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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第2章 感謝祭と諸々の騒動
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80.石化の呪い

本日2話投稿します

 ロザーナはクロイにブラシをかけて、かいばと水をやってから馬車の手入れをして部屋に帰った。

 ギルドの併設の宿舎で、部屋に入って寝転ぶ。疲れたなぁ。

 ゴロンと寝返りを打って気がつく。あれ?最近は石化も徐々に進んで寝返りもぎこちなかった筈。いつものクセでやってみたら問題なく出来た。えっ…?

 慌てて起き上がる。

 日課の体をほぐす運動をしてみる。そして驚いた。身体が動く?前よりも確実に。なぜだ?


 行きの馬車では何も変わらなかった。ならいつ?

 あ、地下拠点か?あの時は濃厚な魔力が立ち込めていた。しかし何か違う気がする。

 もしかして、奥から出てきた2人のうちのどちらか?強い魔力を感じた。俺の呪いは治るのか?ハヤる気持ちを抑える。偶然かもしれない。でもその呪いが解けるのなら…願わずにはいられない。

 あの2人に係わる仕事があれば絶対に受けようとそう決めたロザーナだった。



******



「ロルフもそれでいいな」

 ギルマスがそう言って解散した。私はどうしても彼と話をしたくて…声をかける。

「少しだけ…話を」

 彼は頷く。

「私は…君に感謝してる…それだけは伝えたくて。ハク様もどうか…」

『分かっている。アイルがお前を拒否しないなら、僕は構わない。でも次はないよ?』

「ありがとう…」

 私はアイルに向き合って

「また採掘に…」

「はい、ぜひ」

 そう私を真っ直ぐ見て言う。私はそっと手を伸ばし彼の頬に触れる。なぜか泣きたくなった。この温もりを手放したくない、そう思う。

「出来れば家に…来て欲しい」

 少し驚いた顔でこちらを見ると、私の手にそっと手を重ねる。

「守ろうとしてくれてるんですね…」

 彼の目を見てしっかり頷く。

「君を守らせて…」

 彼はふわりと笑うと優しく重ねた手を撫でて

「ハク次第です」

 伏目でそう言って私の手を離した。彼の手は少し冷たくてでも彼らしく温かかったから。思わず

「抱きしめても…?」

 自分でもなぜそんなことを言ったのか分からない。ただその温もりを感じたかったのか…。


 彼は少し頬を染めて首を傾げる。拒絶ではないかな?ハク様を見るとしっぽを振っている。私は一歩近づくと彼を腕にふんわりと抱きしめる。とても清らかな匂いの柔らかい体だった。

「おやすみ」

 そう言って彼の頭にキスを落とし部屋に戻った。


 部屋の中ではラルフがベットに座っていた。まるで置物みたいに微動だにせず。

「ラリィ?」

 私を見ない。もう一度

「ラリィ」

 そう声をかけて正面からその目を見る。すると瞬きして

「兄様…」

 その頬を撫でてどうしたらと聞く。

 その目に涙が溢れてくる。兄様…呟くよううに言って抱きついてきた。

 その頭を撫でて

()()()()()()()

 ラルフ…。




 私は生まれつき体が弱かった。そう聞いていた。ものごころついた時は兄様がずっとそばにいて、それが当たり前だと思っていた。

 少しずつ熱が出なくなってくると、将来家を継ぐ兄様を助けられるよう必死に勉強した。

 社交が苦手な兄様のために苦手な社交も出来るよう頑張った。

 まさか、それが原因で兄様を次期侯爵から遠ざけてしまうなんて考えもしなかった。

 周りが兄様より僕が次期侯爵に相応しいと言いはじめて僕は慌てた。そんなつもりじゃなかったのに…。


 結局、お父様は兄様のことを考えて、次期侯爵を僕に決めた。

 兄様は私が不甲斐ないばかりに苦労をかけるね、と言っただけで…でも本当は悔しくなかった?僕なんていなければって思わなかった?

