表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
透明な瞳が繋ぐ世界  作者: ヒツジ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/60

21

動揺するウタハを落ち着かせ、セキトがカグラを自室のベッドへと運ぶ。ウタハも一緒について行った。

リビングに残された面々が沈黙に包まれているとアイヒがやってきた。


「何があったんだ?」


昨日のウタハのことを聞いて様子を見にきたのだが、まるで葬式のような空気にアイヒは顔を顰める。コハクが今あったことを説明した。


「……お前ら、第二の俺を作るつもりか?」


腕を組み、怒りを隠しもしないでアイヒが言い放つ。その言葉にコハクが唇を噛み締めた。


「俺が兄さんを失ってどれだけ復讐心に駆られたか知ってるだろ。ウタハにとってはカグラがそうだ。しかもアイツには毒がある。14才のガキが制御しきれない爆弾抱えて、もし何かあれば一番傷つくのは誰だと思ってんだよ」


それはアイヒがずっと心配していたことだった。だからこまめに様子を見にきていたのだ。それでもこの事態を防げなかったことに、アイヒ自身も悔しさを感じていた。

そして再び沈黙が部屋を支配した時、セキトがリビングへやってきた。


「カグラが目を覚ましたよ」


それを聞いて全員でカグラの部屋へ向かう。ベッドの上のカグラは目は開いて意識もあるようだが、起き上がれずにいた。


「……良かった。みんな無事だね」


誰もウタハの毒に侵されなかったのを確認すると、カグラはホッとしたようだった。その姿にベッド脇で手を握っていたウタハが悲しみの表情になる。


「人のことより自分の心配をしろよ」


溢れそうな涙を今度こそカグラが拭う。そしてどこか遠くを見る目で語りだした。


「この5年間。ずっと幸せだったんだ」


涙を拭った手をウタハが再び握る。今にも自分の前から消えてしまいそうなカグラを捕まえるために。


「ウタハがそばにいて。みんなが来てくれて。遊んだりケンカしたり、ただ一緒に過ごすだけで楽しかった。毎日成長するウタハに嬉しくなった。……そんな幸せ知らなかった」


繋いでいるのと反対の手を顔にあてて、カグラが天井を仰ぐ。


「でも、幸せを感じれば感じるほど苦しくなった。僕が腕を切った人達のことを思い出して。きっとあの人達の家族は僕のことを殺したいほど憎んでる。だってみんなの幸せを奪ったのは僕なんだから」


アイヒが顔を歪める。犯罪を犯した者としての苦しみは、彼が一番よくわかるのだろう。


「だから僕は幸せになっちゃいけない。ずっと刑務所にいて、罪を償い続けないといけない。こんな温かいところにいちゃいけないんだ」


手がのけられて紫の瞳がウタハに向けられる。優しい眼差しでその頬にそっと触れた。


「ウタハが僕と同じ苦しみを背負わなくて良かった。僕が回復したらすぐに毒の力を消そう?このまま僕といたらウタハは不幸になる」

「ならない!」


再び溢れてきた涙をグッと堪えて、ウタハはカグラを真っ直ぐ見た。


「カグラと一緒にいたい!そのためなら毒の力を消そうがどうしようが、どうでもいい!お前が罪に苦しんでるなら俺が一緒に償う!今度は俺がお前を助ける!だからそばにいてくれよ!俺は2度も親を失いたくない!」


悲痛な叫びだった。カグラの手を握る力が強くなる。その手にそっとセキトが自分の手を重ねた。


「カグラ、君のしたことは確かに罪だ。一生かけて償わないといけない。でも君はウタハ君を救った。力で苦しむ人を何人も救った。なら、君も救われてもいいんじゃないか?」


紫の瞳から涙が零れ落ちる。誰もが初めて見るカグラの涙だった。


「……いいの?……僕、望んでもいい……?ウタハといたい……ウタハが大人になっていくのを見守りたい……ずっとこの家で一緒に暮らしたいよ……」


泣きかたのわからない子供のように、うーと声をかみ殺して涙をながすカグラ。それを見てウタハは思いっきり笑顔を見せた。


「当たり前だろ!ずっと一緒にいてやる!お前がじいさんになったら介護してやるからな!覚悟しとけよ!」


介護はいやだなぁと呟きながら、カグラは幸せそうに微笑んだ。




カグラの家にはセキトとアイヒが残ることとなり、他のメンバーは署に戻った。

ホムラの得た情報の共有や各所との連絡に走り回ったおかげで、コハクは家に帰ると夜の10時をまわっていた。カグラ達の様子を見に行きたかったが、今日は休めとセキトに言われていたので大人しく家に入って行く。


