縮まる距離
【星谷輝side】
委員会の集まりがあったあの日を境に橋本洸との関係性が変化した。
今まで廊下ですれ違ったとしても挨拶することも目を合せることも何も無くお互いが離れていくだけだった。しかし、今は廊下ですれ違うとなればお互いに目を合わせる。橋本くんは笑顔でこっちに軽く手を振ってあいさつまでしてくれるのだ。そうしてくれる度に俺の心臓はドキリと跳ねる。これまで経験したことのない感覚だ。
この一連をすぐ横で見た涼は驚いていた。
「おいおいおい!輝!どういう事?!橋本洸と仲良くなってるじゃん!!何があったのか言え!!!」
顔を近づけながらしつこく聞いてくる涼を両手で押し遠ざけながらざっくりとこれまでの経緯を話した。
「まぁ、委員会が一緒ってだけだから」
「ふーーん。」
なんだかよく感情がわからない返事をされた。涼からしつこく聞いといて、答えたらこれかよ。興味あるのかないのかわかんない奴だな。
「あいつ、橋本洸。あんま仲良くならない方がいいんじゃねぇか??」
涼が眉をひそめながら唐突に言う。
「え、なんで?」
「いや、別に輝が仲良くしたいならそれでいいんだけど。そこまで仲良くする気がないのならやめた方がいい気がする。」
俺にはなぜ涼がそんな事を言うのか全く理解出来なかった。ただ、あったことをそのままシンプルに伝えただけで誰がどう聞いても橋本洸は良い奴だと思うはずだ。まさかこんなことを言うなんて思いもよらなかった。
「うーん。俺は橋本くんの事いい人だと思ったしこれから委員会の仕事も一緒にするからそれを踏まえて仲良くしたいと思えばそうするよ。なんで涼がそんな事を言うのかわからないけど、俺の目で直接見て判断する。」
俺の意思は硬い。なぜなら外面で色々と決めつけるのは良くないから。
「そっか。そうだよな!!ごめんな!こんなこと言って!」
さっきまでの重い空気を消すようにいつもの笑顔で肩を組んできた。
「いや、俺を思って言ってくれたことだろ?ありがとう。」
涼は完全な善意で言ってくれたことは分かっている。こんなことをいってくれるなんて貴重な友達だ。涼が友達で良かった。
図書委員 当番の日
お昼休み。
急いで軽く弁当を食べて図書館に向かわなければいけない。
弁当を片付けて涼に行ってくることを伝え教室を出ようとした時、女子たちがざわついていた。
その理由はドア付近に橋本洸がいたからだ。橋本くんもこっちに気づき笑顔で手招きしてくる。
「星谷くん、せっかくだから一緒に図書館行こうと思って来ちゃった。」
こんなこと言うなんて橋本くんのことが好きな子たちはきっとこういうナチュラルな甘いセリフに惚れるんだろうなと関心した。
「悪い。もしかして待たせたりした?」
「いや、全然!丁度着いた時に星谷くんが来たって感じだったからタイミングどんぴしゃだったよ。」
「そう?それなら良かった。」
「うん、仮に待ってても俺が好きでそうしてるだけだから気にしないで。」
そう言われて俺は心臓がひゅっ!となった。
俺が好きでそうしてる……告白されたわけでもないのに心臓がうるさい。これはもう友達っていうことでもいいのかな?友達じゃない相手にこんなことしないよな…。
軽く俯きながら ん。と呟く。
図書委員の仕事は受付や整理などある中でまさかの俺と橋本くんが受付になった。
経緯は至ってシンプル。あみだくじだ。これは委員長のアイディアである。
"あみだくじこそが平等なのだ!!!"
といった考えらしい。
受付に横並びで座り貸出のマニュアル資料を一読する。思っていたよりも簡単そうで2人いればなんとかなるだろう。まだ図書館の利用生徒はいない。
この静かな空間で右隣に座っている橋本くんはぺらぺらと資料を捲り読んでいる。
指、細長くて綺麗だ…。でも俺よりも大きい。チラッと見ていたつもりだったがその視線に気づいたのか俺の方を向いてきた。
「どうしたの?もしかしてわからないことあった?」
そうやっていつも紳士的な気遣いをしてくる橋本くん。
「いや、大丈夫。」
そそくさと自分の手元に目線を戻す。さっきの言い方そっけなかったかもしれない。
橋本くん相手になるとどうもいつも通り他の人に接するみたいにできない。無駄に緊張するというかキラキラしたオーラに圧倒されてしまう。
次だ!次話す時はもっと愛想良くしよう。……あれ?俺、いつもこんな感じで愛想なんてよくしたことないな?だから友達なんて涼しかいないし。必要ないと思っていた。誰かに好かれたいとか思ったこともない。なのになんで…。
ぐるぐる考えこんでいる俺に
「星谷くんは好きな漫画ある?」と聞いてきた。
「あー、漫画はあまり読むほうじゃないかも。どっちかって言ったらアニメ見ることのが多い。」
「そうなんだ!じゃあ、あの作品とか見たことある?」
指さしている方向にはポスターがある。
「あれ、俺が今期で1番好きなアニメだ。」
自分の好きな話題になり内心少しテンションが上がっている。
「奇遇だ、俺もあの漫画好きでアニメも追っているんだよね。」
「ほ、本当か?!いいよな!あの作品!魔法少女の護衛するキャラたちが癖強くてさぁ、ギャグ要素ありつつシリアス展開もあるのまじ天才的!!……っ。」
いつもより多く話してしまった。急にこんな話されても困るよな!
「悪い。俺、ついこんな話してしまって。」
「なんで?この話しできるの嬉しい。もっと話せないかな?俺、この原作漫画持ってるんだけど良かったら読まない?」
「いいのか?!」我を忘れて喜び、やった!と顔がほころぶ。ずっと読みたいと思っていた漫画を貸してくれるなんて良い奴すぎる!!
「…かわいい」
橋本くんが俺顔を見ながら言う。
「えっ…?」
急に言うもんだからなんの事だかわからず戸惑う。
「あ、いや、ごめん、気にしないで!」
そう言いながら橋本くんは両手で顔を覆い見えなくなってしまった。
少しして手を離し顔が見えるようになったけどいつもと変わらない綺麗な顔があるだけだった。
「あのさ、もっと星谷くんと仲良くなりたい。」
ストレートに言われて嬉しかった。
「うん、俺も。」
もっと橋本くんの事が知りたい。今は何も知らない。名前と同じ委員会。それだけ。
「じゃあ、連絡先交換して欲しい。」
「あ、ちょっとまって、スマホ 教室にある。」
「だったら放課後聞きに行くから待っていてくれるかな?…もしかして予定ある?」
「いや、予定は特にないから大丈夫。ありがとう。」
それから受付業務で忙しかった。いつもいないはずの人が橋本くん目当てで大勢やってきた。ただうるさくするものもいたためそういう人たちは先生から怒られて追い出されていた。
昼休みの当番を終え、教室に戻るまでの道中は
橋本くんと無言のまま2人で歩いた。気まづい様で心地良い。あっという間に自分の教室に辿り着く。
「じゃあ、また。」軽く会釈して橋本くんを見送る。
「うん、また。放課後ね。」ひらひらと手を振って爽やかに去っていく。