、これまでの話を総括すると、いろいろあり過ぎて頭パッカーンってなって、全部をオッサンのせいにして、ドアの鍵を換えて籠城か。オッサンを締め出すために」

「うん」

「お前は悪くねーな。全部が全部オッサンのせいではないが、半分以上はアイツのせいだ」

「……叔父さん、怒っていたよね」

「ああ? いーんだよ。似合ってねーバラの香りをプンプンさせて朝帰りだ。十分お楽しみだったんだ。気にすることねー。いざとなったら姫乃んちに転がり込むだろ。それよりお前、ちょっと熱いぞ。熱あるんじゃねーか?」


 抱きつかれたとき、妙に体が熱かった。顔が赤いのも目がやけに潤んでいるのも、怒りや羞恥だけが原因とは言い切れない。

 紫は思い当ることがないのか、首をかしげている。


「え、そうかな? 泣き過ぎて頭は痛いんだけど」

「今日はこっちに帰ってこい。熱あんならここじゃ心配だし。準備してこいよ。送ってやる」

「でもお兄ちゃん、仕事……」

「全部オッサンにやらせる。今までアイツはサボり過ぎだ。……仕事と言えば、お前は?」

「う……ごめん。ズル休み」

「ま、いいんじゃね? 誰しもそういうことはある」

「そうだよね。明日からは真面目に行きます」

「なら早く荷物まとめてこい」

「うん」


 また顔は赤いものの、ようやく少し元気になったようで、紫は自分の部屋に駆け込んでいった。

 俺は一旦廊下へ出て、携帯でとある番号に電話を掛けた。長いコールの後聞こえた声は寝起きで不機嫌そうだった。


『もしもし……』

「おい、テメー。人の妹泣かせやがったな。ぶっ飛ばすぞ」

『先輩、勘弁してください……俺、寝たばかりで……』


 テンションの低い声の主は、見目のよい大学の後輩だ。

 たまたま見かけた紫に一目惚れしたらしく、俺に仲を取り持つように頼んできた。

 この男が妹に相応しいかを何年か掛けてじっくり吟味し、ようやく許可を出したのはつい一年ほど前。だが、それは間違いだったのだろうか。


「知るか。テメーの事情なんか知りたくもねーよ。俺はテメーに言ったよな? 『テメーのバーを紫に紹介してやる。アイツが好きなら口説いてもいい。だが泣かすな、傷つけるな。破ったらただじゃおかねー』って」

『……紫ちゃん、泣いたんですか?』

「あたりめーだ。アイツは野郎に免疫ねーんだ。テメーのやったことはアイツの脳みそにはキャパオーバーだ。何が『唾液も涙も蜜のように甘い』だ。何が『下の口もさぞかし美味』だ。鳥肌立つようなキザったらしいこと言いつつ、サラッと下ネタぬかしてんじゃねーぞ!」

『……そこまで聞いたんですか。まいったな……』


 本当にまいっているようで、普段の自信ありげな口調とは対照的に弱々しい。


「紫は俺に隠し事はしねー」

『……妬けますね』

「どうだ、羨ましいだろう」

『ええ、本当に憎たらしい』


 低くなった声に「ああ、マジで怒ってんなー」と思いながら続ける。


「とにかく、今回だけは大目に見てやる。その代わり、今後アイツに無理強いしやがったら、そのときはこれまでテメーが秘密裏にしてきたこと全部紫にぶちまける。マスターへの信頼を失い、No.2への憎しみもさらに強固になるだろうな。百年の恋も真っ青だ」


 しばし無言だった。しばらくして返ってきた言葉に力はない。


『……わかりました。当分の間、No.2として直接彼女に接触はしません。マスターとしても、節度を持って接します』


 満足のいく返事を貰い、ようやく怒りを鎮める。ついでなので質問をした。


「なぁ二階堂。ずっと訊きたかったんだが、テメーはマスターかNo.2、どっちを紫に選んでほしーんだ?」


 帰ってきた言葉は非常に物騒だった。


『……紫ちゃんが俺を選んでくれれば、どちらでもいいんです。どちらも俺には変わりないので。マスターの俺は彼女に優しくして、ドロドロに甘やかしてあげたい。でもNo.2のオレは彼女を虐めたい。どんな手を使ってでもオレのものにして、オレなしでは息もできないぐらいに依存させたいんです』

「……兄としては、ぜひマスターにお願いしたいところだ」


 なんでこんな変な男しか妹に近づいて来ないんだ。

 紫、お祓いにでも行った方がいいんじゃねーか?


