89.フェリクス邸
本日2話投稿 イザークたちの話が続きます
感想をいただきました…ありがとうございます
個別にお返事はしませんが、様々な受け止めがありますし意図した部分もあります
話はまだ続きますので引き続き楽しんで貰えたら嬉しいです
ダナ…私がここを出て5年か。フェルの結婚に合わせてここを出た。元々居候だしフェルも奥方のアナベルも嫌だろうし。ダナにも言われたからな。
久しぶりの1人暮らしは楽しかった。
ダナに会えないのは寂しかったが、やはりあのままでは居られない。フェリクスは反対したが。
10才の誕生日で分かった自分の出生の秘密。そしてダナに言われた後4年待つという話。
恥ずかしさと期待の中でその胸に抱かれて寝たあの日。
今でも覚えている。そして4年後のことも…鮮明に。ダナの匂い、温もり、手の感触…唇の柔らかさも全て。
しばらく誰も抱いていないから、ダナを見たら反応してしまうかもしれない。
緩みそうになる頬を引き締めて気合いを入れる。
執務室にはダナとフェルが待っていた。目の前の机に座っているダナとその横の机に座っているフェル。2人は同時に私を見た。
「イズ、今日は泊まれる?」
「いや、帰るつもりだ」
フェルが目を細める。
「久しぶりなのに?ダメだよ。帰さないから」
俺は困ったようにダナを見る。
「フェル、イザークが困ってるだろ。遅くなったら泊まればいい。私の隣の部屋なら空いてる」
「僕の部屋に泊まりなよ」
「フェルの部屋は無理だろ…」
流石に夫婦の寝室の隣は勘弁して欲しい。
「別に使ってないから大丈夫なのに」
「イザーク、話があるんだろ?」
私は頷いて考えてあった報告内容を2人に伝える。
「ふむ、領軍からか」
「中隊長のダーナムなら当てはまる」
「そうだな。後はダーナムに選ばせるか」
「相性もあるし、それがいいな」
「イザーク、護衛の人選は決まり次第伝える」
「イズ、紋章はサイズの規定を満たせば簡易登録で済む。ただ今から作るのは間に合うかどうか」
少し考えて
「布に刺繍では間に合わない。絵に描くのはどうかな?」
「なるほど…でも画家は人物ばかり描いてるだろう?紋章を描けるのか。それに今からでは手配が間に合わない」
「多分、大丈夫だと。一度アイルとイーリスをここに連れて来るからダナン様…会って貰えますか?」
ダナは眉を寄せると
「堅いぞ、イザーク。私たちしかいないのに様はないだろ?」
俺は困った。ダナと言うと気持ちが抑えられなくなりそうだから。
それでも笑って欲しくて
「ダナ…」
「ふふっそれでいい。さぁ、堅苦しい話は終わりだ。イザーク、やっぱり泊まって行け。夕食も一緒に食べるぞ!私は明日早いから少ししか話は出来ないが、酒でも飲もう」
ダナの笑顔に心がギュッとなる。私は頷いた。許されなくても、少しでも側にいたいから。
執事が食事の用意が整ったと呼びに来て、久しぶりの団欒の時間となった。
懐かしい食堂と懐かしい味。少し前の日常が戻ったようだ。
ただ、フェルの奥方のアナベルや子供たちはなぜか同席しなかった。
結局、フェルの部屋に泊まることになったので風呂に入る。私もフェルも風呂は1人で入るし、着替えも同じく1人でする。今日は2人で入る。広さは充分だから。
「イズとお風呂に入るの久しぶりだね」
「そうか?前にも家に来た時入っただろ?」
「2週間も前だよ」
私は笑う。そして裸になった俺の体を見て
「初めて会った時は傷だらけだったのに、だいぶきれいになったね」
そう言って腹を撫でる。
「くすぐったいぞ」
ふふふっと笑ってお互いに髪と体を洗う。
そして湯船に浸かる。あぁ、今日は色々あって疲れたな。上を向いて目を瞑っていると湯が動く。目を開ければすぐそこにフェルの顔があった。
「どうした?」
「ねぇ、分かってる?僕がどれだけイズのことを好きか」
真剣に言う。俺は返事に困った。結婚して子供もいるフェルに何と答えればいいのだろう。
フェルは手を伸ばして俺の頬を撫でる。
「前に言ったよね?俺の子供じゃないって」
なら子供はどうやって授かった?愛し合わなければ子の実は宿らない。
フェルは目を細めて
「だから不思議だよね?ちゃんと僕に似てるのが」
俺は驚いてフェルを見る。アナベルは見たことがあるが、結婚式にも披露宴にも参列していない。
公式には従兄弟と発表していない俺は貴族ではないから、参加出来ないと言われたのだ。
もちろん、子供にも会った事がない。
「イズを結婚式に呼ばなかったのは呼びたくなかったから。好きでもない女が隣にいるのをイズに見せたい訳がない。父さんも呼びたくない理由があったんだよ」
分かる?と問われる。分からない。でもフェルの子じゃなければ…でも似ているなら…答えは一つだろう。
俺はショックだった。まさか…ダナが?
