90.フェリクスの結婚
イザークたちの話終わり
お父さんのイズを誰にも渡さないためにだよ。
ねぇ…イズのお母さんはお父さんの妹、イザベルさんだよね?僕とイズは似ている。髪も目も似ている。昔の絵を見たんだ。イザベルさんの絵だよ?お父さんの机に大切にしまってある。
その色はイズと同じだった。顔もだんだん似てきた。会った頃のイズは尖ったナイフみたいだったけど、穏やかな顔になったら本当にイザベルさんにそっくりだ。
最愛の妹であるイザベルさんの忘れ形見。
イズを僕に取られたくなかったお父さんが僕を縛り付けるために都合のいい女をあてがい、自分の子を作らせた。きっとアナベルが条件を出したんだろうね。僕ではなくお父さんの子供が欲しいと。
3人目が産まれてからは顔すら見ていない。子供の顔だって良く知らないくらいだよ。
俺はそのフェルの独白を聞いて頭が真っ白になった。フェルの話の通りだとすれば、俺が原因でフェルは不幸せな結婚生活、愛のない生活を送っていることになる。しかも同じ屋敷に不貞を働いた妻とその相手である父親が住んでいる。
俺のせいで…。そう思う一方でダナの想いを嬉しく思ってしまう。
俺は14才の誕生日を思い出した。
食事が終わり寝る前の時間にダナに寝室に来るよう言われていた。4年待つよ…その言葉を思い出してドキドキしながら扉を叩く。
ダナが自ら扉を開けてくれる。
「良く来たね、さぁ入っておいで」
俺の肩を抱くようにして部屋に入れてくれる。今日みたいにソファに並んで座る。
ダナはグラスにお酒を注いで、俺のためにはレモン水をグラスに注いでくれる。
2人でグラスを合わせるとそれぞれ飲む。
ダナはお酒を飲んでも全く変わらない白くてきれいな顔で俺を見る。俺の頬を撫でると
「やっとだよ、イズ…私のイズ。4年前の約束…覚えているかい?」
俺は真っ赤になって頷く。
ダナはふわりと笑ってキスをする。そして俺の体をその腕にすっぽりと抱きしめた。
はだけたガウンからのぞくその胸に頬が触れる。滑らかで温かな肌だ。
顎に手を当て上向きにされると情熱的なその目が俺を見つめた。そしてその唇が触れ、手が体を撫でていく。
熱い吐息が漏れる。おでこを合わせると耳元で続きはベットで、と言い俺を抱き上げた。
優しくベットに仰向けにされる。ダナはガウンを脱いで俺の服も脱がせていく。やっぱり白くて細くて傷一つないきれいな体だ。それに引き換え、俺の体には傷がたくさんある。自分の体が恥ずかしい。なのにダナは
「その傷はイズが必死に生きた結果だ。誇っていい。そのお陰で私はこうして生きている」
そう言ってその傷を愛おしそうに撫でてくれた。
その手は優しくて…頬が上気して熱い。
優しくキスをされる、情熱的な…。その唇は胸を撫で、下腹部に向かっていく。
待って…恥ずかしい。
「待たないよ?」
笑いを含んだ声で言われる。そして下腹部へキスをされる。
「あぁイズ、なんて可愛いんだ…。もっとその可愛い顔を見せて?」
恥ずかしくて目を閉じる。すると瞼にキスされて
「一つに…ずっと…この日を待っていたんだ」
優しいその声に泣きそうになる。
「私のものになって…イズ?」
しがみつきながら必死に頷く。またキスをしながらダナの手が体を撫でていく。
俺はダナの首にさらにしがみつく。
力を抜いて…少しずつ…だから。囁くその声に頷いて、力を抜く。
ゆっくりと圧倒的な存在が。痛みと…同時に満たされた感覚があって…少しずつ繋がっていくのが嬉しくて。やがて深く深く。
涙が止まらない。俺もこの日を心待ちにしていたんだと分かった。
自分のような人間が、生きていてもいいのかと思い悩んでいた。迷いながらも生きてこられたのはダナがいたから。
ダナのその腕に抱かれて一つになる日を待っていたから。緊張の中でダナの温もりを感じる。
「初めてだから色々とね?でも私も我慢できなくて…耐えて?」
またしがみつきながら頷く。大好きだから、耐えられる。だってこんなにも今…幸せだから。
ゆっくりとダナが体を動かし、最後に耳元で一緒に…、そう、一緒に…。
しばらくお互いに抱き合ったまま脱力していた。
ゆっくりと体を起こしたダナはまた何度もキスをして…。
「素敵だよ、イズ。ねぇもっといい?」
その真っすぐな目で大好きな顔で言われたら…それに俺ももっとダナを感じたい。
目を閉じて頷くと優しく髪を撫でられる。
あぁこの人が大好きだ。
そうして遅くまで抱き合って…俺の14才の誕生日は過ぎて行った。
でも俺がダナを想い、ダナが俺を想うことでフェルは不幸な結婚をすることになった。
なぜダナがそんなことをしたのか分からない。でも…。
「イズ、分からない?お父さんは僕とイズを結婚させたくなかったんだよ」
それを聞いて驚いた。俺がフェルと結婚するなんて考えたことはない。
「分かってるよね?僕の気持ちは。だってあれだけ一緒にいたんだよ?」
14才の誕生日の翌日、フェルに一緒に寝ようと言われた。それまでも一緒に寝ることはあったから特に気にせずフェルを部屋に招いて同じベットに入る。
するとフェルは
「イズ、抱かせて…」
俺はいつも抱き合って寝ているし何で今さら?と思いながらも頷く。
「良かった。拒否されたらどうしようと思った」
?拒否も何もいつも抱き付いてくるのに?
