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丸一日とはいかなかったがしっかりデートを満喫したスイレンは、翌日ご機嫌でカグラのもとを訪れていた。今回はホムラも一緒である。
「おはよう。ウタハ君。昨日はおでかけ楽しめた?」
「ああ!ジェットコースターに3回も乗ってきたぜ!」
どうやら昨日は遊園地に行ってきたらしい。リビングには土産物屋で買ったと思われるお菓子が置かれていた。
「あれ?セキトさんも来られてたんですね」
カグラとテーブルを囲んで何かを話しているセキトを見かけて、ホムラが声をかける。
「おはよう。ウタハ君の学校をどうするか相談に来たんだよ」
外に出られるようになったなら学校にも行ったほうがいいだろうと、セキトとカグラは資料とにらめっとしていた。
「やっぱりフリースクールから始めたほうがいいかな?」
「普通の学校でも週に1〜2日からでもいいというところもあるぞ。授業は問題なくついていけるだろうし」
学力は問題ないどころかカグラの努力により優秀なくらいなのだが、何せ学生生活を一度も送ったことがないのだ。今まで病気で学校に通えなかったということにして、まずは慣れることを目的とした通い方を保護者達は模索していた。
「ウタハ君は緊張する?学校に行くこと」
「さすがにね。でも同い年の友達ができるのは嬉しいかな」
今までずっと大人だけに囲まれて過ごしてきたのだ。ウツギと楽しそうに話しているのを見ても、同年代の子達と過ごせる時間をウタハが持てるのはとても喜ばしいことだった。
「じゃあ、この3つに問い合わせをしてみるか。見学もできると思うし、ウタハ君に一番合いそうなところを探してみよう」
「うん。お願い。早く決めたほうがいいからね。……少し寂しいけど」
外に出られないウタハにずっと付き添ってきたカグラには、自分からウタハが離れていくことに寂しさがあるようだった。
「いつかは親離れ子離れしていくものだよ。それでも君達は一緒に生きていこうと決断できたのだから。ウタハ君の成長を喜んだらいいんだよ」
「そうなんだけどね。なんだか最近感情が思うようにいかなくて大変だよ」
心を与えられていなかった昔のカグラを知っているセキトには、今の状態はとても嬉しいものなのだが。抑えきれない感情に振り回される本人は不服なようである。
「君もまだまだ成長しないとね。さて、スイレン君とホムラ君も用があるみたいだし、私は早々に退散するよ」
風のようにセキトが去り、スイレン達はやっと今日来た目的をカグラに話すことができた。
「トカゲと模擬戦をしたいの?なんで?」
さすがにバカにされたからとは言いにくく、スイレンが言葉に詰まっているとホムラが上手くごまかしてくれた。
「同じ目を持つ者同士、切磋琢磨するのはいいことかと思いまして。スイレンはこの間完膚なきまでにやられてますからね。トカゲを倒すのはいい目標になると思うんです」
まさか恋人が弟子を悪様に言ったとは思いもしないのか、カグラはホムラの言ったことを素直に信じた。
「なるほど。それなら僕も協力するよ。スイレン君は僕の弟子だからね。トカゲが僕の恋人だとかは関係ない。倒すなら徹底的にやらないと」
なぜかやたらとやる気を出してカグラが協力を約束してくれた。そうして、打倒トカゲの訓練の日々が始まったのである。
ホムラによる肉弾戦の訓練。オラガによる糸の戦闘の訓練。カグラによる糸を読む戦い方の訓練。スイレンはひたすら訓練づけの日々を過ごしていた。
そんなある日。ホムラが用事で外出している時にシエンが何気なくスイレン達の恋愛事情について聞いてきた。
「お前もホムラも訓練のことばかりだが、きちんと恋人らしいことはしてるのか?」
あまりにボロボロになっているスイレンにどうやら心配になったらしい。
「……訓練初日にデートしただけで終わってますね。最近は寮に帰っても倒れるように寝てしまってますし」
「ストイックなのはホムラの長所だが、加減を知らないからな。………お前達まだヤッてないのか?」
サラッと聞いてくるシエンにスイレンが持っている資料を全部落とす。コハクはキャッとなぜか嬉しそうにしていた。
「なななな何をいきなり聞いてくるんですか⁉︎そそそそんなこと!」
「ヤッてないんだな。お前は手の早いタイプかと思ってたのに、意外とヘタレだったか」
「ち!違います!俺だって本当は今すぐヤリたいですよ!でもホムラさんの気持ちがかたまらないのに、そんなことできないです……」
本音を言えばスイレンも不安にはなっていた。少し待って欲しいと言われてから早数ヶ月。これだけ待たされれば、ホムラは本当はやりたくないのでは疑う気持ちも出てきてしまう。
「なるほど。要はホムラが気持ちの持っていき方がわからなくて停滞しているんだな。なら、俺が助け舟をだしてやろう」
