表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/25

第4話 メイドさんはファッションにうるさい

 "花冠(かかん)の沼地"に進入した俺たちは、緩やかな下り坂を道なりに降りていく。

 深さにして20メートルほど潜った頃だろうか。小石だらけの道が一変し、眼前にねじくれた柱のようなものが何本も見えてきた。

 それは巨木の根だった。太さは2メートルを超えようかという野太い根っこが、幅広のトンネル内を縦横無尽に駆け巡っていた。

 足元に目を向ければ、大量の地下茎(ちかけい)繁茂(はんも)する泥の沼地がそこかしこに広がっている。一部には硬い地面もあるようだが、沼地を完全に避けて通ることは不可能だろう。


「これはまた……進むのに苦労しそうな地形ですね」


「でしょ? 根っこだらけで見通しは悪いし、すぐ泥まみれになるし、おまけに湿気で体がベットベト! もう最悪って感じ!」


 目を三角にして怒り散らすレナ先輩。ダリル先輩はふんと鼻で笑うと、


「なら着替えを多めに持って来ればいいだけだろう。自分の怠慢をダンジョンのせいにするな」


「アタシはミニマリストなの! なんでもかんでも持っていったらダーリンみたいなカッコになっちゃうじゃん!」


「何か問題があるのか?」


「ダサい!」


 言い切るレナ先輩に、ダリル先輩は哀れみの視線を向けた。

 ダサいかどうかは別として、ダリル先輩は割と理想的な装備構成でこのダンジョンに(のぞ)んでいた。

 肌を露出しない迷彩柄の服一式に、小物用のポケットがいくつも吊られたベルト。武装は癖のない直剣に加え、幅広い用途に使えそうな小ぶりのマチェットを腰に下げている。背中の大きなリュックには、探索に役立つ様々なアイテムが収納されているのだろう。

 身だしなみにも一切の妥協は無い。手入れの行き届いた金髪は短く切り揃えられ、ヒゲも綺麗に()られている。ここだけの話、清潔感のある男性冒険者は意外と少ないのだ。

 レナ先輩が自由奔放な傭兵なら、ダリル先輩は特殊部隊の精鋭兵だ。同じ戦士学科でもここまで冒険に対するスタンスが違うのか、と俺は驚いていた。


「……ともあれ、注意事項はおおむね彼女の言った通りだ」


 言いつつ、ダリル先輩は行く手をさえぎる大きな根を拳で叩いた。


「このダンジョンには地上から伸びてきた巨大樹の根がはびこっている。加えて足元にはぬかるみも多く、少し移動するだけでもかなりの時間を食われるだろう」


「懸念されるのは体力の消耗、湿気による不快感、泥はねによる衛生状態の悪化……といったところでしょうか。つまりはメイドの腕の見せどころでございますね」


 黒々とした沼地を前にやる気をみなぎらせるミスティア先輩。

 彼女は舞うような動きでこちらを向くと、スカートの両端をつまんでカーテシーの姿勢を取った。


「どうか皆様、大船に乗ったつもりでいてくださいますよう。わたくしどもメイド学科がいる限り、ダンジョンの見えぬ刃が皆様を傷つけることはございません。メイドの加護は艱難辛苦(かんなんしんく)を打ち払い──」


「では行くぞ。遅れるなよ」


「ああっ、まだ口上の途中ですのに!」


 涙目の先輩を置いて進み始めるダリル先輩。

 木の根の間を器用にすり抜け、細い地下茎(ちかけい)をマチェットで払いながら安全なルートを切り開いていく。俺たちはダリル先輩に置いて行かれないよう、急いで進軍を開始した。

 で、実際に歩いてみてすぐに分かったのだが……このダンジョン、思っていた以上に難敵だ。

 木の根も沼地も単体で見ればそこまでの脅威では無いのだが、それがセットになると途端に難易度が跳ね上がる。

 沼地を避けるためには馬鹿デカい木の根を乗り越えないといけないし、逆に木の根を避けようとすれば沼地に腰までつかる羽目になる。おかげで俺たちの体は2分もしないうちに泥だらけになってしまった。