「もし無理強いしそうになったら、後腐れのない女で発散してこい。交際前なら許す」

『冗談はやめて下さい。紫ちゃん以外の女には食指は動きません』

「あ? っつーことは、まさか……」

『そのまさかです。彼女に一目惚れして以来、誰とも関係を持っていません』

「……恐れ入ったよ」


 もう何年だ? とんだ賢者がいたもんだ。


『心配しなくても当分手は出せませんよ。あばら骨一本やっちゃったので』

「それ、あの爆発でか?」

『…………』


 無言は肯定なのだろう。


「二階堂……ありがとな。紫を守ってくれて」

『当然のことをしたまでです。俺の大切な人ですから』


 畜生。これだから変態でも、こいつに紫を任せてもいいって思っちまうんだ。

 しかし釘を刺すのは忘れない。


「だが調子に乗るなよ。今度セクハラまがいな真似したら、テメーの家を漏電させてやるからな。事故に見せかけて確実に葬ってやる」

『怖いこと言わないでください。でも……約束します』


 二階堂との電話を切り、すぐに家に連絡を入れる。

 紫が熱を出したと告げると電話口の母親は少し慌てていたが、久しぶりに娘が帰って来るとあって嬉しそうだ。

 電話を終えると同時ドアが開いて紫が姿を見せた。


「あれ、電話していたの?」

「ああ。家にな。母さん、ちょっと喜んでた」

「そっか。あまり帰らないもんね」

「近いんだから顔見せてやれよ。俺達に気でも使ってんのか?」


 今、両親と俺達夫婦は同居している。だからか妹はあまり家に寄りつかない。

 紫は首を振ってそれを否定した。


「そんなことないよ。これからはそうする。休みの日も戦闘なくなったから時間あるし。」


 手にしていたかばんを持ってやり、足早に階段へ向かった。振り向くと、妹はまだドアの前で立っていた。


「何ぼっとしてんだ。置いてくぞ」


 ハッとして慌てて鍵をかけ、走って俺の腕にしがみついてきた。


「お兄ちゃん」

「あ?」

「ありがと」

「何言ってんだよ、ばーか」


 今のところ二階堂より、俺の方が紫に頼りにされてるよな?

 そんな簡単にかわいい妹はやらねーぞ。




※※※




 紫を家に送った後で会社に戻ると、やけに疲れた顔の叔父がぐったりとソファーに寝そべっていた。

 今は仕事中だろうがと苛立ち、足で蹴飛ばしてソファーから落とした。

 ドサッと勢いよく床に腰を打ち付けたらしく、呻きながら腰を擦った。

 代わりに俺がそのソファーに座る。


「っ、いって―な! もっと年寄りを労われ! 久々の外回りでしんどいんだよ」

「あ? あの程度のことでへばってんなよ。オッサン、話がある。座れよ」


 立ち上がって向かいのソファーに腰かけようとしたので、止めた。


「ちげーよ」

「あ?」

「そこじゃねーよ。床だ」


 顎で指し示せば、怪訝な表情を返される。


「床?」

「これから説教するんだ。床に正座だろ」

「馬鹿言ってんな。何で俺がおめーに説教なんて……」

「紫から全部訊いたぞ。テメー、姪の命より快楽優先しやがったな」


 指摘すれば気まずそうに視線を逸らし、大人しく床に正座した。


「ちゃんと何色かを教えておけば、こんなことにはならなかったんだ。緊急事態にもったいぶってんじゃねーよ」

「でも、爆発してねーんだろ? そうガミガミ言うなや」

「あ? なめたこと言ってんな。爆発して、現に怪我人出てんだよ」

「……したのか、爆発」


 急に顔を青くして絶句しやがった。今更だっつーの。


「怪我をしたのは、紫か?」

「ちげーよ。あっちの幹部だ。紫を爆発から庇って、あばら折ってんだよ」


 自作の爆弾で怪我人が出たことに、本気でショックを受けているのだろう。さっきまでの勢いはない。


「普段なら火薬の量は必要最小限で怪我しねー程度にしてんだろ。何で今回は火薬の量増やした?」

「……姫乃が来るって聞いたから」

「それで『こんなすごいもん作れるんだ』ってこと誇示したかったってか? それとも本気で全員巻き込んで無理心中図ろうとしたか?」


 叔父は答えない。ずっと俯きがちに唇を噛んでいる。そのウジウジしている様に、怒りが沸点を軽く超えた。


「馬鹿かテメーは! 警察沙汰になってテメーがどうなろうが知ったこっちゃねー。けどな、会社や家族に迷惑かかるんだぞ。それわかってんのか!」

「……わりぃ」

「とにかく二階堂に菓子折り持って謝罪に行け。着いていってやるから。それから姫乃に言っとけ。二階堂への慰謝料と治療費はテメー持ちだって」

「姫乃に? 何で……」

「そんなもん、アイツも同罪だからに決まってんだろ。それに金だけは腐るほど持ってんだ。あるとこから取るのは当然だろ。オッサン、金持ってねーからな」


 後ろめたいことがあるせいか、叔父は反論することもなくそれを受け入れた。


「ったく、どいつもこいつも手間かけさせやがって……」


 二階堂に謝罪に行く準備をしている叔父を待つ間、疲労が一気に圧し掛かって眩暈がした。




紫はブラコン

お兄ちゃんはシスコン

ついでにお義姉さんもシスコン

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