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3階建ての小さなハイツの近くでスイレンは少年を待っていた。隣にはコハクとセキトとカグラがいる。


「そろそろウツギくんが帰ってくる時間だね。いってくるよ」


コハクがハイツに向けて歩き出す。それに合わせてスイレン達は物陰に隠れた。

別の場所ではキトラ、シエン、ホムラがそれぞれ待機している。今回出動しているのはそのメンバーだけだ。


「……きた」


セキトの声に視線を向けると、制服を着たウツギが家に向かって歩いてきた。コハクが呼び止める。


「初めまして。ウツギくんだよね。捜査官のコハクです。少しお話してもいいかな?」


警察に話しかけられたことでウツギが警戒する。そのまま逃げる姿勢をとろうとするが、コハクの言葉で動きを止めた。


「強盗団のことを通報をしたのは君だよね」


警戒していた瞳に縋るような色が浮かぶ。それを確認してコハクは話を続けた。


「何か困っているんじゃないかい?力になれるかもしれない。話してくれないかな?」


少しの逡巡のあと、ウツギから光の粒子が放たれる。


「!」


動こうとするスイレンの腕をセキトが掴む。すると、光がコハクの頭の中でとどまったのが見えた。


「……あんた、本当は何者?」

「捜査官」


コハクの顔は見えないが、声は機械的な話し方に変わっている。


「何が目的?」

「強盗や詐欺の主犯を捕まえたい。君を保護したい」


保護の言葉にウツギが顔を歪ませる。コハクの頭にあった光は消え、ウツギが縋るように腕を掴んできた。


「俺……俺はどうなってもいいんだ!悪いことをしたから!でもおばさんは関係ない!お願いだ!おばさんを守ってくれ!」

「……詳しい話を聞かせて」


縋りついてくる手を解くことなく、コハクは真剣な瞳でウツギを見る。それを合図にスイレン達も姿を現した。




叔母は仕事に行ってるということなのでそちらの保護はオルガ達に任せ、コハク達は話を聞くためにウツギを署に連れてきた。


「大人に囲まれて緊張してると思うけど、ゆっくりでいいから話をしてくれるかな?」


小さな会議室にはチームメンバー、セキト、カグラが入って少々手狭な感じになっている。キトラは外で待機だ。


「えっと……何から話せばいいんだ……そうだ。トカゲ。トカゲを捕まえて欲しいんだ!」

「トカゲ?」

「そう!強盗とか詐欺とか!色んなヤツに悪いことさせてるヤツなんだよ!俺もソイツに脅されて情報を……」


勢いよく話し出したと思ったら、急に口を噤んでしまう。その理由がわかるコハクはできるだけ優しく語りかけた。


「君には、人の秘密を聞き出せる力があるんだね」


噤まれた口は開かない。スイレンにはその気持ちが痛いほどわかった。


「怖いよね。誰にも言えずにいたのかな。でも安心して。ここには君みたいな力を持つ人達がいるんだ」


ウツギが部屋にいる大人達を見回す。力があると言われてもいまいちピンとこない。


「例えばセキトさんやシエンくんやホムラくんはエネルギーの流れが読めるので、糸を無力化したり凄い破壊力を発揮したりできるんだ」


セキトがわかりやすくペンを粉砕して見せる。壊す用のペンをいつも持ち歩いてるのかなとスイレンは疑問に思った。


「スイレンくんは糸の形をしていないエネルギーを見れる」


話を振られて何か見せないととスイレンは慌てるが、何もできずに次の紹介へ移ってしまった。


「カグラは……何でもできるからなぁ。何がわかりやすいだろ」

「君の真似をして秘密でも聞き出そうか?」


カグラの提案にウツギが青くなって首を左右に振る。


「あと俺は……恋人の居場所が常にわかったり、恋人に悪いエネルギーが入り込めば追い出せたり、恋人の状態をコントロールできたりできるかな」

「………ストーカー?」


久々にストーカー発言されてコハクがわかりやすく凹む。それを見てウツギがふふっと笑った。


「少しは気が楽になったかな。ここには君の能力に驚いたり怖がったりする人はいないよ。だから安心して話してくれないかな」


そう言ってコハクがウツギの手を握る。それと同時に微かにコハクの粒子がウツギを包んだのをスイレンは見た。


「……俺の力は相手に問いかけると必ず答えるというものなんだ。でも問いかけるのにコツがいるから小さい時は全く力に気づかなくて。小学生の時にカゲで嫌がらせしてきたヤツに、先生の前で本当のこと言えよって問い詰めたらペラペラ喋りだして。そこで力に気づいたんだ」