自信満々に言い切るシエンにスイレンは不安しかない。それを感じ取ったのかシエンは不敵に笑った。
「安心しろ。コハクさんを籠絡したテクニックだ。絶対ホムラにも通用する」
「あ、じゃあ俺がキトラと距離を縮めた方法も教えようか?」
シエンがコハクを籠絡したと言う問題発言を何事もないかのように流し、2人はスイレンにあれやこれや入れ知恵してくる。この人達は何なのだろうと思いながらも、先輩達からの貴重な情報にスイレンは脳をフル活動させて聞き入っていた。
その日の夜。スイレンは早速仕入れた情報を試そうとホムラにお願いをしていた。
「ご褒美?」
「そうです。自分で言うのもなんですが、最近すっご〜く訓練を頑張ってると思うんですよね。だからご褒美が欲しいなぁって」
「ふむ。確かによく頑張っているな。よし。久しぶりに添い寝でもするか?」
あっさりと出された許可に心の中でガッツポーズをしつつ、スイレンは警戒されないように慎重に交渉を進める。
「添い寝もいいんですけど。もうちょっと恋人っぽいことしません?」
「恋人っぽいこと?」
「コハクさんに聞いたんです。付き合いたての頃よくスキンシップをしてたって。指を絡ませたり糸で触れたりくらいのことだったらしいんですけど、俺達もしてみたいなぁって」
「そうか。まあ、抱きしめるのとそんなに変わらないだろうがお前がやりたいならいいぞ」
なぜそんなことをしたがるのかとホムラは不思議な様子だが、スイレンはせっかく得たチャンスを逃さないように全神経を集中させてホムラの指に自分の指を絡めていく。
『ゆっくりと輪郭をなぞるように……強すぎない力で指を滑らせていく……』
シエンに聞いた通りに指を動かしていくスイレン。だが、返ってきたのホムラのクスクス笑いだった。
「ふふ。なんだかくすぐったいな」
色っぽいどころか子供のじゃれあいのようになってしまい、スイレンは早くも自信を無くしそうだ。
『やっぱり腕付きじゃない俺じゃ、ホムラさんを気持ちよくする触り方はできないのかな』
落ち込みながらも次はコハクのアドバイスを実践するために糸を出す。その糸でホムラの太ももを軽く触ると、さっきとは違う反応が返ってきた。
「ん……」
自然とでた色気のある声に、スイレンは驚きホムラは顔を赤く染める。
「ホムラさん?」
「……今のは……その……」
明らかに動揺している姿に、スイレンは作戦の成功を確信する。
「今の、気持ちよかったですか?」
「!それは……いや……」
「嫌ならやめます。軽く触れるのだって無理やりはやりたくありません」
押してダメなら引いてみるでもないが、スイレンは無理強いしないことでホムラの本音を聞き出そうとしてきた。
「嫌……じゃないんだ。驚いただけで」
「でも、その、ヤるの……まだ気持ちがかたまってないんですよね。なら、こんな触りかたするのも良くないですよ」
「………」
触るのは自分から言い出したくせにセックスするかしないかを引き合いにだしてくる。その卑怯さを責めても良さそうなのに、ホムラは待ってもらっている引け目があってスイレンを非難できない。
「………トカゲとの模擬戦」
「へ?」
急に関係のない話がでてスイレンが間抜けな声を出す。
「お前が勝てたらやってもいい。俺の全てをお前にやる。……ご褒美だ」
それはとても嬉しい申し出に聞こえるのだが、報奨として大切な人の体が与えられるなどスイレンにはあり得ない。今まで散々ご褒美をねだってきたが、これは全く別の話だった。
「ダメです!そんなホムラさんを物扱いするようなことできません」
「………そんな理由でも作らないと、俺からやりたいなんて言えないんだ。……それくらいわかれ、バカ」
消え入りそうな声で暴露する本音は、スイレンの心を鋭く射止めて呼吸困難を起こしそうだった。
『この人はほんとにもう……。俺、いつか愛しさで殺されるんじゃないだろうか』
かろうじて耐えた心臓がまだうるさい。胸をグッと抑えながらスイレンはできる限り力強くホムラに答えた。
「俺、絶対勝ちます!ホムラさんの勇気を無駄にはしませんからね!」
「……ああ。信じてる。……それと、その……」
モジモジといつもの姿からは考えられないくらいのキレの悪さで、ホムラが言葉を続ける。
「その時のための練習で……今みたいに触れるのを時々して欲しいんだが……ダメか?」
理性が完全にノックアウトされる。ホムラを襲いそうになるのをすんでのところで堪えて、スイレンは荒く呼吸をしながら返事をした。
「もちろん!しますよ!断る理由ないでしょ!ただ理性が……いや、なんでもないです。いつでも練習台になります」
「そうか。俺はまったく経験がないからな。本番でお前をガッカリさせないようにしっかり鍛えてくれ」
まるで格闘技の試合でもするかのようなノリに、この人大丈夫かなぁとスイレンは少しだけ不安になった。