「同じベットに寝ていて抱くっていうのは…分かるでしょ?僕はもう小さな子供じゃないよ?昨日、お父さんとしたことだよ」
俺は驚いた。どうしてダナとのことを知っているのか。
「僕はね、イズが思っている以上にイズのことを知ってるんだ」
真剣な目でそう言う。
「さっき頷いてくれたよね?」
そのまま俺の上に乗ってキスをしてくる。
「フェル…待って」
「嫌だよ、僕だってずっとイズのことが好きなのに…」
「フェル…まだ早いよ」
「イズが受け止めてくれるなら大丈夫だよ」
俺は答えに窮した。
いや、でもやはり早過ぎるだろう。
「もう教育は受けているよ。早くなんてないさ。そっち専門の教育を実施している子だっているし」
貴族は結婚も早いから確かに教育も早い。実施教育とは実体験をさせる教育だ。専門の相手がいる。
確かに早い子であれば経験済みだと聞くが…。
「ほら、ね。今更ダメって言われても無理だよ」
そう言っているがフェルの細くまだ小さな体は震えていた。緊張なのか、断られることが怖いのか…多分両方なのだろう。
フェルが怖くないわけがない。初めてなのだ。
俺は覚悟を決めて最後にもう一度問いかける。
「俺でいいのか?」
「イズがいいんだよ。イズ以外はいらない」
どこまでも真剣にそう言うフェル。俺はその髪を撫でるとキスをした。
フェルは頬を染めて俺を見上げる。そして…裸で抱き合った。しがみつくように抱き付いてくるフェルの体はまだ小さくて細い。
キスをしながら体を撫でて、フェルもぎこちなく俺の体を撫でながら体を入れ替えて俺を仰向けにする。
「いい?」
俺が頷くとフェルは体を起こし、そして…フェルの体はとても温かかった。
フェルは頬を上気させ口を少し開けた12才とは思えない色っぽい顔で俺を見ている。
「やっとイズを…抱きしめられたよ。ねぇ僕を感じてる?」
「フェル…感じるよ」
「もっと感じて…?大好きなイズ」
俺はフェルのことを大切な存在だと思っている。でも恋愛的な感情ではない。12才のフェルが俺に対してどういう感情でいるのか分からない。でも心のどこかで依存しているんだろうと思う。
死にかけたあの時…命を助けられたあの記憶は今でも鮮明なのかもしれない。成長すればやがて忘れていく感情だと、その時はそう思っていた。
ダナ…。俺とダナの想いがフェルを傷付けている。俺はどうしていいのか分からなくなった。
「イズ、僕に少しでも申し訳ないって思った?そう思う必要はないよ。だってイズは悪くない」
そうだろうか?俺がフェルとの曖昧な関係を許してしまったから。
「僕はね、イズに拒絶されるぐらいなら…今の方がいいよ。だってイズは僕を受け止めてくれるだろ?」
フェル…。私はどうしたら?
「お父さんへの想いを否定はしない。だって僕の大好きなイズの感情だからね。大切にしたいし。でも僕も見てほしい。弟みたいにしか見れなくても僕を受け止めて。それでいいから。今はね」
俺はダナへの気持ちを断ち切れないし、フェルを遠ざけることも出来ない。そんな中途半端でいいのか…。いい訳がない。どっちに対しても不誠実だ。
「フェル…でも」
「イズ…拒否は出来ないよ?」
俺は頷くしかない。次期領主のフェルの言葉に逆らうことは出来ないし、何よりフェルのことも大切なのだ。
フェルは優しく笑うと
「大丈夫。そんな顔しないで。そろそろベットに入ろう」
俺の手を引いてベットに入る。耳元でもちろん寝かす気はないけどね…。
フェルの妖しい声がした。
朝、目が覚めるとがっちりと俺に抱き付いて寝ているフェルがいた。宣言通り、明け方まで寝かせて貰えなかった。フェルの想いはそれだけ強いのだろうか…?
成長すればやがて周りに目が向いて俺のことなんて忘れると思ったのに。
学院に通うために町を離れても、町に戻ってからも全くぶれることなくフェルは俺を慕ってきた。
一度、学院でいい人はいなかったのかと聞いたら本気で怒られた。
僕がどれだけイズを好きなのか、分からないのかと。それ以来、その手の話をフェルとしたことはない。
だから結婚すると聞いて驚いた。俺は16才から探索者ギルドに入って働き始めたから、それまでみたいに話をする時間もなかった。
ダナの想いとフェルの想い…どちらも大切で守りたい思いだ。
俺はどうしたいのだろう?
年齢設定については悩みましたが、ダナンもフェリクスも一途にイザークを想っています…
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