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第26話 メイドさん、萌え萌えキュン♥する

 メイド学科に連行された俺は、ミスティア先輩から拷問を受けていた。


「はいソウタ様、あ~ん♥」


「ぐ……う”お”ええっ……!」


 強引に開けられた口の中に緑色のよく分からないものが流し込まれる。

 苦味と青臭さ、得も言われぬ異物感にさいなまれながらも、俺は必死でそれを飲み下した。


「いかがでございましょう? (りゅう)の国の薬膳を参考にお作りしたドクロヨモギの青汁でございます。お口に合いましたでしょうか?」


「不味すぎて、舌が腐り落ちそうです……」


「それは何よりでございます。良薬は口に苦しと申しますので」


「食べちゃ駄目だから体が拒絶してるんですよ……う”っ」


 早くもリバースしてきた青汁を喉元で追い返し、俺はぜいぜいと息をついた。

 だがこれしきでは終わらない。テーブルの上には見たこともないようなゲテモノ料理がずらりと並び、俺の味覚を破壊する瞬間を待ち構えている。

 お次は魚料理だ。

 いや、ぶっちゃけ魚かどうかも微妙なところだ。何だか魚っぽいウロコに覆われた魔物の頭が、大皿の上にドンと乗っかっている。


「何か見覚えのある奴が出てきたんですけど……」


「ボダッハのスターゲイジーパイでございます。ボダッハの肉は良質なたんぱく質を含んでおりますので、これを食べればソウタ様のお怪我もたちどころに治ることでしょう」


 言われてみれば、首の周りに申し訳程度のパイ生地がこびり付いてた。が、だからどうしたという感じである。

 俺はボダッハの白濁した目としばしにらみ合いを続けた後、先輩に慈悲を求めた。


「すみません、これだけは勘弁してください」


(いた)し方ありませんね……では、こちらは後にいたしましょう」


「できれば永遠に後回しにしてほしいんですけど……」


 俺のつぶやきをスルーした先輩は次なる刺客を差し向けてきた。

 皿の上にいるのは……また見覚えのある奴だ……。


「あの、今度は調理すらされてないバイパーがそのまま置かれてるんですけど……?」


「調理済みですのでご心配なく。バイパーのブラッドソーセージでございます」


 先輩はソーセージを名乗るバイパーをナイフで輪切りにしつつ、淡々と説明を続ける。もう俺の食欲メーターはマイナスをぶっちぎっていた。


「古来よりバイパーの肉は滋養強壮と体力回復に役立つとされてきました。こちらのソーセージはバイパーの皮にバイパーの肉を詰め、繋ぎにバイパーの生き血を使用しております」


「それはもう100%バイパーじゃないですか」


「バイパーに捨てるところなし。激しい運動で体力を消耗したソウタ様にはうってつけの料理かと存じます。はい、あ~ん♥」


「やめて……助けて……」


「はい、あ~~~~~~~~~~~~」


「ヒッ……!」


 切り分けられたバイパーの、よりによって頭の部分が俺の口元に運ばれてくる。

 俺は顔を背けることでせめてもの抵抗を試みようとする。しかし、先輩の腕が俺の首をがっちりとロックしているせいでまともに動かせない。

 逃げようとしても無駄だ。俺の手足は椅子に縛り付けられており、自分の意志で指一本動かすことができないのだ。


「くそっ、腕の怪我さえ無ければ簡単に抜け出せるのに……!」


「ええ、おっしゃる通りでございます。ですが、それほどの大怪我をなさったのはいったいどなたのせいでございましょう?」


「あ~、まあ、そうですね……」


 あげつらうような発言に、罪悪感がうずく。

 先輩は意味もなくこんな嫌がらせをする人ではない。

 いや違うな……。結果的に俺を嫌な気分にさせることはあるが、悪気があってのことではない、だ。

 ならば、冒険者の食に一家言あるはずの先輩がなぜこんなクソマズ創作料理を作ったのかというと……俺のせいだ。

 先輩は、俺が独断で動いたことに怒っているのだ。


「さて、そろそろご自分の行いを(かえり)みることができたかと思いますが──」


 俺が苦悶の形相でバイパーソーセージを平らげた時だ。

 フォークを乱暴に置いた先輩が、急に声のトーンを落とした。


「なぜ、お一人で行かれたのですか」


 椅子が180度回転し、先輩の顔が俺の正面に来た。


「なぜ、わたくしに相談してくださらなかったのですか」


 先輩が俺の肩をつかむ。間近で見た先輩の顔は、引火寸前のダイナマイトのような気配を漂わせていた。

 言いたいことは痛いほど分かる。信頼していた相手が自分をないがしろにした挙句、一歩間違えば死ぬような作戦を内緒で実行していたのだ。俺が逆の立場でも同じようにキレていた。

