お兄ちゃんと楽しいお勉強
「…」
動かしてたペンが、止まる。
「んー…」
何度その問題とにらめっこしても、解き方がぜんぜんわかんない。
カレンダーに目を移すと、三日後に期末試験が迫ってる。
本当なら、自分の力でがんばって、あとで言おうかなって思ってたけど。このままじゃ言うこともできなさそう。
イスから降りて、すぐそばの窓から、同じ二階にある目の前の部屋をのぞく。
そこには、窓際においたベッドの上で本を読んでる、五つ上の幼なじみで、
恋人の、リアスお兄ちゃんがいた。
絵みたいなその光景にちょっと見とれてから、我に返って。
邪魔して悪いなって思いつつ、自分の窓を、少し強めに三回、ノックした。
「……!」
その、音に。気づいてくれたお兄ちゃんが、こっちを向く。目があった瞬間のほほえみに、心がきゅんってなったのは聞かないフリ。
「どうした」
いつものようにカラカラって窓を開けてくれたのを見て、わたしも窓を開けて。
「あのね…」
「ん?」
少しだけ悩んだあと。
意を決して、言う。
「勉強、教えて、欲しい…」
お兄ちゃんはほんの少しだけ目を開いたあと、またきれいにほほえんで手招き。
「おいで」
それにうなずいて。
わたしは勉強道具だけ持って、お兄ちゃんの家に向かった。
「いらっしゃい」
ぱたぱた駆けていって、インターホンに手を伸ばすと。お兄ちゃんはそれを鳴らす前に出てきてくれた。家に上がらせてもらって、そのままお兄ちゃんの部屋に向かう。入ったとき誰の声もしなかったから、今は一人なのかな。
お兄ちゃんらしい、モノトーンな家具で統一された部屋に入って、ベッドにもたれるようにして床に座る。
「飲み物いるか」
「へーき…」
首を横に振ったら、そうか、って言って、お兄ちゃんは隣に座った。ほんの少しだけ緊張したけど、なんとかいつも通りを装って、それでね、って切り出した。
「わかんないとこ、あって…」
「どこ」
「ここ…」
ペンを挟んでおいたところを開いて見せる。引き寄せてくれたローテーブルに乗せて、指をさした。高校二年生の数学、応用問題。
「この応用だけか?」
「まだいっぱい…」
「ならこれを後回しにして、他のところに時間割けばいいだろ」
なんて言いながらも一回自分で解くためにお兄ちゃんは教科書を自分の前に持って行った。
「ちょっと、今回は、がんばりたくて…。ここ、絶対出るってゆってたから点数落としたくない…」
「珍しいな。いつもはそれでもいいやとほったらかしていたのに」
図星で、固まる。
突然黙ったわたしに、お兄ちゃんは視線を教科書からこっちに向けた。
「何かあるのか」
「じゅ、じゅけん…」
「嘘吐け、進学しないくせに」
「き、気が変わったかもしれないじゃん…」
「進学の話を聞いたのはつい二週間前だが」
よく覚えていらっしゃる。
「い、妹みたいな恋人が、勉強できるお兄ちゃんを見習ってたまには勉強がんばろって思ってるでよくない…?」
「散々勉強している姿を見せてきて今更か?」
でっすよねー。わたしでも思うかもしれない。「今?」みたいな。
お兄ちゃんはずっとわたしを見てる。
早く言え、って目で。
え、でもどうしようまじでさらっとは言えない。
テストがんばったらちょっと大人なスキンシップ教えてくれますか、なんて。
子供ながらに大好きだった幼なじみのお兄ちゃん。昔からお父さんじゃなくて「いつかお兄ちゃんと結婚する!」って言ってたくらい。お父さんごめん。
まぁふつうなら子供の言葉ってことで、誰もが本気にしないようなものなんですけれども。
なんとこのおにいさま、わたしが中学二年生のときに「約束したよな」とおつきあいの申し出をしなさったではありませんか。
もちろんわたしは、お兄ちゃん大好きだったし、なんなら成長するにつれて見えるようになった男らしさにも惹かれて、この頃には男性としても大好きだったので。
そりゃ二つ返事でオッケーを出しまして。晴れて恋人同士になったのですが。
付き合いだしてから約三年ほど。
全然手を出されていないわけでして。したのは軽いちゅーまで。
そりゃあね? 子供体型ですよわたし。
身長なんて小学生並みの140センチ、それで世間で話題のロリ巨乳なんていうお胸が大きい感じならよかったかもしれない。
そんな願いは儚くわたしのサイズはAカップ。魅了すらできやしねぇわ。
できやしねぇんですけれども。
恋人なのだから、しかもそちらから告白したのだから、少しくらい、手を出してくれてもいいと思うのも乙女心なわけでして。
そう悩んでいたところに、同じクラスの閃吏とか雪巴が教えてくれたのです。
テストがんばったらごほうびにっていうのはどう、と。
少女マンガをよく読む美織も入ってきて、こんな展開があるよ、とかこんなのもどう? とか話を聞いていき。それだ! ってなりまして。
がんばってお兄ちゃんともうちょっと進もう計画が始まったわけなのです。
本当なら、お兄ちゃんに教わらずに、いつも中の中だった成績をがんばって上げて驚かせて、ごほうびちょうだいっていうのが理想だったけど。
あまりにも問題解けなさすぎてだめでした。だって数学難しいんだもの。
さて回想が終わったところで。
「…」
「クリス」
声に、圧がかかる。無意識に、体に力が入った。
え、まじでどうしよう。
回想の旅に出てたら解決策なんて一切出てこなかった。閃吏、雪巴助けて。
なんて思っても助けにくるはずもなく。頭の中のあの人たちはがんばってねーって笑ってました。
……………正直に言う?
