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Sorcery×Code  作者: 七草秋
1/1

プロローグ それでも僕は

 


 白く清潔な病室。

 そこに大切な彼女がいる。

 世界でただ一人しかいない僕の家族。

 僕の妹――七草春菜(さえぐさ はるな)が生気のない顔で、ベッドの上で横になっている。

 僕は明るく、春菜に話しかける。

 呑気に笑いながら話しかける。

「今日も来たよ、春菜」

「…………」

「聞いてよ。今日、中間テストが返って来たんだけどさ、なんと数学が96点だったんだよ」

「…………」

「僕がクラスで一番だったんだよ!」

「…………」

「だけど、国語が36点で赤点。来週に補習だってさ」

「…………」

「あっ! けど大丈夫だよ。他の教科は平均点以上だから。留年はしないからさ。心配しないで」

「…………」

「高校生活は勉強で大変だけど、すごく楽しいよ。友達も沢山できたし」

「…………」

「そういえば、クラスの女子に教えてもらったんだけどさ。最近この近くに美味しいケーキ屋さんが出来たんだって。春菜は甘い物大好きだし今度、一緒に行こうよ」

「…………」

「でも、それよりも僕は春菜と一緒に学校に行きたいな。兄として春菜の可愛い制服姿見たいし」

「…………」

「ははっ、何かさっきから僕ばっかり話してるね……」

「…………」

「そろそろ起きて、ちゃんと僕の話を聞いてよ、春菜」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………ごめん」

 と僕は春菜に微かな声で呟き、そっと手を伸ばして春菜の頬に触れる。

「……本当にごめん」

 と僕は顔を俯かせて必死に涙を堪えながら微かに呟く。

 けど涙は止まらない。

 ポタリ、ポタリと涙が落ちていく。

 だって分かっているから。

 春菜が目を覚ますことは永延にないと。

 僕がどんなに話しかけても、語りかけても無駄なんだと。

「それでも、ここに毎日来る、僕はバカなのかな? どんなに話かけても意味がないのかな?

 こんなの僕の自己満足なのかな?」

 と、僕は胸を押さえて悲しく呟く。

 答えなんて、とっくの昔から分かっているくせに。

「うっ……ぐすっ」

 嗚咽を漏らしながら僕は泣き続ける。

 とにかく、ただ泣き続ける。

 がしかし。

 突如そんな時間は終わる。

 ――ゾワッ。

 とこの世の物とは思えない嫌な気配を感じて体が震える。

 それに僕は、

「……ごめん春菜。僕、行かないと」

 と呟いて制服の袖で涙を拭って病室の窓から外の景色を眺める。

 そこには絶望が広がっていた。

 倒壊していく建造物、火災による煙、轟く人為らざる者の咆哮。

 そんな光景を見て僕は自分に言い聞かせる。

 ――終わりだ。

 ――泣いてる時間はもう終わりだ。

 きっと今、多くの人が泣いている。

 多くの人が苦しんでいる。

「だけど、それでも僕は決めたんだ」

 今から僕は罪を犯す。

 自分の願いのためだけに罪を犯す。

 何を犠牲にしても構わない。

 だって、僕の希望は多くの人の絶望の上に成り立つのだから。

「行ってくるよ、春菜」

 僕は最後にもう一度、春菜の頬を撫でる。

 そして、病室を後にする。

 覚悟はもう決まっている。

 もう、引くわけにはいかないのだ。

 もう、逃げるわけにはいかないのだ。

 誰が傷つこうが進んでみせる。

 ああ、何を犠牲にしようが進んでやるさ。

 例え、それで悪に堕ちようが。

 ――それで春菜を救えるなら。

 ――もう一度、春菜が笑ってくれるなら。



 

 

 

 


 


 


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