85.商業ギルド
本日2話目
こうしてドナドナされた私は商業ギルドに連れてこられた。
この国の商業ギルドは商売に関するあらゆる取りまとめを担う国の機関だ。
探索者ギルドとも発掘品の取り扱いなどで連携を取るため、相互に行き来があるらしい。
今回みたいに新しい商品の場合、その意匠や製法を登録をすることでその後にその意匠や製法を使う人からお金が貰える。
前の世界の特許だ。
製法はそもそもお金を払わないと見れない。でも意匠は盗めてしまう。ただ、やはり登録することで無闇に盗まれにくくなる。
さらに、登録することで商業ギルドでのポイントが稼げる。
しかも、登録者を守るために名前などは伏せられるから私にはピッタリの制度だ。ドナドナ中にイザークさんから解説された。でも自分の名前は使って欲しくない。
イリィを見つめる。少し息を吐くと頷いてくれた。
イザークさんにも予め、デザインはイリィがしたことを伝える。そう、私は試作を作っただけ。うん、完璧。
窓口でイザークさんが小声で話をすると後ろにある個室に案内された。
スーザンとリアはロビーで待機。
そのギルドの人は部屋に入ると何かのスイッチを押す。魔力が…?
「あぁアイルは初めてか?防音の魔道具だよ」
「盗み聞き対策だな、初めましてか?登録担当のアレストスだ。アレスって呼んでくれ」
私の代わりにイザークさんが
「そのフードかぶってる方は登録員だな。イーリスだ。その横のが探索者のアイル」
「「よろしくアレスさん」」
「おう、よろしくな!で、何の登録だ?」
イザークさんが目配せをするとイリィが判とインクを出す。
アレスさんは珍しそうに判を見て、インクを見て、目をくわっと開くと判にインクを付けて手元の紙にそっと押す。ゆっくりと離すと紙を凝視している。
またインクを付けて紙に押す。それを3回繰り返すと
「おいおいおい、また何てもん作ったんだよ!」
とこちらに顔を向ける。私はイリィを見る。
「今度の感謝祭で新しい屋台をするのに目印となるお店のマークを考えて。それをお皿に押せたらと。描くのは大変だから」
まだ唖然としたまま
「だからってよ、普通考えつかないぞ?」
私はまたしれっとイリィを見る。
フードあると便利だなぁ…とか考えてたら机の下でイリィに手をぎゅっと握られる。
あ、はいごめんなさい。調子に乗りました。
「僕とアイルで考えました」
えっ?私も?
机の下の手がさらにぎゅっと握られる。はい、すいません…一緒に考えました。
耳元で
「同じ書類に…一緒に名前が載るなんて素敵だね?」
ぐっそう来たか…。
「はぁ、分かった。連名で登録する。で、意匠の名前は?」
「判」
「えっ?何だって?」
すかさず
「繰り返し使える印」
「もしくは…押印とか?」
イザークさんも案を出してくれる。
「ならその両方を使おう。登録名は繰り返し使える印で、商品名が判」
私の案は華麗にスルーされた。何で?
イリィも頷く。まぁいいけどね。
名前をそれぞれ告げる。私は商業ギルドに登録していないので、登録も兼ねてだ。だから嫌だったのに…面倒だし。
ちょっと不貞腐れてるとイリィが手をにぎにぎしながら嬉しそうにしているのでヨシとした。だって可愛いし。
ってことでまた探索者ギルドに逆戻り。忙しいなぁ。なんて他人事みたいに思ってたらずっと手を繋いでいたイリィが
「アイがやらかしてるからだよ?」って。
え?何で?目をぱちぱちさせてると軽く頭を撫でられる。褒められたのかな?と思って笑ったら
「違うよ…」
ため息をつかれた。何でだろ?
ギルドの会議室に着くとなんだか変な空気が。
どうしたんだろうね?と首を傾げていると
「おい、お前が手綱握っとけ!危なっかしくてしょうがない」
ギルマスがイリィに言う。手綱って何?
「気を付ける…」
だから何で?
「おい、まさか元凶のお前が無自覚か?」
「アイルだから…」
「アイルだし…」
スーザンとリアが同時に言う。何それ?やらかしてるみたいじゃない。ちょっと不満そうな顔をしたらスーザンに叩かれた。リアの出番って思ったらなんか呆れた顔してる。
「もう帰っていい?」
なんかさらに皆の目が怖い?盛大な野太いため息を全員が吐いて(イリィのは可愛いヤツ)頷かれた。帰りは歩いて帰ろう。と思ったらスーザンにまた担がれた。
肩を叩いて歩けるよ、と言ったけどダメだった。
何故かな?
顔の横でため息つくのやめて欲しいなぁ。と思ったらなぜかリアに頭を軽く叩かれた。
困ってイリィを見れば肩を震わせている。笑ってる?
