鏡 1
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頼む・・・
俺まで回してくれ・・・
「きたーっ。ここで正志っ!」
9回裏1アウト、ランナー1‐2塁。
3対4の1点負けている状況で、同点のランナーである山下に続き、2番の田中がフォアボールを選んだ。
1発打てば逆転サヨナラ。
「正志っ!決めろっ!」
言われなくても決めてやる。
今日こそは・・・
今日こそは俺が・・・
ここまでチームを引っ張ってきて、今日は指先の血豆を潰したために打ち込まれた、エースで4番の真一の手を煩わすつもりなんかない。
見ろ・・・相手のリリーフピッチャーは大したタマ数も放ってないのに、緊張から口を開け、肩で息をしているじゃないか・・・
そいつはセットポジションから何度もプレートを外し、その度に帽子を取り、額の汗を拭う。
打てる・・・
フォアボールの次の初球。
教科書通りの狙いは見事に的中し、ピッチャーの投げた高めの半速球を俺はフルスイングで捉えた。
鋭くラインドライブの掛かった打球は、一歩も動けなかったセカンドの頭上を越え、ライト・センター間の青い青い芝生の上を転々と転がっている。
よし! いける!
俺が1塁ベースを回った時、2塁ランナーの山下はすでに3塁を遥かに回りホームベースを目指していたし、 ようやくライトがボールに追いついたときには、同点のホームを踏み、俺はとっくに2塁を回っていた。
逆転サヨナラ3ベースヒット。
でも、田中の方が先にホームを駆け抜けたら記録上は2ベースなんだよなぁ・・・いや、俺の足が田中に負けるはずがない・・・
3塁に滑り込もうとしたところで一際大きな歓声があがった。
ちぇ・・・
やっぱりいくら俺の足が早いからって、バッターとランナーじゃ、そもそもスタートが違うか・・・
俺がスライディングをやめ、惰性で歩きながらホームベースの方へと視線を移したとき、ホームベースの手前で転がっている田中に、ようやく中継から帰って来たボールでタッチをする相手キャッチャーが目に入った。
え・・・
何が・・・
そのまま3塁ベースを踏み、呆然とした。
田中が・・・転んだ・・・?
そんな・・・俺の・・・逆転サヨナラ・・・が・・・
真夏の暑さも周りの風景も何も感じない俺の意識を、更に一際大きな大歓声が揺り動かした。
周りの選手達の視線を追った先・・・
レフトスタンドの中段辺りで大きく跳ねる白球が見えた。