もちろんそれも考えたよちゃんと。
一番始めに言って、テストがんばるのもありかなって。でもそれはすぐにやめた。
まず引かれたらどうしようっていうのと。
許可が出なかった場合のわたしのテストへのモチベがだだ下がりになるので。
なのでできれば今も言いたくない。
なんとか見逃してもらおうと、ずっと黙ってると。またお兄ちゃんの声が落ちてくる。
「……言えないことか?」
わぁすっごい冷え切ってるこの声。
「い、えない、わけじゃ、ないんですけれ、ども…その…」
何度か視線をさまよわせて。
目が、合う。
「っ!」
お兄ちゃんの目は、声よりももっと、冷え切った目をしてた。
あ、これ言わない方がもっとやばいやつだ。
うん、言おう。
この状態が続く方がわたし無理だ、死んじゃう。
そう決意したら、すぐに口が開いた。
「あの、ね」
「ん」
「ごほうび、ほしくて…」
「褒美?」
言った瞬間に、お兄ちゃんの目が、ふっていつも通りに変わる。あ、一番怖いのは回避できたかもしれない。けれど無意識に入ってる力はまだ抜けない。
「……別に褒美が欲しいと隠す必要なんかないだろう」
「いや、その…」
問題なのはその内容でして。
「あの、もしね」
「うん?」
「いつも以上に、点数、取れたら…なんだけど」
口が震える。嫌われちゃったらどうしよう。でももうちょっと、進んでみたい。
がんばれわたし。ぎゅって目をつぶって、口を開いた。
「そ、の…そういう、こと、少しくらい、して、ほしい、なって…」
言ったーーーわたし言えたよ閃吏、雪巴ーーー。
「………………は?」
そして空気固まったーーーーーーー。
やばい死にたい。
前確認したいんだけど目開けられない無理。
「……」
「…」
「……」
「…」
空気が、重い。
「……」
「…」
「……」
「…」
今何分経ったんだろう。すっごい時間経った感じするんだけど。
お兄ちゃんなにも言わないんだけど。
やっぱりだめだった?
はしたない子って呆れちゃった?
とりあえず、
逃げようか。「ごめん冗談今日は帰るね!」なんて。
けれどさすがに目をつぶって逃げることはできないので。
このまま目を開けて、お兄ちゃんの反応がよろしくないものだったら全力で逃げようそうしよう。
意を、決して。
ゆっくり、ゆっくり目を開けた。
「……」
そこには、まぁ呆れたお顔のお兄さまがいらっしゃるじゃないですか。
おっと予想外すぎるぞ??
準備してた体の力が抜けちゃって、そのまま口を開く。
「なんで呆れてるの…」
「いや、いや、いろいろと……」
お兄ちゃん頭抱えちゃったよ。
そのままあーってうなったあと、きまずそうに名前を呼ばれた。
「クリスティア」
「はい」
「ちなみに拒否権は?」
うぇいまじですか。
「あるは、あるけど…」
「けど?」
目が、合う。
がんばってまっすぐ見て。
「そんなに、みりょく、ない…?」
そう首を傾げながら言うと。
お兄ちゃんは思いっきりため息をついてしまった。やばい泣きそう。
「クリスティア」
「はい」
無意識に、ぴしっと背筋を伸ばす。
これはおとがめか。もういいどんとこい。
と思ってたけれど、お兄ちゃんの口から出た言葉は予想と違った。
「一応こっちも我慢をしている」
「…がまん…?」
あきらめたように、うなずく。
「お前が高校生になって、段々女らしくなってきて、思わずこちらががっつかないように」
「この体を女らしくと言うならお兄ちゃんは眼科に行った方がいい…」
「悪いが視力は両目2.0だ」
そうでなく、と。
「……可愛い恋人に幻滅されないよう、いろいろ耐えてんだよ……」
とても悔しそうに、どこか恥ずかしそうに目をそらして、言った。
その言葉を飲み込んで、一生懸命頭を回転させて、
理解する。
瞬間に、ぶわって体温が上がった。
お兄ちゃんは別に魅力がないからってわけじゃなくて、わたしのために、そういうことをがまんしてたと。いきなり手を出して、怖がったり、もうイヤってならないように。
どこまでイケメンなのこの人は。
その気持ちは、とても嬉しい。
けれどどうしても、”そういうこと”を知りたいと思ってしまうのも、たしかで。
「ね、ぇ」
「ん?」
服の裾を引っ張って、まだちょっと恥ずかしそうな目を見て、聞いてみる。
