第二話 償い
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目頭が熱くなる。
まただ、また、あの時の出来事を無意識に思い返してしまっている。僕はまだ克服しきれていないんだ。
もし、あの時、僕が一言を言えていたら、あんな事は存在しなかったかもしれないのに。僕は、どうしてあの時たった4文字の言葉すらも声に出せなかったのだろう。
別に声帯を潰されていたわけでもないし、猿轡を嚙まされていた訳でもない。なんなら、脅迫されていた訳でもないのに。
それはきっと結末を知っていたからなのかもしれない。逃げたところで現実は非情であるという事実に。
僕は、きっと何度同じ時間を繰り返そうと、あんな事を何度だって起こしてしまうと思う。だって、あの時の僕には逃げられる場所なんてなかったのだから。
僕は、ずっとこの事実を後悔しつづけ、涙を流すのかもしれない。それでも、この事実を忘れることはきっと僕自身が許さないだろうと思う。
だから、僕はルカを取り戻さないといけないんだ。
それは希望じゃないし、願望でもない。
事実だ。
***
僕たちがあの廃墟から逃げ出して、日が沈み、昇り、次の拠点を探すために走り回っていた。幸い、大きな山を二つ程度超えたところに廃村を見つけたため倉庫を借り、休ませてもらっている。
少年は僕が思ってた以上に足が速い。まるで何か武術をやっていたような感じがする。しかし、今はきっとやってないと思う。少年の動きは古く懐かしい武術の所作が見受けられるが、所々未熟な様子も見られるからだ。
師匠が亡くなったか、あるいは破門されたのだろう。
しかし、それを聞くのは無神経すぎるような気がするが、同時に聞きたい自分がいる。
これは興味からか、それとも、懐かしい武術の雰囲気を感じるからなのだろうか。それは、どちらなのかは私には理解できない。
酷く静かな発砲音が背後から唸る。
考えるよりも早く、左手が動いた。
歪な形の鉛玉が静かに地面に数個落ちる。
「奇襲は、するよね」
おそらく、この鉛玉は、あの生物から発射されたものに違いない。
僕は静かに溜息をついたが、現状は何も変わらない。
それは、そうだ。彼らはもう意思疎通が取れる存在ではなくなっているのだから。
「グルルルルゥ……」
鉛玉のように歪な化け物が唸り声を鳴らす。
僕は、辺りを見渡し、一応誰もいないことを確認する。
これもまた、幸いであるが、誰もいない森の中だ。
「軽く準備体操しようか」
僕は軽く腕を上げた。
前方に飛び出し、化け物との距離を詰め、そのままの勢いを乗せ、化け物の体に風穴を開ける。
化け物は、体中の液体を集めて、風穴の空いた箇所を一生懸命修復しようとしている。
「ここの風気持ちいいだろ」
純粋な気持ちで、聞いたが、どうやら化け物には友好的には受け取ってもらえなかったらしい。
強い唸り声を上げられてしまった。
「グルルルルッ――ッ!」
すると、化け物は体中の液体をまき散らした。
その液体は、主人の体から離れたことで液体から鉛玉に変化した。
しかし、最初の奇襲ほど威力は強くない。
射出には時間がかかるのか、それとも、単純に弱ってしまっているのか。はたまた、その両方か。
「僕は好きなんだけどな、この風」
化け物に語り掛けるように独り言を漏らしたが、もちろん聞く耳は持ってくれない。
化け物の核を脚で蹴り飛ばし、粉砕する。すると、化け物はその場で黒い灰になって空気中に散っていく。
「逃がさないよ」
胸を掴み、破壊した核から逃げ出した不可視の魂を掴まえ、鎖で繋いで吸収した。あるべき場所に返すために。
吸収が終わったことを感じ、僕は強く胸を掴んだ。
やっぱり何度使ってもこの力は苦しい。
この力は一生掛けても支払いきれない償いと生存意義を掛けた正義が生み出したものだ。
もしかしたら、この力のせいでこの化け物たちは生まれてしまったのかもしれない。
「おっさん?」
不意に声を掛けられた方に目を向けると少年がそこには立っていた。
少年は、じっとこちらを静かに見つめていた。
不味い、見られたかもしれない。
この力は単純に説明ができるものでもないし、もし見ているなら、口封じをしておかないと僕が後で痛い目を見ることは理解している。
でも、彼を殺せば、きっとまたルカへの道は閉ざされるのは確実である。
なんたって、こんな惨状になってから初めて会えた人間だし、おそらく中央聖堂の手の内になった人間がほとんどだろう。
そう考えると、ここで彼を失うともうルカを見つけることはできないかもしれない。
「おっさん、何してるんだ?」
どうやら、何も見てなかったらしい。
ちょうどすべてが終わった時に来たみたいだった。
俺は安堵と同時に違和感を覚えた。
何か見落としているような気がする。彼は何者なのだろうか。情報を取得以前に彼は、中央聖堂に追われていた。つまり、重要人物のはずなんだ。
