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スイレン達が会議室に戻ろうと扉の前まで行くと、中から話し声が聞こえた。


「スイレンくん。大丈夫かな。もうちょっと事情を話してからのほうが良かったのかな。それとも俺の言い方が怖かったのかな」

「とりあえずはホムラを信じましょう。アイツは優しいヤツですから。スイレンだって驚いただけかもしれませんし」


その声から自分を心底心配してくれているのが伝わって、スイレンは感極まって思い切り扉を開けた。


「コハクさん!シエンさん!すみません!俺、突然で怖くなってしま……って……」


謝罪の言葉は最後まで結ばれることなく途切れる。

なぜなら部屋の中で落ち込むコハクを、隣に座るシエンが抱きしめているのが目に映ったからだ。


「なっ!なっ!」

「……シエンさん。それは人目につくとこではやめてくださいと言ったはずですが」


呆れと怒りを含んだ声でホムラが不満を訴える。訴えられた方は素知らぬ顔だ。


「ああ。すまないね。なかなかコハクさんと一緒にいれる時間がないから、隙を見つけると抱きしめるのがクセになってて」

「迷惑なクセなので治してください。今すぐに」

「仕事のためなんだけどなぁ」

「それでもです」


ピリピリと威嚇するホムラにシエンがやっとコハクを解放する。そのままスイレンに駆け寄ってくるコハクの目元は少し赤くなっていた。


『泣いてたのかな……俺のために……』


初っ端から危険な目に遭わされたり、書類仕事がダメダメだったり。そんな情けない教育係だが泣くほど自分のことを心配してくれている。この人なら秘密を話しても大丈夫かもしれないとスイレンの心に期待が沸いてきた。


「ごめんね。ずっと秘密にしてきたことを突然話されて怖かったよね。でもスイレンくんを傷つけるつもりは全くないんだよ。ただ、力になれないかなと思って……」

「光の粒が見えるんです」


震える手をぎゅっと握り、発した声は掠れていた。でもスイレンは止まらない。


「人が糸を出すときに。体の中を光の粒が走るんです。でも俺しか見えてないみたいだから……怖くて………俺、化け物なんじゃないかっ」


言い切る前にコハクに抱きしめられる。温かい腕が絶対に離さないと言わんばかりに体を包んできた。


「ありがとう。話してくれて。大丈夫。スイレンくんは化け物なんかじゃないよ」


体を離し、まっすぐにスイレンを見てコハクは言葉を続ける。


「君とね、同じ人がいるんだ。粒子状の糸が見える人が。その人のことを知ってたから、学校で訓練してる時のスイレンくんを見てもしかしてと思って。その人に確認したらそうだろうと言われたし、君はそのことで悩んでるようだったから何とかできないかなと2班に呼んだんだ」

「俺と……同じ人……」


考えたこともなかった事実に、スイレンは喜びよりも戸惑いが勝っている。


「そう。色々と事情のある人だから、すぐ会わせてあげるわけにはいかないけどね。まずは俺と一緒に仕事をして、俺を信頼してもらえたら嬉しいかな」


いつものヘラっとした笑いなのに、それはとても頼もしくて。この人ならきっと自分を救ってくれる。この秘密を、自分の力を導いてくれる。スイレンは根拠なんて必要なくそう信じられた。


「俺、信じます。俺の力を信じて2班に入れてくれたコハクさんの役に立てるように」


精一杯の感謝を伝えたつもりだったが、なぜかコハクは目を丸くしている。


「う〜んと。力のことで悩むスイレンくんを助けたかったのは本当だけど、その力目当てで2班に呼んだんじゃないよ」

「?じゃあ、何で」

「組み手の時、相手を攻撃するのを凄く躊躇してたでしょ?人を傷つけることを恐れる君なら、うちのチームにぴったりかなと思って」


捜査官としては欠点なその臆病さを、コハクは優しさという長所だと言ってくれた。その特異な能力ではなく、その心でスイレンを選んだと言ってくれた。


「……俺、がんばります」

「うん。一緒にがんばろうね」


晴れやかな顔がスイレンを歓迎していた。




スイレンの同意も得られたということで、改めて捜査についての話し合いに戻る4人。


「糸による特殊犯罪と思われる事件が起こると、今はシエンくんとホムラくんと俺がチームとして動くことになってるんだ。今回からスイレンくんも加わるから4人でチームだね」


ニコニコと屈託のない笑顔を向けてくるコハクにスイレンは少し照れ臭くなる。


「さて。今回の件だけど。情報を引きだせる能力者は強盗犯の中にはいなかった。ということは捕まっていない仲間がいるのか、情報屋がいるのか。強盗犯の取り調べはオラガさん達が担当してくれてるから、俺とスイレンくんはアイヒさんに情報をくれた人から話を聞こうか。シエンくんとホムラくんはそれらしい事件が他にも起こってないか調べてくれるかな」