 だが、俺だって軽い気持ちでこうすることを決めたわけじゃない。

 俺は叱られた子供のような顔で、自分なりのわけを話した。


「……先輩を危険な目に遭わせたくなかったんです。俺が行くって言えば、先輩は必ずついてくると思ったから」


「ですが、昨日は連れて行ってくださいました」


「危険度が違いすぎます。ラオフー先生の強さはトロールなんかとは比べ物にならない。それこそ近くにいるだけで巻き添えを食らうかもしれなかったんです」


「わたくしを甘く見ないでくださいませ。自分の身は自分で守れます」


「昨日だって危ない場面はあったじゃないですか!」


「それでも! わたくしの知らないところでソウタ様が傷つくよりマシです!」


「……っ」


 セイレンといい先輩といい、こういうやり方は本当に卑怯だと思う。こんなことを言われたら、もう何も言い返すことができない。

 なじられるよりも、不味い飯を食わされるよりも、「あなたのことが心配です」とストレートに伝えられることの方が、ずっと心をえぐるのだ。

 だからこの時の俺は、嬉しいやら気まずいやら恥ずかしいやらで、もう頭の中がぐちゃぐちゃだった。

 だけど、それは先輩も同じだったのだろう。先輩は涙目のまま俺をきっとにらむと、俺の胸に頭を押し付けてきた。


「……先輩」


 日が出てから間もない朝。俺たちしかいないメイド学科に、鼻をすする音だけが響く。

 先輩の体はいつも以上に熱を持っている気がした。こんな時、腕が動かせないことを歯痒く思う。

 せめて言葉だけでもと思った俺は、先輩を落ち着かせるように優しく語りかけた。


「すみません。俺……自分のことばかり考えて、先輩の気持ちを全然考えてませんでした。心配なのは先輩だって同じなのに」


「気付くのが遅すぎます」


 肩をつかむ手に力がこもる。爪痕が残ってしまうな、と思いながら、俺は先輩の話を聞いていた。


「朝起きて、お部屋を覗いたらソウタ様がいらっしゃらなくて、そうしたら外から大きな音が聞こえてきて。何か良くないことがあったのだと、もしかすると手遅れかもしれないと考えた時のわたくしの気持ちがソウタ様に分かりますか? 残される者の気持ちを少しでも(おもんばか)ったことは?」


「本当に、ごめんなさい。俺が身勝手でした。……ん? 部屋を覗いたって、どうやって? カギはちゃんと閉まってたはずですけど」


 ピッキングされた? それとも無断で合鍵を作ったとか?


「ソウタ様がわたくしの身を案じてくださっていることは、とても嬉しく思います。ですが、それならなおのこと、わたくしの体だけでなく、心も気にかけて欲しいのです」


「心……ですか?」


「冒険者の使命に殉じる覚悟を決めているのはソウタ様だけではございません。わたくしとてメイドの意地があります。誇りがございます。これと決めたお方に身命を賭してお仕えすることが、メイドにとって何より大切なことなのです。その覚悟を、どうか軽んじないでくださいませ」