「全員、問題なく進めているか?」


 最初の沼地を突破したダリル先輩が立ち止まって言う。

 愛想の無い人だが、一応こちらを気遣ってくれてはいるようだ。もしかすると、俺たちに進みやすい道を示すためにあえて先行しているのかもしれない。


「全然平気とは言えませんけど、とりあえず命に関わるような問題はありません。ただ、ちょっと視界が悪いのが不安ですね」


「まあ、これだけ木の根がごちゃごちゃしていればな。……少し待て。明かりをつける」


 ダリル先輩はリュックからランプを取り出し、つまみの部分を2、3度ひねった。

 直後。グラスを爪弾くような音が聞こえたかと思うと、ランプの中心に白い光が灯った。人工的な光は火を使わない魔石ランプの特徴でもある。


「これで多少は楽になっただろう。だが過信はするなよ。暗がりには常に注意を払っておけ」


「ありがとうございます。……っていうか、すごい光ですね。最新型ですか?」


 まばゆい光に眼をしばたたかせる俺。

 魔石ランプのお世話になったことは何度もあるが、俺が知っているのは豆電球くらいのほのかな光を発するものだ。一方、ダリル先輩のランプは手術室の無影灯にも負けないくらいの明るさを有していた。


「錬金学科の試作した閃光ランプだ。燃費は悪いが光量は当社比5倍、という触れ込みだが……眉唾(まゆつば)だな」


 気の無い返事を返すダリル先輩に代わって、レナ先輩が説明を引き継いだ。


「ふふん、それだけじゃないわよ。敵に投げるとピカッと光って目潰しにもなるの。どう、すごいでしょ?」


「それ、うっかり落としたら大惨事になるんじゃ……」


「その通りだ。だからレナには触らせない」


「しつれーね。アタシだって何度も同じ失敗はしませんよーだ」


「一度目はあったんですね……」


「子供に危ないオモチャを持たせてはいけないという教訓を得たよ。……と、ここは上から行った方が安全か」


 ダリル先輩はカギ縄を放り投げると、壁のようにそそり立つ根っこの上に引っ掛けた。

 まるでネコ型ロボのポケットだ。彼がリュックを(あさ)るたび、状況に合ったアイテムがピンポイントで飛び出てくる。

 果たしてメイド学科(おれたち)が同行する意味はあるんだろうかと不安になってきた俺であった。


「用意周到ですね。いつもたくさんの道具を持ち歩いてるんですか?」


「まさか。下調べをしてから必要になりそうなものを用意しているだけだ」


「下調べってことは、もしかして何度もここに足を運んだんですか?」


 ダリル先輩はこともなげに、


「2度ほどな。その度に試行錯誤し、探索に最適な装備を選び抜いた」


「ほんと心配性だよね~。普通の冒険者はクエスト一つにそこまで時間をかけないって」


 げんなりしたように舌を出すレナ先輩。彼女としては環境に合わせるより自分のスタイルを貫く方が性に合っているのだろう。ある意味それも間違いではない。

 だが、俺としてはダリル先輩の考えに賛成だった。


「人によってやり方は色々ありますけど、個人的には立派だと思いますよ。装備や服装は時と場合によって変えた方がいい。どんな時でも(かたく)なにメイド服を脱がない人を見てると特にそう思います」


