95.護衛?
本篇に戻ります
裏庭にはスーザン、リア、イリィ、イザークさんと二人の男性そして私だ。
スーザンはリアから渡された剣を軽く振る。
「2人がかりでもいいぞ!」
ニヤリと笑って言う。
2人の男性は顔を見合わせて同時に切り掛かって行った。
瞬殺って言葉はこんな時に使うんだなぁ。感心して見てしまった。
切り掛かって行った2人はスーザンがくるりと回りながらその剣を弾いて正面に戻った時には1人の喉元に剣が寸止めされ、もう1人の喉元には手が食い込んでいた。
えっマジで…?スーザンの筋肉は本物だったよ。重そうな見た目に反して凄く早い!うわぁ。なんでこの人は宿屋やってんだろ?
あ、呪いか…もう宿屋やらなくて良くない?体も治ったし。
いや、凄いわ。筋肉を見直さねば。私もムキムキになれるかな?
「なれねーだろ」
えっ?何で?鍛えたら色々割れない?
「無理だな」
即答。しかも何で考えてることが分かるのだ?
「割れなくていい」
イリィまで。何で腹筋割れたいのが分かった?
「だから顔に書いてあんだよ!」
顔をペタペタする。可笑しいなぁ。ポーカーフェイスなのに…。
「無表情なのに考えてることが分かるってある意味、凄いや」
リアまで…。だからイリィもなんか可哀想な子を見る目はやめて。スーザンまで…助けを求めてイザークさんを見ると…肩が揺れてる。
いや、笑ってるし…。
すると…
「俺たちの存在は見えてないのか…?」
見えてるけど、固まってたし…放置でいいかなって。首を傾げると…
「うわーなんかすっげえ悔しい!」
もう1人はなんかブツブツ言ってる。
「やはり私のスーザンは素晴らしい…」
私の…ってあぁリアさんの目が…見なかったことにしよう。
でもあの人たちって弱いのか…?
「いや、上級探索者だ」
えっ…だってスーザンに瞬殺だったよ?イザークさんを見ると
「あースーザンは特級クラスの実力があったから…比較したらダメだよ」
ほえー知らなかった。キビパンとか作らせてる場合じゃない?
「俺は料理が好きだから問題ない」
うん…私はさっきから一言も喋ってないよね?なんで会話が成立してるの?しかも他の人も分かってるみたいだし。
「ってかお前らの話飛んでるぞ!全く意味が分からない」
おっお仲間発見。良かった。私だけじゃなかった。
「繋がってるぞ?むしろ何で分からないんだ?お前ら」
「…」
「…」
ほら、2人とも黙っちゃったし。
「スーザン、でこの2人は?」
「いいんじゃねーの?アイル次第だけどな」
えっ私?2人を見る。1人はなんか軽そうで浮ついた言葉とか言ってるタイプかな。
もう1人はオタク臭あふれるタイプ?スーザン推し。実力はどうなんだろう?
『それなり、かな。僕は賛成だよ。アルに興味を持ってないのがいいね』
『イリィはどう?』
『1人は明らかに女好き、1人はスーザン推し。アイと僕に危険がないならいいと思う』
『実力は?』
『アル…スキルで見たら?』
そうだった。
2人をフードごしにじっと見る。
(ブラッド 28才
上級探索者 寡黙
剣 特級
火魔法 特級
護衛としても常識人としてもアイルの側に置くにはオススメ)
(サリナス 29才
上級探索者 賑やか
剣 特級
気配探知、隠密 上級
土魔法 上級
女好きだか、世話好きな好人物で人当たりがいい。モテるので人避けにオススメ)
ビクトルにオススメされたよ。
なら断る理由もないか。でもあちらが嫌って言わないかな?
「いや、だから待ってって。まずは誰の護衛なんだよ?」
「紹介する。アイル、こっちの軽そうなのがサリナス、あっちの暗そうなのがブラッド」
そんな紹介でいいの?
「ブラッド、サリナス。白い方がアイルで黒い方がイーリス」
こっちの紹介も雑だな。イザークさんは優秀過ぎて…これで理解出来るの?
「分かんないよ、イザーク。雑だな…」
あ、良かった。私だけじゃない。
イザークさんを見ると明らかにこれ以上何を紹介するんだって顔してる。
えぇー。ビクトルの洞察を共有してなかったらこっちも何にも分からないよ。
「おいおい分かればいいだろ」
スーザンも雑?
「上級だとかそんな話しても意味がない。要は使えるか使えないか。使われる気があるか、ないかだけだ」
そんなもん?
