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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第2章 感謝祭と諸々の騒動
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96.領軍の護衛候補

本編に戻ったつもりが即脱線…


 私は横で眠るフェルを起こさないようにベッドを抜け出す。その髪に軽く口づけてから浴室に。軽く体を流してから服を着て部屋を出た。


 護衛候補に話をするとダナが言っていたから訓練場に向かう。久しぶりに体も動かしたい。訓練場ではすでに各々が準備をしている。

 その中にダーナムがいた。中隊長だ。

 アフロシア領軍は1個大隊で編成され、兵数は約1万規模。領軍としては中規模だ。

 総司令官は領主であるダナ。副司令官にフェリクス。大隊長1名とその下に隊長が5名、さらにその下に中隊長が5名だ。

 1部隊2000人からなり、中隊長は400人を束ねる。実戦部隊、現場での指揮官が中隊長だ。


 かなりの実力者で、ダーナムはその中でも先発隊として一番実践を積んでいる部隊の一つを率いているのだ。

 ダーナムは俺に気が付いて手を挙げる。

「よお、久しぶりだな。やるか?」

「あぁ、頼む」

 兵に混ざって訓練をしていたから最近領軍に入った兵以外はほぼイザークのことを知っている。

 イザークは我流だったそれを矯正することで、剣の腕がメキメキと伸びた。

 魔法は元からかなり使えたので、そこに剣の正しい使い方を知って強さに磨きがかかったのだ。


 短剣の使い方はかなり上手かったから、正しい剣と近接技で人でも魔物でも容易く殺せる程度の実力がある。

 しかし、まだ若い兵はイザークを知らない。だからか、中隊長のダーナムと親しそうに話をしているのを睨んでいる若者がいた。


「ダーナム中隊長自ら相手をするなど、必要ありません。私がそのヒョロイ奴の相手をしましょう」

 歳の頃は10台後半か…?ガタイの良い精悍な顔の青年が名乗り出る。

 ヒョロく見えるのか…?自分の腕を見る。あからさまに筋肉がムキムキしない体質らしく、見た目はゴツくならない。でも必要な筋肉は付いているんだが?

 ダーナムを見るとニヤリと笑う。

「ほぉ勝てるのか?」

「新兵で一番の私に勝てないはずがありません」

 自信満々だ。


 横からシグナスが

「それは頼もしいな!」

 ニヤリと笑って言う。楽しんでるな、アイツ。シグナスは俺より年上の中隊長の補佐を務める男だ。

 基本、寡黙なヤツだが…こういう実力を客観的に評価出来ないヤツが嫌いな無頼漢だ。

 面倒な…。

「ならアイツを打ちのめしてみせろ!」

「はい!」

「負けたら分かってるな?一週間、便所掃除だぞ」

「負けません!」

 だから一緒に煽るなよ…はぁ。


「位置につけ!」

 ダーナムが声を掛ける。

「ソイツは武器を持っていませんが」

 いや、いらないだろ。

「それがどうした?」

 流石に戸惑っている。さぁ、最後のチャンスだな。どうする?

「いえ、何でもありません」

 ダメか…。俺が()()()()()()()。そうダーナムが言ったに等しいのに。気がつかないとはなぁ。


 彼は位置につく。俺はすでに待ちの体制だ。

「はじめ!」

 さて、どうするかな?少しはいたぶるか?ダーナムとシグナスを見れば頷いている。お灸をすえろってか。

 はぁ仕方ない。

「よそ見などしてるとは余裕だな。はぁ!」

 剣で上段から切り掛かってくる。正面からだ。脇ががら空きだな。魔獣相手でも瞬殺コースだな、こりゃ。

 チラリとシグナスを見ると、眉間にシワを寄せている。

 一歩後ろに下がる。余裕でヤツの大振りをかわす。通常の戦闘では後ろに下がるなんて悪手だ。剣が思いの外伸びてきたら斬られるからだ。こういう手合わせで相手が後ろに下がって避けるというのは、相手を見下している証拠でもある。

 コイツの剣は避けられるという自信が無ければやらない行為だからだ。

 それにすら気が付かず

「たまたまヨロケテ避けられたとは幸運だな」


 ダメだな、コイツ…。シグナスの顔が凄いことになってるぞ?

 おい、ダーナム。お前は見てすらいないな。なんで剣の素振りしてんだよ?