やっと宿に帰って来た。担がれてたし、たいして歩いてないけど疲れた。するとまたスーザンに頭を叩かれる。
「俺らの方が疲れてる!」
何で?
「気疲れだ」
一緒だ。
「一緒じゃねーよ。お前は当事者だ。俺は巻き込まれだ」
また私の心と会話してる。むうという顔をしたら横からイリィに顔を覆われた。えっ?
「そんなに可愛い顔を他の人に見せちゃダメ」
…無になろう。うん、そうしよう。
「もう部屋に戻っていい?」
皆が疲れた顔してるし…。
スーザンが頷いたので解散。はぁ疲れた。
商業ギルドからずっとイリィと手を繋いだままだ。なんか恥ずかしい。そのまま部屋に入る。ハクとブランは部屋の隅で寝ていた。可愛い。
もふっていい?いいよね…。なんか疲れたし。
もふり倒して満足して体を起こすとイリィが私の頬に手を添えて
「アイ…これからは作る前に僕に言って?」
スッと目を晒すと
「アイ…返事は?」
俯く。わざとじゃないし…。チラっと見ると
「可愛い顔してもダメ」
頬の手を顎に添えて私の顔を上げさせる。
「お仕置きは長いキスと抱っこだよ?」
うわぁ。それは…思わずそれはご褒美じゃ…。
慌てて口を噤む。
イリィは驚いた顔で私を見ると泣きそうな顔でアイ…と呟いてそのままふわりと抱きしめて来た。まだ緊張するけど…その温もりは…心地良い。
私の顎を少し上げると真剣な目でキスしても?と聞く。久しぶりに間近で見る美形は凄い…。
焦っているとそのまま目を瞑って唇が近付いてきた。頬が熱い…。
触れた唇は少しだけ震えていて…柔らかかった。触れるだけの優しいキス…。恥ずかしさで思わずイリィの胸に手を当てて離そうとするけど、優しく腰を抱かれていて動けない。
ようやく離れたイリィが私を見る。
「アイは僕をどこまでも喜ばせるね。ねぇ、アイ…覚えていて?悲しみも楽しみも…僕にとってはすべて君からもたらされるんだよ。君が傷付けば悲しい。君が笑えば嬉しい。君がツライと僕も苦しい。それを忘れないで…」
私はイリィのその言葉を聞いてストンと何かがハマった気がした。あぁ、そうか…私は自分が傷付く以上にイリィを傷つけたく無かったのか…。涙が出て溢れそうになる。
「でもね…どんな感情であっても…共有したいと思うんだ。だって2人なら苦しいことや悲しいことは分け合える。楽しいことや嬉しいことはさらに大きくなる。だからお願い…どんな感情でも僕に教えて。一緒に…感じたいんだ」
私は泣きながら
「苦しくても?」
「苦しくても」
「悲しくても?」
「悲しくても」
「あ、愛情も?」
「もちろん愛情も。でも、僕の方が大きいかな?」
笑いながら涙を拭ってくれる。私は背伸びしてイリィに抱きついて泣いた。
泣き止むまでずっと私の髪を梳いてくれるその手は…少しだけ冷んやりとして気持ち良かった。
ようやく泣き止んで目を合わせると
「たくさん待たされた僕にご褒美は?」
にこやかに言う。また真っ赤になって…その唇にキスをする。離れ際に両頬を挟まれしっかりたっぷりキスをされる。
私はイリィを見て、あの日の話をしたいと伝える。優しく頷くとちゃんと聞くから…落ち着いて話しして、と。
私たちはベットに並んで…そして話を始めた。
私がユーグ様に抱かれて眠っていたこと、眠っている間に見た律との夢、私は自分の居場所がイリィの隣だと改めて認識したこと、目が覚めたらユーグ様とハクの心が囚われていた事。
そしてその時は知らなかったけどイリィのお父さんが連れ去られて追いかけたこと、途中でジョブを使って治癒をしたこと、地下拠点への潜入。
そしてアイツに捕まって…唇を噛み切られ吸われ、裸にされて体を撫で回されキスされたこと。
その後、ファーブルさんに助けて貰ったこと。
イリィにどんな顔で会えばいいか分からなくて、人が怖くて距離をおいたこと、ハクとの交わり。
アイツの話はつっかえつっかえだったけど、背中を優しくさすりながら最後まで聞いてくれた。ハクとの交わりが魔力を融合させることも。溶け合うような…あの感覚をなるべく感じた通りに。
聞き終わるとイリィは優しく抱きしめてくれた。
「良く話してくれたね…辛かったろう…」
そう言ってイリィは涙を流した。どうしてイリィが泣くの?アイの感情が流れて来て…悔しくて…。自分にもっと力があればって…。そうだね、本当にそう思ったよ。私はなんて非力なんだろうって。
目指せブクマ60!
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