鏡15
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その後、真一の逆転サヨナラ2ラン・ホームランで何とか準決勝には勝ったものの、指先の感覚が戻らないまま登板した真一は決勝戦でも見事に打ち込まれ、俺達の高校2年の夏が終わった。
「なぁ正志・・・」
いつものランニング・コースの土手に今日は2人とも制服のままで座っていた。
本当なら甲子園の準備で大忙しだったはずの今、一体何をすれば良いのか分からず、かと言って何もする気が起きず、ただぶらぶらと歩きながらここまで来てしまった。
「ん?」
「俺さぁ・・・実は甲子園行ったら今年で野球部辞めようかと思ってたんだ・・・」
「え!マジかよ・・・って・・・実は俺も同じこと考えてた。」
「マジで?」
「うん・・・ってか、お前はまだ大丈夫だろ?俺なんかこないだ総合で学年5位まで落ちたんだぞ。」
「うん・・・実はな、気ぃ悪くすんなよ。俺は今回の正志の成績見てそうしようと思ったんだ。実際俺も最近ヤバくなってる。このままじゃ、絶対いつか誰かに抜かれるのも時間の問題なんだ。」
「お前は・・・って、大丈夫じゃ・・・なかったんだよな。そう言えば・・・」
そうなんだ・・・
真一も思ってたような特別な人間なんかじゃなく、俺たちと同じ普通の高校生だったんだ・・・
「俺ってさぁ・・・態度には出さないけど実は結構負けず嫌いなんだよな。」
「ま、そうなんだろな。マジで最近まで知らなかったけど。」
そのことを知って以来、俺は以前ほど真一になることがなくなっていた。
「うん。・・・で、甲子園を最後に・・・って思ってたんだけど・・・辞められなくなっちまったなぁ・・・」
「辞めらんねぇなぁ・・・」
それよりも俺には他に大きな関心事があった。
そう・・・
甲子園を決めたら告白・・・
そして以前ほど・・・の唯一の例外が弥生のことだった。
『ね・・・宮田落ち込んでなかった?』
それを同じ野球部の俺に聞くということがどういうことか分からないくらいに弥生は真一のことを本気で心配していた。
「これからどうする? 正志。」
「うん・・・」
「俺はここでお前が辞めたとしても何も文句はないぞ。正志。」
「お前はやっぱり続けるのか?」
「この場で結論出すつもりはないけど、今の気持ちだけを言えば・・・んー・・・やっぱりこのままじゃ悔しいな。」
「そうか・・・俺も今は答出ねぇや・・・ってか、そんなことより・・・」
「ん?」
「あぁーどうしよっかなぁ・・・」
「何だよ。」
「はぁ・・・弥生だよ。俺、甲子園決めたら告白するって言ったじゃん。負けることなんて全く考えてなかったもんよぉ。」
負けることなんかこれっぽっちも考えていなかった・・・
いや・・・本当は単に考えることから逃げていただけなのかもしれない。
「あぁ・・・そう・・か・・・」
ん?
今のは何だろう・・・
「なぁ、どうしたら良いと思う?真一。」
「・・・んー・・そうだなぁ・・・」
何だ・・・その表情は・・・
知ってる。
俺はこの表情を知ってる。
何だ?
俺は今味わってるこの違和感を以前にどこかで・・・
何だ・・・真一・・・何を隠している・・・
「ま、今日のところは帰ろう。俺たちは疲れてるんだ。こんなときに何かを考えてもロクなことにはならない。な、正志。」
言うだけ言うとさっさと立ち上がりこっちを見下ろした真一の瞳には・・・何か俺の知らない感情が映っていた。