 不思議な感覚だった。先輩の言っていることは、俺にとっても馴染みのあるものだったからだ。

 自らの役目を全力で果たすこと。リスクを冒してでも行動しなければならない時があること。全部俺が言ってきたことだ。

 要するに、俺は自分の気持ちを優先するあまり視野狭窄(しやきょうさく)に陥っていたわけだ。これは怒られても仕方ない。

 自分の至らなさに気付いた今、俺は素直な気持ちで先輩と向き合っていた。

 腫れぼったい目で顔を上げる先輩。

 俺は彼女の真心にきちんと応えるため、あらん限りの言葉を尽くして言った。


「分かりました。約束しますよ、先輩。次は絶対に置いていきません。あと、部屋のカギは寮母さんに取り換えてもらいます」


「なぜそのような結論になるのですか!?」


「防犯のためですけど……」


「ソウタ様のいけず!」


 ブチ切れモードの先輩にガクガクと揺さぶられる俺。

 ほんの照れ隠しのつもりだったのに酷い言われようである。いや、もちろんカギは替えてもらうけど。

 だがまあ……先輩の機嫌は直った。直ったというか、普段のキレ方に戻った。

 少なくとも、俺が二度と先輩を置き去りにしないという意思は伝わった、と思う。

 自分の気持ちを正確に伝えるのがこれほど難しいだなんて、子供の頃は考えたこともなかった。あるいはラオフー先生も、今の俺のような気持ちを抱えていたのだろうか。

 そんなことを俺が思っていると、玄関のドアが規則正しいノックと共に開かれた。


「ソウタ、いますか?」


「エカテリーナ先生」


 足早に入ってきたのは学部長であるエカテリーナ先生だった。

 俺がケガをしたと聞いて飛んできたのだろうか。先生は部屋に入るなり視線を忙しなく動かし、部屋の奥にいる俺の姿を見つけて、


「…………」


 そこにいたのはロープで椅子に縛られた俺と、濡れそぼった目で俺にしがみつく先輩だ。

 エカテリーナ先生は口を真一文字に結んだまま硬直。それからゆっくりと視線を横に向け、


「……すみません。出直しましょうか?」


「誤解です! 理解ある大人みたいなリアクションを取らないでください!」


「いえ、分かっています。人それぞれですから」


「違います! これはいやらしいやつじゃなくて拷問なんです!」


「拷問……ですか。それは、何とも……」


 言えば言うほど誤解が深まっていく。泥沼から抜け出すことを諦めた俺は早々に話題を変えた。


「そ、それより何か用ですか? ……って言っても、一つしかありませんよね」


 そもそも俺に格闘学科の調査を依頼したのはエカテリーナ先生だ。

 ということは調査の進捗を確認しに来たのか、あるいはもう一部始終を把握しているかだ。この人の有能さを考えれば後者だろう。

 エカテリーナ先生はしかめっ面で俺たちを観察していたが、まばたきひとつで真顔に戻り、


「先ほどラオフーが会いに来ました。これまでの行いを謝罪し、今後は生徒の安全を第一に考えるとのことです」


「そうですか、良かった……」


 その言葉を聞いた俺は肩の荷が下りた気分だった。

 さすがにここまで来て心変わりすることは無いだろうと思っていたが、こうしてはっきりとした形で結果を受け取ると感慨もひとしおだ。


「ですが、代償も大きかったようですね。あの男も派手にやってくれたものです」


 包帯まみれの腕を見たエカテリーナ先生が厳しい口調で言った。

 先生の辛辣な態度は俺に対する優しさの表れでもある。が、それでも俺はラオフー先生をかばうことにした。


「このケガは自業自得ですよ。ラオフー先生は悪くありません」


「どのような理由であれ、教師が生徒を傷つけるなどあってはならないことです。……と言ったところで、貴方は聞き入れないでしょうね」


「俺も格闘学科ですからね。強情さは師匠譲りなんです」


 かばった理由は同情ではなく、共感だ。

 誰かを教え導くことの大変さは俺にだって理解できる。なぜなら俺は、似たようなことを何度もメイド学科で経験してきたからだ。

 細かな違いはあれど、他者に寄り添うという意味ではメイドも教師も似たようなもの。そう思ったから、俺はラオフー先生を説得するために命を懸けることにしたのだ。


「仕方ありませんね。特別に今回だけは不問としましょう」


