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  作者: 堂山鉄心
1/18

鏡 1

       1


 頼む・・・

 俺まで回してくれ・・・


「きたーっ。ここで正志っ!」

 9回裏1アウト、ランナー1‐2塁。

 3対4の1点負けている状況で、同点のランナーである山下に続き、2番の田中がフォアボールを選んだ。

 1発打てば逆転サヨナラ。

「正志っ!決めろっ!」

 言われなくても決めてやる。

 今日こそは・・・

 今日こそは俺が・・・

 ここまでチームを引っ張ってきて、今日は指先の血豆を潰したために打ち込まれた、エースで4番の真一の手を煩わすつもりなんかない。

 見ろ・・・相手のリリーフピッチャーは大したタマ数も放ってないのに、緊張から口を開け、肩で息をしているじゃないか・・・

 そいつはセットポジションから何度もプレートを外し、その度に帽子を取り、額の汗を拭う。

 打てる・・・

 フォアボールの次の初球。

 教科書通りの狙いは見事に的中し、ピッチャーの投げた高めの半速球を俺はフルスイングで捉えた。

 鋭くラインドライブの掛かった打球は、一歩も動けなかったセカンドの頭上を越え、ライト・センター間の青い青い芝生の上を転々と転がっている。

 よし! いける!

 俺が1塁ベースを回った時、2塁ランナーの山下はすでに3塁を遥かに回りホームベースを目指していたし、 ようやくライトがボールに追いついたときには、同点のホームを踏み、俺はとっくに2塁を回っていた。

 逆転サヨナラ3ベースヒット。

 でも、田中の方が先にホームを駆け抜けたら記録上は2ベースなんだよなぁ・・・いや、俺の足が田中に負けるはずがない・・・

 3塁に滑り込もうとしたところで一際大きな歓声があがった。

 ちぇ・・・

 やっぱりいくら俺の足が早いからって、バッターとランナーじゃ、そもそもスタートが違うか・・・

 俺がスライディングをやめ、惰性で歩きながらホームベースの方へと視線を移したとき、ホームベースの手前で転がっている田中に、ようやく中継から帰って来たボールでタッチをする相手キャッチャーが目に入った。

 え・・・

 何が・・・

 そのまま3塁ベースを踏み、呆然とした。

 田中が・・・転んだ・・・?

 そんな・・・俺の・・・逆転サヨナラ・・・が・・・

 真夏の暑さも周りの風景も何も感じない俺の意識を、更に一際大きな大歓声が揺り動かした。

 周りの選手達の視線を追った先・・・

 レフトスタンドの中段辺りで大きく跳ねる白球が見えた。




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