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小さなミーティングルームに移りウタハについて話そうとするコハク。だが向かいに座っているスイレンは全く聞ける状態になかった。

なぜならコハクの隣で、セキトに並んで座るホムラがずっと笑顔で嬉しそうにしているからだ。


『何何何なんなの!その笑顔!しかも泊まりにおいでって!えっ!恋人なの⁉︎でもそれなら寮に帰ってなかった時、セキトさんの家にいくはずだよな……まさか!ホムラさんの片想いでいいように使われてるんじゃ!都合のいい時だけ家に呼ばれてエエエエエロいことをされてるんじゃ!」


いつも通り妄想があらぬ方へ向かっていき、怒ったり青ざめたり百面相しているスイレン。全く話ができなくてコハクが小声でセキトに文句を言う。


「セキトさん。遊ばないでくださいよ。話ができないじゃないですか」

「すまない。可愛らしくてついね。若いって素晴らしいね。応援したくなるよ」

「セキトさんのは応援じゃなくてからかってるんです。もう誤解を解きますからね」


えー面白いのにと不服そうにするセキトを無視して、コハクはスイレンに話しかける。


「スイレンくん。セキトさんの紹介がまだだったよね。前も言ったけどキトラのお兄さんなんだ。公安所属だけど捜査で協力することが多いから、2班のみんなとも顔馴染みだよ。あと13班にいるアギさんのパートナーなんだ」

「……パートナー……がおられるんですか?」


先ほどまでの妄想が崩壊してスイレンはポカンとしている。


「そう。アギさんは素敵な人だよ。ね、ホムラくん」

「はい。アギさんは家に行くといつも優しく迎えてくださいます。スイレン。13班に行ったらアギさんにも紹介してやるからな」


よほどアギのことを好いているのだろう。ホムラは優しい顔になっている。


『そっか。なぁんだ。俺の勘違いか。なぁんだ。そっか』


うんうんと安心した様子で頷くスイレン。

それを見てコハクは本題に入った。

カグラの過去、ウタハの過去と毒のこと、今の2人について丁寧に話をしていく。特にウタハの毒については楽観的に捉えられないようありのままを話した。


「カグラがいれば解毒はできるし、ウタハくんも感情のコントロールができるようになってるから滅多に毒を出すことはない。でもリスクがないわけじゃない。カグラはできるだけウタハくんと離れたくないから、自分達の所に来れないなら会いたくないと言ってる。だから、カグラと会うかどうかは慎重に決めて欲しいんだ。もちろん会わないという選択をしてもスイレンくんが責められることはないよ」


真剣に話をするコハクから事の重大さが伝わる。だが考え込むスイレンの頭を巡っているのは、身の危険よりもウタハの境遇についてだった。


『望んでもない毒で親を亡くして5年間も閉じ込められて………今も外に出られないなんて……』


スイレンも望まない能力を持ったとはいえ、優しい両親のもと温かい家庭に育ち自由に生きてきた。だから力で人生を奪われた人がいるなんて驚きだった。


「ウタハ君の毒については問題ありません。カグラさんに会うことは俺も望んでいます。それに……ウタハ君に関われる人が1人でも増えるなら、俺がその1人になれるなら、会いに行きたいです」