 そして、同じ教師であるエカテリーナ先生も何かしら思うところがあったのだろう。

 先生は呆れたように首を振ると、わずかに口元を緩めた。


「今日の午後、改めて格闘学科の講義が行われるそうです。その体で参加することは許可できませんが、見学くらいなら構いませんよ」


「いいんですか!?」


「今度ばかりは心配する必要も無さそうですからね。生まれ変わった格闘学科がどのようなものになるのか、貴方自身の目で確かめるといいでしょう」


 俺を(うなが)すように顔を傾けるエカテリーナ先生。

 気付けば俺を拘束していたロープはすっかりほどけていた。

 かたわらには涙を拭いた先輩が立っており、物言いたげな顔でこちらをじっと見つめている。

 俺は自然と相好を崩すと、先輩が待ち望む答えを口にした。


「行きましょう、先輩」


「──はい! 仰せのままに!」




 そして、午後。


「ぎゃああああああああああああああああああ!」


「うわああああああああああああああああああ!」


「…………あれえ? おっかしいなあ……」


 昨日とさして変わらない講義が行われていた。

 草木一本見当たらない荒野の真っただ中。アスファルとフェザーが叫び声を上げて逃げ回る。

 あたりには黒々とした煙がくすぶっており、焦げ付いた地面が熱した鉄板のようにじゅうじゅうと音を立てていた。

 まるで地獄のような光景だが、真の脅威は地上ではなく、空の上にいた。

 大空を覆う影。強い羽ばたきが熱風を生み出し、甲高い鳴き声が耳朶(じだ)を打つ。

 それは太陽のようにまばゆい光と炎をまといながら、敵意に満ちた目でアスファルたちを追いかけていた。

 ドラゴンに匹敵する強さを持つと言われる魔物、フェニックスだ。


「……マジで?」


 あまりにもハチャメチャな展開に俺の思考は麻痺していた。ここまで来るともはや驚きや恐怖といった感情すら沸いてこない。

 マヌケ面で空を見上げる俺の横で、先輩が無言で顔を引きつらせていた。


「見よ、皆の衆。あれこそ灰の中から何度でも蘇るという伝説の不死鳥、フェニックスである。我ら格闘学科の新たな門出を飾るにふさわしい相手はあやつ以外におるまいて」


 ラオフー先生が何やらほざいている気もするが、先生のたわごとなど俺たちにはほとんど聞こえていなかった。

 聞こえるのはフェニックスのけたたましい声と、奴の炎が大地を嘗め尽くす音。あとはアスファルたちの絶叫だけだ。

 っていうかフェニックスって何だよ……。こんなの学生が戦っていい相手じゃないだろ。軍隊出動案件だぞ。

 しかしどれだけぼやいても現実は変わらない。そして後輩たちの運命も変わらない。絶望の瞬間が訪れるのは時間の問題だった。


「ぐおっ……やべぇ!」


「アスファル!」


 追いかけっこはすぐに終了した。足を滑らせたアスファルが盛大にすっ転び、振り向いたフェザーが悲鳴を上げる。

 あ、と思う時間すら無かった。

 津波のように押し寄せる炎がアスファルの体を一瞬で飲み込み──


「とあーーーーっ!」


 その時だった。ラオフー先生の姿が煙のようにかき消えたかと思うと、残像が見えるほどのスピードで炎の中に飛び込み、


「ハイィィィッ!」


「ぶほっ!」


 それを見た俺は目を剥いて叫んだ。


「ラオフー先生が……アスファルをぶった!?」


 目の錯覚ではない。ラオフー先生の痛烈な平手がアスファルの頬にクリーンヒットする瞬間を俺は確かに見た。

 犯行動機は不明だが、どう考えたってオーバーキルだ。フェニックスの炎とラオフー先生の攻撃を同時に受けて無事でいられるわけがない。

 全てを焼き尽くす炎の中、もんどりうって倒れていくアスファルのシルエット。誰もが最悪の瞬間を予想していた。

 が。


「……あれ? 俺、何ともないぞ?」


 炎が過ぎ去った時、そこにいたのは静かにたたずむラオフー先生と……不思議そうな顔で起き上がるアスファルだった。

 服がボロボロに焼け焦げてはいるが、その体には火傷の痕など見当たらない。

 それどころか、ラオフー先生にぶたれた痕すら残っていない。常人なら首が二回転してもおかしくない威力の打撃を受けたにもかかわらずだ。


「これは、いったい……?」


 ざわめく一同。答えを求める皆の視線が一点に注がれる。

 ラオフー先生は太極拳のように緩慢な動きで構えを取ると、厳かに宣言した。