「たしかにミッチーは年中メイド服って感じよね。……っていうかそのメイド服、泥でヤバいことになってるけど大丈夫? 結構高そうな生地使ってるみたいだけど……」


 ミッチーという謎のあだ名を付けられたことで先輩はわずかに困惑していたが、すぐに普段の余裕を取り戻すと、


「このメイド服には各種様々な付呪が掛けられておりますのでご心配なく。ダンジョンのしつこい汚れも、軽く払えば……ほら、この通り」


 沼から上がった先輩が踊るように体を回すと、たちまち泥が流れ落ちていく。

 瞬く間に新品同様となったメイド服で会釈する先輩。その表情はとても得意げだが、はねた泥が周囲の人間にかかることくらい考えてほしいなあと俺は思った。


「はーっ、いいなあ。アタシもいつかメンテフリーの服を買いたいんだけど、やっぱり先立つものがね……」


 泥でくすんだ自分の服を見てため息をつくレナ先輩。

 しかしそれも束の間のこと。彼女は奮起するように拳を作ると、


「はい、無い物ねだりはもうおしまい! 今あるもので最善を尽くす、それが冒険者ってもんでしょ!」


「勇ましいのは結構なことだが、具体的にどうするつもりだ?」


 木の根の上からこちらを見下ろすダリル先輩。レナ先輩はにやりと笑って、


「無理してダンジョンに合わせる必要は無いってこと。つまり、ダンジョンがアタシに合わせればいいのよ!」


 レナ先輩はすでにハンマーを手にしていた。目の前には大型トラックのように大きな木の根。ほぼ水平に伸びる様は、まるで俺たちを通せんぼしているかのようだ。


「レナ先輩、まさか……」


 根っこを見据え、体全体でハンマーを振りかぶるレナ先輩。その次に起きることを予想したのか、ダリル先輩が逃げるように跳躍した。


「うおりゃああああ!」


 破天荒な掛け声に合わせて振り抜かれるハンマー。ごう、と耳元で風の音がした。

 渾身の一撃を受け止めた木の根は一瞬大きくたわんだかと思うと、次の瞬間バラバラに砕け散った。

 大量の木くずが花吹雪のように舞い踊り、レナ先輩の偉業を讃えていた。


「……とんでもないパワーですね。戦士学科の人はみんなこんなことができるんですか?」


「ふん、こんな化け物が何人もいてたまるか」


 どうやらレナ先輩は木の根を避けるのではなく強引に突破することで独自のルートを開拓することにしたようだ。

 たしかにこの方法なら時間をかけて遠回りする必要も無いし、沼地を歩く機会も最小限に抑えられる。

 脳筋の極致みたいな解法に俺と先輩は目を丸くし、破壊された木の根の向こう側からダリル先輩が呆れたような表情で見つめていた。


「どうよソウちゃん、これがアタシの実力ってやつ。見直したでしょ?」


 鈍重なハンマーを軽々と背負い、どんと胸を張るレナ先輩。俺は冷や汗をぬぐいつつ、


「すごい、としか言いようがありませんね」


「そうでしょそうでしょ! もちろんこれだけじゃなくて奥の手だってあるんだから期待して──むぎゃっ!」


 だが、その言葉を言い終える前にレナ先輩が盛大にすっ転んだ。

 すっぽ抜けたハンマーが山なりの軌道を描き、ダリル先輩がぎょっとした表情で身をかがめる。


「レナ様、ご無事ですか?」


「だ、だいじょぶだいじょぶ。……もう、こういうトラップってほんっと嫌になっちゃうよね」


 先輩に助け起こされながら、恨めしそうに地面をにらむレナ先輩。

 見れば、レナ先輩の足元に細かく先別れした地下茎(ちかけい)が何本も生い茂っていた。どうやら地下茎(ちかけい)の先端がブーツの(ひも)に偶然引っ掛かってしまったようだ。

 誰かが意図して仕掛けたものではないだろうが、見ようによっては天然のトラップと言えなくもない。そして厄介なことに、自然というやつはこの手の罠を仕掛けるのが大好きなのだ。


