82.貴族の事情
本日も2話投稿します
貴族は原則、直系が継ぐ。ただ、子供が1人でその子供同士が結婚した場合は2つの選択肢がある。
血縁者(兄弟の子供または両親の兄弟)を養子に迎え家を存続させるか、領地ごと国に返すかだ。
余程のことがない限りは養子を取る。
その場合、直系の長子は元の家の爵位を保有出来る。
ただ、領地のないこの爵位は直系長子の子供だけが継げる。その後も同じく直系長子のみに継がれていき、途絶えると国に返される。
ロルフの母は伯爵家の出で唯一の子であり、家を出て侯爵家に嫁いだので爵位を保有している。
ロルフはこの爵位を継げるのだ。
しかし、ロルフは汎用性の高い薬草の研究成果が認められてて個人でも叙爵されている。
何かしらの成果を上げて叙爵される時、通常は男爵だが侯爵家の長男であることとその功績が多大だったことより本人は子爵位を賜っていた。
16の成人と同時に子爵を名乗っている。珍しい水晶などの発見により母の保有する伯爵を継ぐよう両親からは言われていた。
その時期にラルフが暴走した。私が伯爵位を継ぐ時の後ろ盾にアイルを保有したかったのだろう。
彼自体が稀有な能力を持ち、さらに聖獣様がいる。
その想いが結果、彼を追い詰めてしまった。
私のためなのだ。ラルフの行動は全て私のためのものだ。その想いが兄として私を慕うものから変化したのはいつなのか…。私には分からない。
昨日、ラルフが私を抱いた。違和感はあったが忌避感はなく私たちは一つになった。
そして気がつく。もしやお父様はその可能性を残したのか…?
あの特例を使うためにわざわざ…。
軽くため息をつく。やはりお父様には敵わない。どう転んでも侯爵家は安泰なのだから。
ラルフと共に生きる…。今までと違う在り方で。私はそれを望むのだろうか…?
横で寝ているラルフを起こさないようにベットを抜け出す。体は怠いが昨日は体を重ねた後すぐに寝たので動けないほどではない。
すると私の周りで精霊たちが騒ぎ始める。
(起きたの)(起きたの)
(ユーグ様が呼んでるの)(聖獣様が呼んでるの)
私は着替えると部屋を出る。ざわめきが多きくなる。
生命樹の元に着く。ハク様が根本に丸くなっていた。
『ふむ、ラルフとそういう仲になったのか…』
「はい…」
『ラルフの想いの結果だな』
私は頷く。
『でもいいのか?ロルフはアルを想っているのに?』
そう言われて気がつく。私は彼を…?
『自覚なし?』
胸がドキドキして来た。頬が赤くなる…。私が彼を?
アイルの銀色と儚げな顔を思い出す。
『アルには想う人がいるよ』
私は驚きながらも頷く。あの試食会にいた子だろう。でも、と思う。彼を抱きしめられたなら…。また胸がドキドキする。
私はどうしたいのだろう。
『悩んでいるかい?』
ユーグ様の声がした。私は頷く。
『うん、君たちの運命もまた難儀だね…』
私は困惑する。どういう意味だろう?
そう、自分でも良く分からないこの感情を持て余している。そのことだろうか。
『良く考えればいい。結論は急がなくていいよ。でも愛し子を守って欲しい…あの子は危ういからね』
私は首を傾げる。
『そういう時期だよ』
そういう時期とは何か分からないが私は頷く。
アイルのことは大切に想っているのだから。
ふわりと風が吹いてユーグ様の気配が消える。聖獣さまも木の根元でペタリと伏せてしっぽを振る。
『ロルフとアルはこれからも繋がりが続くよ…』
私は頷いて、そしてなぜか嬉しくなって部屋に戻った。
扉を開けるとラルフが全裸で立っていた。驚いて慌てて扉を閉める。
兄様…と呟くとそのまま私に抱きつく。冷たい体だ。
「早く服を着て…」
ラルフは首を振ると兄様温めて…。消えそうな声で言う。私は急いでラルフを連れてベットに入り首まで毛布をかける。
その冷えた体を抱きしめて…。
ラルフは涙を讃えた顔で私に縋りつき、キスを求める。軽くキスをしてその体をくるむ。どれくらい裸で立っていたのだろう?
背中を擦りながらそう思った。
私はラルフとの関係をどうしたいのだろうか?