「これぞ我が克虎拳(こっこけん)の新奥義、護発勁(ごはっけい)よ!」


「護発勁……!?」


 待ったをするように平手を突き出すラオフー先生。


「何、大したことはない。浸透勁(しんとうけい)の要領で私の気を分け与えたのだ。気は万物の源であり命を育むもの。それを直接体内に送り込めば──たぁっ!」


「ぐべらぁっ!」


 狙いすました後ろ回し蹴りがアスファルのあごを打ち抜いた。

 直後にフェニックスが炎を吐き出し、周辺一帯が赤一色に染まる。

 しかし、またもアスファルは無傷だった。

 無傷というか、回復だ。全身を覆う火傷が、砕かれたあごが、とてつもない勢いで治っているのだ。


「まさか……治癒魔術?」


「そうではないが、本質的には似たようなものよ。護発勁ある限りあらゆる傷はたちまち消え失せ、死神は腰を抜かす。これすなわち活人の極意である!」


 歌舞伎のように決めポーズを取るラオフー先生。俺たちは驚きと呆れが入り混じった表情で先生のキメ顔を拝むしかなかった。

 護発勁とやらがすごいのは分かった。それを利用すれば大怪我をしても大丈夫だということも分かった。

 だが……これで……これでいいのか?

 もしかして「じゃあこれからはどれだけ危険なことをしても大丈夫だね」って話なのか? これがラオフー先生の考えた正しい教育の在り方なのか? これが俺の勝ち取った格闘学科の未来なのか?

 ええ……?


「さすが師範です! こんなにすごい技をあっという間に完成させてしまうなんて!」


「子供かわゆし親心よ。このラオフー、そなたらを守るためなら奥義の一つや二つ、いやさいくらでも編み出してくれようぞ」


「師範……! このセイレン、あなた様に一生ついていきます!」


 心温まる師弟愛の一幕が繰り広げられる一方、むくりと身を起こしたアスファルは信じられないといった様子で自らの手を見つめていた。


「俺、まだ生きてる……。ってことは、まだ戦えるってことで……」


 気の抜けたような顔に、少しずつ感情の色が戻っていく。

 生の喜び。沸き上がる興奮。

 それは彼の闘志に少しずつ火を灯していく。

 そうしてついに立ち上がったアスファルは、力強く拳を握りしめ、


「それはそれとして痛えええええええええええ!!」


 地面を転げ回った。

 そりゃそうだ。護発勁は治療であって無敵化ではない。ラオフー先生のチート能力でダメージを強引に踏み倒しているだけなのだ。

 当然殴られれば痛いし、燃えても痛い。むしろ死が遠のいた分だけ苦しみが長引いたとすら言える。

 などと俺が分析している間にフェニックスがまた炎を吐いた。それに応じてラオフー先生も動く。


「アチョーーッ!」


「ぐわああああああっ!」


「トリャアアッ!」


「ぐわああああああっ!」


 焼かれ、殴られ、回復し、そしてまた焼かれる。終わらない無限ループ。

 最初は心配そうに見ていたフェザーも、今では目を点にして友人が生と死を繰り返す様を傍観(ぼうかん)している。

 当のフェニックスですら、「これどうなってんの?」みたいな顔でビクビクしながら炎を吐き続けている。

 まるで風邪をひいた時に見る夢だ。現実感が全くないし、どんな感想を抱けばいいのかも分からない。

 ひたすら不条理で、シュールな世界だった。

 だからこそ、俺は気づくことができた。


「そうか分かったぞ! これは全部夢なんだ!」


「ソウタ様!?」


 あーびっくりした。

 そうと分かればこんな悪夢に長居は無用。俺は先輩を連れて正常な現実に回帰することにした。


「ほら、先輩も早く起きてください! もたもたしてると授業に遅刻しちゃいますよ!」


「ソウタ様、お気を確かに! ソウタ様ー!」





 ──以上をメイド学科の活動報告として提出する


 神聖歴1522年4月14日

 ミスティア=ファルクーレ


【担当者から一言】

 ミスティ、ご苦労様。

 ソウタちゃんにはしばらく休んでもらいましょうか。

 それと、休養中は絶対に格闘学科の人たちを近づけさせないように。いいわね?


 メイド学科担当教師 ポピー=ハミルトン



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