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092 ハリボテ舞台の木偶人形(2)【ミュール視点】

 ミュールに課せられた役目とは投薬実験への参加だった。抗うこともできず実験体となり、それが元で数日間生死の境を彷徨うことになる。


 そして目を覚ましたとき、体は思うように動かなくなっていた。


 元々体は強くなかったが、その頃とは比べ物にならないほど虚弱になり、数週間は完全な寝たきりだった。体調が落ち着き、少しずつ体が動くようになってきた頃、やっと思考が回り始めたことでミュールは己の愚かさを理解した。


 自分は当主候補であるという驕りに足元を掬われたのだと。ストーベルは当主候補であろうが、邪魔者の排除を(いと)わないのだとこのとき初めて気づいた。


 魔力があり、重用される自分は少なからず父に認められていると信じていた。いや、信じたかったのかもしれない。しかしそれすらもまやかしだったのだ。

 ストーベルという人物に期待し過ぎていた。彼を人と呼んで良いのかすら、今では疑問に思えるほどだった。



 コンコンと扉が叩かれ、中へと誰かが入ってくる。そちらを見ずとも、相手がミルテイユだとわかった。


「お加減はいかがですか、ミュール様」

「変わらない、最悪だ」

 それだけ伝えるとミルテイユは気の毒そうな表情で伏し目がちになる。ミルテイユは投薬実験で昏睡状態になった日から、毎日献身的に世話をしてくれていたらしい。


 最初はなぜ当主候補であるミュールが投薬実験などに参加したのかと彼女に問い詰められたが、それに答えることはなかった。

 理由など知る必要もない。もう彼女は従者ではないのだから。この体では当主など到底務まらないと即時候補から外され、同時にミルテイユは解任された。


 ストーベルは最初からそうするつもりだったのだ。気づかれたくないところに気づかれ、口封じしようとしたのだろう。


 ストーベルにとってミュールは死んでもいい存在になったのだ。死ななくても無能のレッテルを貼られたミュールの言葉など、他の兄弟たちは耳を傾けない。もう自分には価値などなく、このクランベルカ家という箱庭の中で孤立した。