毒についての覚悟が聞ければいいと思っていたのに、予想以上の回答にコハクは嬉しくなる。


「やっぱり君を選んで良かったよ」


語る声は誇らしげで。その期待に応えたいと、スイレンは決意を新たにした。




カグラに会うのは明日と決まり、その日は早めに寮に帰ってきたスイレンとホムラ。リビングでゆっくりしていると、珍しくホムラのほうからスイレンに体を寄せてきた。


「ホムラさん?」

「緊張してるか?明日のこと」


優しく気遣う赤色が覗き込んでくる。それはかたくなっていたスイレンの心を溶かした。


「そうですね。自分と同じ人に会うのも緊張しますし。ウタハ君のことも。傷つけないように接してあげられるかなって不安もあります」


顔を曇らせるスイレンにホムラは優しく微笑み、そっと手を伸ばしてスイレンを抱きしめる。ぎこちないその動きにスイレンは愛しさが込み上げた。


「大丈夫。お前は優しいから。ウタハくんは素直で可愛い子だし、きっと気があう。カグラさんもわかりにくいけど優しい人だよ」

「……ホムラさんも一緒に来れたら良かったのに」


明日はコハクとセキトとスイレンの3人でカグラに会いに行くことになっている。


「仕方がない。あまり大人数で行っても落ち着いて話ができないだろうし、俺もやることがあるから」

「やること?」

「13班に呼ばれてるんだ。俺用の銃の試作品ができたって」


抱きしめていた体を離されてる。顔を見ると、今度はホムラのほうが少し不安な様子だった。


「そうなんですか!良かったですね」

「まだ試作段階だからどうなるかわからないけどな。………でも、特別にはなれなくても自分にできることはしようと決めたんだ。そう思えたのはお前のおかげだ」


凛とした美しい笑顔がそこにはあった。それを見て、スイレンの心に自然と言葉が湧いてくる。


『ああ、好きだな』


繊細で傷つきやすいところも、不器用で優しいところも、真面目で全てを抱えてしまうところも、それでも負けずに前を向くところも。

その姿だけじゃなくて、内面から出る美しさが何より愛おしかった。


『そっか。俺、ホムラさんのこと好きなんだ。だからミソラ管理官に怒ったり、セキトさんに嫉妬したりしてたんだな』


わかってしまえば笑えてしまう子供っぽい感情も、ホムラを前にすると幸せなことに思える。だが、そこでスイレンはあることに気づいた。


『……片想いの相手とルームメイトって、理性もたなくない?』


そこに思い至って、バッと顔をあげてホムラを見る。思案に耽ってしまったスイレンを優しく見つめて次の言葉を待っている姿がそこにはあった。


『な、なんだろう。いや、もともと綺麗な人なんだけど……気持ちを自覚しちゃったからか、こう、すごくキラキラして見えてきた』


眩しくて目を背けてしまいそうになるスイレンだったが、そこに追い討ちをかけるような展開が待っていた。


「大丈夫か?やっぱり緊張してるんだな。……わかった。今日は一緒に寝よう。俺もこの間それで落ち着かせてもらったし、ずっと添い寝したいって言ってたもんな」


恥ずかしさに頬を染めて瞳を潤ませ、少し視線を外しながらホムラがとんでもない提案をしてくる。


「………あかん!それはあかん!」


ホムラの肩をガシッと掴み、出身地方でもない方言を使いながら全力で首を振るスイレン。その様子にホムラはやや身を引きながらも食い下がってくる。


「え?でも最高の寝心地だって言ってただろ。俺はお前が安眠できるなら抱き枕にだってなってやるぞ」


『抱き枕じゃなくて本当に抱いてしまうからダメなんだって!』


どう説明したらいいかわからなくて口をパクパクさせていると、今度はホムラがシュンと落ち込みだした。


「やっぱりあれは俺に気をつかって言ってくれてたのか。添い寝したいというのも冗談だったんだな。すまない。俺はどうにも気が利かなくて……」


シュンシュンと悲しそうな顔になっていくホムラにスイレンは慌てて弁解する。


「ちちちち違います!寝心地が最高だったのも添い寝したいのも本当です!なんなら毎日でもそれ以上のことも……じゃなくて、今日は明日のことを1人でゆっくり考えたいので!そうだ!明日!明日は疲れて帰ってくると思うので添い寝してくれますか⁉︎」


焦りで口走った提案にホムラの顔がぱあっと輝く。


「そうか!そうだな。今日は1人でゆっくり考えた方がいい。明日は抱きつこうが撫でようが好きにしていいぞ!」


好きにしていいぞに妄想が爆発してついにスイレンが倒れる。驚いたホムラが介抱して、夜は慌ただしく更けていった。

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