鏡11
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「小橋たち3年には最後の大会になる。レギュラーは実力もさることながら、日頃の努力も最大限に加味して厳選したつもりだ。背番号を渡された者は渡されなかった者の分まで悔いを残さないようなプレイをして欲しい。そして背番号を渡されなかった者も、万が一何かがあった時には即対応出来るように決して準備を怠らないこと。それとやはり悔いの残らないように自分達の代表であるベンチ入りのメンバーを心の底から応援して欲しい。」
夏の予選を前に、練習が終わった後、監督からレギュラー9人とベンチ入りメンバーの発表があった。
「まずは1番。エースナンバーはやっぱりお前しかいない。頼むぞ宮田。」
「はい。ありがとうございます。」
予想通りの結果に惜しみのない拍手がおこる。
「続いて宮田のタマを受ける2番だが・・・」
絶対正志だよ。どう考えたってお前しかいないって・・・
でも岩井さん最後の夏だしな・・・
春だって、監督は怪我のせいにしてたけど、完全に実力で取ったレギュラーだったじゃん。それは俺達が一番分かってるぞ・・・
放課後の練習が始まる前、3年の部員がいない時に交わされた会話。
背番号の発表はいつだってやっぱり緊張する。みんなこのために毎日汗や泥にまみれて、砂を噛むような思いで頑張ってきているんだ。誰だって、スタンドで応援するために血の滲むような努力をしてきた訳じゃない。
頼む・・・
「・・・2番だが・・・清水、毎朝、毎晩、宮田と走ってるらしいな。春の大会が終わってから一番伸びたのがお前だ。宮田のタマ、しっかり受けてやれ。頼んだぞ。」
気付いている。
岩井さんや、何人かの3年の射るような視線には当然気付いている。しかし、それをねじ伏せるようなこの高揚感の前には何もかもが無力だ。もちろん期待はしていた。俺しかいないという自負もないではなかった。しかし、頭で想像するのと、実際にこうやって監督の手から背番号を受け取るのとでは雲泥の違いがあった。
「続いて3番・・・ファーストベースを任すのは・・・」
「よし。絶対甲子園行くぞ。」
小声ではあるが、珍しく真一が興奮気味に話しかけてきたことも、それに拍車をかけた。
「・・・で、15番。田中だ。スタンドの仲間たちの分までベンチからしっかり声出せよ。」
「は・・・はい! ありがとうございます! 頑張ります!」
その夜のランニングはやはりいつものにも増して気合が入っていた。分かってはいるのだが、ついつい飛ばしすぎてしまう俺を真一が苦笑交じりに抑える。
それでもすっかりペースを乱してしまった俺は、いつもの公園に着いたときにはすでに息も絶え絶えの状態だった。
「悪いな・・・分かってるんだけどな・・・」
「しょうがないよ。俺も初めて1番もらったときは興奮で眠れなかったもんな。」
「はは・・・ありえない。お前がそんなことで興奮なんかするかよ。」
「何言ってんだよ。昔から時々感じるんだけど、正志一体俺のこと何だと思ってるんだ?俺だって普通の高校生なんだぞ。」
「ん・・・そりゃそうだけど・・・」
「正志は俺のこと、何も努力しなくても何でも1番みたいに言うじゃないか。俺だってこう見えて結構努力してんだぞ。だから報われた時にはやっぱり人並みに嬉しいんだ。」
「そう・・・なのか・・・」
「当たり前じゃないか。自分でも喜びの表現が苦手なの分かってるから、誤解されてもしょうがないとは思うけど、正志だけはちょっとくらい理解してくれても良いんじゃないか?」
「すまん・・・そうだよな。考えてみりゃ当たり前のことだよな。」
知らなかった。
毎朝・毎晩一緒になって走ってるんだ。ほんの少し考えりゃ・・・
いや、考えるまでもなく当たり前のことなのに分かってなかった。
こいつだって、俺と同じ普通の高校生だったんだ・・・
その夜は夏日を記録した昼間の気温そのままの蒸し暑い夜で、川風は熱く火照った身体を全く冷めさせてくれる気配もなく、来るべき夏の大会の熱さを俺達に予感させた。