 今頃ストーベルは、ミュールの使い道は何が一番良いのかを考えているだろう。素材としてか、それとも実験体としてか。


「私の体調のことなんていい。それよりミルテイユは今、何をしてる?」

「わたくしはストーベル様の直属の部下として、雑務を少々」

「そうか。従者を外れたのに、いつも来てくれてありがとう」

 ミュールの部屋への入室は医者と監視官くらいしか認められていない。ミルテイユの存在は、絶望に荒みきったミュールの心を僅かに救ってくれていた。


「いえ、当然のことです。ミュール様に喜んでいただけるのであれば、これ以上の幸せはありません」

 控えめではあったが、ミルテイユの笑みは久しぶりに見る気がした。そんな和やかな空気を壊すようにノックもなしに扉が開く。現れた人物を視認し、体が強張る。


「ストーベル様……」


 部屋の空気が、一瞬にして冷える。ミルテイユは一歩下がり、(うやうや)しく一礼した。


「ミルテイユ、任務へ戻りなさい。ミュールと二人で話がしたい」

「承知いたしました。失礼します」

 ミルテイユは命令に従って迅速に退室し、あっという間にストーベルとの二人だけの空間が出来上がる。最悪だ。二度と見たくもない顔が目の前にある。


「調子はどうだ?」

 どの口がそれを言っているのだ、とミュールは無言でストーベルを睨みつけた。


「ずいぶんと愛想がなくなったな。以前のお前は──」

「用件をお話ください」

 冷たく突き放すとストーベルは小さくため息をついた。こんな状態にしたのは誰のせいだと糾弾したい気持ちを抑え、言葉を待つ。


「約束を忘れたか。役目を果たしたら教えてやると言ったであろう」

「は?」

 意外すぎる言葉に思わず声が漏れる。約束を守るような人ではないと思っていただけに、だ。


「実験は失敗だったが、一応役目は果たしているからな」

「……では聞きます。父様の得たいものとは一体何なのです」

「何度も言っている。私は領民を守る圧倒的な力が欲しいのだよ」


 その言葉に愕然とした。最初から本心など話すつもりはなかったのだと。少しでも期待してしまった自分を、ミュールは恥じた。

 こちらの心が掻き乱される様子が面白いのか、ほくそ笑むストーベルへ激しい殺意が湧き上がる。


 魔力を練り火球を作り出そうとした途端、体に激痛が走る。(うめ)きながら咳き込むことしかできない自分の惨めさが悔しくてたまらず、胸元を強く握りしめる。


「嘘だ。父様は長の座を奪って得た金と権力で、全てを意のままにしたいだけだ。領民のことは、いつも私たちに押し付けて何もしない」

「私は当主として指示を出しているのだ。それを押し付けていると言われるのは心外だな」

「昨年の災害の慰霊に、一度も赴かなかった人の言葉か……」

「お前たちが行けば十分だろう」


 その言葉が全てを物語っている。ストーベルを領民思いの良き領主と信じている民にとって、彼の慰霊がどれほど心理的に作用するのか。この男は理解していてなお、行かなかったのだ。


「まぁ、嘘かどうかはともかく本心を聞いたところでどうするというのだ?」

 ストーベルの顔が心底愉快そうに歪む。邪悪を体現したかのようなその表情に侮蔑の感情が迫り上がった。


「お前の言葉には誰も耳を貸さない。何を訴えてもお前の言葉は戯言になる。お前の言葉は誰にも響かない」

「……」

「だがお前にはまだ価値がある。私の役に立てることは嬉しいだろう?」

「役に立つ? そんなのクソ喰らえだな」

 逆らう者が邪魔なら殺せばいい。今のミュールにとって、自分の命は惜しいものではなかった。


「そんな汚い言葉遣いをするものではない。クランベルカ家の品位が下がる。と言っても、お前が表舞台に立つことなど二度とないがな」


 くつくつと笑いながら、ストーベルは(きびす)を返す。用件はたったそれだけだったらしい。ストーベルはドアノブに手をかけようとし、なぜかこちらを振り返る。


「そうだ、一つ聞きたいことができたのを思い出した」


 三日月のように弧を描く嫌な笑みに、じっとりと背中が汗ばむ。


「ミルテイユはお前の従者から外したはずだが、お前が呼びつけているのか?」


 その問いに鼓動が一つ、強く脈打つ。


「私はミルテイユに、お前の世話を命じた覚えはない」


 思い出したなんて嘘だ。おそらく本当の用件はこれだと瞬時に察する。動揺を顔に出さないようにしながら、慎重に言葉を選ぶ。


「……私が呼びつけているのだとしたら、何か?」

 あくまでも行動の起点を自分に置きながら、質問形式で返す。悪びれることもなく、従者だった頃の感覚を当然だと思っているような素振りを装った。

 ストーベルはピクリと片方の眉を引きつらせ、大げさに肩を竦める。


「ミルテイユは忙しいのだ。頼みやすいのはわかるが、彼女のことも考えてやるべきだろう? お前は元当主候補だったのだ。上に立つ者は下々の者のことを考えてやらねばなるまい」

 それだけ言うと、さっさとストーベルは部屋からいなくなった。部下思いの至極正論じみた言葉だが、そのままの意味でないことくらいわかる。怒りなど、とうに消え失せていた。緊張が解け、どっと吹き出した冷や汗が頬を伝う。


