鏡 3
3
「正志君は本当に良く食うなぁ。」
「それだけだもんね。真一君に勝てるのは。」
クリームシチューを取り分けながら俺の母親が笑う。
「あら・・・そんなことないわよ。正志君は面白くてクラスでも1番の人気者だって先生もおっしゃってたわよ。」
「そうなのよぉ・・・大して役に立たないことだけは得意なのよねぇ。」
夜、部屋に戻って鏡を見る。
そこに映っているのは、クラスの人気者という役回りを必死の思いで演じ続けている2番目の男だ。
暫くして今度は窓を見る。
この窓とほんの少しの空間を隔てた先にある窓。
その先には真一がいるはずだ。
何をしているんだろう・・・
俺はまるで恋する女の子のように、狂おしいまでの気持ちで真一のことに想いを馳せる。
寝転がって漫画でも読んでいるか?
それともゲームでもしているのか?
時々、難しい本を読んでいることはあったが、俺は真一が勉強しているところなど、ほとんど見たことがない。
敵わない・・・
世の中には稀に天才と呼ばれる者がいるのだそうだ。
「宮田は天才タイプ。それに比べて正志は努力の人だよな。」
完全に別格扱いの真一に対して、俺は庶民のヒーローなのだろう。
努力はする。
でも、真一に対抗するのはほとんど諦めた。
鏡の中の男は所詮2番目の男なのだ。
しかし、3番目の男にならないための努力をしているに過ぎない。
そして俺は眠りに就く。
ベッドの中で俺は時折真一になって遊んだ。
テストの結果発表。
体育の時間。
そしてクラブ活動。
小学校のかけっこで、真一になって一番でテープを切る。
中学の時の球技大会で、相手チームをノーヒットに押さえた。
廊下の壁に張り出された実力テストの結果発表を、興味なさそうに横目で確認し、颯爽と歩き去る。
弱いものには優しくしてやり、乱暴者には言葉で諭す。
夢と現実の境目では俺は万能だった。
真一は万能だった。
朝、目が覚めたら俺はやはり俺だった。




