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しばらく途方に暮れた後、スイレンがみんなのいる部屋に戻るとキトラが吊し上げのような状態になっていた。


「パートナーの後輩に手を出すなんて最低ですね。しかもあんな若い子に」

「キトラさん、見損ないました」


シエンとホムラにチクチクと嫌味を言われ、キトラはだから違うってと必死に弁明している。


「あの〜。何が何だか全くわからないので説明して欲しいんですけど……」


扉を開けながら誰でもいいから現状を説明してほしいと声をかけると、コハクが駆け寄ってきて抱きしめられた。


「スイレンくん怖かったよね〜。あのケダモノのせいでごめんね。何もされなかったかい?」

「いや、コハクさんが何か言ってなかったか聞かれただけで、何もされてませんよ」


その言葉にコハクが目を丸くしてスイレンを離した。


「え?そうなの?」

「はい。殺されるとか何とか物騒なこと言ってただけで、何も」


その言葉を受けてキトラが「ほら!俺の言った通りだろ!」と叫ぶ。


「な〜んだ。てっきりスイレンくんに手を出したのかと思ったのに。でもまあ、散々俺のことほっといたんだからこれくらいの罰いいでしょ」

「ほっといた?」


その言葉に先ほどからでているキトラという名前が繋がってスイレンの中で妄想が弾けた。


「キトラさん⁉︎あなたが⁉︎えっ!死んだんじゃなかったんですか⁉︎」


スイレンの叫びにコハクがブホッと吹き出した。


「し、死んだって何⁉︎家には全く帰ってこないけど生きてはいるよ。勝手に俺のパートナーを殺さないでよ」


ゲラゲラ笑うコハクに更にスイレンが追い打ちをかける。


「えっ⁉︎コハクさんってシエンさんと付き合ってるんじゃないんですか⁉︎」

「!スイレン!君はなんていい子なんだ!お菓子をあげよう!」


更にゲラゲラ笑うコハクと、どこからかお菓子を出してくるシエン。そのどうしようもない先輩達に呆れてホムラがスイレンの謎に答えてくれた。


「コハクさんのパートナーはキトラさんで、シエンさんは別にパートナーがいるぞ。なんでそんな勘違いしたんだ?」

「だって、シエンさんがコハクさんを抱きしめてるのを何度も見たし、給湯室でキ、キスしようとしてたのも……」


その言葉にキトラがシエンを睨むが、睨まれたほうは気にせず少し思案したあとにポンと手を叩いた。


「もしかしてこないだのかな?あれはキスしようとしたんじゃなくて、ストレスを和らげてもらってたんだよ。コハクさんは糸で繋がってる相手の精神を癒したり落ち着かせたりできるからね。ちなみに俺がコハクさんを抱きしめるのは糸の繋がりを安定させるためだよ。肉体の接触が多ければ多いほど繋がりは安定するからね」


話しながらサラッとコハクを腕の中に収めるシエン。キトラはとてつもなく不服そうな顔をしているが、パートナーが目の前にいるというのにコハクはあっさりそれを受け入れている。ホムラは「でも人前ではやめてください」と苦情を言っていた。


「じゃあ、キトラさんのことはもういいとか、帰ってこないっていうのは?それでキトラさんのことコハクさんの死んだ元恋人だと思ったんですけど」

「それはそのまんまの意味だよ。キトラは前は2班所属で一緒に働いてたんだけど、1年前に本部に異動になってね。お互いが通いやすいように寮を出て家を借りて2人で暮らしてるんだけど、ま〜ったく、ま〜ったく帰ってこないんだよねぇ。それどころか連絡もいれやしない。あながち死んだってのも間違いじゃないかもね」


凍てつくようなコハクの視線にキトラが震える。「でも仕事が…」と言い訳しようとするのを威圧感で封じられた。


「なら俺の出番ですよね。いい加減キトラさんなんか捨てて俺を選んでくださいよ」

「お前、本当にいつかロクイさんに捨てられるぞ」

「あの人が俺のこと捨てるわけないでしょ」


キトラとシエンの言い合いが始まるが、スイレンはまた知らない名前が出てきたことにシュンとなる。するとホムラが説明してくれた。


「ロクイさんは13班の人でシエンさんのパートナーだ。……今度銃のことで13班にいく時、一緒に連れてってやる」


さりげない優しさが嬉しい。スイレンがあの満面の笑みを見せると、ホムラは照れながら話を続けた。


「そ…それと、キトラさんのことは残念だったな。相手がいるならしょうがないだろ」

「?何のことですか?」

「?好きなんじゃないのか?」


お互いに頭にハテナを浮かべて見つめあう。そこでスイレンが合点がいったようで誤解を解き始めた。


「ああ!別に恋愛の好きじゃないですよ!ファンみたいなもんです。憧れのキトラさんと大好きなコハクさんがカップルなら、これ以上の眼福はないでしょう!マジ箱推しでいけます!」