 そんなことは怖くてとても聞けなかった。

 だから必死に頑張った。でもある時、僕は聞いてしまった。

 それは兄様の従者の青年と執事の会話だった。


「納得出来ません!なぜロルフリート様が次期侯爵ではないのですか?」 

「旦那様が決めたことだ。我々にはそれ以上は…」

「しかし、()()のお子であるロルフリート様を差し置いて、なぜ旦那様は…あんな訳ありを…」

「しっ声が大きい。その件は口外無用と厳命されているだろう。言ってはならん」


 僕は頭が真っ白になった。

 今なんて言ったの…イマナンテイッタノ…?

 兄様が唯一の子?じゃあ僕は…?僕は誰?兄様は僕の兄様ではないの?


 僕と兄様は良く似ている。髪の色も目の色も。

 顔立ちは少し違う。兄様の方が涼やかで僕は少し甘い顔らしい。でも同じ色を持つ兄弟だ。そう思ってた。

 違うの?僕はお父様とお母様の子供じゃない?

 頭がぐるぐるする。 


 兄様が廊下に突っ立っていた僕に気がついて声をかけてくる。

「ラリィどうした?」

「兄様?」

 兄様は首を傾げて僕を見る。

「ラリィ?大丈夫だよ。兄様がいる」

 そう言って頭をなでてくれる。

 僕は兄様の顔が見れなかった。俯いていると頭にキスをして手を繋いでくれた。そのまま僕の部屋に入る。

 並んでソファに座って空いた手で僕の頭を抱いてくれる。兄様は本当に優しい。


 でも…兄様は僕の兄様じゃないの?

 足元がぐらぐらする。地面だと思っていたら実は沼だったみたいに。

 僕の全てが揺らいでいた。


 その夜、僕は久しぶりに熱を出した。兄様はいつも通り僕の側にいてくれた。

 本当の兄弟じゃないのに…兄様…兄様…僕はそう呼んでいいの?




 執務室のドアがノックされた。そこには我が家に長年勤める執事のバーナムがいた。

「旦那様、失礼します。立ち入ったことをお聞きしますが…」

 言葉を切る。私がそれを許すかどうか確認しているのだ。

「構わぬ」

 少し考えてから言葉を選んで言う。

「今回の、次期侯爵について納得出来ないものがいます。旦那様の決定だと伝えてはいますが…皆ロルフリート様を慕っております故…」

 侯爵家当主であるシスティアはある意味、予想通りだと思う。

 しかし、不満を持つものが不満を持ったままこの家に仕えることはあってはならない。

 予想はしていたが…どうしたもんか。ラルフの耳に例のことが伝わるのは避けたい。

 ロルフもそれを望まないだろう。

「再度、不満を口に出さないように徹底を。特に例の件はラルフの耳に入らないように」


「畏まりました」

 そう言ってバーナムは下がって行った。

 予想はしていた。ラルフの為に自分の時間を削って研究をしていたロルフ。元々優秀な子だ。独特の雰囲気のある子だが、家族思いで思慮深く使用人にも丁寧に接する。

 従者をはじめ、屋敷のものは皆ロルフを慕っている。


 しかしシスティアはロルフのために次期侯爵をラルフに決めた。このまま唯一の息子が慣れない社交をこなし、神経をすり減らすのを見たくなかったのだ。

 好きなことに集中出来る環境を整えてやりたかった。しかしラルフのことを知っている一部の使用人たちからすれば、ラルフがロルフから侯爵の地位を奪ったように見えるのだろう。

