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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第1章 異世界転移?
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9.フェリクス様

 町から少し離れた岩場で試した魔法。分かったのは自分が全魔法属性だったこと。

 全魔法属性…4属性全ての威力が上級以上。ハクが言うには特級だったようだ。まさかだよこれ…

 人前でうっかり魔法も使えない。もちろん威力を抑えればいいんだろうけど、どこでバレるか分からない。危険すぎる。

 憧れの異世界スローライフの為にも目立たず穏やかに過ごしたい。


 お腹も空いたし、さっき買って時間停止のサブアリーナポケットに入れていた昼食を出す。魔法で水を出して飲んでからハクと一緒に食べ始めた。

 隣でしっぽを揺らしながら夢中で食べるその背中を軽く撫でて自分も串焼きを食べる。こっちの食べ物は不味くないんだけど味が単調で物足りない。

 自炊しようかな?鳥でも捌いて鶏ガラスープの素を作れば味は激的に変わるはず。それには足りないものが多いからまだ先かな。


 食べ終わったので町に戻ろう。ギルドにカスミソウを納品してからいよいよ初めての依頼を受けるために補助をお願いして…なんかドキドキするな。

 足元で元気に走り回っているハクを見ながらゆっくりと街道に戻り、町に向かう。中途半端な時間だからか人はいない。知られるとマズいことばかりだから人がいないと安心だ。


 そのまま町まで帰れるかと思ったが、やはりそんなに甘くはなかった。

 途中で探索者と思われる男3人に話しかけられたのだ。

「よう!見ない顔だな」

 そう言って全身を見てニヤニヤとした。

「ちょっとばかり物入りでな。金出せよ」

 他の2人もにやにやして成り行きを見ている。

 もちろん金をやる気はないから

「あいにくと人に恵んでやる金は持ってない」


 男達はまさか断られると思ったいないのかえ?っという顔をした。そして

「あぁ?力づくで奪われてぇのか!親切に言ってやってんのによぉ」

 そう言うと殴りかかって来た。面倒だなぁと思ったが殴られる気は毛頭ない。その動作が大きくて当たりそうもない拳を避ける。

 男はタタラを踏んでつんのめった。振り返ると顔を赤くして怒っている。

「おい、ふざけんなよ!調子に乗ってると痛い目に会うぞ」

 そう言ってまた殴ってきた。今回は他の2人も背後から襲ってくる。仕方なくある程度引きつけてから横にズレると相打ちしていた。コイツら大丈夫か?本気で心配になるくらい弱い。


 うずくまっている男たちを見てもう少し待つかなと思ってその場にいると、復活した男がまた

「くそっ、もう容赦しねー」

 と言って腰の剣を抜いた。拳でも剣でもリーチ以外は変わらない。そう、変わらず遅いのだ。微妙なタイミングだけど待つかな、とそのまま避けずにいると男が後ろに吹き飛ばされた。


「大丈夫かい?」

 街道の町方向から来た男性がそう聞いてきた。身なりが良く、20歳前後くらいだ。

 頷いてから

「助けてくれてありがとう」

 と言う。

 安心したように頷くと

「知り合い、じゃないよな?」

「突然、金を出せと言われて…」

「あぁなるほど」

 と言ってこちらを上から下まで見る。もう一度

「なるほど」

 と言って頷いた。

「そんなに弱そうに見える?」

「ん?あぁまぁ…」

 断言しないでくれるのは優しさなのか。少し憮然としていると

「でも間に合って良かったよ」

 と笑った。すると彼の後ろから

「勝手に先行しないで下さい!」

「何かあったらどうするんですか」

 と言いながら2人の騎士と思われる男性たちが息を切らして走ってきた。

「仕方ないだろ?人助けだよ」

 まるで悪びれずにそう言った。騎士達は装備が重いのか、出遅れたようだ。


 すると彼らは私の方を見て倒れている3人を見て事態を察した。

「アイツらは町に連れて帰りましょう。フェリクス様も一度お戻り下さい」

 フェリクス様と呼ばれた男性はこちらを見て

「だそうだ。君も町に行くんだろ?一緒に行こう」

「フェリクス様…?」

 さっきタメ口聞いちゃったよと思って焦っていると「あぁ気にしないで」

 と手をひらひらさせる。そして3人は2人の騎士に引っ立てられ、私はフェリクス様と足元にはハクが並んで町へと歩き出した。


 なぜこうなった…。

 多分、フェリクス様は貴族だ。関わりたくない筆頭なのに…でも仕方ない。

 