「そんなもんだ」
なるほど…。
スーザンは2人に向き合うと
「受ける気あるのか?」
2人は頷く。ならいい、そう言ってスーザンは宿に戻って行った。
リアとイザークさんも当たり前みたいに戻るから私もイリィ、ハクと戻る。ブランは私の肩だ。
続いて残りの2人も宿に入る。
サリナスさんが手を差し出して
「よお、よろしくな。顔見せてくれよ?」
イザークさんを見ると頷いたのでフードを取る。
へぇーと言ってからまだ子供か…って。
私はその手を握る。大きくてしっかりした手だった。
「あーお前もな、顔」
イリィはもちろん拒否だ。
「ダメだよ、事情があって…」
私が代わりに答える。
「なら仕方ない…2人ともよろしくな」
「サリナス、特にアイルに気を付けろ」
「ん?こっちがヤバいのか?」
「無自覚テロリストだ。非常に危険だから頼むぞ!」
えっイザークさんだけじゃなくてスーザンまで?酷いな。横でイリィが頷いている。えぇ…。
ムスッとしてたらスーザンに頭を叩かれた。
「何度もやからしてんだろうが!何でって顔してんな。俺の方が何でだよ!ったく…
あーお前ら感謝祭の屋台も手伝え。人が足りない。それもこれも全部アイルのやらかしだ」
酷い言われようだな…もう…。
「何だか分からないけど…まぁ頑張るよ?」
イザークさんが後を引き継いで簡単に説明をしてくれる。彼らへの依頼はロルフ様から出して貰うというので、しばらくは屋台の準備要員としてゼクスの宿に通って貰うことになった。
2人とも個性的だけど悪い人では無さそうだし、ビクトルがお勧めって言うなら期待しよう。
私は屋台の手伝いと、後は紫水晶を使った護身用の道具を作りたいな。
でもイリィと工房に行くと色々マズイか。そろそろフェリクス様にもハクの件とか伝えたい方がいいかな。
なんて考えていた。
*******
急にギルドの職員が酒場まで探しに来たと思ったらブラッドと護衛だって。何だそれ?って思ったけど、ブラッドが受けたってのが面白い。
どんなヤツの護衛かと思ったらその前にやたらデカいオッサンと手合わせだって。何でだよ?
で、誰だよ?
ブラッドは目が輝いてるし、ってかお前のそんな顔初めてだ!
何故か宿の裏庭で2人同時に掛かってこいなんて…ふざけてんのか?俺ら上級だぞ。まぁいい、ブラッドと目を合わせ切り掛かって行った。
はっ?えっ?何で俺の首はオッサンに掴まれてんだ?
剣を払われたたと思ったら首を掴まれてた。
何て速さだよ?見えなかったぞ…。
しかも何だか質問に答えるような会話が続いてるけど、まったく意味が分からない。
しかも、この状況で俺らの存在は無視されてる?
「俺たちの存在は見えてないのか…?」
そう聞けば当然見えてるという雰囲気。会話が繋がってないと言っても、むしろ何で分からないと言われる。はぁ?逆に何で分かるんだよ?
顔?フードで見えないのに…我が儘坊ちゃんより面倒なのか?
でもこのオッサンが大切だと言うのならそれなりのヤツ何だろう。
と思っていた。イザークの雑な紹介でアイルとイーリスが対象だと分かる。
どちらもフードに体を覆うローブで顔は分からない。体型は背が高くて細身だ。性別を聞いてなければ区別がつかないくらい華奢だ。
物理は明らかに弱そう。魔法はどうかな?普通なら漏れだす魔力で判断するが、全く感知出来ない。
ゼロってことはないから相当な使い手か…?
何にせよ楽しめそうだ。
受ける気があるか聞かれたので頷く。
するとオッサンがアイルに気をつけろと言う。線の細いほうだ。
あ…なんか分かったぞ。今アイルが不満そうだ。成る程な、こうやって会話してたのか…。
屋台?良く分からないがまぁしばらく楽しめそうならいいか。くくくっ…。
皆んなが宿に戻り始めたので後からついて行く。宿に入るとアイルに挨拶する。顔を見せてと言えばフードを取った。
その顔を見て少し驚いた。まだ少年だ。あどけなさを残しつつ青年になろうとする時期独特の不安定さ。
珍しいくすんだ銀の髪と目。そして地味だが整った顔立ち。なるほどな…。
関心を持って見たら惹きつけられるな。その細い手を握る。
イーリスにも顔を見せてと言ったがこちらはダメだった。事情があるなら仕方ない。
こうして俺たちは貴族からの指名依頼を受けることになった。
依頼はすぐに出ないらしいので、しばらくはギルドからの依頼で感謝祭に出展する屋台の手伝いだ。
明日の朝、宿に集合することで解散した。ふふふっ女を抱くよりしばらく楽しめそうか?しばらく女は封印だな。
俺は宿に戻りながらニヤニヤしていたのだった。
最後はサリナス視点
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