 これは紛れもない警告だ。胸の内が押し潰されていくような息苦しさに襲われ、全てが奪われていく現実に指先は冷え切って震える。

 ミュールは決断を迫られていた。それも早ければ早い方が良い。その日の夜はまともに眠ることもできなかった。



* * *



 翌日もミルテイユは日課のようにミュールの元を訪ねてきた。もちろん呼びつけたわけではなく、彼女の方から自主的にだ。


「今日は気分がよろしいようで。昨日ストーベル様が来て下さったからでしょうか?」


 そんなわけがない、と心の中で反論する。と言っても、自分とストーベルの間に何があったのか知るはずもない彼女には到底想像もつかないだろう。

 嬉しそうに笑いかけるミルテイユを、記憶に刻み込むようにじっと見つめた。少しでも長く……長く。


「あの、どうかなさいましたか?」

「私もミルテイユの笑顔を久々に見られて嬉しいよ」

 決して体調が良いわけではないが、懸命に笑ってみせた。どうか自分のことを思い出すときは笑顔であってほしい、そう願いながら。ミルテイユは少しだけ恥ずかしそうに視線を逸らし、はにかんだ。


「わたくしも、久しぶりにミュール様の笑ったところを見たような気がします」

 くすぐったそうな、それでいて安堵(あんど)したような満面の笑みが眩しく感じられ、思わず目を逸らしそうになる。最後に見られて良かった、と小さく呟いた。


「ミュール様、今何か──」

「ミルテイユ。聞いてほしいお願いがある」

「お願いですか?  何なりとお申し付けくださいませ、ミュール様」

 ベッドの傍らへと寄り、覗き込むように見つめてくるミルテイユの表情が、この後曇ることを想像して気分が陰る。

 それでももう決めたことだ。ゆっくりと息を吐き出し、ざわつく気持ちを落ち着かせる。


「ここへ来るのは、今日で最後にしてほしい」

「えっ、どういうこと……でしょうか?」

 驚いたように目を見開き、ぱちくりと(しばたた)かせている。やはり「はい、わかりました」とは言ってくれない。

 戸惑うのも無理はないだろう。これまで拒絶するような素振りなど一切なかったのだから。


「君も新しい環境で忙しいだろう。当主候補を外れた私の世話など負担になるだけだ」

「そんなことありませんっ。わたくしが好きでここに来ているのです。お願いです、わたくしを遠ざけないでください……」

「ミルテイユは本当に私に良くしてくれてるけど、もう甘えるわけにはいかないんだ」


 やんわりと遠ざけても、ミルテイユは必死に首を横に振る。


「いいえ、いいえっ……わたくしはミュール様の──」

「従者ではなくなった。違う?」

 ミルテイユの瞳が悲しげに揺れ、くしゃりと表情が歪む。一生懸命懇願してくるミルテイユに、首を縦に振ってやることだけはできない。ここで関係を断ち切るのが、他でもない彼女のためなのだ。でなければ、彼女の命はない。


「今までありがとう。感謝してるよ、ミルテイユ」

「笑って……そんなこと言わないでくださいミュール様。わたくしをお傍に置いてください!」

「それは無理なんだ。もう来ないでくれ」

「私のことを心配して(おっしゃ)っているのなら、気を使う必要もありません。そもそもそのようなことをミュール様が気にする必要はないのですから」


 ミルテイユは引き下がるつもりはないようだ。穏便に、穏やかに済ませたいと思っていた。できれば綺麗に離れられたら、嘘などつかず感謝だけを伝えて彼女を見送れたらと。


 だがそれではとても聞き入れてはもらえないようだ。それでも強く突き離さなければならない。

 ストーベルが見ている。反乱分子のミュールとミルテイユの関係を。ミュールとミルテイユの付き合いは長い。そこには力や地位以外で繋がる絆や情がある。それが人だ。


 たとえミュールが力を失っても、ミルテイユはミュールの言葉に耳を傾けるとストーベルはわかっている。これ以上長く共にいれば、ミルテイユは間違いなく疑いの目を向けられ、立場が悪くなっていくだろう。


 そしてこのクランベルカ家という環境において、従者でしかないミルテイユの命はあまりに軽い。“人”らしい感情に流されれば足元を掬われる。疑わしきは罪深き、事故か何かを装って消されるのも時間の問題だ。