フェルは可笑しそうに笑うと俺に抱きついて来た。
「そう、だからね…。そろそろ出ようか?父さんと話してしたいでしょ」
お風呂から上がって魔法で体を乾かすと夜着を羽織って家族用の居間に向かう。
居間にはすでにダナがいて、下ろした髪と着崩したガウンから除く白い肌が艶めかしい。頬に熱が集まっていく。
ダナはソファに座ってグラスを揺らしている。
「先に貰ってるよ。ちょうどいい酒が手に入ってね。イザーク、ここにおいで」
隣を指す。俺はドキドキしながらダナの隣に座る。その手や腰、はだけた胸に目が吸い寄せられる。
今日もきれいだ。
そしてダナの匂いがした。何度嗅いでもくらっとするようないい香りだ。
頬を染めたまま差し出されたグラスを受け取る。
そのイザークを対面に座ったフェリクスがじっと見ていた。
「さぁ飲んで?」
ダナとグラスを合わせて口を付ける。喉が焼けるような強い酒だが後味がまろやかだ。とても美味しい。
目を細めて私を見ていたダナがふわりと微笑む。また頬に熱が集まる。酒のせいか…ダナの微笑みのせいか…。
「面白い子が来て楽しみだな」
「そうですね、彼は」
「一緒にいるというもう1人の子は?」
「イーリスですね、彼も少し訳ありで」
「どんな風に?」
「顔を知らないんです。いつもフードを深く被ってて」
「少しは見えるだろ?」
前からフェルが
「認識阻害だと思う」
「そこまでかい?どっちだろうね」
どっちとは隠す理由のことだ。見れないほどの傷などがあるか、もしくは見せたら貴族に目を付けられるほどの美形か。
「アイルと一緒にいるだけでは判断が難しいです」
「というと?」
「あぁ、アイルはどちらの理由であっても受け入れるだろうから」
ダナは目を開く。
「そういう子なのか」
俺は頷く。
「確かにアイルならそのままの彼を受け止めそうだな」
「ふむ、会うのが楽しみだよ。そのイーリスには会えるのかな?」
「無理かと。フードを取らずに屋敷には入れないし、認識阻害も無理だろうし」
「私は構わないが。フードを被っていてもいい。連れて来てくれないか」
「分かりました。伝えます」
そこで扉がノックされる。執事が顔を出しフェルを呼ぶ。
嫌そうな顔で話を聞くとさらに嫌そうな顔をして
「少し外すよ」
「あぁ、待ってるから行っておいで」
フェルは部屋を出て行った。
ダナは俺を見て
「しばらく時間稼ぎをしてもらうから。やっと2人になれたね?イズ」
そう言うと俺の顎に手を当てて目をじっと見つめる。
頬がまた熱を持つ。目を閉じると唇が触れる。いつも通り柔らかくて温かな…。
「イズを屋敷から出したくなかったんだが、仕方なかった」
耳元で囁きながら何度もキスをされる。体が痺れたように動かない。
その手は首から肩を愛おしそうに撫でる。
「今日はフェルもいるし無理だから…。近々会いに行くよ。イズ」
そのまま熱の籠った目で俺を見つめる。ダナン様…かすれる声でそう呼べば
「二人の時はダナって呼んでって言ったね?さぁ言ってごらん?」
「ダナ…」
「あぁ、イズ。私のイズ…」
そうして体を抱きしめられ何度もキスをされる。俺もダナの体を抱きしめて…。
しばらくしてダナがそっと俺を離す。
「名残惜しいけど…フェルも戻ってくる。また会いに行くよ」
そう微笑むと最後に長いキスをして離れた。
その温もりが恋しくて…でもフェルに見つかってはいけないから。
グラスを取って酒を飲んでいるとフェルが戻ってきた。
不機嫌そうにしている。
ダナはグラスを机に置くと