了解の返事と共に解散となる。シエンと一緒に部屋を出て行こうとするホムラをスイレンが引き留めた。


「あの……ホムラさん………ありがとうございました」


ペコリと頭を下げる後輩にホムラが複雑な表情になる。


「いや。先輩として当たり前のことをしただけだ………それに………」


言い淀むホムラが少し苦しそうで、スイレンは頭を上げてジッとその顔を見つめる。澄んだ水色にホムラが観念したように続きを口にした。


「お前に……八つ当たりのようなことをしてしまったからな。怒鳴ったり、関わるなと言ったり。……悪かった。俺の個人的な問題なんだ。お前のせいじゃない」

「……じゃあ、寮でも一緒にいてくれますか?俺、色々教わりたいです!」


キラキラと輝く水色が眩しい。その色に応えてあげたいのに、ホムラの心の底の暗い闇が手を離してくれない。


「……すまない。それは無理だ。寮には必要最低限しかいたくないんだ。聞きたいことがあれば仕事中に聞くから」


泣きそうな顔にスイレンはそれ以上何も言えなくなってしまう。そこまで見届けてシエンとコハクがそれぞれ仕事に向かうよう2人を部屋から連れ出した。




情報を引きだせる人物について聞くために、スイレンはコハクと共に情報提供者の職場を訪れていた。


「ご協力ありがとうございます。アイヒさんの紹介で来ました。コハクといいます」

「ああ。あんたが。俺たちやアイヒさんが今幸せに暮らせてるのはあんたのおかげだからな。なんでも協力するぜ」


明るく笑う男性にコハクはありがとうございますとお礼を言うと、早速本題に入った。


「あなたが聞いたことを詳しく教えていただけますか?」

「そうだなぁ。捕まったヤツはなんか金に困ってたっぽくてよ。心配してたんだが。ある日凄い人に会ったって言い出してよ。その人は何でも誰の秘密でも聞き出せるって。その話をしてすぐに仕事を辞めちまって、次に見たのは逮捕された映像だろ。ビックリしちまってよ。慌ててアイヒさんに話をしに行ったんだよ」

「秘密を……」


ずっと隠してきた秘密を先ほど打ち明けたばかりのスイレンには、どことなく寒気のする話だった。


「なるほど。他に覚えてることはありませんか?情報を聞き出せる人の特徴を言っていたとか。他の犯罪に関わっていそうだったとか」

「いや。興奮して口を滑らせたって感じだったからな。他には何も」

「そうですか。わかりました。今日はありがとうございました」


結局たいした情報は得られずスイレン達は署に戻ることになった。

その途中、コハクのスマホが鳴った。画面を見て慌てた様子でコハクが電話にでる。


「ウタハくん?どうしたの?……カグラが⁉︎わかった。すぐ行くよ」


通話を切ったコハクは急いだ様子でとこかへ向かおうとする。


「スイレンくん、ごめん。急用ができたから先に帰ってて」


それだけ言うとコハクはタクシーを捕まえてさっさとその場を立ち去ってしまう。


『コハクさん。どうしたんだろ?カグラって、朝も名前が出てたよな。ウタハくんってこないだのプレゼントの子だよな。やっぱりキトラさんの子なのかな?』


状況判断に妄想が混じってきてもはや思考が明後日に向かう。そんなスイレンの耳にいかつい声が聞こえてきた。


「おい。話が違うだろ。なんでアイツらが捕まってんだよ」


ビルの間の細い路地から聞こえてくる声にスイレンが視線を向ける。


『なんだ?随分とガラの悪いヤツらだな』


何人かのガラの悪そうな男達が、誰かを囲んで脅しているように見える。様子を伺おうとスイレンが路地に近づくと、男の1人が囲まれている人物の胸倉を掴んだ。


「おい!なんか言えよ!」


そのまま体を持ち上げようとする。掴まれている人物が苦しげな声を上げたことでスイレンが動いた。


「警察だ!お前達、何をしてる!」


その声に男達の注意が一気にスイレンに向かう。その隙をついて囲まれていた人物が逃げ出した。


「クソ!待て!」


男達が追いかけようするのを見て、スイレンが捕まえようとする。しかし、その頭上をある影が飛び越えていった。


「やっと見つけた」


その影は目にも止まらぬ早さで男達を捕獲していく。糸で動きを封じられた男達はなすすべもなく地に伏した。


「制圧完了。人数は5人。これで全部だな。さすがに俺1人じゃ運べないからすぐに応援を寄越してくれ」


耳につけた通信機で誰かに連絡をとると、影はこちらを向いた。

黒い髪に金の瞳が光る男性だった。そのままスイレンのもとへと歩いてくる。


「怪我はないか?」

「へ?……あ、はい」


怪我も何も、スイレンは何もしていない。

警察だと勢い込んで飛び出したのに何もできなかったことに恥ずかしくなる。


「捜査官か?近くで聞き込みでもしてたのか?何班所属だ?」

「あ、えっと、2班です」

「2班⁉︎…ってことは、お前」


何かを言いかけて男が止まる。通信機から何か指令があったようだ。


「はっ⁉︎1人でって!何考えてんだ!ちょっ!おい!」


急に騒がしく喚いたかと思うと、通信が切られたのか男はキレ気味になりながら捕獲している男達に向き直る。そして全員を糸でグルグル巻きにして宙に浮かせた。


『うっわ!すごっ』


糸でとはいえ成人男性5人を1人で運ぶなんてなかなかできることじゃない。だが男はあっさりとそれをしてしまった。


「悪いけど急ぐから話はまた今度な」


男はそう言うと颯爽と路地の奥へ走り去ってしまった。残されたスイレンはポカーンと口を開けたあと、夢見るように手を胸の前で結んだ。


「……か………かっこいい〜」


恋する乙女のような青年がそこにいた。

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