「おかえり」


いつもは日にちが変わってからしか帰らないキトラがなぜかいた。


「飯冷めちまったな。温めないと」


どうやら夕飯まで作ってくれていたらしい。レンジに皿を入れてボタンを押している背中にコハクが抱きついた。


「……セキトさんだろ」

「正解。ソラ兄に今日は帰れと追い出された。詳細は兄貴から連絡済み」


ペラペラと紙のように振られるスマホの画面には、カグラの家でのことが詳しく書かれていた。


「自分が嫌になるよ。カグラの葛藤も、ウタハくんの想いも、何も気づいてなかった。みんないい方に向かってるって勝手に思い込んで、カグラの力にすぐ頼って………何やってんだろ」


おでこを肩に押しつけて、キトラに抱きつく腕に力を込める。


「しんどくなったか?仕事を辞めるか?別に俺の稼ぎなら養ってやれるぜ」

「……わかってるくせに」


キトラがクルリと振り返る。悔しそうに唇を噛みながらも強い意志を秘めた瞳がそこにはあった。


「お前はほんとに……。あ〜あ。大変なやつをパートナーにしちまったもんだな」

「お互い様のくせに。そっちの捜査状況教えてよ。ミソラさん捕まえられなかったからまだ情報共有できてないんだよ」

「食べながらな。ほら、お前も準備手伝え」


コハクのおでこに唇を落として、キトラはレンジの皿を入れ替える。少し嬉しそうにおでこを手で押さえながら、コハクはグラスを取りに向かった。




ホムラは大事を取るためにスイレンと共に定時で帰らされた。恐怖に晒された記憶は残っているが体調も特に問題はなく、甲斐甲斐しく世話を焼いてくるスイレンに10分おきに「もういい」と繰り返していた。


「でも心配なんですよ。恐怖の幻覚って何を見せられたんですか?」

「それは……」


言いづらそうにするホムラにスイレンは更に不安になる。


「まさかずっと体を傷つけられるとか?」

「いや。そういう物理的な恐怖じゃないんだ。精神的なもので………延々とまわりから必要ないと言われ続けるんだ」


スイレンの瞳に怒りが灯る。それを見てホムラが慌てた。


「大丈夫だ。そういう能力なんだろう。その人の一番恐怖を感じるものを見せるという」

「なら、なおさら許せない。ホムラさんがボロボロになるほど苦しめられた記憶なのに……」


『カグラさんの言ってたことが今ならわかる。相手を殺したいほど憎いってこういうことか』


スイレンに今まで感じたことのない殺意が芽生える。それに気づいてホムラは苦しそうに眉を寄せた。


「そんな顔をするな。お前は捜査官だろ。私怨に支配されたら判断が鈍る。お前は正しく犯人を捕まえるんだ」


ホムラの伝えたいことはわかるが、一度巻き起こった怒りはなかなか収められない。


「それに……逃げ出したくなるほど恐ろしい幻覚だったが、お前が言ってくれたことを思い出したから耐えられた。またお前に助けられたな」


そう言いながらフワリと笑われると、スイレンの怒りはどこかへ消えてしまった。


「お前は凄いな。俺をどこまでも強くしてくれる。………だから好きになったんだろうな」


「「…………ん?」」


ホムラから自然と出た言葉に2人で首を傾げる。


「好き……なんですか?俺のこと」

「好き……みたいだな、お前のこと」

「それって後輩としてってことですか?」

「いや。たぶん………」


おもむろに身を乗り出してホムラが顔を近づけてくる。キスされるかとスイレンが目を閉じると、唇に指が触れる感覚があった。


「……触れて欲しい。そういう好きだと思う」


開いた視界に潤んだ瞳が映る。キラキラと煌めく赤い宝石を、スイレンはどうしようもなく欲しくなった。


「………ダメですよ。そんな誘うようなことしたら。……我慢できなくなる」


言葉では否定してるくせに、手はホムラの頬に触れてそっと唇を近づける。


「俺も好きです。あなたの全てが欲しくなるほど」


ホムラの美しい唇が弧を描く。それを合図に2人は口を重ねた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