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カグラとスイレンがリビングに走りこむと、ウタハはウツギにだされた宿題をしているところだった。息を切らしながら部屋に入ってきた2人に驚く。


「なんだ!どうした!」

「ウタハ!毒を出なくできるよ!」


突然言われた夢のような話に、ウタハは嘘でもつかれてるのかと信じられない。


「は?何言って…」

「理論はほとんどできてたんだ!でも確信が持てなくて。今スイレン君の話を聞いてやっと検証が完璧になった!ウタハの毒の力を消せる!」


喜びに溢れているカグラの様子に、ウタハもやっと実感が湧いてくる。


「本当にそんなことが…」

「できるよ!これで君は自由になれる!好きに外に行けるし、この家だって出ていける!」


その言葉にウタハの顔に浮かんでいた笑みが消える。


「え?」

「もう僕といる必要は無くなるからね。一人暮らししてもいいし、誰かと暮らしたり学校の寮に入ってもいい。同い年の友達だってたくさん作れるよ」


ニコニコと見たことのない笑顔を見せるカグラに対して、ウタハは悲しい顔に変わってゆく。


「でも、カグラは……」

「僕は刑務所に戻るよ。もともと君のためだからとこれだけ自由な生活を許されてたんだ。僕の居場所は本来あそこだ」


悲しみとも不安ともつかないウタハの顔に気づいたカグラが、心配そうに首を傾げる。


「どうしたの?もしかして昔の悪夢にうなされないか心配?それなら前にも言ったけど、記憶を消すことだってできるよ。ウタハが望むなら何でも…」

「しない!」


急に大きな声で叫ぶウタハにカグラがビクッと震えた。


「消さない!毒の力は絶対消さない!」


怒りの表情で言い切るウタハに、カグラは戸惑いを隠せない。


「でも、それじゃあ一生外に出れないし、ここにいるしか……」

「ずっとここにいる!カグラのそばにいる!それができなくなるなら毒の力を消したくなんかない!」


そばを離れたくないと言われたカグラの顔に恐怖が滲む。次の瞬間、カグラの体を光の粒子が駆け巡ったのがスイレンには見えた。


「カグラさん!ダメです!」


何をしようとしたのかはわからないが、本能的にスイレンはカグラを止めていた。その行動に、ウタハはカグラが糸を使おうとしていたことに気づく。


「俺に何をしようとした?」


憤怒の込められた声にカグラは震えて答えられない。


「なあ!何しようとしたんだ!」

「……記憶、を………僕のこと……忘れさせようと………」


その答えを聞いてウタハが怒りを爆発させた。体から糸と黒い霧を発生させる。


「2度と俺に勝手なことするな!」


カグラが守ったおかげでスイレンが毒に侵されることはなかったが、そのままウタハは走って自分の部屋に行ってしまった。残された2人をただただ沈黙が襲った。




スイレンではこの惨状に対処できないためコハクにSOSを求めた。すると、すぐにセキトと2人で家に駆けつけてきた。


「俺がウタハくんの様子を見てきます」

「頼んだよ。カグラは私と話をしようか」


リビングのソファで魂の抜けたように座っているカグラの隣にセキトが座る。


「君のことだ。ウタハ君の毒の力を消せるというのは本当なんだろう?」


問いかけられてやっと反応をしめしたカグラが、泣きそうな顔でセキトを見る。


「うん。やっと完成したんだ。これであの子を解放できると思ったのに……」

「最近ずっと寝ずに研究してたのはこれだったのか」


頷く頭をセキトが撫でる。親のようなその動きにカグラがそっと息を吐いた。


「なんで……なんでウタハは力を消さないなんて………僕なんかといないほうがいいのに……」

「その理由が分からない?」


優しく問いかけられるが、カグラは首を傾げるばかりで答えられない。


「……まだまだ君は感情を学んでいるところだからね。昔よりずっと成長したけど、この問題は難しすぎるか」


ふうっとセキトが力を抜くと、コハクが戻ってきた。


「ウタハくん、落ち着きました。しばらく1人にして欲しいと言ってます」

「なら今日は私が家に泊まるよ。ウツギ君も帰ってきたら驚くだろうしね。コハク君とスイレン君は仕事に戻ってくれ」

「わかりました。スイレンくん、行こうか」


一連のことに関わってしまっただけにとても後ろ髪を引かれる思いだったが、スイレンはコハクに連れられ家を出た。




その日の夜。スイレンはホムラに今日あったことを聞いてもらっていた。


「そうか。ウタハ君にとってカグラさんは親みたいなものだからな。離れたくなかったんだろう」

「というか力を無くしても家を出て行く必要はないのに、なんでカグラさんはあんなに頑ななんですかね?」

「それは本人にしかわからないな。でもそこが解決しないとずっとこのままだ」


う〜んと、2人で思い悩んで沈黙が訪れる。答えの出ないことにいつまでも時間を使ってはダメだと、スイレンは話題を変えることにした。


「あの……ホムラさん。いつものやってもいいですか?」

「ああ。訓練だな。アイマスクを持ってこよう」


毎日訓練に付き合うだけでなくアイマスクまで用意してくれたホムラ。スイレンは欲望に流されていまだに結果を出せていないことが申し訳なくなってくる。


『でも今日も光が見えたおかげでカグラさんを止められたし、俺がスキルアップすれば絶対に色々と役に立つはずなんだ。心頭滅却。今日こそ粒子を感じてみせるぞ』


フン!と気合を入れてアイマスクを受け取るスイレン。そして、ある提案をホムラにしてみた。


「あの、抱きしめ方を変えたいんですけど、いいですか?アイマスクなら自分でできますし、目隠しする前にここに座ってもらって、後ろから抱きしめるかたちにしたいんですが」

「ああ。俺は何でも構わないぞ」


あっさりと提案を受け入れると、ホムラはスイレンの足の間に背を向けて座った。


『これなら俺のタイミングで抱きしめられるし、翻弄されることもないはず』


アイマスクをつけて再度気合を入れるスイレン。恐る恐るホムラを抱きしめる。


『うう〜。温かくて気持ちいい』


警戒することなく、全てスイレンに委ねてくるところに喜びを感じる。でもだからこそ結果を出さなければと抱きしめる腕に力を入れると、ふいに光の巡る感覚が伝わってきた。


「え?」

「……もしかしてわかったのか?」


ホムラが振り向いてアイマスクを外してくる。急に差し込んできた光に目が眩むが、次に見えたのは期待に溢れる赤だった。


「はい。今、光の巡る感覚が」

「そうか!よくやった!」


勢いよく抱きつかれて2人して倒れ込む。それでもホムラはあははと楽しそうに笑っている。


「でも少し感じただけですよ」

「いいじゃないか!それでも大きな1歩だ」


我が事のように喜んでくれる愛しい人。それを見ているとスイレンも実感が湧いてきて、目の前の可愛い人を強く抱きしめた。

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