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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第2章 感謝祭と諸々の騒動
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83.ゼクスへ

本日2話目

 イリィのいない部屋は寂しいよな…。イリィとちゃんと話をしないと。彼はいつだって私をちゃんと見てくれる。逃げてばかりではダメだ。

 私が考え込んでいるのをハクは横から見ている。

『アルがイーリスと話をする前に僕が話をするよ』

 …?何で?

 私が不思議そうな顔をすると

『魂の契約について話をしないと。そのことが嫌ならそもそもアルの側に居られない』

 あ…。そうだった。いくら聖獣との交わりが人とは違うと言ってもそれを許せないと思うかもしれない。

 そうか…。今さら気が付いた。


『アルは僕と交わらない方が良かった?』

 犬のハクが伏せた姿勢で上目遣いに聞く。

 私は考える。いや、実際には起きたら色々と終わってたし。でも私が選べたとしたら?すぐに答えは出せなかったけど…それは心の準備が整わなかっただけで。

 時間をかけて考えたら、多分受け入れたんだと思う。

 だってハクは生のある限り側にいると言ってっくれた。大切な存在だ。


 だから私は首を振る。

「私はハクと交われて良かったよ。ハクは子供を私としか作れないんだし」

 ハクはしっぽを緩く振る。可愛い。やっぱりもふもふは可愛い。人型の時は可愛いではなくてカッコいいだけど。どんなハクでも大好きだから。

 ずっと私に寄り添ってくれる存在。何があっても生のある限り…これからもよろしくね、大好きなハク。


 そう心の中で呟くとハクはしっぽをブンブン振って起き上がり、私の口元をペロリと舐めた。そのまま膝の上で寛ぐ。あぁ可愛い、柔らかい、温かい。

 夢中で体中撫でまくっていると

『アル…そんなに撫でられるとくっつきたくなるから…』

『くっついてるよ?今』

『人肌でくっつきたくなる』

 えっ…?

『人型になってもいいの?』

『それはダメ…』

『なら自重して』

 残念。もふもふを堪能するのを辞めて手をハクから離す。

『本当に無自覚に煽るんだから』

 煽ってないし…ないよね?


 とそんなことをしていると、西門に着いた。

 ギルド証を出すまでもなくギルマスと私の顔パスで通れた。いいのか?

 私はギルドに行くよう言われた。屋台の話だそうだ。当然イリィも呼ばれている。

 ギルドの裏に着いてそのまま会議室に通される。ギルマスは少し部屋に戻ると出ていき、代わりにイザークさんが部屋に入って来た。


「アイル、もう大丈夫か?」

 心配かけたみたいだ。頷く。そうか…なら良かった。そう言って頭を軽く撫でてくれた。一瞬体は強張ったけど怖くなかった。良かった。少しずつ克服できている。

 ハクはいつも通り私の膝にいる。イリィが入って来た。イザークさんに軽く会釈して私の2つ隣の席に座る。

「おう、集まったな。取り急ぎお前がいない間の話だ」

 そう前置きして

「感謝祭で出す屋台は2区画分、確保した。キビ挟みパンとキビを焼いた熱いの、茹でた冷たいの、キビ練り込みパン、ポンポン跳ねるヤツ、後あのふわふわしたヤツだ。料理するにも場所がいるから2区画だ。キビ練り込みパンがまだ試作中だ。スーザンと詰めてくれ。後は皿やカップ、包み方だな。イーリスと詰めてくれ。人手が足りないとかあればフェリクスに人手を探して貰うか、ギルド職員から誰か出すかする。当日必要な機材も含めてリストにまとめろ。以上だ。何か質問は?」

「お店の名前とか、お皿に入れると言っていたマークは?」

「貴族の紋章、今回はフェリクスとラルフの家だな。それは支柱に簡易紋章を掲げる。そちらの案も出して欲しい。皿やカップのマークはまだだ。店の名前を入れるかは要検討だな」

「お皿やカップの数は?回収する?」

「基本は回収だが、数は悩むな。取り敢えず100は欲しい」

 それぞれ100か…後3週間もない。でも作れるのは私とイリィだけ…厳しいな。

 私が考え込んだからか…。

「最悪、マーク無しで他の入れ物を使うことも視野に入れるが」

「値段は?1個あたり皿とかにいくら使える?」

 ギルマスは考え込む。

「キビ挟みパンは銅貨3枚ってとこか。焼いたキビとキビ練り込みは銅貨1枚にしたいな。ポンポンするヤツは銅貨3枚とふわふわのは銅貨4枚だな」 

 物価を考えれば妥当なとこだけど、それだとお皿にはほぼお金を掛けられない。いっそ作るのを諦めて安い既製品にマークだけど押すか?

 下手すると皿やカップの方が高額になる。

「キビはそんなに安く手に入るのか?」

「あぁ、それは大丈夫だ」


「その値段だと正直、皿やカップは安いのを大量に買わないと無理だ。それにマークだけ押せばいい」

「そらそうか…分かった。そっちの手配はフェリクスにやらせる」

 私は頷く。そしてイリィを見ると

「マークを一緒に考えて欲しい…」

 イリィは私が話しかけたので少し驚いたようだがしっかりと頷いてくれた。

 私は緊張で声が震えてしまった…。イリィは私をどう思ってる…?あんなことをされた私を…知られることが怖いと思う。一方でイリィはそんな人じゃないとも思う。でもあの時の怖さが私を臆病にする。怖い…。嫌われたらと思うと体が震える。


 ハクが起き上がってわたしの顔を舐める。その息は温かくて大好きな匂いがした。ありがとう、ハク…。

 ギルドでの話が終わったので宿に戻る。そう言えば宿代、延長分払ってない?