「幻滅しない、ってゆったら、ごほうびに、してくれる…?」
”そういうこと”。
ほんの少しだけ、目を見開いたお兄ちゃんのほっぺが紅くなった気がした。
気まずそうに何回か目をうろうろさせたあと、また、大きくため息を吐く。
「……卒業してからと思ったがまぁいいか」
「…? わっ」
小さくこぼされた言葉に首をかしげてると、抱き上げられて。
あぐらをかいたお兄ちゃんの上に、座る。いつもしてるみたいに、後ろから抱きしめられた。
けれどすぐに、いつも通りじゃなくなった。
「! えっ」
普段は絶対来ないところに感覚が来て、すぐにその方向に目を向けた。
場所は、太ももの内側。
お兄ちゃんの、手が。
手、が。
スカートの中に入り込んで、わたしの、太ももを、撫でていらっしゃる。
「あ、の…」
「望んでいるのはこういうことだろ?」
「っ!」
ゆっくり、手がこっちに向かってくる。すすすって、触れそうな、でも触れなさそうなそんな感じで手が上がってきて、変な感覚がする。
待って、待って。
「い、いまじゃ、ないっ」
「確認をしているだけだ。認識の相違があったら困る」
合ってるのか、って耳元で言われた低い声に、肩がはねた。
あってるけども、あってるけどもっ!
「それともこっち?」
「へ、…っ!」
頭が追いつかない中でいきなりあごをとんとんってされて、お兄ちゃんの方に向かされる。
そのまま、口を塞がれた。
「、んっ!?」
いつもならすぐに離れていたのに、今日は。
唇を、なめられて、
「ふ、ひょっと、まっ、!」
口が開いたすきをついて、舌が、入ってきた。ぬるってしたお兄ちゃんの舌に、背中が反る。
歯の裏側を舐められた瞬間に、内股のあたりに変な感覚が走った。
「ふ、んむ」
「、……」
くちゅくちゅ口の中で音が鳴って、ときどき、歯の裏以外の部分でも、変な感覚が走る。それを、追っていこうとしたときに、
「ぷはっ」
「はっ……」
舌が出ていってしまった。
「…」
頭がふわふわする。苦しかったのにきもちいときがあって、離れたら、なんとなく、口がさみしい。無意識に、口の中のだえきを飲み込んだ。
「クリス」
「へ…」
まだ頭が回らない中で呼ばれて、顔を上げる。また、さっきのしてくれるのって思ってたら。
「わ、あ!?」
視界が、反転。
背中にちょっと衝撃があって、反射的に閉じた目を開けると。
楽しそうに、意地悪そうに笑ってる、リアスお兄ちゃんがいた。
「あ、の…」
「改めて聞くぞ」
ゆっくり、ゆっくり。きれいな顔が、近づいてくる。
「おにい…」
「試験で良い点を取ってきたなら、褒美は与えてやる」
目が離せずに見つめて。
「ただしお前が望んでいることの場合」
近づいてきたお兄ちゃんの口は、わたしの耳元。
「これよりもっとすごいことになるのでいいなら、な?」
「っ!」
甘く、甘くそう言って、耳の裏を、ぺろりと舐められた。声は出なくて、体だけが跳ねる。
「俺も散々我慢はしているんだ。こっちへの褒美も兼ねて好きにする」
「え、え…」
背中に回った手が、焦らすみたいに、上にあがってく。
それに釣られるように、自分の腰も少し浮いた。
その、ときに。
「!」
太股に、なにかが、当たってしまう。
聞かなくたってわかる。
そっと目を上げると、いつの間にか、さっきみたいにわたしを見下ろしてるお兄ちゃんと目があった。
その視線は、なんとも色っぽくて。
今にも欲しい、そう言いたげな目をしていて。
「条件が飲めるなら、その褒美にしてやるよ」
不敵に笑ったお兄ちゃんに、ぞくって背筋をなにかが駆けめぐった気がした。
条件が、飲めたなら。
さっきの、きもちいの、もっとすごいことをしてくれる。
──わたしが望んだ、以上のもの。
手を、伸ばされる。
さっきみたいにいやらしい感じじゃなくて、愛おしそうに、壊れ物を触るように、ほほに触れられた。
「クリスティア」
返事が欲しいときの、圧のこもった声に、反応する。
「勉強、始める?」
答えなんてわかりきっているような顔で聞いてくるお兄ちゃんに。
「……はじめる」
好奇心が勝ったわたしは、素直にうなずいた。
『お兄ちゃんと楽しいお勉強(if年の差パロ)』/クリスティア




