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身内のことでゴタゴタしたが、一同はやっと本来の目的に話題を移した。


「うちが追ってたのは詐欺グループでね。人の悩みに漬け込んで金を巻き上げる卑劣なヤツらなんだけど。キトラが捕まえたのはその下っ端だね」


ミソラが自分達の持っている情報を共有するために説明をしている。その姿はキリッとしてかっこよく、実際に仕事もよくできる。色事に関する悪癖が無ければなぁと一同は残念な気持ちになった。


「手広く活動してて人数も多いみたいでね。ターゲットの情報収集がやけに正確なんでうちが動いてたんだ。捕まえた奴らによると例の高校生は指示役と実行役のパイプ役として動いてたって話なんだけど……。スイレン君。その子と男達の会話を何か聞いたかい?」

「はい。たしか……なんでアイツらが捕まってるんだ。話が違うだろ。と言ってました」

「なるほど。たぶんそのアイツらってのは君達が捕まえた強盗団だね。と言うことは、その強盗団も指示役は同じ人間ということかな。普通に考えれば強盗団が捕まったことで焦って少年を問い詰めてたということになるけど……」


ミソラがコハクに視線を送る。それを受けてコハクが少年の映る防犯カメラの映像を出してきた。


「電話で話した映像です。少年がただのパイプ役なら店員との接触は普通なら無いと思うんですよね」

「そこで出てくるのが情報を引きだせる能力ということだね」

「はい。少年にその能力があって強盗に役立つ情報を店員から引きだしていた、というのが俺の考えです」

「そしてその少年が記憶を消す能力も持っているのか。それとも他に能力者がいるのか。ともあれ、まずは少年を見つけないと始まらない。店の周囲の聞き込みと防犯カメラを調べようか」


人数の必要な捜査にできるだけ人員を集められるよう、ミソラとコハクがゼンに話をしに行くことになった。キトラも久しぶりに2班に挨拶に行くと同行し、部屋にはシエンとホムラとスイレンの3人が残された。


「今日は色々と知れて驚きました」

「隠していたわけではないんだけど、話すのが遅くなって悪かったね」

「いえいえ。でもキトラさんが元2班なのは驚きました。チームのメンバーも変わっていってるんですね。他にもチームを抜けた人っているんですか?」


スイレンとしては何気なく聞いただけだった。だが、シエンが微妙な顔をする。


「それは……」

「俺の同期がつい最近抜けてる」


言い淀むシエンの代わりにホムラが答える。その声は出会った時の冷たい声に変わっていた。


「サナと言って、俺のルームメイトだったヤツだ」


初日のホムラとの会話を思い出す。ルームメイトが寮を出たからスイレンが入ることになったと。


「そ……そうなんですか。なんで……」


なぜチームを抜けたのか。警察を辞めてしまったのか。聞きたいことは山ほど浮かんでくるのに言葉にならない。

沈黙が部屋を支配しているとコハクが戻ってきた。


「2班で話をすることになったから、みんな移動しようか」


明るく声をかけてきたコハクだが、部屋に漂う重苦しい空気に何があったのかと不思議な顔をした。




結局沈黙のまま2班へ向かうことになった面々が廊下を歩いていると、1人の男性が声をかけてきた。


「シエン君。久しぶりだね。調子はどうだい?」


声をかけてきたのは広報部の男性だった。


「お久しぶりです。順調ですよ」

「そうかい。それは何より。でもうちとしてはやっぱりシエン君に広報に戻ってきて欲しいよ。君は華があったからね」

「ありがたいお言葉ですが、元々捜査官として採用された身ですので。後進の育成もありますし」

「でも捜査官として入った腕付きの子は1人辞めちゃったんだろ?もう1人は普通の捜査官と大差ない活躍しかできてないらしいし。なら、もっと特殊なことができる腕付きの子が集まるように広報を頑張ったほうがいいんじゃない?」


男の心ない言葉にホムラから怒りとも悲しみとも言えない感情が立ち上る。

それを遮るようにコハクが会話に割って入った。


「すみません。急ぎますので」

「ああ。ごめんね。シエン君、広報に戻る話考えといてね」


それだけ言うと男は立ち去っていった。

俯いて拳を握りしめるホムラの肩にコハクが手を乗せる。


「君の価値を決めるのはあんなヤツじゃない。ホムラくんは俺たちの大切な仲間だよ」

「……わかっています」


苦しげに答える背中は泣いているようで。

スイレンはどうしてもその背中に近づけなかった。




その日の仕事が終わり帰り支度をするスイレンが部屋を見回すと、ホムラの姿がなかった。


『今日も訓練場にいるのかな?』


廊下での出来事が気になり訓練場へ向かうスイレン。中を覗くとホムラが昨日と同じように訓練していた。


『こんなに綺麗なのにな……』


優雅な動きを見ながら廊下で聞いた言葉を思いだす。腕付きの捜査官なら特殊な能力がないと価値がないと言わんばかりの言葉。

たしかにホムラはコハクのような特殊な能力もないしシエンのように銃を扱えるわけでもない。それでも流れるような動きはあっという間に犯人を捕まえてしまうし、冷静で判断力もある。そして、人を思いやる優しさも。

それでもいつも一歩下がって自分を追い込むような態度をとってしまうのは、腕付きが捜査官になることへの高い壁を表しているようだった。


『俺に……俺に何かできないかな……ホムラさんを助けられないかな……』


周りから身を守るための炎で自分自身も焼き尽くしてしまいそうなホムラが怖くて。

スイレンが扉を開けて中へ入ろうとすると、真っ赤な瞳がこちらを向いた。

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