88.新しい人
本日は1話のみ
明日は2話投稿予定です
俺はギルマスに頼まれた2人の予定を確認する。何か依頼を受けていないか。
見た所、受けていないようだ。それならギルドの訓練所か宿か…女のとこだな。
まず、近いところでギルドの訓練所を覗いてみる。やはりブラッドがいた。ヤツらしい。
ブラッドは上級の探索者だ。たまに迷宮に潜りに行くがこの町を拠点にしている。
スーザンの信奉者らしい。
口数が少なく目つきは鋭いが大柄で顔立ちは整っている。まだ28だが浮いた話は聞かない。
時々、酒場の女を抱いているらしいが、悪い噂はないからうまく発散しているのだろう。
剣が特級で火魔法が上級だ。バランスの取れた探索者だが、見た目通りで偏屈だ。
人の話は聞かないし、独自のルールがあって実力の向上に貪欲だ。受けてくれるかは博打だな。
今も剣を振って型を確認している。
剣を止めたところで声をかける。
「よお、精が出るな」
「何の用だ」
「依頼だ」
「誰のだ?」
睨みながら聞く。
「誰のなら受けてくれる?」
笑いながら言えばそっぽを向く。
「スーザン」
ギュンと音がしそうなほどの勢いで振り向く。
「何だと…?」
「の宿に止まってるヤツ」
その目はギラギラしている。知っているのだ。あの宿に泊まれるのは限られた者だけだと。
「そいつの護衛兼世話役だな」
「俺に世話をしろと?」
「スーザンがな、気に入ってるし心配している。彼はまだしばらくスーザンの所にいるから、そこに行けば会えるぞ?」
ニヤリと笑うって言えば、グッと眉間にシワを寄せる。これで断れないだろう。
だってお前はあの宿に泊まれないんだから。
険しい顔のまま
「報酬は?」
「具体的には貴族との交渉だ。無理なら他を「受ける!」」
被せてきた。余程スーザンと関わりたいんだな。
うまくブラッドが釣れた。
サリナスは大丈夫だろう、ブラッドを餌にして…。まぁアイツの悪ふざけだけは封印しておかないとな。
次は酒場か…。
サリナスを探すためにギルドを出る。ブラッドも連れていく。
サリナスが口説き落とせたらそのままスーザンの宿に行こう。ブラッドの気持ちが変わらない内に。
探索者ギルドの連中がよくいく酒場を目指す。
上級の連中がいく場所は決まっている。落ち着けて美味い酒が飲めて…そんな場所は多くない。
サリナスが好きそうなのは娘が多い店だな。
当たりをつけて店の扉を開ける。そして予想通りそこには女性店員を膝に乗せたサリナスがいた。
私を見ると驚いている。
「へぇ、ギルドの堅物が俺に何か用?女ならいつでも紹介するよ?」
俺はため息を付く。
膝の上の女があらいい男!と呟いたが無視する。
さらに俺の後ろにブラッドを見つけて目を見開く。
「また変わった組み合わせだね。面白そう」
膝に乗せた女をおろすと立ち上がってこちらに歩いて来た。
「で、何?どんな面白いこと?」
「ブラッドとお前に指名依頼だ。ブラッドは受けるぞ」
「へぇ、珍しい。くくくっ、イザークが出て来てブラッドが受ける依頼なんて面白いに決まってるよな。いいぜ受けるよ」
「内容は聞かなくていいのか?」
「構わないよ?で、どんな依頼?」
「基本、お守りだ」
「はぁ?そんな依頼をブラッドが受けるわけないだろ?」
「我が儘坊ちゃんじゃない。大人しくていいヤツだ。ただ、少し田舎から出てきていて町の常識に疎い」
「ふーん、見張りに近い感じ?」
「それとも違う。会えば分かる。手はかからないが…お前らを側につける必要がある程度には色々ある」
「まぁ癇癪起こして暴れたりしなければ俺はいいさ」
「今からお前たちが守る相手に会いに行く。交代要員はフェリクス様が騎士を出す予定だ」
サリナスは目を開く。
「それはまた豪勢だね、性別は?」
「男だ」
残念そうにするサリナス。
「お前を女性の側に付けるわけないだろ」
後ろにいるブラッドが鼻で笑った。
「ブラッドとペアなら確かに」
お前だけでもしない、と思いつつ無駄口は叩かない。
そのまま3人でゼクスの宿に向かう。
さすがに戻っているだろう。なんだか疲れていたしな。というか完全に自分で蒔いた種なのに納得できないって顔をしていた。
彼はなかなか難しいな。
後ろから付いてくるサリナスはブラッドに絡んでいる。
ブラッドは適当に流しているしサリナスも別にそれでいいと思っている。