急にテンションがあがり最後は訳の分からない単語まで出てきたことでホムラは若干ひいてしまう。


「ま、まあお前が満足してるならそれでいい」

「はい!これから毎日楽しく過ごせそうです!」


爽やかに笑うが内容は趣味丸出しなスイレンに、それでも愛しいと思ってしまってホムラは頭を抱えた。




その後。スイレンだけ何も知らなくて可哀想だと気づいたコハク達が、チームの成り立ちなども含めて色々話してくれた。


「もともと特殊能力者の捜査に関しては、事件が起きた時に俺を中心に適当なメンバーでチームを組んで対処してたんだよね。でもだんだん事件の数が増えてきてね。専門のチームをつくることになったんだ。それが2年前。腕付きの新人が入ったからシエンくんを2班に呼び戻して、キトラと腕付きメンバーでチームを組んだんだよね」

「その頃はキトラさんがコハクさんと糸で繋がってたんだけど、1年前の異動の時に代わりの人間を選ぶことになってね。俺が選ばれたんだよ。常にコハクさんの居場所を知れるし堂々と抱きしめられるし最高……とても名誉なことだよ」

「本音がダダ漏れてんぞ」

「1年間コハクさんをほっとくだけほっといて、糸へのエネルギーの変換だけは抑えてもらってる人に何を言われても響きませんね」


悦に入っているシエンにキトラがツッコミを入れるが、返ってきたのは冷徹な指摘だった。キトラが言い返せずに押し黙る。


「だいたいチームの成り立ちとしてはこんな感じだけど、他に聞きたいことあるかな?」

「えっと、時々出てくる名前が気になってて。ウタハくんとカグラとセキトさん」

「ああ〜。カグラはね。捜査の協力者かな。おいおい会わせようと思ってたんだけど、君と同じ目を持つ人だよ」

「俺と同じ……」

「うん。そのうち会えるからもう少し待っててね。ウタハくんは理由があってカグラと一緒に暮らしてる子だから、カグラと会う時に会えるよ。詳しくはその時に話すね。あとセキトさんはキトラのお兄さんで公安の人だよ」

「そうなんですか!兄弟揃ってエリートなんですね!かっこいい!」

「そう!そしてそのセキトの幼馴染でエリート仲間なのが私だ!」


それまで大人しく話を聞いていたミソラが、かっこいいの言葉に反応してズイッと前に出てきた。


「初めましてスイレン君。キトラの上司で管理官のミソラだ」

「管理官⁉︎ご挨拶が遅れました!スイレンです!よろしくお願いします!」


非常に素直に、階級の高い人間に敬意を示すスイレンをミソラは好ましく見つめた。


「いやぁ、可愛らしい新人さんだねぇ。今度食事でもどうだい?」


素直で愛らしいスイレンはミソラの好みにピッタリだったようだ。息をするように口説くミソラをシエンが止めようとすると、先にホムラが立ち塞がった。


「管理官。いい加減仕事の話をしませんか?お忙しいあなたの時間をこれ以上奪うのも申し訳ないので」


目上の人には礼儀を弁えているしどちらかと言うと前に出ることを好まないホムラが、はるかに階級が上の人間に楯突いている。ミソラはその姿を見て目を輝かせた。


「おやおや。仕事一筋でそういったことには興味がないのかと思ってたけど。なるほどねぇ」


ニヤニヤとホムラとスイレンを楽しそうに眺めるミソラ。ホムラはからかわれてると感じて不機嫌になるが、スイレンはよくわかっていないようだった。

それを見てミソラがおもむろにホムラのアゴを掴んで顔を近づける。


「君は面白みのないタイプだと思ってたけど、なかなか可愛いところもあるじゃないか。俄然興味が湧いてきたよ。スイレン君がダメなら君が食事に付き合ってくれてもいいよ」


完全に調子に乗っているミソラにホムラは炎のような怒りの目を向けている。さすがにコハクが止めに入ろうとするが、すんでのところでミソラが床に転んだ。

何事かと一同が驚くと、スイレンがミソラを突き飛ばしていた。


「………!す!すみません!管理官!でも今のはセクハラです!ダメです!ホムラさんにそんなことしないでください!」


突き飛ばした手を前に出したまま戻しもせず、涙目で訴えるスイレン。

その姿を見て、床に転んだ情けない姿のままミソラは大声で笑った。

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