 もう面倒になった俺はまた正面から大振りに剣できりかかってくる相手に今度は脇に避けると膝を持ち上げ、バランスを崩した相手の鳩尾に突き込んだ。

「ぐはっ…」

 口から血を吐いてそのままうつ伏せに倒れ込んだ。おい、マジかよ?撃たれ弱!

 受け身も取れないのか?咄嗟に腹に力を入れるとか、後ろに体を躱すとか…普通するだろ?バカなのか…?

 唖然としてるとシグナスがコイツの腹を蹴り上げて意識を浮上させる。


「実力の差も分からないヤツが偉そうに…フェリクス様に知られたらお前もお前の家族もこの領にいられないぞ?」

 蹲ったまま呆然としている。

「もう知ってるよ?僕のイズに絶対勝つだっけ?面白い冗談だね。僕ですらイズには勝てないのに…ね?ダーナム」

「はっ、フェリクス様。おっしゃる通りです」

「ダーナム、私は君より強いかな?」

「はい、私ごときではフェリクス様に勝てません」

「本気でだよ?」

「勿論です」

「イズには?」

「相手にすらなりません」

「ふふふっ良く分かってるね。君は彼をどうしたい?」

「根性を鍛え直したいと!」

「ふーん。イズは?」

「どうでもいい。ただ、相当頑張らないとすぐ死ぬな」

「別に私は構わないけど?」


 ヤツは倒れたまま真っ青になって震えている。

「期限を設けたら?3ヶ月で根性が変わらなければ犬死にだ」

「だってさ、ダーナム。でもそれは他の人に託して。君には別の任務を頼む」

「はっ」

「二人いるんだけど、シグナスはどうかな?イズ」

「俺は賛成だが、ダーナム次第だな」

「どんな任務で?」

「んー非常識な暴走者を止める仕事かな?」

 ぶはっ…。言い得て妙だ。

「ならばシグナスで大丈夫です。イザーク、軽く手合わせをするぞ」

 そう言って剣を渡してくれる。

「魔法は?」

「無しに決まってる。俺を瞬殺する気か?」

 肩をすくめて剣を取る。


 構えてやおらダーナムが切り掛かってくる。腰溜めにして剣の軌道を読ませない。切り上げてくるっと見せかけて横払いに来た。剣の腹で受け止めて流す。流した後に切り返して斜めに斬り下ろす。切先の下がった剣をかち上げて軌道を変えてくる。さらに切り返して剣を下げおろす。ダーナムは柄で受け止め後ろに飛ぶ。追撃で下げおろしていた剣を正面に突く。下がりばなに追撃されて防げずに心臓で寸止めされたダーナムが降参した。


 パチパチパチ…

「流れるような…剣舞を見ているようだった。さすがイズ。そしてダーネムも見事だったな」

「はっ恐れ入ります。全く敵いません」

「普通なら斬り結ぶことも出来ないから、卑下しなくていい」

 フェルは上機嫌で俺に近づき、手を引いて屋敷に向かう。

「後でシグナスと一緒に執務室にきて。あぁ、食事の後だよ?」


 こうしてアイルの護衛も決まりそうだ。まずは朝食だな。屋敷に入るとフェルが正面から抱きついて来た。

 俺の目を見て

「おはようのキスもしないでいなくなるなんて酷いよ?」

「あぁ、良く寝ていたから」

「朝から仲良くしようと思ったのに…」

 上目遣いで見てくる。

「おはようフェル」

 頬にキスをする。フェルは仕方ないなぁという顔をして一緒に部屋に戻った。すぐにフェルが抱きついて来て俺をじっと見つめる。

 唇にキスされてまたじっと見られる。困惑していると扉が叩かれ、食事の用意が整ったと聞く。何か言いたげに俺を見てからフェルが俺の手を引き、2人で食堂に向かった。


 そこにはダナと女性、そして3人の子供がいた。私は驚いてダナを見る。無表情だが明らかに苛立っているのが分かる。さらにはフェルだ。隣のフェルから冷気が漂って来る。

 俺はひとまずダナに向かって挨拶する。

「おはようございます」

 ダナは俺を見ると笑顔になって

「あぁおはよう。久しぶりの()()()良く眠れたかい?」

「もちろんだよ、僕が一緒にいたんだから」

 俺はフェルを見て…ダナを見る。優しい顔で俺を見ているダナ。嬉しさで頬に熱が集まる。


「私に紹介してくださらない?」

 話雰囲気をぶち壊すような甲高い声が聞こえた。

「「必要ない」」

 ダナとフェルの声が被る。そこに冷気が漂う。

「ここはお前らが立ち入っていい場所ではない。出て行け?」

 フェルの声は凍りつきそうなくらいに冷たい。

「あら?私はこの家の妻ですわ」

「家の為に働かないで散財するだけの人間は侯爵家に不要だ」

 キイツその顔の目を更に吊り上げて

「子供を成しました」

「私は()()()()()()()()()()()()()


