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透明な瞳が繋ぐ世界  作者: ヒツジ


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ホムラも定期的に糸を出して移動しているらしく、スイレンは粒子の動きを追ってすぐに黒い影を見つけた。


「ホムラさん!」


身を案じていた恋人の無事がわかり、感極まってスイレンは思いっきり抱きつきに行った。

………が、あっけなく避けられた。


「なんで避けるんですか!」

「むしろなんで呑気に抱きついてこれるんだ!犯人の住処の真っ只中だぞ!」


せっかくの再会なのに2人のテンションは全く違う。スイレンはしょんぼりした。


「心配したのに。必死になって粒子を追ってきたのに。ホムラさん冷たい。ここまで頑張ったのはあなたのためなのに。俺なんてどうでもいいんだ。俺より任務のほうが大事なんだ」

「わかった。わかったから。よく頑張った。それは理解してる」

「……ほんとに?」

「ほんとだ。ほら。ご褒美が欲しいんだろう。早く仕事を終わらせるぞ」


ご褒美と聞いてスイレンが急にシャキッとなる。


「そうでした!ホムラさんはどこに向かってたんですか?」

「カグラさんが2箇所に粒子を感じたと言ってたから、分かれて様子を見にきたんだ。もうすぐその場所なんだが……」


話しながら歩くホムラに向けて粒子が飛んでくるのを感じた。慌ててスイレンが無効化する。


「今のは……」


何も気づいていないホムラに粒子のことを説明する。臨戦体制に入ったホムラの後ろにスイレンがついて、粒子が飛んできた先へと進んでいった。


「……君達は……」


ホムラの声にスイレンが顔を覗かせると、ライカに仲間だと声をかけた少年がいた。誰かを庇うように後ろに隠している。


「セイ君だな。俺達は敵じゃない。君を助けにきたんだ」

「近づくな!」


予想はしていたが、セイは住処を襲撃した警察達を敵だと認識している。


「君達が悩みや苦しみを感じてここに救いを求めたことはわかっている。でもイシがしようとしていることは戦争だ。このまま進めば待っているのは殺すか殺されるかの世界だ」

「だから何だ」


ホムラの言葉はセイの耳には届かない。狂気を孕んだ瞳が全てを拒絶している。


「それが今までと何が違う。能力者は息を潜めて死んだように生き、腕付きは搾取されて物として死んでいく。あんな地獄にシュカを戻してたまるか!」


セイは後ろにいる少年を更に守るように自分の体で隠す。その時、僅かに見えた少年の腕には大きな傷があった。




その頃。カグラはイシと対峙していた。


「鬼ごっこはお終い?僕の勝ちでいい?」


首を傾げながら子供のように聞いてくるカグラに、イシは怒りをのせた笑いを浮かべる。


「あなた達は囮だったというわけですか。まんまと踊らされたね」

「警察をあまり舐めないほうがいいよ。あらゆる悪意と闘ってきたんだ。簡単に逃げおおせるものじゃない」

「悪意……ですか」


イシの笑いが嘲るものに変わる。追い詰められた者の態度ではないそれに、カグラが警戒を強めた。


「あなたは脳が異常に発達したタイプでしょう?どういうわけか情緒面が子供のままのようだが。それが肉体に顕著に表れている。実に面白い」

「さすが脳科学の教授だね。なるほど。実験体として扱われるのってこういう気持ちなんだ。勉強になるよ」

「お褒めに預かり光栄です。ついでにもう一つ考察を聞いてもらえますか。能力者以上に糸に支配されているあなたは、おそらく身体面は普通の人より劣るはずだ。私でも簡単に捕まえられるほどに」


その言葉を合図にイシがカグラに向かってくる。抵抗のために放つ粒子は無効化され、糸も叩き落とされた。あと少しでカグラに手が届く。イシが勝利を確信した瞬間。


「私の恋人に何をしている」


鮮やかな蹴りがイシの腹を横から打ちつける。訓練された動きは一般人でしかないイシには凶器だった。体が吹き飛ばされる。


「こんにちは。私のお姫様。間一髪だったね」

「コソ泥の次は遅刻?やっぱり君は王子様にはほど遠いね」

「はっはっは。私の姫は手厳しい。これは名誉挽回しないといけないね」


むせながらも何とか立ち上がったイシにトカゲが向き直る。いつでも攻撃を加えられるように構えの姿勢をとった。


「なぜ、ここが……」

「簡単な話さ。私も目を持つ者だからね」


その答えにイシは驚きを隠せない。


「私の他にも、こんなに……」

「驚いたかい?同じ能力を持つよしみだ。なぜこんなことをしたのかくらい聞いてあげるよ」


余裕を見せるトカゲとは反対に、イシは心の底に渦巻いていた憎悪が体を覆う。


「理由か。そうですね。なら、聞いてくださいよ。ありふれた悲劇の話を」




シュカと呼ばれた少年は腕の傷を隠すように手で覆った。その痛々しさにスイレンが悲しみの表情で声をかける。


「その傷、どうしたの?」


思わず手を前へ出すが、シュカは怯えたようにセイにしがみつく。その様子にセイが激しい怒りを向けてきた。


「どうした、だと。切られたに決まってるだろ!腕付きを切り刻んで楽しむゲス野郎にな!コイツの親は家族のためだっつってコイツを金で売ったんだよ!」


叫ぶセイの服を掴むシュカの手に更に力が入る。耐えるようにつぶる目尻に涙が溜まっていた。


「イシが助けなきゃシュカはとっくに死んでた!今ここを出たらコイツは親のところに帰される……そしたら、また売られて今度こそ……そんなの許せるはずないだろ!」


シュカの記録は一切警察になかった。失踪届けなどは出されていないということだ。それは親に売られたということの証明になる。


「……だからお前が守るのか。人を殺してでも」

「当たり前だ!殺されるくらいなら殺してやる!」

「それをシュカ君は望んでるのか?」


ホムラはセイと話しているように見せて、シュカに問いかけていた。小さな体がピクリと反応する。


「……どういう意味だ?」


セイの中の怒りが少しずつ変容していく。それは苛立ちなのか、戸惑いなのか。それに気づきながらもホムラは言葉を止めない。


「シュカ君は、君に手を汚させて笑顔でありがとうと言える子なのか?……君の大切な人は、君を罪に苦しむ地獄に落として平気な顔をしていられるような人なのか?」


怒りが絶望に変わっていく。青ざめるセイの後ろでシュカが震える声をあげた。


「僕は……僕はいやだよ。僕を守るためにセイが苦しむのは」


振り返るセイが見たのは、涙を流しながら自分を止めようとする大切な人の姿だった。


「セイ、笑わなくなった。どんどん顔が怖くなって。僕が助かってもセイが笑えないなら、そんな世界はいやだよ」


必死にしがみつくシュカにセイは顔を歪ませる。


「でも……じゃあ……どうしたら……」

「俺達が守るよ!」


ずっと見ていることしかてきなかったスイレンが思わず口を開く。

その瞳は必死に寄り添う2人を真っ直ぐに見つめていた。

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