「理解したか? これが"花冠の沼地"に潜む真の脅威だ」


 気付けばダリル先輩がすぐ近くまで来ていた。彼はレナ先輩にハンマーを返すと、


「いくつもの小さな障害が冒険者をいら立たせ、心身の疲労が油断を誘う。そうして俺たちが気を抜いた瞬間、奴らは牙を剥くんだ」


 ダリル先輩は腰の直剣を抜くと、天井から垂れ下がった地下茎(ちかけい)を横一文字に切り裂いた。

 その地下茎(ちかけい)が絹を絞ったような断末魔を上げた時、俺たちはようやくそれの正体に思い至った。

 蛇だ。黒褐色の小さな蛇が、地下茎(ちかけい)に擬態して俺たちを狙っていたのだ。


「蛇の魔物? ヨルム……にしては小さいような」


「バイパーだ。こいつらが成長するとヨルムに変異する」


「変異……? よく分かりませんけど、要するにバイパーはヨルムの幼体ってことですか?」


「子供ではないが、ひとまずはその認識でいい」


 両断されたバイパーは痛みに体をくねらせていたが、やがて力尽きたように動かなくなった。

 ダリル先輩は念押しのためにバイパーの頭を突き刺すと、言い含めるように言った。


「バイパーは弱い魔物だが、その凶暴性は他の魔物に勝るとも劣らない。牙には毒もある。小さいからといって油断するな」


 少しの間を置いてから、無論解毒剤も用意しているが、と付け加えた。この人は本当に抜け目が無い。

 レナ先輩が転んだことで探索はなし崩し的に小休止を迎えていた。

 俺はその場で体力を回復しつつ、メイド学科の用意した濡れタオルを全員に配っていた。泥と汗まみれの体を拭いて清潔さを保つためだ。

 本当は服もまとめて着替えさせたいところだが、そのためにはもう少し安全な場所を探す必要があった。できれば水場も欲しいところだが、それは高望みし過ぎか。


「たいへん申し上げにくいのですが、レナ様は少々結び方が甘いように思われます。紐がたるんでいると思わぬ事故の原因になりますので……」


「分かっちゃいるんだけどねー、これがなかなか……」


 俺が雑務に奔走(ほんそう)している間、先輩はレナ先輩の靴紐(くつひも)を結び直していた。

 先輩は"少々"とかオブラートに包んだ言い方をしていたが、実際はそりゃ引っ掛かるわと言いたくなるくらいの緩みっぷりであった。よく今まで転ばなかったものだ。

 とはいえ、こういった細々とした作業に関して先輩の右に出る者はいない。プロフェッショナルである先輩の手によって、たゆんたゆんだったブーツの紐は完ぺきな秩序を取り戻しつつあった。