聖獣様は私がアイルを好いていると言う。そう言われると彼に触れたいと思う自分がいる。でも…そのためにラルフを切り捨てるみことは出来ない、とも思う。私にとってラルフは大切な存在だ。それがたとえ兄弟としての想いであったとしても。
どちらにしても一度は実家に帰らないとならないだろう。ラルフとのことも父上に相談しないと。
私はどうしたいのだろう…?
前の日の夜…アイルは。
私はロルフ様と話をして部屋に帰った。シャワーを浴びてから部屋に戻ると全裸の人型のハクがいた。
だから何で全裸なの…目のやり場に困る…。
まるで見せつけるように腕を組んで仁王立ちしている。色々と見えてるから…恥ずかしい。
そう思っているのにドキドキする自分がいる。魂の契約者同志は自然とお互いを求めると言うけど…。
ハクは魅力的な笑顔で私を見る。
「今、欲しいって思ったでしょ?」
私は赤面する。確かに一瞬、ハクとの交わりを思い出した。それが欲しいということかと言われると分からない。でもその肌に触れ…その体温を感じたいと思った。
そういう欲求はこちらに来てもあまり強くないみたいだから性的な意味ではない、はず。
でもなんだろ?相手はなぜか色っぽい目で私を見る。無意識に相手を煽ってるらしいけど分からない。
首を傾げるとハクはため息をつく。
「本当に無自覚なんだね?」
何が?
「目を潤ませて頬を染めて上目遣いで見られて…それ誘ってるからね?」
えっ見ただけで?
近づいて来たハクは
「シャワー後の清潔感溢れる透明な肌で体もほんのり色づいて…上気した顔で見られるんだよ?分かってる?」
全く分からないけど。湯上がりはきれいに見えるのかね?
「誘ってる?」
いや、そんなつもりはないけど…?
ぎゅっと抱きしめられる。頭にすりすり。
だから全裸でそんなにぎゅうぎゅう抱きしめないで…。私は逃れようと手でハクの胸を押すけどぴくりとも動かない。
そのまま首すじにキスをされる。
こうしてハクに抱きしめられてベットに運ばれる私。そのまま魔力を交わらせ…。
目が覚めると…抱き枕状態で横から完全にハクに抱きつかれている私。まったく動けない。
諦めて力を抜く。
ハクとの交わりは本当に特別だ。子供っていつ授かるのかな…ぼんやりとそんな事を考えていた。
同じ日の夜。別の部屋で。
イーリスと私は同じ部屋にいる。アイル君と2人ではまだ無理だろう。
順番にシャワーを浴びるとベットに入った。
シアもベルも…まぁ私もか。アイル君を気に入っている。イーリスには幸せになって欲しいものだ。
ただな、ベルは要注意かな。共有でいいとか言いそうだ。
私たち森人は似たような子、透明で清々しい子に惹かれるのだ。
アイル君がまさにそれだ。数が少ないため、同じ人に惹かれた場合は家族限定で番を共有出来る。
どうもベル辺りはそんなこと考えそうだ。気をつけないと。
そうなことを考えながら眠りについた。
その頃イーリスは。
アイ…君の体を抱きたいよ。自分のものだと周りに示したいよ。誰にも渡したくない。僕だけのアイ。
早くその唇にキスをさせて…。大好きだよ。
私は泣きながらアイのことを想った。
きっと傷ついて人が怖いのだろう、いや僕に何をされたのか知られるのが怖い?
頼って欲しいのに、こんな時こそ僕を頼りにして欲しいのに…。
やるせなさに心が折れそうになる。それでもきっと怖いだろうに、アイは笑ってくれた。手を握ってくれた。今はそれだけで…。でもやっぱりアイ、その柔らかい体を抱きしめたいよ。
切ないイーリスの想いは夜に溶けていった。
翌朝…ロルフがハクたちに呼び出された後のこと。
各自、部屋で朝食をとるとゼクスの町に帰ることになった。
ロルフ様からはひとまず屋敷に来るかどうかの返事は急がない。ただ感謝祭までには決めて欲しいと言われた。私は頷く。
ロルフ様たちは実家に戻られるそうで、ゼクスとは逆の方向にある実家に向かうため宿で別れた。
イリィたちの家族は一旦、ゼクスに行きしばらく滞在すると言うのでイリィもファーブルさんたちが乗ってきた馬車に乗った。
私はギルマスが乗って来た馬車にハクたちと乗ってゼクスに向かう。
宿に着いたらどうしようか…?イリィのいない部屋は寂しいよな。ボンヤリと馬車に揺られながら考えていた。
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