プロローグ
***
「そういえば、知ってるかい、ルカ」
あるところに白衣を着た青年と野花を集めている少女がいた。
「どうしたんですか?いきなり」
青年は、少女の返答を全く気にもせずに続ける。
「ルカは、古の話に興味はあるかい?」
青年と少女の背中を押すように風が吹く。
すると、青年の白衣は揺れ、少女の髪は生き物のように蠢いた。
「博士は、今日、かなり変ですね」
博士と呼ばれた青年は、鼻をわざとらしくこすりながら、
「いつも通りだろ」
少女はまた、ため息をついて、青年のほうに向く。
青年はこちらを向いた少女をまっすぐ目で見る。
少女は欠伸をして、青年に問いかける。
「今日は、いいお昼寝日和ですね」
青年は少女の話を無視して、ただ少女を見つめる。
「博士、今日はどのようなお話をしてくださるのですか?」
青年は、にっこりと笑顔になって少女を見つめるのをやめた。
「いいですよ、ルカ。では、帰りましょうか。ここでは寝れませんし、窓でも開けて、暖かい風を感じながら、ベッドの上で気持ちよくお昼寝でもして。起きたら、とびっきり、大きなパンケーキを作って、ドロッとした蜂蜜を使って食べましょう!」
ルカは、大きく頷きながら、青年の後姿を追いかける。
そうして、ルカは、青年の白衣の袖を掴む。
強く、強く、掴んだ。
千切れるほどに、強く、強く掴んだ。
そうして、次に青年の腕を強く、強く掴んだ。
「ルカ?痛いよ?」
しかし、少女は更に青年の腕を強く握った。
風が強く吹くようになったような気がする。
「ルカ……痛いよ……」
青年は振り返り、ルカを正面から見つめた。
空がどんどん暗くなっていき、自分たちの影と雲が生み出した影が合体して、地面に大きな沼ができた。
「る、ぁ……」
声になり損ねたような息が漏れた。
***
周りの歓声が煩い。
「どけ!」
少年が自分の腕に嚙みついていた獣を角材で薙ぎ払った。
「あ……」
僕から漏れたのはその一言だけだった。
少年は、獣を殴った角材を捨てて、僕を見た。
「何してんだよ、死にたいのか?」
少年の顔をまっすぐ見た瞬間、僕の口から出たのは声にならない乾いた笑いだった。
「あははははは……」
そうして、僕はすぐに少年を押し倒し、首に手を掛け、首を組めるようなポーズをとる。
少しづつ、指同士の隙間を埋めていきながら、首を絞めていく。
確実に少年を殺すために。
「父さん、母さん、俺は親不孝者だよ……」
僕は、枯れた涙と乾いた笑いを出しながら、少年の首を強く絞めた。
その瞬間、少年は僕の股間を思いっきり蹴り上げ、
「しっかりしろ、おっさん!噛まれておかしくでもなったのか?」
僕は、強い痛みで少年の首から手を放し、正気に戻った。
そうして、角材で殴られた獣を見る。
頭が泥のように溶けだしていて、見るに堪えない姿になっている。
「そうだ、あれは、ルカじゃない。たった一人の妹じゃない」
僕が、地べたにどっかり座って、嘆いていると、少年が包帯を持ってきて、
「おっさん、腕噛まれて、怪我してるんだし、これ巻くから腕出せよ」
少年は全く変わった様子なく、腕を治療してくれた。
「お前は、僕が変だと思わないのか?」
少年は答えない。
ただ僕の腕の治療を優先している。
「お前は、僕に殺されそうに……」
少年は、僕の腕に包帯を巻き終えてから、
「おっさんを変だって言ったら、俺だって変だし、狂っているし、おかしいし……お互い様だよ」
少年はそう言って、自分のいるべき場所に戻った。
~プロローグ(完)~
読んでいただきありがとうございます。
初めまして、Ryllと申します。
学生の頃に小説家を目指して以来ずっと小説を描いたり読んだりしてきました。
最近はシナリオライターに興味が出てきたりした頃です。
更新時期は未定ですが、できるだけ月に4回はお話を進めたいと考えています。
(ありがたいことにWebサイトですので、パソコンだけじゃなく、スマホでも書くことはできるためできるだけボリューミーになるように頑張ります)
休みの時期などには、もう少し多い話数更新できればなと考えています。
また、一斉更新をするときには、前書きに書かせていただきます。
まだまだ小説家としては未熟ではありますが、どうぞよろしくお願いします。
では、また次の話でお会いしましょう!