「これが君たちを雇った理由だ。一言でいえばこの馬鹿のおしめ係だな」


 2人の様子を遠目にうかがいながら毒づくダリル先輩。

 薄々そうじゃないかとは思っていた。普通に考えればダリル先輩みたいな人がメイド学科に依頼をしに来るはずが無い。

 何かにつけて大雑把なレナ先輩をフォローするために、渋々俺たちを頼ったと考えるのが自然だろう。面倒見がいいんだか悪いんだか分からない人だ。


「それにしても……いい年して靴紐も満足に結べないとは思わなかったぞ。ズボラにも程がある」


 腕を組みながらレナ先輩を見下ろすダリル先輩。レナ先輩はむっとした顔で、


「そう思うのはダーリンが男だからじゃん! 女は靴紐以外にも気にしなきゃいけないことがたくさんあるの!」


 同意を求めるようにこちらを見るレナ先輩。

 俺はどちらかというとダリル先輩寄りの思考なので何とも言えなかった。デリカシーが無いとか言うな。

 一方、先輩は女同士ということで共感できるものが合ったのだろう。母性あふれる態度でレナ先輩をよしよしすると、ダリル先輩に微笑を向けた。


「ダリル様のお考えは理解いたしました。ヨルム討伐の要であるレナ様を全力でお支えすることが依頼の目的と考えてよろしいのですね?」


 さすが先輩だ。双方を上手く立たせる感じで話をまとめてしまった。

 はっとしたような目でダリル先輩を見るレナ先輩。ダリル先輩は不満げに目をそらすと、


「本来ならレナ自身がしっかりしていれば済む話だが、この際そうも言ってられん。ヨルムは強敵だ。勝率を上げるためにできることは全てやっておきたい」


「もぉー素直じゃないなぁー。アタシが大切なら最初からそう言えばいいのに」


「勘違いするな。重要なのはヨルムを倒すことだ」


 照れ隠しのようにも聞こえるが、それを差し引いてもダリル先輩の言葉には切迫した響きが込められていた。


「あの、ダリル先輩。ヨルムってそんなに危険な魔物なんですか?」


「差し迫った危機という意味ではな。このダンジョンのヨルムは近頃とみに活動を活発化させていて、地上に出てくるのも時間の問題と言われている」


「そんな魔物が学園の近くにいたんですか? だったらもっと噂になってもいいような……」


「君たちが知らないのも無理は無い。"花冠の沼地"にヨルムが現れたのはごく最近のことだからな」


「最近?」


 一呼吸分の間を置いた後、ダリル先輩はゆっくりと語り始めた。


「数か月前、大規模な魔物の討伐作戦が行われたことは知っているか?」


「はい。たしかこの近くにあるダンジョンでしたよね」


「そうだ。作戦は成功したが、長い目で見れば失敗したとも言える。彼らはダンジョンの生態系についてあまりにも無知だった」


「えっと……どういうことですか?」


「そのダンジョンと"花冠の沼地"は互いに隣り合っている。そして、彼らが討伐した魔物たちは"花冠の沼地"のバイパーを主食にしていたんだ」


「……あ」


 そういうことか、と俺は心中でつぶやいた。

 ダンジョンはしばしばアリの巣に例えられる。数百もの洞窟が幾重にも絡み合い、クリシュカの地下でひとつながりの巨大な空間を形成しているのだ。

 裏を返せば、それぞれのダンジョンが密接に影響し合っているとも言える。

 さながらシーソーゲームだ。一方で魔物が増えれば、その影響でもう一方の魔物が減る。その逆も然りである。

 そして残念なことに、地面の下でどのような勢力争いが行われているのか、地上にいる俺たちにはほとんど分からない。だからこそ、たまにこういったアクシデントが起きてしまうのだ。


「そうか……天敵がいなくなったことでバイパーがどんどん増えて、成長した個体がヨルムになったんですね」


 現時点ではヨルムが支配者、と言っていた意味がよく分かった。ほんの数か月前まで、このダンジョンには幼体のバイパーしかいなかったのだ。


「苦労して魔物を倒したはずが、逆により強い魔物を生み出してしまったというわけだ。安易な行動が招いた人災とはいえ、皮肉なものだな」


 ダリル先輩は疲れたように言った後、


「だが生まれてしまったものは仕方ない。奴の興味が地上に向く前に対処して、これ以上の勢力拡大を防ぐ。それが私たちの仕事だ」


 言葉と共に腰を上げ、俺たちをあごで(うなが)すダリル先輩。それは休憩の終わりを意味していた。


「真面目だよねー。ま、そこがダーリンのいいところなんだけどさ」


 レナ先輩は足踏みしながらブーツの履き心地を確認すると、そのままダリル先輩を追いかけていった。

 まさに凸凹コンビ。対照的な2人だ。

 あんな調子で話が合うんだろうかと他人事ながら心配になったが、よく考えたら俺と先輩も似たようなものだ。性格の違いなんて大した問題ではないのかもしれない。

 それとも、自分に無いものを持っているから上手くやっていけるんだろうか? そこのところは自分でも分からない。


「先輩、俺たちも行きましょう」


 先輩はまだその場に座り込んでいた。

 きっとギリギリまでレナ先輩の靴紐を手直ししていたのだろう。この人はいつだって凝り性で、仕事に誠実だ。

 時々……というか頻繁におかしなことを始めるけど、根本の部分では尊敬できる人だ。

 俺はそんな先輩に笑いかけると、ごく自然に手を差し伸べていた。


「ふふ、今度こそエスコートしてくださるのですか?」


 口元を緩め、おどけるように目を見張る先輩。俺は肩をすくめて、


「だから、片手で戦うのは自殺行為だって言ったでしょう。立ち上がるのを手伝ってあげるだけですよ」


 俺たちは冗談めかして口の端を上げると、互いに手を取った。

 エスコートはほんの一瞬だ。難なく腰を上げた先輩は、空いた片手でスカートの汚れを払うと、


「…………」


 その先の行動を決めあぐねていた。

 いや、それは俺も同じか。

 お互いに手を離すきっかけが見つからず、さりとてそのまま歩き出すことも無く。

 俺たちは口を真一文字に結び、まるで重大な危機に直面したかのような面持ちで固まっていた。


「うああー! ミッチー助けてー!」


 ダンジョンの奥からレナ先輩の情けない悲鳴が聞こえてきた。ダリル先輩の大きなため息も。

 ここからではよく見えないが、また新たなトラブルが発生したのだろう。

 ご指名を受けた先輩は、俺の顔をちらりと見て、どこかためらうように視線を揺らした後、


「はい、ただいま参ります!」


 きゅっ、と俺の手を握ってから、走り去っていった。

 ……果たしてこれは、上手くコミュニケーションが取れていると言っていいのだろうか?

 何だか分からなくなってきた俺だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