「な、何ですって?私には1ミリも関心のないあなたが…そんなことを。不貞ですわ!」

「その言葉をそっくりそのまま返す。朝から目障りだし煩い。出て行け!二度と本館に来るな!」

 ワナワナと怒りに震えながらダナに訴えるよう見つめる。

 ダナはそちらを見ていない。俺を見て済まなそうにしている。

「せっかく帰って来たのに煩くて申し訳ないな。早くこの部屋から出せ!」

「そんな…私は…()()

 ダナは氷のように冷たく表情のない顔で

「その呼び方を許した覚えはない」

 そう突き放した。二人の時はダナと呼んで?そう言ったね?…ダナの声を思い出す。


 怯えた子供たちの顔は確かにダナにもフェルにも…少し似ていた。でも何か違和感を感じる。本当にダナはアナベルを抱いたのか?

 しかしフェルの記憶魔法にはお父さんが映っていたと。あ…偽装魔法か…?いったい何の為に?

 ダナに聞かなくては。


 わあわあと騒いでいたアナベルと子供たちは使用人に連れ出され、部屋は静かになった。

 ダナが俺に近づいて来て

「イザーク、悪かったね。とんだ邪魔が入った」

「大丈夫ですか?」

 ダナの顔色が悪い。

「大丈夫だ、さあ食べよう。フェルも久しぶりにイザークと過ごせて良かったな」

「お父様…はい」

 こうしてつつがなく朝食が終わった。その後居間に移動して朝の顛末を語る。


「やはりダーナムか。シグナスも堅物だが安心だろうね」

「はい、後でこちらに来ます」

「イズ、急にびっくりしただろ?お父様、どういうこと?」

「私にも分からん。フェル、あの子たちはお前の子なのか?」

 フェルが目を開く。何を言ってるんだ?という顔。しかしダナは本当に困惑している。

「お父様それはどういう?」

「うむ、押し切られるようにお前に結婚を打診したのだが。お前はその…受けるとは思ってなくて」

「え?お父様が勧めたから僕は…」

 ダナは眉をひそめ

「勧めてはいない。色々なしがらみもあり打診するだけのつもりだった」

 フェルは本気で驚いている。


「ならあれは…」

「フェル…偽装魔法ではないか?」

 そんな…絶句している。

「フェルどういうことだ?」

 少し考えてからフェルは話を始める。聞き終えたダナはショックを受けていたようで…

 立ち上がるとフェルの側に膝をつき何てことだ…そう言ってフェルの両手を握り、正面からフェルを見た。

「私が大切な息子に…そんなことは決してしない。誓っても私ではない」

 フェルは戸惑った顔をした。


「フェル…奇しくも私とお前は同じ人に想いを寄せてしまったね…私も悩んだよ。それでもそんな簡単に断ち切れる想いではなかった。お前は跡取りだから子を設けなければならない。私も焦っていたのかもしれないな…。お前とどう向き合っていいのか。それを避けてしまった。悪いことをしてしまったな。苦しかっただろう?お父様を許しておくれ…フェル」


そう言ってフェルの頬を撫でる。

「お父様…ではお父様は知って…?」

「お前の気持ちがどこにあるかなど分かっていたよ。どうするのが一番いいのか、もちろんイザークの気持ちも含めて…結論が出せなかった。私からも、そしてお前からもイザークを遠ざけたくなかったから」

「お父様…僕、僕は…」

 ダナはフェルを抱きしめる。

「悩ませてしまったんだな。私にとって唯一の家族であるフェルは命に替えても守りたい存在だ。それなのに…」


 フェルの目に涙が溢れる。そう、あの時のように…ダナはフェルをその胸に抱いてしっかりと包み込んだ。全てのものからフェルを守るように…。

 フェルはやはりあの時のように…小さな子供のようにダナにしがみつき泣いた。

 良かった。やっぱりダナは私の思ったとおりの人で…フェルを大切にしている。

 本当に良かった…。



イザーク回はお気に入りです…



※読んでくださる皆さんにお願い※


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