 ちなみにこの間、ハクはというと少し離れた所に座って耳の後ろをかいたりあくびをしたりしていた。チラッと見るとなんだかドヤ顔をされた。

 きっとご主人様なら大丈夫とか思ってるんだろうな。全く…

『ご主人様なら大丈夫だし遠くから人が来てたの気がついていたでしょ?僕はほら、ただの犬だから』

 やはりハクも気がついていたか。

 さっき剣の攻撃を受けなかったのは人がこちらに向かって来たのに気がついていたから。変に叩きのめしたら目立ってしまう。だから受けもせず攻撃もせずにいたのだ。


「君は探索者なの?」

 歩きながらフェリクス様が聞いてきた。

「はい。あ、申し遅れました、アイルと言います」

「へーそうかなとは思ったけど探索者には見えないね。なんていうか…」

「あーそれは宿の主人にも言われました。まぁ昨日登録したばかりの見習いですが」

「あぁなるほど。まだ見習いか」

 うんうんと頷いている。しばらく歩くと馬車が見えてきた。馬車で町から進んでいる途中で何でか私が襲われているのに気がついたのだろう。

 


*******



 今日は視察で隣町まで行き、そこで一泊して帰る予定だった。昼過ぎに町を出て馬車で進んでいると人の気配を捉えた。動かない3つの気配に1つが近づいて何やらおかしな事になっている。

 馬車の窓を開けて遠見をすると1人が襲われていた。これはマズイな。私が馬車を飛び降りると同じく事態に気がついた騎士が動き出すのと同時だった。

 そこからは早駆けし装備を付けている騎士を置き去りにして走った。

 1人の男がついに剣を抜いた。走りながら風魔法を使う。男は吹き飛んでいった。

 襲われていたのは思ったより若いまだ少年で、細くて優しげな子だった。男が吹き飛んだことに驚いてはいたが、怖がっていたりはしていない。落ち着いて事態を見ている。


 違和感を感じた。3人の強面な男に絡まれて最後は剣まで抜かれたのに怖がるどころか妙に落ち着いている。

「大丈夫か?」

 と聞くと

「助けてくれてありがとう」

 と返ってきた。

 実は凄い実力者かと思ったが気配は薄く、体も細くてとてもそうは見えない。

 服装はごく普通で金持ちにも見えず、違和感はありつつも問題ないと結論づけた。

 ちょうど遅れていた騎士たちも追いついたので、視察は延期にして町に戻ることにする。


 私が騎士にフェリクス様と呼ばれたのを聞いて気まずそうな顔をする。話し方がまずかったと思ったようだ。ちゃんと分別もある。しかも面白いことに一緒に戻ると聞いて嫌そうな顔をした。普通なら貴族と知り合えるのは喜ぶんだけどな。

 言葉遣いは気にしなくていいと言ったがそれ以降の会話は丁寧だった。やはり教養はある。

 しばらく様子を見てみよう。連れているもふもふな犬も気になるし。


 会話の中で探索者には登録したばかりで見習いと聞き、イザークを知ってるかと思って聞いてみる。

「登録はイザークがしたのかい?」

 驚いた顔でこちらを見て頷く。

「幼馴染だよ、イザークとは」

 また驚いた顔をした。なんだかおかしくなって町に戻ったら久しぶりにイザークの家に飲みに行こうと決めた。




 馬車まで戻るとフェリクス様は馬車に乗った。一緒にと言われたが丁重にお断りした。貴族と馬車に乗るとかどんな拷問だよ、嫌だよ…知り合っただけでも不運だっていうのに。

 やがて町に着いて例の3人は門のところで衛兵に引き渡された。そこで話をするのかと思ったら

「彼は探索者だし、奴らも探索者だからギルドに報告しておくよ」

 そうフェリクス様が衛兵に言ってそのままギルドに向かうと言う。フェリクス様と一緒にギルドとか目立つから嫌なんだけどな…そう思っていたら馬車に乗る前にフェリクス様が

「アイル君は正面からギルドに入ってイザークに声をかけてくれるかな。私たちは裏にある馬車寄せから入るからね」

 と言ってくれた。良かった、目立たなくて済む。

 アイルは自覚が無いがその色と物腰ですでにちょっと目立っているのだが。

 こうして2回目の探索は予想と違う形で終わった。




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