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13

スイレン達がカグラのところに行ってる間、ホムラはシエンと共に13班を訪れていた。


「これが話していたホムラ君用の銃だよ」


リトが出してきたのはシエンが扱うものよりかなり小さい、手のひらサイズの銃だった。


「思ったより小さいですね」

「片手で撃てるくらいのを目指したからね。格闘しながら使うのに丁度いいかなと思って。慣れれば2丁持ちなんてのもかっこいいんじゃない?」


新しい銃の可能性にリトがワクワクしている。ホムラは勧められるままにその銃を手に取った。


「確かに。敵を蹴り飛ばしながらでも撃てそうです」

「その分飛距離は短いけどね。弾は麻酔弾を想定してるから、またヌイ君に相談しないと」

「とりあえずは試射してからだな。もうすぐロクイさんも帰ってくるし、そのあと射撃場に向かおうか」

「はい。あの……」


ホムラが少し申し訳なさそうな顔をする。


「ありがとうございます。俺のために」


一生懸命で責任感の強いホムラの言葉に、リトもシエンも優しい顔になる。


「ホムラ君のためだけじゃないよ。シエン君の銃は完全に彼用に作られたからね。使える人が少ない。今回の銃が汎用性の高い物になれば、これから入ってくる捜査官達の力になるはずだよ」

「そのためにお前には山ほど実験台になってもらうからな。覚悟しろよ」


ニヤッと笑うシエンに、ホムラは「はい!」と力強く答える。その声が以前とは違う明るい響きをしていることに、静かに話を聞いていたアギが反応した。


「ホムラちゃん元気になったみたいね。噂のスイレンちゃんのおかげかしら」


家に泊まりに来るたびに自分を追い詰めているホムラの姿を見てきたアギは、どうやら吹っ切れたように見える姿に喜んでいた。


「はい。アイツのおかげです。先輩なのに情けない話ですが、スイレンの優しさは俺を救ってくれました」


少し頬を赤く染めて穏やかに笑う姿は、今までホムラが持っていなかった艶があった。


「……これは、そういうことかしら?」

「はい。そういうことみたいです」


小声で囁き合うアギとシエン。後輩の可愛らしい恋愛に2人してほくそ笑んでしまう。


「あ、でも俺もアイツの役に立とうと思って。今日は添い寝する約束をしてるんです」


ほくそ笑んでいた2人の顔がかたまる。てっきり愛らしい片想い同士だと思っていたのに、とっくに進んだ関係なのかと驚いたからだ。


「え?お前達、そういう関係なのか?」

「?いえ。いつもは別に寝てますよ。寮に初めて帰った日、俺を落ち着かせるためにスイレンが一緒に寝てくれたんです。それが気に入ったみたいなので、今日は疲れて帰ってくるだろうから添い寝してやろうかと思って。本当は昨日してやるつもりだったんですけど断られました。慌てた感じで今日は1人で考えたいと言われて」


さらっと答える顔は色も艶も何もない。そういうことかと2人は納得した。


「そうか。それはいいことだ。ルームメイトとしてしっかりスイレンを支えてやれよ」


とてもいい笑顔でシエンが激励の言葉をかける。


「そうだわ。安眠できる匂いの香水があったから貸してあげる」


アギがゴソゴソと明らかに安眠する感じではない香水の瓶をカバンから出してくる。それを受け取りホムラは「ありがとうございます!」と屈託のない笑みで答えた。

その様を見て、リトは「遊ぶのもほどほどにしなよ」と呆れた様子で呟いた。




一方、カグラとの面会を終えたスイレン達は家を後にしようとしていた。


「じゃあ、少年との接触は細かいところを詰めたらまた連絡するよ」

「うん。わかった」


セキトとカグラが仕事について話している間に、ウタハがスイレンのところにやってきた。


「今日はありがとうな」

「ウタハ君!こちらこそお邪魔しました」


いかにも人の良さそうな雰囲気のスイレンに、ウタハはぶっきらぼうに頼み事をしてきた。


「カグラは変なヤツだけどさ、懲りずにまた来てくれよ。……アイツは自分を化け物だなんだ言ってすぐ人を遠ざけるから。同じ目を持つあんたが会いに来てくれたら、ちょっと安心する」


『素直で可愛い……か』


思春期特有の気恥ずかしさの中に優しさが見える。ウタハの過去に心を痛めていたスイレンだが、少なくとも助けだされてからの彼はたくさんの愛をもらったようだ。


「うん!絶対また遊びにくるよ!」


家に来る前は緊張していたスイレンだが、来て良かったという思いを抱えて家を後にした。




その後は署に帰り、カグラとの話合いの結果を踏まえて少年との接触について作戦が立てられた。少年とコンタクトをとるのは2日後と決まり、その日の勤務を終えてスイレンとホムラは一緒に寮へと帰ってきた。


