鏡 4
4
高校生になった俺たちは当然のように野球部に入る。 真一は、ショート兼控えのピッチャーで1年からレギュラーを張り、俺はベンチからそれを応援した。
「正志は1年からベンチ入りかよ・・・やっぱり俺らとはモノが違うよな。」
高校に入ってもやはり真一は別格だった。皆にとっては、どうやら羨む対象にさえならないらしい。もちろん、それは俺にしたところで同じなんだけど・・・
ただ、他のヤツらと決定的に違うのは、俺にとって真一の活躍は羨むどころか誇らしくさえあったことだ。
『どうだ?真一はこんなにも凄いヤツなんだぞ。』
真一の活躍に心が躍った。
真一が打てば自分のことのように嬉しかった。
逆に真一が打たれたときにはどうしようもない無力感に襲われた。
真一が通用しない。
それは自分などは全くの論外なのだという証拠を突きつけられたに等しかった。
真一がいる限り2番であることは仕方ない。
でも、3番になることだけは嫌だった。
夜、一人で鏡を見る。
そこに映っているのは清水正志という2番目の男だ。
じっと見る。
鏡の中の自分の目だけを、射るように見つめる。
少し、赤い血管の浮き出た白目に囲まれた黒目の部分。
よく見ると真ん中の瞳を中心に放射状に細かい線がびっしりと広がっている。そして少し離れて見ると、黒目全体に俺の顔が映っている。恐らくその映っている顔の中の瞳には、更に俺の顔が映り、その顔の中の瞳にも恐らく・・・
あまりにもじっと目を見開いたまま見つめ続けていたせいで自然と涙が溢れて来た。
何故、ここに映っているのは清水正志なんだろう。
これが宮田真一だったらどんなに良かったか。
真一になりたかった。
そう・・・俺は真一になりたかったんだ。
苦しかった。
辛かった。
真一に憧れ、真一を追いかけ、真一になれずに諦めた。
俺が真一だったら・・・
夢の中のように真一になって自由に遊べたら・・・
ハデなファインプレーなどではなく、素人には分からないような難しいバウンドのゴロをなんなく捌き、当たり前のような顔でベンチに引き返す。
クラスの中でも決して自分からは目立とうとせず、さりげなく学年トップを守り続ける。
冗談でクラスを沸かすことはないが、恋や勉強などの真剣な相談には親身なって乗ってやる。
ん?
そうか・・・
こうやってなれば良いんだ。
俺はいつの間にか真一になって遊んでいた自分に気づいて驚いた。
涙でぼやけた視界に映る鏡の中にはさわやかに笑う真一の顔があった。




