鏡 9
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「ねぇねぇ・・・山下が、夏は絶対甲子園だぁ! って言ってたけどぉ・・・実際のところはどうなの?」
心臓が飛び出るかと思った。
朝・晩の練習に加えて、勉強にまで追いまくられている俺は休み時間などはほとんど寝て過ごしていた。
ところが今日はたまたま起きていたんだけど、起きていた・・・というよりは、窓の外の方を向いて目を開けたまま眠っていたような状態で、そんなときに突然弥生に話しかけられ、俺の心臓は車のエンジンのように激しくピストン運動を始めた。
「お・・・おう・・・大丈夫だよ。任せとけ。」
「あたしの友達で聖蘭行ってる野球オタクから聞いたんだけど、宮田ってマジ凄いんだって?」
「うん。真一はマジですげーよ。」
「岸田ぁ・・・実は正志だって相当すげーんだぞ。今度の雑誌の取材で2人とも取り上げられんじゃねーか?」
横から割り込んできた田中が言ったのは、先日、高校野球を主宰している新聞社から学校に申し込まれた取材の話だ。
「えーっ!清水雑誌に載るの?」
「さぁ・・・学校に申し込みがあったらしいけど、俺ら詳しいことは聞かされてないからな。それにメインはもちろん宮田だしな。」
「へぇー、でも清水も候補くらいには上がってるんでしょ?・・・ならやっぱり凄いじゃん。ちょっと放課後、練習とか見に行ってみようかな・・・」
え・・・
どうするよ・・・俺・・・
弥生が見に来るよ・・・
困惑しながらも口元が緩むことを止められない。
「真一っ。どこ言ってたんだよ。」
「どこって・・・トイレだよ。」
「ばか。ションベンなんかして場合じゃないぞ。今日な・・・弥生が来るぞ。」
「え?正志んちか?」
「ばかやろう。来る訳ねぇだろ。練習だよ。放課後練習見に来るってよ。」
「なんだ・・・練習かぁ・・・まぁ、それじゃあ俺は清水さんが張り切り過ぎて怪我とかしないように祈っときますわ。」
「ばか。チャカすなよ。 ってか、俺どうしよう・・・真一。」
「普通にやれば?いつも通り。変に意識するとマジで失敗するぞ。」
「そうか・・・そうだよなぁ・・・よし。頑張るぞっ!」
その日の俺は、真一に言われたように、やはり少し張り切りすぎていたのかもしれない。おかげで夜のランニングでは、危うく真一に置いていかれそうになったくらいだ。
んでも、やっぱり可愛いよなぁ・・・
フラフラの頭で無理やり開いた教科書は、俺に何も訴えてくるものがなく、気が付けば練習を見に来ていた弥生のことばかり考えていた。
友達と手を叩いて笑っている弥生。
友達の耳元で何かを小声で囁いている弥生。
時折グランドに向けられる真剣な眼差しは、俺でなくともドキリとさせられるはずだ。
絶対勝つぞ。
勝って弥生を甲子園に連れて行ってやるんだ。
俺が・・・
俺がこの手で・・・
頑張ってね・・・
おう、任せとけ・・・俺が絶対お前を甲子園に連れて行ってやる・・・
ホント? 絶対だよ・・・
うん。約束だ・・・
嬉しい・・・真ちゃん・・・