寡黙なブラッドと軽いサリナスだが実はけっこう気が合う。というよりお互いに邪魔にならないんだろう。
実力はどちらも間違いないし、ブラッドは無口なだけで常識人だ。
サリナスも軽いが周りを良く見ていて頼りになる。
お互いが得意な部分が違うから余計にいいんだろう。
サリナスももちろん上級探索者だ。彼も剣が特級。魔法は気配察知系や隠密が得意。
火力のあるブラッドといると実にバランスがいい。
迷宮ではたまに組んでいるらしいし、組合せとしては申し分ない。
受けてくれたなら一番信頼してアイルを託せるだろう。
女好きだからアイルは安全だ。ブラッドみたいな強面ではなくいわゆる優男だ。見るからに目立つ容姿でとにかくモテる。コイツが側にいればアイルは目立たないだろう。
つらつらと考えていたら宿に着いた。
外で待っているように伝えて中に入る。厨房にいたスーザンが出てくる。
「まだ何かあるか?」
「アイルたちに付ける護衛兼お守り役を連れて来た」
スーザンは腕を組むと
「俺が先に会う。生半可なヤツなら断るぞ」
やっぱりそう来たか。スーザンはあのアイルを気にかけている。
まぁ想定の範囲内だしスーザンが認めれば動きやすい。感謝祭の屋台も手伝って貰うだろうし当然か。
扉を開けて2人を呼ぶ。
入って来るとブラッドは緊張した面持ちで宿の中を眺めている。
サリナスも物珍しそうにきょろきょろしている。
俺が横にずれるとそこには腕を組んだスーザンが鎮座していた。それに気が付いたブラッドの血の気のない顔が赤く染まりスーザンの顔を見つめる。
サリナスは驚いた顔でスーザンの体をしげしげと眺める。
自分を見ている2人を睨みつけるようにスーザンが見る。
「ふん。少しは使えそうだな。軽く手合わせしてやろう。ウル、アイルたちを呼んで来い」
「えー寝てると思うよ?」
「たたき起こせ」
肩をすくめてウールリアが階段を上っていく。
ブラッドは顔を紅潮させたままキラキラした目で手合わせ…と呟き、サリナスはへぇぇと笑っている。
ほどなくフードを被ってアイルとイーリスが下りて来た。
「おう、お前らの護衛だっ。俺が見極めてやる。裏庭に行くぞ」
裏庭にはスーザン、ブラッド、サリナス、ウールリア、アイルとイーリスに私だ。
スーザンはウールリアから渡された剣を軽く振る。
「2人がかりでもいいぞ!」
ニヤリと笑って言う。
2人は顔を見合わせて同時に切り掛かって行った。
アイルはリアに呼ばれてイーリスと階下に降りてきた。
なんか知らない間に護衛?が付くことになって、なぜかスーザンが俺が見極めるって剣を構えていた。
何でこうなった?
私とイリィは困惑して皆を見ているだけだった。
イザークはギルドに戻るとフェリクスに伝える内容をまとめ始めた。
アイルの護衛について。
アイルの滞在先の協議依頼と合わせてロルフ様に指名依頼のお願い。
屋台の進捗。
ローブを渡したこと。
感謝祭で屋台に付ける紋章について、発注の有無。
何度も押せる印の報告と屋台のマークの報告。
そんなところか…。後はギルマスに今日の報告と。
ふう。感謝祭の前はいつでも忙しいが領主代理としてフェルが後援するのは初めてだ。商業ギルド他の打ち合わせもあるし、例年より忙しい。
その出店にアイルが絡むから余計だ。本当に無自覚だからな、アイツは。
さあ、ギルマスに報告書してフェルの所に行くか。嫌がるかな?でも少し気になることもあるし、やっぱり屋敷を訪ねよう。
ダナン様はいるだろうか?少し気持ちが浮つく自分がいる。
ギルマスへの報告はすぐに終わり、片付けをしてフェルの所に向かう。少し前に先触れは出してある。
長らく暮らしていた屋敷とはいえ、やはり気軽に訪ねられる場所ではない。
歩いてたどり着いた領主の屋敷は門番も顔見知りで、すぐに通して貰える。
屋敷の扉が開く。執事だ。もちろん私のことも良く知っている。
「ようこそ、イザーク。ダナン様とフェリクス様がお待ちだ」
「ありがとう。元気か?」
「ほっほっほ、まだまだ元気だぞ」
そんな軽口をたたきながら執務室に向かう。
ダナン様に会えるのが嬉しい。元気だろうか?
お読みくださりありがとうございます
※読んでくださる皆さんにお願い※
面白い、続きが読みたいと思って貰えましたらいいね、やブックマーク、↓の☆から評価ををよろしくお願いします♪