あなたの才能は――
夢破れた青年がいた。
そびえ建つビルを見上げたまま動かなかった。
誰かに声をかけてもらいたかったのか。
あるいはそうでないのかも分からない。
わざわざ人目の付く場所で立っていたのだけは事実だ。
誰にも声はかけられなかったが。
秋になり寒い風が吹く日々が続いていたのに今日に限って日差しが熱い。
それどころかそよ風一つ吹きやしない。
青年の肌に浮く汗は暑さだけのものではなく、むしろ周りを行き交う人々の怪訝な視線と表情――そして何より誰にも声をかけられないことが原因だった。
ちくしょう。
青年は心で呟き首を垂れる。
なんと無駄な時間を過ごしたのか。
見上げた時間だけ惨めに感じた。
惨めに感じただけ己を呪った。
自分には才能はなかったのだ。
少なくとも願った才能は。
ちくしょう。
そのくせ、別の才能はあった。
最も自分に相応しくないと感じていた才能が。
ちくしょう。
青年は舌打ちをして歩き出す。
結局誰にも声をかけてもらえなかった。
声をかけてもらったなら何かが変わったかも知れないのに。
「ちくしょう」
声に出す。
最後のチャンス。
しかし、道行く人はすれ違う人間のため息なんて聞くはずもない。
青年は諦めてジャケットの中に隠していたスイッチを押した。
指は柔らかなボタンを強く圧した。
これ以上ないほどに強く。
***
この日。
たくさんの才能ある人が死に多くの『席』が空いた。
それに伴い、死んだ人々より劣っていた者達が彼らの席についた。
その気になれば青年もまたその席につくことは出来た。
――しかし、青年はそうしなかった。
伸びしろはないのは自分自身が一番良く分かっていたからだ。
「こんな才能。欲しくもなかった」
ぽつりと呟く。
けれど、もう後の祭り。
開花した大犯罪者の才能――大きくなり始めた自分の才を試したいという欲求を抑えることなど誰にも出来るはずはないのだから。