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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界恋愛

魂を入れ替える古代魔術で愚昧に全てを奪われましたが、それで何か変わるだなんて思わないことね。

作者: 屋代ましろ

興味を持って下さり、誠にありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。

(恋愛要素は薄目です)

「く、くくくっ。やった、やったわ……私はついにやった! やり遂げた!」

「ミイア、あなたという子は本当に……」


 ツェニクス侯爵家の、魔術研究用に造られた地下室。

 殺傷性の薄い爆発がもたらした白煙の中で、互いを見やる双子の姉妹の姿があった。

 才色兼備で有能な姉のフォニア・ツェニクスと、彼女と比較すれば特筆した長所を持たない妹のミイア・ツェニクスだ。

 ただし、二人の現実は授かった名前通りの状況とはわずかに異なっていた。


「ミイア? 違うわ! えぇ、違うのよ。見て分からない? ミイアはお姉様よ、私はフォニア! フォニア・ツェニクスになったのよ」

「身体はそうかもしれない。けれど仕草も表情も性格も……あなたはわたしの妹、ミイア・ツェニクス。それだけはどんなことがあっても変わることはないわ」


 置換ちかん魔術――とある亡国の王妃が死後、自伝に遺した禁忌の術だ。

 社交性に乏しく引きこもりがちな妹から呼び出され、長年固く閉ざされ続けた地下室を訪れたフォニアはしかし、ミイアの研究成果によってその肉体を奪われたのである。


 だというにもかかわらず。


 余裕があるような言動をするみすぼらしい姉の態度を目の当たりにしたミイアは、ようやく手に入れた優秀な器の高揚感や万能感から彼女を見下して声を張り上げた。


「ふふふ、あはははっ! 何とでも言いなさい、いくらお姉様が優秀だとしても魔術の根本的な規則(ルール)までは覆せない! この古代魔術はね、今ではもう同じ対象を一生のうち一度しか置換できなくなったの。だから何を吠えてももう手遅れ! そう言った!」

「ミイア……あなたは勘違いをしているわ。わたしがわたしでいようとする意志に肉体的な優劣は関係がないのよ」


 そんな優しく諭すようなフォニアの言葉を、ミイアは「うるさいッ!」と金切り声で一蹴する。


「これで……私の人生は変わる。私が先に好きになったはずのスザク皇子の婚約者としての地位も、誰もが目を惹く美貌も、ありとあらゆるコネクションも何もかもが思いのまま。私はお姉様に……勝利者になったの! そして、あんたはようやく敗北者になるのよ」

「何度でも言うわ……あなたはわたしにはなれない。どこまで行ってもわたしはわたし、あなたはあなたなのよ」

「はっ、強がりはやめなさいよ。あなたの持っているものはもう、全部私のものになったの。ミイア・ツェニクスは大人しく、薄暗くてじめじめした穴倉で魔術の研究でもしていればいいって分かれ!」


 ミイアは耳障りな甲高い声をあげ、嬉々とした足取りで去ってゆく。

 だが、地下室に残されたフォニアの表情にはまったく陰りが見えない。

 何度も主張してきた通り、彼女にとって肉体の差異など誤差の範疇にすぎないからだ。


 それを示すように、この日よりわずか二週間後。

 対極的な人生を歩んできた姉妹の明暗は、再び分かれることとなった。


「――フォニア・ツェニクス。貴女との婚約、なかったこととさせて頂く」

「……はぇ?」


 突如として告げられた言葉に、フォニア(ミイア)は間抜けな声をもらす。

 この日はスザク皇子の誕生式典バースデーであり、王城には貴族は当然ながら各企業の上役たちも数多く出席している。

 そんな、否が応でも注目を集める場所での出来事だった。


「す、スザク様……な、何をおっしゃっているのかよく意味が……」


 問われたスザクはしかし返答をせず、他の者へ静かに目くばせをする。

 受けて一歩前へ出たスーツの男性が、的確かつ明瞭に事実だけを告げ始めた。


「この場をお借りしてカファロン商会からもご報告させて頂きます。先日の緊急役員会議の通り、本日付でフォニア・ツェニクス特別顧問の解任が決定となりました」

「な――――っ!」


 予想だにしていなかった言葉に、フォニア(ミイア)の頬を脂汗が伝う。


「同じく慈母(じぼ)の会から。本日付でフォニア・ツェニクスが所有する〝準聖母〟の冠位(かんい)が剝奪となりましたこと、ここにご報告させて頂きます」

「同じく、同じく、同じく、同じく――――……」


 次々と上がってくる報告は、全てフォニア・ツェニクスが持っているものを――ミイアが姉から奪ったものを、またさらに取り上げる旨を伝える報告であった。

 ややあって冷静さを失ったフォニア(ミイア)はひとり、虚空へと訴えかける。


「い、一体何が……な、何が起こっているんですの? この私の、フォニア・ツェニクスの助力なくしてやっていけると思っているのッ!? ば、馬鹿ッ、無能、恩知らず! な、何故……なんで! どうして! どうしてよぉおっ!」