「そう。驚いたよね」

「ああ。怖くなってそれ以来力は使ってなかったんだけど……クラスに不良に絡まれたヤツがいて、不良達にソイツを殴ったことを自白させるために力を使ったんだ」

「……正しいことをしようとしたんだね」

「……でもそれで力に気づいたヤツがいた。それがトカゲだ。トカゲは力を使って協力して欲しいことがあると言ってきた。胡散臭かったけど、聞き出す内容は大したことじゃなかったし報酬が凄い良かった。バイトで大学の学費を貯めてたけどギリギリ貯まるかって状態だったし、勉強する時間が欲しくて……」


語る口調が悔しそうなものに変わる。きっと後悔しているのだろう。その誘いに乗ってしまったことに。


「でも俺が聞き出した内容のせいで、その人が詐欺にあってしまった。そこから、お前も共犯だと脅されてどんどん協力させられて……」


ウツギの目に涙が溜まってくる。コハクは手を握る力を強めた。


「捕まるの覚悟で警察に行こうとしたんだけど、そしたらおばさんを殺すって。でも、もうこれ以上俺のせいで酷い目に遭う人を出したくなくて……気づかれないように強盗してるヤツらのことを通報したんだ」


堪えきれなくなった雫が机に落ちる。ウツギを包む光が量を増した。


「話してくれてありがとう。辛かったよね。もう大丈夫。君のことも叔母さんのことも必ず俺たちが守るから」


腕で涙を拭う背中が優しく撫でられる。しばらくの沈黙の後、ウツギが落ち着いたのを見計らってコハクが話を続けた。


「君を脅したり事件を主導しているのはトカゲという人物なんだね?ソイツのことを教えてくれるかな?」

「それが……覚えてないんだ」


その言葉に一同が怪訝な顔をする。


「覚えてない?」

「ああ。どんな姿してたのか、いくつくらいなのか、男なのか女なのか。会って話したことは覚えてるのに、その時のことがまったく思い出せないんだ」


コハクがカグラを見る。紫の瞳が静かに頷いた。


「記憶を消されてるね。そのトカゲとかいう奴の能力か、他にも協力者がいるかはわからないけど」

「記憶を元に戻すことはできないのか?」

「一度消した記憶は戻せない。ましてや人が消したものなんて尚更」


問いへの答えにセキトが考え込む。そのやりとりにウツギが不安な表情になっていく。


「ウツギくん。大丈夫。俺たちはこうゆう特殊な事件の専門家だから。必ずトカゲを捕まえてこれ以上の被害者を出さないようにするよ」


記憶を消されていることで事件は振り出しに戻ったようなものなのだが、目の前の少年をこれ以上苦しめないようにとコハクは殊更に明るい声で解決を約束した。




今後のことを相談するためにウツギをセキトに任せ、コハク達はキトラとミソラ、ゼンを加えて話し合いをしていた。


「まずはウツギくんの保護をどうするかですね。記憶を消されているのでトカゲも無理に危害を加えてくるとは思えませんが」

「むしろ警察への情報リーク役として機能したからもう用はないかもね」


コハクの言葉を受けて発言したカグラに、ミソラが反応する。


「トカゲは自分の存在を警察に知らせたい、ということかな?」

「わからないけど記憶を消せるなら自分に関する全て、犯罪に関する全てを消す方が合理的だろ。中途半端な情報だけ残すなんて面倒くさいだけだし」

「でも、なんで……」


スイレンの呟きのあと、部屋を沈黙が支配する。しばらくしてコハクがそれを破った。


「楽しんでる……とか?絶対に捕まらない自信があるのかも」

「愉快犯か。なら、何が目的かを探るのは難しいかもな。常人には理解できない感覚の者もいる」


ゼンが苦々しい顔をしている。


「用無しになったウツギ君を消す可能性も否定できないか。やはりどこかで保護すべきか」

「じゃあ、僕の家に来る?」


思案するミソラにカグラが遊びにでも誘うような軽さで答えた。


「……その真意は?」

「やだなぁ。別にウツギ君を研究材料にしようとしてるんじゃないよ。僕ならトカゲがどんな能力を持ってても対抗できるってだけだよ。ウタハの毒に関しては了承してもらわないといけないけどね」

「でも、カグラがそこまでする理由はないですよね?」

「ウタハに家庭教師をつけたいと思ってたんだよね。あの子もそろそろ同年代の人間と関わっていかないといけないし。ウツギ君は成績もいいみたいだからちょうどいい。もちろんちゃんと家庭教師代は払うよ」


筋は通ってはいるのだが、重大な犯罪に対してあまりに個人的な事情が含まれているので何とも気が引けてしまう。

だが結局カグラの案が一番良いだろうとなり、コハクが意思確認をしにウツギのもとへ向かった。

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