「ちょっと外の空気を吸ってたんだ。森の空気は美味いからな」
嘘は言ってない。ただその内容を省略しただけだ。
少年は少し首を傾げ、目を閉じ、大きく口を開けて息を吸い込み、そして、吐き出した。
そのまま数秒間固まって、少年は言った。
「師匠も同じこと言ってたけど、やっぱり俺にはわからないや」
そう言って、少年は廃村の倉庫へと帰っていった。
バレなくてよかったとか、彼は何者なのかとか、師匠はどんな人だったとか、いろいろ聞きたいことがあったが、僕はその後を何も言わずに着いて行った。
きっとそれは胸が苦しいからだ。
***
情熱が時に毒となる、なんて師が言っていたような気がする。
しかし、私は師匠に死んでほしくない。
だから、今こうやって研究している。
情熱を注いで、熱い希望と薄い可能性を手にするために。
「絶対に殺してやるものか。すべてを背負って一人で死ぬなんて絶対に私は認めない。すべての自殺材料を私が排除するんだ」
私は、一体何日この空間で仮説と検証を続けているのだろうか。
しかし、そろそろ腹が空いてくる頃合いだ。さて、使者に飯でも持ってこさせるとしようか。
私は、静かに実験室の扉を開き、近くに待機していた使者にお使いを頼んで、また実験室に戻った。
しかし、いくら研究しても私自身の体にある力じゃないからわからないものはわからない。
一体この力はどこからエネルギーを発しているのだろうか。
自発的にエネルギーを発する物体は原子同士が衝突して起こる核融合と同等のエネルギーが発生しないとこれだけの力を体の内部から発することはできないだろう。
つまり、師は人間をやめているのかもしれない、という結論に至るがそれは事実であることが師の友達らしい人から確認が取れている。というか、その友達らしい人は姿自体がもう人間じゃないから本当に人間ではないのだが。
「……様、ご飯をお持ちいたしました」
気が付くと、使者がご飯を持ってきていた。
どうやら、今日のご飯は、パンと目玉焼きとコーヒーとサラダらしい。
てことは、朝なのかもしれない。
「ありがとう」
私はご飯の乗ったプレートを受け取り、使者は静かに部屋から出て行った。
私は、ご飯を食べながら考える。
何のために中央聖堂を作ったのか、を。
私は、もう師しかいないのだ。もし、師を失ってしまえば、もう誰も私の相手などしてくれないだろう。
だからこそ、この機会を逃すわけにはいかない。
絶対に師は私のもとにたどり着くし、秘密を全部知ってしまうだろう。
だけど、その前に全部終わらせてしまえば、私の勝ちなんだ。
だから、さっさとこの力を消さなければ。
「師、待っていてください。貴方はのために私はみんなを消しますから。だから、もう少しでいい。もう少し、足踏みをしていてください」
私は、ご飯の乗っていたプレートを見下ろし、すべて食べ切ったことを確認して立ち上がった。
その時、視界に入ってきた。
「あぁ、そういえば君もここに居たね。師の重要な鍵になる存在。君さえいなければ、私は師と一緒にずっと静かに過ごしてこれたっていうのに、どうして邪魔をするの?」
私は、培養液につかった少女を眺めた。
特段その行動に意味などない。意味を持って行っているわけではないのだ。
でも、意味がなくとも、私は彼女に嫌悪感を常に抱いている。それは、誰もが通るであろう道である恋敵というものに近いのかもしれない。
私の師、私だけの師であってほしかったのに、それを邪魔した陰湿な獣。
「どうやったら君を殺せるの?私に教えてよ」
培養液に使っている鍵からはもちろん返事などない。返事などできるわけもない。
それが分かっているのに私は現状が詰まる度に彼女に投げかけている。それは、返事が返ってきて、死にたいって殺し方を教えてくれることを期待している私がいるからかもしれない。
私は、彼女にを睨みつけて、食器の乗ったプレートを使者に渡し、研究に戻った。
それでいい。それがいい。私自身のためにそれ以上為すべきことなどない。今はただ私が師の生き方を決めるだけでいいんだ。いつものされるがままの師を今のまま維持するために。
~続~
読んでいただきありがとうございます。
お久しぶりです、闇沼と申します。
結局、去年中に第2話を後悔することができませんでした。
好きでやってるはずの小説を書くことがまさかの第2話目にしてスランプというか、表現などに困ることが多く、活躍している小説家が改めてすごいなと感じました。
それはそうと、私、闇沼の公式Xアカウントを作りました。別に認証とかもらっているわけではございませんが、何か誤字等あれば、そちらからでも教えていただければ幸いです。
それでは、ここに長々とあとがきを記載するぐらいなら本編を少しでも進めたほうがいいですから。
私はこの辺で失礼させてもらいます。
また次回、第3話でお会いしましょう。




