すべての始まり
人間生きていれば誰でも経験したことがあるであろう“道連れ”という行動。
今現在の俺の状況がまさにそれなのだが、正直言おう。この道連れは最悪な結果しか見えてこないと。
目の前には大きな魔方陣。それに飲み込まれそうになっている親友(とあっちは言い張っているが俺は違うと思っている)が俺の手を掴んだ。
このままでは魔法陣的な何かに引きずり込まれてしまう気がする。
「だから、放せ!!」
「や、やだやだ!怖いし!助けて、亜琉斗!」
必死で手を掴んで引っ張るこいつは完全に俺を道連れにする気だ。
「だから、一人で行け!お前は主人公体質なの!俺は脇役なの!だから放せぇ!」
必死で振りほどこうとしているが時すでに遅し・・・俺はこのアホ海斗と一緒に魔方陣に飲み込まれたのだった。
「・・・ここは?」
真っ白で何も無い空間。
上下も左右もわからないそこに俺はいた。
すると目の前にかっこいいイケメンが登場した。正直リア充っぽい。
「君は竜王亜琉斗だよね。僕は神様。世界を作った神様だよ。にしても、厄介なことをしてくれたものだね、大空海斗は。」
自称神様はやれやれといった風にため息を吐いた。
「いやいや、何で俺が神様とご対面なんだ?普通あの馬鹿が対面して力もらうはずだろ。」
俺はしかめっ面で神様とやらに言った。
俺が主人公とかまじねぇわ。
正直なところ脇役で十分だ。
「したよ。彼は異世界に召還されてね。勇者となるべく体と力を持って転生しているよ。」
どうやら王道とは少し違って勇者の召還は転生と同義語のようだ。
召還じゃなくて転生なのか。つまり赤ちゃんプレイをするわけか。
「で、何で俺はあんたと会ってるわけ。」
「大空海斗が君を巻き込んだでしょ?君は予定されてなかったんだよね。だから、転生できる人間の器が無いんだ。元の世界には帰れないし・・・。」
めちゃくちゃ困っている神様が俺をちらちらと見ながら何かを考えている。
「・・・君、ファンタジー好き?龍ってかっこいいと思う?魔法使いたいと思う?生肉食べられる?自力で空飛んでみたい?地上には神様がいると思う?」
すみません、質問の意図がわかりません。
前半のほうは何とかわかるが、生肉とか飛ぶとか神がいるかとか理解不能だ。
「ファンタジーとかは好きだしそんな世界に行きたいとは思ったことあるけど、生肉うんぬんが意味わかんないんですけど。」
「いいから答えて。」
なんちゅう神様だ。質問の意図がまったくわからないというのに答えろと言われるとは。
「ユッケとか好きでしたし、空も飛べたら楽しそうですよね。まぁ、神様は・・・あんたが神様ならいるんじゃない?」
とりあえずそう答えてみるとめちゃくちゃうれしそうな顔になる神。
「今君が入れそうな器は一つ。神王龍の子供なんだよね。
龍になって異世界で生きていくか、ここで存在ごと死ぬか選んで。」
うわぁ、最悪の二択だ。生きるか死ぬか。しかも人ではなく龍として生きるか存在を抹消されて死ぬかって・・・。
選べる選択肢一つじゃん。誰でも死にたくは無いじゃん。
「それ、生きるしか選択肢ねぇよ!」
「げぶはぁっ!」
さすがにキレた俺は神にとび蹴りを食らわせるが正直龍になるのも面白そうだと思っていた。
「痛いじゃないかぁ。仮にも神様なんだよ?・・・いいんだね?」
神は最終確認をしてくるが、俺の心は決まっていた。
「あぁ。いいよ。」
きっと俺は今、何らかの決意をしたような顔をしているはずだ。
「よし。じゃぁ、最初に心構えを。君がこれから転生する龍は神王龍。地上にいてある程度干渉できる唯一の神様だよ。」
そういって取り出されたのはビデオテープ・・・て古いわ!もっとこう、DVDとかUSBメモリーとかいろいろあるでしょ。
って、ビデオテープの癖にプロジェクター使って映すとか・・・何がしたいんだ。ビデオの癖にブルーレイ並みに画質がいいのがむかつく。
しかも無駄に3Dだし。眼鏡なしで見えるし。技術の無駄遣いもいいところだ。
「ここにいるのが神王龍。これは100年ほど前の映像なんだけど、君と同じように龍に転生した人物がいたんだ。彼の場合は望んでそうなったんだけど・・・ま、このあたりの話は本人から聞くといい。」
映し出されているのは戦いの最中。
「この戦いは魔族が人間だけでなく魔物や動物も支配下に入れようとしたために起こったんだ。
基本的に龍は人が滅ぶくらいでは動かないんだけど、魔物や動物も対象となるとね。」
神とはいえ龍なのだ。
つまり人間にとっては魔物と同じくくりでもあるのだ。
基本的には生命や自然を大切にする種族で、それらが無駄に死んでしまうのが耐えられなかった龍たちが人間や他の魔物、動物と一緒に魔族と敵対したらしい。
「彼は一般的な神王龍でね。名前はグライン・ディ・ゴッド・ドラゴン。
現在すべての龍の長であり神様でもあるんだけどね。君の父親になるのは彼だ。まぁ、龍としてはまだまだ若造だけどね。」
まさかの父親だ。しかも100年以上生きていてまだまだ若造って・・・。
人間なら完全に死んでるし。
「龍は100年が人間の10歳くらいかな。彼は200歳ちょっとだから、まだぴちぴちの20代だよ。」
ということは、寿命は800年位か?
まてよ、ならおじいさん的な何かもまだ生きているのでは?
「ちなみに彼の父親はほぼ900歳で彼を授かったけどもう死んでいるし、母親も10年前に死んだよ。
あ、こっちにいるのが君の母親。アリア・ディ・シャイン。光王龍の長の娘だよ。」
そうしてしばらく映像を映した後に停止ボタンを押す神。
「こんなもんかな。龍についてはグラインとアリアが教えてくれるさ。さぁ、行ってらっしゃい。人生を楽しんでおいで。」
神の言葉に、俺の目の前はだんだんと暗くなっていった。
行ってらっしゃいといいつつほぼ強制送還なうえに投げやりなんですが、そこを気にしたら負けなんだろうな。
さて、始まりました。
龍になった亜琉斗は、これからいったいどうなるのか!
まぁ、なるようになるさ。