 ミルテイユを自分のせいで死なせたくはなかった。全ては彼女のために。その思いの強さがミュールから、人としての温もりを奪っていく。


「せっかく言葉を選んでるのに、ハッキリ言わないとわからない?」

「ハッキリ……?」

「訪ねて来られるのが迷惑なんだよ、頼んでもないのに。お前の仕事に支障が出て私のせいにされるなんて冗談じゃない」

「……迷……惑? さっきはありがとうって、言って……くれたじゃない、ですか」 


 言葉を詰まらせ、震える声に罪悪感がずしりと存在を現す。それらを吐き出すようにため息をつき、頭を抱えた。


「十年も一緒にいて、まだ私の本音と建前も見抜けないのか。所詮その程度だったということだ」

 ひどく冷えきった声だ、とどこか冷静な部分でそう思った。嘘とはいえ、どうしてこんなにも簡単に酷いことを言えてしまうのだろう。


血も涙もないな。


 ストーベルの顔が頭を過る。あれが自分の父親。しっかりとあの下劣な男の血が流れていることを実感し、虫唾が走る。


「私はもうお前の顔など見たくない。二度と目の前に現れないでくれ」

「嫌ですっ、嘘だと言ってくださいミュール様っ!! わたくしたちの十年は全て偽りだったと?」

「悪いけど、そういうことになる。私を信頼したのはお前の勝手だが、私まで同じ思いだったと勘違いされては困る」

「そんな……」

「ここはそういう場所だと知ってるはず。お前は私専用の駒だった。主と従者、それ以上でもそれ以下でもない」

「一欠片でも……わたくしに向けてくださった笑顔に真実はないのですか……」

「ない。もう目の前から消えて、私のことは忘れてくれ」


 ミルテイユの瞳から一粒、涙が零れて砕け散る。同時に膝から崩れるようにしてへたりこんだ。ミルテイユの顔はとても見られない。これ以上留まられたら、本当の気持ちに負けてしまう。


 早く去ってくれ。怒っても恨んでも憎んでも罵ってくれても、この場で殺してくれてもいい。全てが台無しになる前に早く、そう願うことしかできない。自分で言っておいて、自分の言葉にズタズタにされた心はもう瀕死に近いのだ。


 だが傷つく権利などあるはずもない。理不尽な言葉に苦しみ、傷つけられているのはミルテイユなのだから。自分がミルテイユにできるのは、この残酷な嘘を貫き通すことだけだった。


「出ていってくれ。これは私からの最後の命令だ」

「命令……そこまで(おっしゃ)るのですか?」

「そうだ。その重さ、ミルテイユならわかるだろう?」


 ミルテイユは椅子に手をかけて支えにし、覚束(おぼつか)ない足でよろよろと立ち上がる。


「……わかりました。従います……一日でも早く回復なされることを、離れても祈っております。ミュール様、今までお世話になりました」

 それだけを言い残し、ミルテイユは退室した。あれだけ酷い言葉をぶつけられても体調を気にかけるような言葉を残して。恨み言一つ、零さずに。その温かな言葉が、ズタズタの心に残酷なほど沁みて激痛となる。


 いっそ罵ってくれた方が良かった。その方がずっと楽になれたことだろう。ミルテイユの笑顔を思い出して胸が締め付けられ、掻き(むし)られるような息苦しさに何度も布団を殴りつけた。


 行かないでくれ、傍にいてほしい。そう叫びたくなる衝動を必死に抑え続けた。彼女の背中に声をかけることは許されない。期待させればさせただけ傷つける。


 これで良い。これで良かったのだ。何度も自分に言い聞かせるほどに悔しさと後悔は積み重なっていく。


あのときストーベルに意見などしなければ。

ストーベルという人物を見誤らなければ。

自分の立場を高く見積もり過ぎなければ。


 それでもたった一つだけ、自分を褒めたいことがある。意見したあの場に、ミルテイユを連れて行かなかったことだ。もしあの場にいたら、ミルテイユにはきっと、ミュールより悲惨な結末が待っていたことだろう。