 スーザンに聞かなきゃ。

 私はイリィを見る。勇気を出して

「イリィ」

 私を見るその目はフードに隠れて見えないけどなぜだか潤んでいるように感じた。

「その、部屋なんだけど…」

 イリィが手をギュッと握る。

「嫌じゃなければ…また同じ部屋で…」

 緊張で喉がカラカラだ。ここまで喋って言葉が続かなくなった。断られたら…?どうしたら…。緊張で苦しい。


「嫌…」

 あぁ…。やっぱり…私はもう…泣きそうになる。

「嫌なわけない…僕の気持ちは今までもこれからも変わらない…アイ…ずっと君を求めてる」

 なぜか涙声で言う。

 私は泣きながら笑った。

「一緒に帰ろう」

 まだ怖い。急に側に人が来たら咄嗟に怯えてしまう。それでもやっぱりイリィと離れたくないからイリィが拒絶しないなら…側にいて欲しい。

 するとハクが

『帰ったら僕から話があるって伝えて』

 ハクから念話がくる。

「ハクが帰ったら話があるって」

 イリィは頷くと一緒に宿に向かう。いつもみたいに近い距離ではないけど…それでも近くにいるイリィを感じて宿に向かった。


 なんか久しぶりだな、と思って扉を開けると奥から凄い勢いでスーザンが来た。早い。

 私を見るなり目をくわっと開けて

「おい、アイルお前。もう大丈夫なのか?また倒れたりしないな?」

 体を屈めて両肩に手を置き私の目を見る。

 一瞬身構えたけど、あれ?怖くない…。すっごい勢いで来たのに…?

 すると後ろからリアさんが来てスーザンの手を私の肩から剥がしてその手にスリスリした。消毒?また消毒?服の上から肩触っただけで…?


 あぁ、だからスーザンも手をスリスリされたくらいで赤面しない!リアさんもなんでドヤ顔?マウントなのかな?別に羨ましくなんてないよ…?

 この2人は相変わらずだなぁ。なんだかその光景にホッとした。

 一度部屋に戻って厨房に行くと告げると階段を上がる。部屋に入ると何にもない部屋なのに…なぜか泣きたいくらい懐かしかった。

「アイ」

 後ろから声をかけられる。振り向くとイリィがフードを取って目に涙を溜めて

「少しだけ…で…いい…抱きしめ…させて…」

 懇願するような声で言う。

 ゆっくりと近づいて来て頬に手を触れて…ふわりと優しく抱きしめてくれた。

 私は泣きそうになって…でも我慢した。きっと泣きたいのはイリィの方だ。私はされるままに抱きしめられていた。今はまだ…私からは…。

 そっと私を離すと目を潤ませたまま、スーザンの所に行っておいでと言われて部屋を出る。


 私は厨房にいたスーザンとリアさんとキビ挟みパンについて味とトッピングをどうするか話しした。

 1時間くらいだろうか?話しを終えて部屋に戻るとイリィと人型のハクが話をしていた。

 イリィの顔は真っ青で心配になり駆け寄ってその肩に触れようとして…イリィが体を引いたのを見て手を引っ込めた。

 人型のハクは服をちゃんと着ていて、イリィに私たちのことを話したようだ。

「アイは…ハクと…?」

 私は頷く。

「僕みたいな特殊個体はね、人としか交われない。魂の契約者とはそういう存在なんだよ。君たち森人の魂の番と同じ。出会ってしまったら求めてしまう。そういう存在なんだ。ユーグ様にも認められた。やがて子が成る」


 イリィは聞こえているのか分からないような呆然とした顔で私を見る。その手を私に伸ばして止めた。そのまま手を握り込む。

「聖獣と人の交わりは人のそれとは全く違うよ。いわば魔力を融合させる儀式なんだ」

「儀式…」

 イリィがうわ言のように呟く。わたしは無言で彼を見つめる。無言の時間が過ぎていった。



*******



 アイが部屋を出るとハクが、少し目を瞑ってと言う。言われる通りにすればすぐ

「目を開けていいよ」

 目を開けるとそこには背が高くて白銀の長い髪を持つカッコいい男性が立っていた。私は驚きで言葉が出ない。高位の特別な聖獣は人化出来ると伝説には書いてある。まさか自分がそれを目撃するとは夢にも思わなかった。


「どう?僕は」

「凄いな…」

 嬉しそうに笑うハク。

「僕はね、アルと交わったんだよ?この意味が分かる?」

 交わる…?人型の聖獣。昔読んだ絵本に無かったか?人化出来るほどの力が強い聖獣は人と恋に落ち、子を授かると…。交わる?それはつまり…そう考えたら青くなる。

「そう、僕はアルを抱いたよ。アルはね、温かくて柔らかかった」

 そううっとりと言う。

 アイがぼく以外の男と…?体を重ねた?頭が真っ白になる。アイはハクを受け入れた…?じゃあ僕は?


「人と聖獣は違う。在り方も…交わりの意味も。似て否なる行為だよ。それにアルは…分からないと答えを保留したんだ。それを僕が少し強引に…ね。もちろん無理やりとかじゃないよ?」

 私の頭はハクの声は聞こえても言葉を理解出来なかった。

 部屋の扉が開いてアイが入ってくる。僕の様子に気が付いて側に来る。アイ…。僕はアイに手を伸ばし、途中で止めた。




銅貨1枚約100円なり


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