「何故か分からないあなただからダメなのよ」

「…………っ!!」


 よく耳に馴染む、聞きたくはない声の先へフォニア(ミイア)は仄暗い視線を飛ばした。


「――そして、以上七十四の役職、階級及び婚約につきまして。こちらのミイア・ツェニクス氏が引き継ぐこととなります。では改めて賛成の方、盛大な拍手をお願い致します」


 途端、溢れんばかりの拍手喝采が城内を包み込む。

 二週間前に捨てたはずの疎外感と劣等感だけがフォニア(ミイア)の心を満たしていく。


 やがて音が鳴りやんだ。

 みなが目を向けた先。そこには皇帝の姿がある。


「余は聡明な女を好む。そして可愛い我が子、スザクが娶る者もそうあって欲しいと願っておる。それを踏まえた上で、言わねば理解できぬようだから敢えて問おう。フォニア・ツェニクス――いや、ミイア・ツェニクス。貴様には一体、人を呆れさせる以外に何ができる?」

「…………ッ! そ、それは……だから……私にはっ! わた、しは――――」

「ないのであろう。せいぜい夜伽よとぎの相手……だがまぁ、そこの〝差〟で気取られ、疑念を確信に変えさせているようではな」

「~~~~っっ」


 皇帝の発言を受け、参列者――特に中身・・を疎んでいた女性たちの嘲笑がくつくつと囁くようにざわめく。ミイアにとっては耐え難い苦痛であり、屈辱だった。


「父上……そのことは内密にと言ったではありませんか。それではまるで私が、彼女と一夜を共にするまで気付かなかったかのように聞こえてしまいます」

「ハハハハッ、恥ずかしがるでないわ。なに、お前がそのような人間ではないこと、この場の誰もが理解しておるよ」

「う、う、うぅっ、う……な˝ぁ˝あ˝ア˝あ˝ッっ!!」

「――こいつッ、大人しくしていろッッ!」


 感情の自制が利かなくなった彼女を、あらかじめ近くで備えていた衛兵たちが取り押さえる。


「ミイア……君の好意には気が付いていたつもりだ。それでもしも君の行き過ぎた好意がこんなことをしでかさせたのだとすれば本当に申し訳ないと思う。心から詫びよう」

「そ、それは……そん、なこと……」

「だがな。であれば私のフォニアを愛しているという気持ちも尊重して欲しかった。自分のことばかりで他者を尊重できない人間が、他者から尊重されることはないよ。言えることはそれだけだ」


 言い終え、入れ替わるようにしてフォニアが地面に這いつくばるミイアのもとへ歩み寄った。


「皆、事情を話したらすぐに理解してくれたわ。〝あぁ、どうりで様子がおかしいと思った〟って。昔から平民寄りの感性を持っていたお父様とお母様も言っていたでしょう? 誰かと比べたって意味がないのよ。他の誰が何を言ってもわたしたち家族はあなたを否定してこなかったのに、どうしてそれを分かってくれなかったの?」

「今ぁッ、あんたがこの場にいることそのものがぁッ、私の存在を否定してるって分からない女が言うなァッ!」

「……あまり興奮しないで、ミイア。そうね、そうかもしれない。でもね、ここまでの話にはまだ続きがあるの。終わりにはできないのよ……いくらあなたでも古代魔術が禁忌であり、少なくともこの国では重罪だという程度は承知しているでしょう?」


 ミイアは視線を逸らし、口をつぐむ。 


「だから……」

「――よい。ここから先は、余が直々に言うべきであろうな」

「……よろしくお願い致します」

「うむ。ではよく聞くがいい、ミイア・ツェニクス。貴様は遺失魔術の行使、窃盗、名誉棄損。その他、百四十九の違反により――――二日後、広場にて極刑に処すッ!」

「み˝ぃ˝っ……?」

「ミイア……」


 こうなることは、この二週間。関係各所に自己を証明し、状況を伝えてきたフォニアも当然理解していたことである。

 だが、だとしても憐れむ心を止める術を彼女は知らなかった。


「う、嘘……嘘、よね……そうよね、お姉様」


 現実を受け止めきれないミイアの問いに対し、フォニアは首を何度か横に振る。 


「本当は姉妹のよしみで国外追放処分で収めてもらえないかと思ったけれど、わたしの顔で国外の知人たちにまで迷惑をかけるわけにはいかないもの。だから――」

「だ、だから……?」


 一縷の望みにかけるような潤んだ眼差しがフォニアを見つめていた。

 だが、全てはもう遅い。何もかもが手遅れだった。

 姉はただ、静かに事実だけを端的に伝える。


「さようなら、愚かなわたしの妹」

「フォニア˝ァ˝ッ! フォニ˝ア˝・ツェニ˝グスぅ˝う˝う˝う˝う˝う˝ッ˝!!」

「……それは、あなたのお名前なのでしょう?」


 後日。フォニア・ツェニクスの身体の公開処刑は大々的に執り行われた。

 そして、本来であれば何ひとつ残せなかったであろうミイア・ツェニクスの名は、皮肉にも後世に名を刻んだフォニアに訪れた一つの事件として、歴史の片隅に小さく記されることとなったのである。



 ――――――――完

ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます。

(次は素直にハッピーエンドものを書くと思います)


現在、本作の他に「無感の花嫁」という異世界恋愛ものを書いていますのでまだ序盤も序盤ではありますが、よろしければぜひそちらも一読頂けると嬉しいです。


お時間ございましたら、異世界恋愛もの(長編)でどういった部分があるorないと読む読まないを決める、もしくは評価を入れるタイミングや基準などを、参考までに教えていただけると大変助かります。

(読者の皆様が読みたいものを私が書く確率が上がるかもしれませんので……!)


重ねてお礼申し上げます。ありがとうございました。

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