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数週間ぶりに自分の部屋で眠れたホムラは、翌朝スッキリとした目覚めを迎えた。だが目を開けた視界に飛び込んできたスイレンの寝顔に、思いっきりベッドの上で飛び起きる。


「な!なななんで!」


困惑する頭で昨日のことを思い出す。ずっと1人で抱えていた苦しさをぶちまけたことで、止まらなくなったテンションの果てに何をしたのかということを。


『何やってるんだ、俺は……』


額に手を当てて項垂れる。隣でそんな騒がしいことが行われているのにスイレンは全く目を覚さない。


『……無防備すぎないか?』


間抜け面でヨダレまで垂らしている頬をつねる。それでも起きないスイレンにホムラは笑みをこぼした。



しばらくしてやっとスイレンが目を覚ました。ゆっくり起き上がるとホムラを見てニコリと笑う。


「おはようございます」

「お、おはよう……」

「よく眠れましたか?」

「あ、ああ。ありがとう。それと……えっと……」


昨夜のことを思い出して謝ればいいのかどうかわからず困惑するホムラ。言葉にならない声を発しているのを、スイレンはニコニコと聞いている。


「えっと……すまない。昨日は色々吐き出してテンションが上がってしまったというか……何というか……」

「いえ。ホムラさんの気持ちを知れて嬉しかったです」


ずっとニコニコしているスイレンにホムラはだんだん何を言っているのかわからなくなってきた。


「本当に、こんな人間じゃないんだ。後輩に無理やり一緒に寝ろなんて言うような人間じゃ。嫌だったよな。こんな大の男と同じベッドで寝るなんて」

「え?嫌じゃなかったですよ」


キョトンとしてスイレンが語り出す。


「むしろ幸せでした。美術品のように美しい寝顔が目の前にあるんですよ。これほどの幸福はないでしょう。あと、意外とホムラさんって抱きしめると柔らかいんですね。しかもあったかくって。どんな極上の布団よりも最高の寝心地でした。毎晩でも喜んで添い寝します!」


熱く語ってるスイレンにホムラの顔がどんどん赤くなっていく。


「きょ……今日からは大丈夫だ!1人で眠れる!」

「え〜?遠慮しなくてもいいですよ〜」


スイレンの中で何か一線が越えられたのか、ホムラにベタベタと甘えてくる。昨日のことがある手前それを無下にできなくて、ホムラは赤い顔のままずっとスイレンが抱きついてくるのを耐えていた。




揃って出勤したあとも、2人の変な関係は続いていた。スイレンはやたらと上機嫌でホムラの周りで飛び跳ねており、ホムラはずっと赤い顔で挙動不審な動きをしている。


「シエンくん。あの2人何があったんだと思う?」

「……スイレン。意外と手が早いタイプだったか」


真面目に返された呟きにコハクがブっと吹き出す。


「いやいやいや!さすがにそれはないでしょ!」

「冗談ですよ。でも昨日、2人で寮に帰ってきてたんですよね。どうやらスイレンの粘り勝ちのようですね」

「そっか〜。ホムラくんのこと心配だったけど、もう大丈夫そうだね。スイレンくんに感謝だね」

「結局、愛の力が最強ってことですかね。誰かさんみたいに。そう言えばそっちの愛の力の方はどうなったんですか?」

「ああ。昨日はちゃんと家に帰ってきたよ。仕事が忙しかったのは本当みたいだけど、うちに帰ってきたら俺に甘えてしまいそうだから帰りづらかったんだって。ほんとバカだよね〜」

「相変わらずですね。それでエリート街道まっしぐらなんですから、世の中わからないものです」


フフッと2人で顔を見合わせて笑う。

そして恋の熱に浮かされている可愛い後輩達のもとへ向かった。




それからホムラは毎日寮に帰ってくるようになった。さすがに一緒に寝ることはなかったがリビングでくつろぐ時はスイレンがホムラにピッタリくっつき、最初はギクシャクしていたホムラもだんだんと受け入れるようになっていった。