『………カグラさんと会えたことですっかり忘れてた………』


緊張から解放されて思い出したのは、昨日ホムラとした約束だった。


『ホムラさん、約束のこと忘れて……るわけないよな』


いつも通りリビングで過ごしている2人だが、ホムラはニコニコと上機嫌だ。


「今日はどっちのベッドで寝る?俺はどちらでもいいぞ」


直球なホムラの言葉にスイレンがお茶を吹き出す。


「だ、大丈夫か⁉︎」


ゲホゲホと咳き込むスイレンの背中をホムラがさする。


「すみません。ちょっと驚いて」

「疲れてるんだな。今日はもう風呂に入って休むか?」


ホムラとしてはただただスイレンを労ってるだけなのだが、欲望に取り憑かれたスイレンには風呂に入るという言葉だけで妄想が爆発してしまう。


『風呂……え?一緒に?……そんな……でも……ホムラさんの肌白いだろうなぁ……あの長い手足が一糸纏わぬ姿で目の前にとか………ダメです………我慢できない………』


完全に妄想に取り込まれているスイレンに、ホムラはオロオロと心配するばかりだ。


「大変だったんだな、カグラさんと会うのは。色々話を聞きたかったが今日はもう休もう。俺のベッドを使えばいいから、とりあえずお前は風呂に入ってこい」


それだけ言い残してスイレンを招き入れる準備をするためにホムラは部屋に行ってしまう。スイレンはまだおさまらない妄想に振り回されながら、フラフラと風呂場へ向かった。



風呂から上がると部屋で待つよう指示され、大人しくベッドの上で座るスイレン。

しばらくするとホムラがやってきた。


『……ほんと何なの、この人』


部屋に入ってきたホムラの姿を見てスイレンが脱力する。

風呂上がりで上気した肌が色っぽく、まだしっとりと濡れている黒髪が艶めいていた。


「待たせたな。横になってても良かったのに」


先に寝てしまえばこんな欲望に苦しめられることはなかったのに。それでも添い寝をしたいという煩悩に負けて忠犬のようにホムラを待っていた自分が恨めしい。

この愚か者がとスイレンが自分を非難していると、ホムラがベッドに上がってきた。


「今日は頑張ったな」


ベッドで向かい合って優しく微笑まれる。それだけでも我慢の限界なのに、ホムラからいい匂いが漂ってきた。スイレンが不思議な顔をする。


「香水の匂いがするか?少ししかつけてないんだが。アギさんが安眠できる匂いだと貸してくれたんだ」


無邪気に報告してくるホムラだが、漂ってくるのは安眠できるどころか誘われてるとしか思えない匂いだった。

たまらずホムラを押し倒してしまう。


「?どうした?眠気が限界が?」


押し倒されたというのにホムラにはなんの警戒もない。スイレンが勢いでしてしまった行動にどうしようかと戸惑っていると、手を伸ばしてきて抱きしめられた。


「今日、俺用の銃を見せてもらった。難しくて扱えるようになるのはまだまだ先になりそうだが。でもこれがうまくいけば、これから入ってくる捜査官達の力になると言われた。俺でもできることがあったんだ。それに気づけたのはお前のおかげだな」


スイレンを抱きしめたままベッドへと沈んでいくホムラは、幸せそうに今日のことを語ってくる。


「お前はどうだったんだ?……俺はお前の力になりたい」


抱きしめられた体の温もりが、心臓の鼓動が、香水の奥から香るホムラの匂いが、全てが愛しくて切なくなる。溢れるほどの愛を向けてくれているのに、でもそれはスイレンがホムラに抱く想いとは違う物で。より切なさが増していく。


『きっとホムラさんは、俺が好きだと言えば応えてくれる。欲しいと言えば体も許してくれる。でも、たぶんそれは自分から望んでのことじゃない……』


「カグラさんは優しい人でしたよ。ウタハ君も。みんなで俺に何ができるか考えていこうと言ってくれました。……ホムラさんのおかげで俺も一歩を踏み出せました」

「……そうか」


抱きしめていた腕を緩め、スイレンの顔を覗き込みながらホムラは微笑む。


『好きに……なって欲しいな。心も体も、俺に満たして欲しいと思ってもらえるようになりたい』


欲はある。目の前の唇に食らいつきたい衝動も。でも、それよりももっと、赤い瞳の奥にある焔のような心が欲しい。

そう思うと、スイレンは自然とホムラを抱きしめていた。


「このまま、しばらく抱きしめててもいいですか?」

「ああ。好きにしていいと言っただろ。お前の自由にしろ」


温かい手が背中を撫でてくる。子供にするようなその扱いにスイレンは笑いが漏れそうになるが、心地よいその温度にいつの間にか瞼を閉じていた。

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