誕生
気がつけば俺は薄明るくて狭い場所にいた。
狭いどころの話ではない。少し身動きするだけでこつこつと壁に当たるのだ。
「出ておいで。大丈夫。あと少し。」
壁の向こうからやさしい女性の声が聞こえる。
壁がピシッと音を立てた。・・・もしかしてここ、卵の中?
龍になるとか言ってたし、絶対そうだわ。
狭いし薄暗いし・・・
俺はピシリと音のした場所に頭突きを繰り返す。
ピシピシッピキッ
そんな音と一緒に殻がどんどんと割れていく。だんだんと明るくなっていくこの場所に、俺は早く出たくて更に強く頭突きを繰り返す。
パリパリパキン
「キュゥー」
俺の第一声はそれだった。
なんだ?キュゥーって。龍ってそんな鳴き声なのか?
というか、親は普通に言葉を話しているのになぜ俺は鳴き声なんだ?
ていうか、めちゃくちゃ苦しいのは生まれたてだからか?
まるで全力疾走した後のように息苦しい。
「おぉ、力が強いみたいだな。名を決めねばならないな。」
そう話した声は男の声だった。
というか、どこで力が強いのがわかったんだ?そんなにも強いのだろうか、俺の力は。
「アルトなんてどう?この子の声は歌のように美しい。低くも高くも無く心地よい声だわ。」
母親らしき女性の声を持つ龍は真っ白なうろこを持った、綺麗としか言いようの無い存在だった。
「それはいい。お前は今日からアルト・ディ・ゴッド・ドラゴンだ。よろしくな、わが息子。」
父親らしきその声の主は白銀のうろこを持ち、凛とした威厳のある存在だった。
・・・これが元人間の、自ら龍になりたいと願った変わり者のようだ。
二人ともビデオの映像からまったく変わらない。
「キュイ」
どうやらまだ話すことはできないらしい俺は、とりあえず鳴きながら返事をした。
「もう言葉がわかるのか。しかも人間の使う言葉が。天才だな。」
父親はそういって俺を銜えた。
首根っこを軽く銜えられて、移動した場所は大きな神殿だった。
「グライン様、アリア様。おめでとうございます。」
深々と頭を下げる金色の龍に返事をするため、父親は俺を地面に降ろす。
というか、そこそこの高さで口をあけられたので落としたと表現するほうが正確だ。
人間の赤ちゃんなら下手すれば死んでいるくらいの高さから落とされたが、この体にとっては多少痛いだけですむようだ。
「アルトという。聡明な子だ。すでに人の言葉を理解しているようだ。アルト、挨拶を。」
父親に言われて俺はキュウと鳴きながら頭を下げた。
「コレは将来期待できそうですね。さぁ、中へどうぞ。神王龍の素質を持って生まれた子供に外の空気はあまりよろしくない。」
俺はまた父親に銜えられて神殿の中に入る。
さっきまで少し息苦しかったが、一瞬で楽になった。
「これからお前は最低でも3年はここにいることになる。一歩も出るな。外にいれば先ほどと同じように息苦しくなる。」
父親はそういって俺をクッションの上に落とした。しかも今度はかなり高い位置からだ。
クッションの上で2,3回バウンドしたが、正直言えばその感覚はとても楽しかったのでもう一度やって欲しいくらいだ。
「一応神だからな、生まれてからしばらくは聖域にいないと体が弱って死んでしまう。
卵の間は逆に聖域の気が強すぎて悪影響でな。・・・言っていることわかるか?」
父親は普通に説明して、ふとまだ生まれたばかりの赤ん坊であることを思い出した。
「キュゥ」
正直少しわからない単語もあるが、基本的には理解できているので頷いてみるとうれしそうな顔をする父親。
「本当に聡明な子・・・もしや、転生者ではあるまいな?」
おぉ、さすがは人間から龍に転生した存在だ。200年ほど前の自分をうっすらと覚えていたのだろう。
「キュィィ」
実は転生者ですって意味をこめて鳴いてみれば、どうやら伝わったらしく少し難しい顔(といっても大して表情とか大きな変化が無いのでわからないんですが)をした父親。
「そうか。では、我が直々に教育したほうがよさそうだな。」
少し困った感じの父親がそういって母親を見た。
「どうやらこの子は我と同じ転生者らしい。我が教育すると伝えておいてくれんか?」
「えぇ。にしても転生者ねぇ。心が人間だと少しつらいかもしれないわ。アルト、覚悟しておきなさい。」
父親の言葉に母親は真剣な顔(といっても表情とか・・・以下略)でそういった。
俺はその覚悟は一応天界?的なところでもしていたのでコクリと頷いた。