一方少年についての捜査は思いのほか順調に進み、捜査開始して数日後にはある程度の情報が集まっていた。


「少年の名前はウツギ。16歳。高校2年。両親を3歳の時に事故で亡くしていて、今は叔母と2人で暮らしている」


ミソラが集まった情報を全員に周知している。

ウツギは署からも自転車で20分ほどで行ける高校に通っており、成績優秀で生活態度も良く補導歴もない。


「裕福ではないが食うに困るほどでもないようだな。だが、大学への進学資金のためにバイトをしていたのを3ヶ月前に辞めている」


強盗に詐欺。少年が関係しているのは金に関わる犯罪ばかりである。動機があればもう一歩踏み込む決定打になる。


「外堀はある程度埋められたからな。そろそろ少年に接触したいのだが、少年の能力がネックだな」


情報を引き出す能力に、記憶を消せる能力。その他にも何かあるかもしれない状況では少年に接触するのも慎重にならなければいけない。


「なら能力を封じてしまえばいい!」


バンっと扉が開いて騒がしくセキトが入ってきた。もはや慣れっこの面々は無になっているが、初めてセキトを見るスイレンだけが何事かと唖然としている。


「セキト。もうちょっと普通に入ってこれないのか?」

「登場の仕方などどうでもいいだろう!それより少年と会う時はカグラを連れていくぞ!本人の了承も取り付けた!」


『カグラ………俺と同じ目を持つ人……』


コハクから聞かされた名前にスイレンが反応する。その気配に気づきながらもセキトは話を進めた。


「どうせカグラが必要になるだろうと思ったからな。先に話をしておいた」

「まあその通りだが。もうちょっと一声かけるとかできないのか、お前は」

「だから今言いにきたのではないか」


そう言うことではないのだが、セキトに何を言っても無駄である。ミソラは諦めて、作戦については必要な者に伝達するとだけ周知して一同を解散させた。


「君がスイレン君だな!はじめまして。公安所属のセキトだ」


今ミソラの所にいたと思ったのに、気づくとセキトがスイレンの横に立っていた。


「え!あっ、はじめまして!スイレンです!」


慌てて敬礼するスイレンにセキトが「そんなに緊張しなくていいぞ」と大声で笑う。

そしてスイレンの隣にいたコハクに話しかけた。


「コハク君。今回の作戦にはスイレン君も参加してもらおうと思ってね。ひとますカグラに会ってもらいたいんだが、構わないかな?」


それだけでコハクはセキトが何を言いたいのかを察した。


「わかりました。ウタハくんの事はまだ説明してないので、今から話をします」

「なら、私も同席しよう」


そのままチーム4人とセキト、キトラ、ミソラで別の部屋で移動することになった。歩きながらホムラがセキトに話しかけている。

その姿を見て、カグラに会えることで頭がいっぱいだったスイレンの緊張が一気に吹き飛んだ。


『な……なんだ、あの笑顔!』


セキトに駆け寄って話しかけたホムラは、見たことないくらい嬉しそうに笑っている。


「セキトさん!お久しぶりです!」


話しかけられた方は優しい笑顔で答えた。


「ホムラ君。久しぶりだね。随分と明るい表情になった。もう大丈夫そうだね」

「はい。ご心配おかけしました」


恥ずかしそうに申し訳なさそうに顔を赤らめるホムラの頭をセキトが撫でた。


『な!ななななな何をしてるんだ!』


スイレンは驚きやら悔しさやらでパニックを起こしている。それを横目に見ながらセキトは楽しそうにホムラを可愛がる。


「構わないよ。可愛い弟子の心配くらい。またいつでもうちに泊まりにおいで」

「はい!ありがとうございます!」


腕を組まんばかりの勢いでセキトについて歩くホムラ。

そんな2人を絶望した眼差しでスイレンが見つめていた。

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