 ロルフは私の判断の意図を察している。しばらくは周りが忙しないな。

 システィアはため息をついた。


 しかも、このタイミングでラルフが久しぶりに熱を出した。ここの所は大丈夫だったが、やはり重圧に感じたか…もしくはロルフから侯爵を奪ったと思ったか。

 どちらにせよ、決まったことだ。

 そのうち落ち着くだろう。その時はそう思っていた。



 私には妹が1人いた。名前をアリアナと言う。可憐な見た目に反して奇抜な行動が多く、家族はいつも振り回された。

 この国は子供を授かるために、恋愛結婚が多い。お見合いであっても双方が好意を持たなければ破談になる。当たり前のことだ。

 性別は問われないが、相性がいいことが必要。それは貴族も同じだ。


 妹はなかなか相手が決まらなかった。その内、子供が出来たと言うので皆んな驚いた。

 その相手がまた悪かった。現王の弟である公爵様の最愛の奥様だ。何でそんなことに?

 たまたま出かけた先で知り合い、意気投合。公爵様もまさか約半分の年の女の子と奥様がそんな関係になるなど想像も出来なかっただろう。


 アリアナに問いただせば、奥様があまりに魅力的だったから…と訳のわからないことを言う。

 愛し合わなければ子は出来ない。しかも2人は駆け落ちしたのだ。

 もちろんすぐ見つかって奥様は連れ戻された。

 流石に公爵様も奥様にはアリアナと会わないよう伝え、アリアナも仕方なく頷いた。

 その時私が19でロルフが生まれており、アリアナはまだ16だった。生まれそうな子の実を抱えて逃亡先の宿から雨の中、侯爵家に戻る途中に馬車が横転。アリアナは子の実から今まさに産まれたばかりの赤ん坊を抱いて死んだ。


 着くはずのアリアナが到着しないことにやきもきしていると、ロルフが赤ん坊を抱いて帰って来た。

 ちょうど乳母と外出していて、横転した馬車を見つけたのだ。それが侯爵家の物であると分かった御者が馬車を止めて中を除くとアリアナの腕の中でぐったりしている赤ん坊がいたそうだ。

 心配して馬車から出てきた乳母が慌てて自分の腕に抱えて馬車に戻り、ロルフは自分の上着を脱いでくるみ家に帰って来た。


 妹の亡骸はすぐに迎えの馬車で回収し、子供のことは秘匿した。

 ロルフは自分が産まれたばかりのラルフを腕に抱いたことで守らなければと思ったのかも知れない。

 実際にラルフは不義の子だ。決して公には出来ない。しかしロルフはまるでそれが分かっているかの如く、ラルフから離れなかった。

 ラルフリートと名付けたのもロルフだ。


「お父様、僕には…弟が出来ました!」

 口数の少ないロルフが必死になってそう言う。

「名前は弟だからラルフリートです…」

 そう言って不安そうに私を見る。

 私も妻もこれには頷くしかなかった。公爵家と侯爵家の子供だ。火種にならないよう私たちの息子とした方がいいだろう。

 こうしてラルフはロルフの弟となった。

 ラルフはアリアナの色を引き継いだので2人は良く似た色であったが、やはり顔立ちはそれぞれ私と妹に似たからか、ラルフの方が優し気な顔立ちだった。それでもやはり似ている。だから大丈夫だと思っていた。


 本当の兄弟ではないが、人から見れば2人はごく仲の良い兄弟だった。

 そろそろ結婚を考える年なのだが、ラルフは全く興味を示さない。

 彼の全てはロルフで出来ているのではと思うほどに、だ。

 ロルフは元々人付き合いが苦手だから結婚はしたいとも思っていないようだ。

 私は思う。ラルフが産まれた時にした仕掛けがいきるかも知れないと。


 そんな時だ、ロルフが珍しい水晶を発掘したのは。ラルフの喜びようは凄かった。これで兄様が正当に評価されると。

 しかも、聖獣さまと知り合われたと言う。

 これは何かが動く…そう思っていた矢先、ラルフが体調不良でしばらくロルフが預かると言う。

 執事に様子を見に行かせればかなりの重症だった。

 どうしたものかな…。

 私は物思いにふける。



※読んでくださる皆さんにお願い※


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