「私はそろそろ部屋に戻るよ、イザークまた来なさい。おやすみ」
そう言っておでこにキスをしてくれる。俺もおやすみなさいと言って頬にキスを返す。
立ち上がってフェルの傍に行くとフェルの頬にキスをして
「おやすみフェル」
「おやすみ父さん」
フェルも頬にキスを返してダナは部屋を出て行った。
フェルはその扉をしばらく眺めてから俺の方にグラスを差し出す。
俺は酒を手に取って注ぐ。
フェルはそれを味わうことなくぐいっと飲み干して俺を見る。
俺もグラスに残った酒を飲むとフェルが立ち上がった。
「部屋に戻ろう」
頷いて立ち上がるとフェルが
「せっかくだからお酒貰っていこう」
そう言って瓶を持ち上げる。横からそれを俺が取って部屋を出ようとすると
「イズ」
フェルが手を差し出す。俺は戻ってその手を取ると部屋を出てフェルの部屋に向かった。
廊下を歩いているとフェルが
「子供の頃は良くこうして手を繋いでいたよね」
だいぶ昔の話だ。
「かなり昔だな」
「僕はあの頃から変わらずイズが好きだよ」
隣を見れば目を潤ませて俺を見ているフェル。酒のせいなのかそれとも…。
部屋に入ってそのままフェルに引かれるままにソファに並んで座る。
「話をしてもいい?」
「もちろんだ。何かあったのか?」
フェルは俺をじっと見る。そして首に抱き付いてきた。耳元で静かに語り始める。
僕の結婚は次期領主だし、あちらの家が是非にと望んだこともあって僕としては不本意だったけど頷いたんだ。子供が宿ればそれで別れたっていい、そう思って。
お父さんさんの強い勧めもあったからね。
それに伴ってイズがここを出ていくのは嫌だったけど、イズに結婚相手や子供を見せたくなかったからそれも仕方なく頷いたんだよ。
結婚式の後、いわゆる初夜だよね。僕は覚えていないんだ、途中から。抱き合ったところまで?キスすらした記憶がない。それでも朝起きたらアナベルが横に寝ていてベッドに血が付いていた。
全く記憶がないなんてある?混乱したよ。でもすぐに従者やメイドが入ってきて…おめでとうございますって。
体を重ねて覚えていないはずないんだ。
だってイズとのことは鮮明に覚えているからね。
実はね、なんか嫌な予感がして部屋に魔法を掛けておいた。記憶の魔法だよ。起きたことを後から見れるあの魔法。寝室にも掛けておいた。
そしたら僕はどうも睡眠薬で眠らされたみたいだ。すぐにその部屋から運び出された。この部屋では僕が連れ出された後、お父さんがやって来て、妻は僕が見たこともないような笑顔でお父さんに抱き付いて二人は体を重ねていたよ。初夜の相手は僕じゃなかった。
そんなことが何度もあって。で、子供が宿った。妻とお父さんの子供だよ。
それ以降アナベルは僕が側に寄ることすら嫌がるようになった。当然だよね、アナベルが好きなのはお父さんだ。僕なんてどうでも良かったんだよ。
子供が産まれてすぐにまた寝所を伴にしようと言い始めた。どうぜ必要なのはお父さんだ。でもその通りにしたよ。やっぱりアナベルとは全く触れ合うことなく次の子が宿った。子が産まれたらまた…。で、一度も触れ合うことなく子供が3人だ。僕は父親じゃなくて兄なんだけどね。
アナベルもお父さんも僕が気が付いていることを知らない。ねぇ、何でこんなことをしたと思う?お父さんはね、アナベルを好きだとか考えてすらいないよ。彼女も利用されたんだ。誰に?何のために?
お父さんのイズを誰にも渡さないためにだよ。
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