すまない、ミルテイユ。

どうかお前が、幸せになれる日が来るよう祈り続けるよ。


 祈っている。たとえ幸せになどなれないと、わかりきっていても。クランベルカ家の呪縛から彼女は逃れられない。逃げたら彼女の一族は滅びるのだから。


 途端に思い出したかのように涙が溢れ、零れ落ちた。止まりそうにもない涙に、重怠い体を横たえて布団を被る。


 枕に顔を押し付けて声を押し殺し、何度も何度も、届きもしない謝罪の言葉を繰り返し続けた。心はすっかり擦り切れ、これが何の涙なのかミュールにはもうわからなくなっていた。



 その後のミュールの環境は虚無そのものであった。見舞いに来る者はおらず、医師だけとの事務的なやり取り。


 回復の兆しのない体と、抜けることのない倦怠感(けんたいかん)。時折襲われる耐え難い激痛。何かに利用されるのを待つだけの虚しい未来。誰からも「人」として必要とされず、気にもとめられない。それだけを淡々と毎日繰り返す。


 ミルテイユが自分にとってどれほど大きな存在であったのかを思い知らされた。


 死ぬこともできず、ただただ生かされているだけの自分に、絶望しかなかった。ミュールは最後にできる唯一の抵抗として、水や食事を一切口にしなくなった。この身に仕込まれていた自爆術式は昏睡状態のときに解除されてしまっていた。


 道具として利用されたくない。餓死なら人としての命を全うできる。生きる希望もなく何もできないミュールにとって、それが唯一自分の望みを叶える手段だった。


 それでもこの体は点滴で強制的に生き長らえさせられる。見張りは片時も目を離してはくれない。

 ぼんやりと部屋の天井を見上げて、頭の中で繰り返す。自由になりたかった。自分の命も人生も時間も自由に自分のために使いたかった。優しい両親や家族に囲まれて生きてみたかった。


それは贅沢な夢なのだろうか?


 当主にも、駒にも、材料にもなりたくない。自分もゴミのように焼却処分されるのだろうか。一体自分が何の罪を犯してこんな思いをしているのか。


 道具として終わりたくない。人として生き、人として死にたい。そんな願いすら罪なのだろうか。誰も答えてはくれない問いかけが延々と頭の中を駆け巡っていた。


──そんな絶望の中に一筋の光が差す。


 監視官が火球で吹っ飛ぶのが、声と視界の端に映った。


「ミュール兄さんっ!!」


 火球を放った人物が誰か、その声と背筋を凍らせるような不気味な魔力の気配でわかった。


「メ……リー……」


 かさかさの枯れた声で妹の名を呼んだ。声を出すのもずいぶん久しぶりだった。


「ミルテイユさんから聞いてきた。ミュール兄さんが死んじゃうかもって」

「ミルテイユ……が?」

 ミルテイユがなぜメリーにそんな話をしたのかはわからない。彼女はメリーがこうすることをわかっていたのだろうか。


 そしてミュールの中に一つの使命感と強い思いが湧き上がる。顔をゆっくりと向けると、肩で息をしながら目を大きく見開いているメリーと目があった。その瞳に弱々しく横たわる自分の姿が映りこんでいる。


 メリーほどの魔力なら一人でもこの腐った世界から逃げられるかもしれないと思った。ストーベルには「お前の言葉は誰にも響かない」と言われた。それでもまだ生き長らえている意味が自分にあるというのなら、どうか届いてほしい。


目を覚ませ、メリー。


 空気を大きく吸うと小さく刺すように肺が痛んだ。絞り出すようにして言葉を紡ぐ。


「メリー、お前は自分を大切にしなさい」

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